0219 三女神に導かるる寄生種達の饗宴
1/14 …… 技能点に計算ミスがあったため、振り直しました。それに伴い描写と説明を修正
『大産卵室』にて、エイリアン=ビースト系統、エイリアン=ファンガル系統に続いて、エイリアン=パラサイト系統達を成すエイリアン=スポアに俺は向き直る。
それらの中心にいたのは3体の『母胎蟲』であり――新たに"名付き"となった3体であった。いずれも、今後【人世】で行われる情報収集や情報操作において、更なる役割を果たすための重要性が増した個体達である。
いずれも【深き泉】を巡る介入戦までの一連の活動の中で最も育った個体達であり、それぞれのステータスや、ビルドに当たっての設計思想は次の通り。
○ユーノー:母胎蟲
・位階:15
・称号:母の中の母
・従徒職:乳母頭
道化蟲による部下きゅぴ数の増加や、楽師蟲アインスによる高効率的な"組分け"があるとはいえ、1体1体の『小蟲』達まで全てを一度に統御することは「エイリアンネットワーク」の圧迫となる。
加えて、そもそも『小蟲』達が母胎蟲の"外部端末"であるならば――彼らの独自の「パラサイトネットワーク」とでも呼ぶべきものを構築すべきだ、というのが実際に【人世】で運用しながら俺が至った結論であった。
この意味で、母胎蟲の「長女」たるユーノー(ローマ神話の女主神から命名)の役割は、その称号通りに「母の中の母」たることである。
それは【遷亜】によって「他の"名無し"の母胎蟲」達が管轄している『小蟲』達にいわばマスターキー的な形で随時介入を切り替えて統括させるというだけでなく――母胎蟲自体にユーノー直属の小蟲を植え付けることで、いわば母胎蟲達の"母"ということにしてしまおうというアイディアであった。
無論、そのままでは小蟲達は「エイリアン」には寄生をすることはできない。
しかし――"名付き"として個体性を増して、少なくとも他の母胎蟲達とは「別物」であるとしたこと。そして、これは若干その性質の"裏"をついた気がしなくもないが、共覚小蟲保有の母胎蟲がその孔内に共覚小蟲を抱えている状態で、その共覚小蟲の担当をユーノーに変える、という小技を試したところ――実質、母胎蟲が小蟲を他の母胎蟲に植え付けていると言って良い「状態」を導くことが、できてしまったのであった。
≪つまりユーノーさんはみんなの「おばあちゃん」ってことだね!≫
「活動範囲の都合上、どうしたって母胎蟲自体を【人世】に出さないといけない場面も多いからな。そんな時に、その"出張組"と直接共覚小蟲でユーノーが同調するか、同調している他の母胎蟲とユーノーを同調させることで情報伝達のタイムラグを減らすことができる」
≪『乳母衆』と名付ける……てことでいいんだよね?≫
ユーノーの周囲に多数の母胎蟲が侍っているが、これは先述した共覚小蟲の権限を変えさせるための個体や、単に寄生小蟲やその他の小蟲達から受け取った情報をユーノーに引き渡すための個体などが入り乱れた状態である。
それでも『因子:肥大脳』による【遷亜】でユーノーの頭部がだいぶ肥大化しているのでわかりやすいが――このように形成されている『乳母衆』から、それぞれの小蟲達の受信権限をユーノーが受け取る形で情報を整理統合する、という仕組み。
この意味において、後述するイーシスとは役割が真逆。
ほぼ母胎蟲専用とでもいうべきエイリアン=パラサイト系統の種族技能テーブルのうち、小蟲を養う数を増やす【養数増加】をあえて取らない、というビルドが可能となったのであった。
○ヘーラー:母胎蟲
・位階:15
・称号:恐るべき母
・従徒職:領内巡視者
「情報選別」に特化させたユーノー、後述する「情報収集」に特化させたイーシスに対し、ちょっと変わった役目として「防諜」に特化させてみたのがヘーラー(ギリシア神話の女主神)である。
隠密を旨とし、ある程度の消耗や使い捨てを前提として領域外に放つのが小蟲の本来の使い方であるのに対して、ヘーラーに与えたのは【報いを揺藍する異星窟】の領域内の巡視という役割である。
そしてその心は、【領域】内なのだから別に小蟲達を隠す必要は無い、である。
≪幻肢小蟲さんとか、操繰小蟲さんってそこそこ大きいからねぇ、あははは。目立つけど目立ってもいいやって考えたら、ヘーラーさんに任せるのがいいよね≫
【最果ての島】地上部や、【人世】側で"裂け目"の位置を移した『深き泉ウルシルラ』の周辺などにおいて、野生動物や小鳥の類に仕込んでいるヘーラー直属の小蟲達は――この意味において手軽に派遣し、超覚腫達の間隙を縫う形で巡回させることができ、しかも仮に斃されたとしても消耗が少ない使い捨ての監視装置のようなものであると言えるだろう。
その目的からすれば、外部から"寄生付き"であることがわかったとしても一向に構わない。
――具体的に言えば、各巡視用野生生物の限界まで様々な種類の小蟲達を仕込んでいるのである。
そして、これは目から鱗だったのであるが。
「それにしても驚いたな。まさか……表裏走狗蟲の"人間部分"には寄生可能だったとは。目から鱗とはこのことだ、主殿」
「貴様に目玉は無いだろうが! ――いや、正確には元"目無し"だったか……」
「グウィース。にいたまのわすれんぼう!」
多分ル・ベリは本当に忘れたわけではないと思うが、野暮な突っ込みをグウィースにはするまい。
この発見により、エイリアン=パラサイト系統が他のエイリアン達とより直接的な形で共同作戦を取ることもできるようになったわけだが――モノが述べた2系統のパラサイト系統が、ヘーラーのこの意味での役割と非常に噛み合っていたのである。
詳しくは幻肢小蟲と操繰小蟲の説明時に述べるが――要するに、「防諜」の真価とは、ただ単に侵入者なり異常を察知する点にはない、ということ。
その初動的な"対処"にこそ本質がある、ということを知らしめるという役割上のシナジーが発揮されたのであった。
○イーシス:母胎蟲
・位階:15
・称号:豊穣の母
・従徒職:領外監視者
最後に、「情報収集」という母胎蟲本来の役割に最適化させたのがイーシス(エジプト神話の女主神)である。
そのビルドコンセプトは明快であり――とにかく1体で多数の小蟲を養うことができるように、【遷亜】も、称号と従徒職も指向している。
最終的には一気に【多孔多胎】と【上限突破:多産】をMAXまで取り揃えていったことで、イーシスは単体でありながら約50程度もの小蟲達を養うことができるようになったのであった。
それはとりもなおさず"名付き"の母胎蟲として、集中的に情報を集めるという意味において、状況に応じて広く浅く、または狭く深くといった運用が可能であり――ユーノーとの連携によってイーシスが担当する小蟲達も随時入れ替えることができる。
これにより、柔軟さを併せ持った半独立の群体としてのパラサイト=ネットワークの確立の一助となることが見込まれている。
「『多産』系統の技能を取りきった後はどういう方針ですか? 御方様」
「状況に応じて【領外監視者】の技能を伸ばして監視性能を高めるか、【生産加速】に振って、消耗前提でとにかく大量の小蟲どもを生み出す役割にさせるかだな。とりあえず両方取ってみて今は様子見だが……必要ならパラサイト=ネットワークの拡大に応じて、"名付き"を増やしたり"準名付き"を導入する手も取れるだろう」
要するに――【騙し絵】家との3度に渡る交戦と、掌守伯としては上位の潜在力を秘めていたロンドール家を介入戦で撃退するなどの一連の過程で、『長女国』の現時点での対パラサイト系統の感知能力は、大体把握することができていた。
というのも、現在『長女国』の主要な魔法防御手段・魔法陣代替技術として広く流通している【紋章石】について、新生リュグルソゥム家による「解析」がかなり進展したからである。
旧技術や、思考能力によって違和感などに気づくことができる知性種が相手では無論万全盤石とは言えないまでも――そういう手合は避ければ良いだけ。手広く浸透させて一挙に情報収集をするという意味では、多少のリスクを取ってでも、と言える程度には【異星窟】側としての「感知対抗手段」ができあがりつつあったが故のゴーサインというわけである。
そしてこの"助言"を踏まえ、いわば「パラサイト=ネットワーク」が必要になるほどの大量の小蟲達が、【人世】側新拠点たる『深き泉』周辺はおろか、既に『関所街』にまで入り込んでいるのであった。
野生動物達や、ヘーラーに直属する『擬装班』の"生物部分"に寄生した者達、"珍獣売り"を引き継がせたマクハード商隊が運び込んだ【闇世】の動物達だけではなく――人間達に対しても。
【紋章】家の出方に応じて、あらかじめいくつかの対処パターンを決めておいて、いずれのパターンであったとしても、一気に事態を動かしてしまうために、である。
だが、今はその前に、新たに進化したものを含めたエイリアン=パラサイト系統全体の"おさらい"といこう。
自らは進化しない存在である母胎蟲の"孔"の中で、既存の小蟲が小さなエイリアン=スポアとなって進化するか、または同じ程度の時間をかけて母胎蟲から直接【小蟲創生】によって生み出されるというのが、この小さな寄生生物達の生活環である。
種族技能も称号技能も持たず、系統技能のみを持つ。
【遷亜】することも煉因強化をかけることもできないが、ユーノー以下の3女神の"名付き"で検証できた通り、一部の『因子』は小蟲達にも影響している。
おおよその進化速度は同世代のビースト系統の約6~7割であるが、これを早いと見るか遅いと見るかは微妙なところだろう。ただし母胎蟲に【生産加速】という技能があることから、数を揃えることができれば実際の量産速度はかなり早い。性質上、消耗や使い捨てがある程度前提となってしまうが。
だが、"名付き"達という管理役を整理したことによって、系統ごとの活用についてもかなり方向性が定まってきていた。
○寄生小蟲
【紋章石】の性質とその秘密については、また後にルクらによる解説を待つとして。
最低でもこの技術に対する"感知魔法避け"を活用できるようになったことで、その運用の安定性は遥かに増していた。
――具体的には、寄生小蟲の体表に極小の魔法陣を書き込むことである。
そしてこれはある意味では、小蟲達に直接【遷亜】が効かないことに対する別解であるとも言えよう。
【紋章石】の性質が、あえて"粗悪な"と言うが、その粗悪さこそがある意味での正体であったことが大きいのである。元はギュルトーマ家から盗み取られたとでもいうべき【封印】技術の変形に対して、その間隙を突いたのであった。
○共覚小蟲
○融化小蟲
育っていない母胎蟲に対してはほぼ1対で「専属化」させなければ運用が難しい存在であるが――限定的かつ擬似的な【眷属心話】を寄生対象に与えることができるという運用法の発見により、ますます、活用の重要度が増した存在である。
加えて、ヘーラーのビルドを通して表裏走狗蟲や脱皮労役蟲などの"他生物部分"に寄生させることができるとわかったことで、具体的には【闇世】の水中調査を飛躍させることが見込めるようになったのである。
というのも、融化小蟲から進化したエイリアン達の問題点は、せっかくの寄生部分(他生物)を徐々に栄養として消費してしまうことであった。
これは『擬装部隊』を編成するに当たって『因子:共生』を取り込むことで防ぐことができていたが――進化時に【遷亜】をリセットさせる必要がある以上、やはりそのまま「エイリアン=スポア」の中で消費されてしまう運命は変わらない。
だが、ここに技士蟲イェーデンの「遷亜維持」の能力が合わさることで――全てが消費されることなく、融化小蟲から進化を経た後であっても、多少ではあるが他生物部分が残るようになったのである。
まぁ、それでも小醜鬼の腕1本とかであるが。
だが、その腕一本の"残り"にこそ――他の小蟲をさらに追加で寄生させることができるようになった、という事実が重要。
そしてこの知見の共覚小蟲への応用という意味でいえば、表裏突牙小魚や表裏誘拐小鳥――腕1本分しか裏返りできないのだが――という亜種に至らしめることが可能となり、水中探査にさらに役立てることができるようになった、というわけであった。
○心囁小蟲
共覚小蟲から進化する小蟲であるが、その能力は【精神】属性に適応した因子の引き起こす現象らしく――寄生した対象の精神に語りかけることである。
簡単に言えば、自分ではない自分の声、として対象の脳裏に、テレパスではない本来の意味での「"偽"の心話」を――惹起させて、その精神を混乱させたり、干渉したりするという強力な代物であった。
「ただし、実際に【精神】魔法を使っているわけじゃないから、洗脳レベルで操ることができているわけじゃない。それでも、やられた側からしたらまるで"自分の内なる声"にあれこれ言われているように感じるわけだからな? よほど、自分自身さえ疑っているようなタイプ以外には、意識の誘導という意味では相当に役に立つだろう」
「それを旦那様はウルシルラからの"生還組"達に仕込んだわけですからなぁ!」
「面白いように『英雄譚』を作ってしまったあたり、旦那様には劇作家の才能もありますな? ははは、マクハードめを茶化す暇もなく我らが役目を終えて戻ってこなければならなかったのは残念でしたが」
心囁小蟲とて万能ではなく、あくまでも寄生対象の思考や認知からある程度指向付けられた、あらかじめ指示をしている系統の「指向」を囁かせる形であるが――ただでさえ、この"生還組"には、リュグルソゥム家がデェイールの今際に敢行した脳部位消滅などを解析して盗み取った技も含めた「記憶処理」を行っているのである。
苦労してまで、可能な限り見殺しにせず――数百名を救ったのは、慈善のためなどではない。
『深き泉』を巡る争いで、一体全体何が起きていたのかについて、俺に都合の良いストーリーを『関所街』に、引いてはそこに人員を派遣している『長女国』内の様々な勢力――特に頭顱侯達の「走狗」ども――に知らせるためであったのだ。
特に、魔法ないし超常による感知手段が無い、『長女国』の言葉で言う"枯れ井戸"達に対しては、未だ【エイリアン使い】の活動が知られていない今をおいて、他に活用のための絶好の機会は無いと言えるだろう。
……だが、まぁ。
ふと、俺は自嘲的な気分にならざるを得なかった。
"生き方の誘導"と"意識の誘導"に、大差などあろうか、と。
警戒しつつ利用しつつ、という目で注視している諸神に対して、この俺もまた同じような手管を使っているのであるのだから。
気を取り直すこととしよう。
「防諜」担当であるヘーラーとのシナジーの本質を構築するエイリアン=パラサイトの2系統に、俺は意識を向け直した。
○幻肢小蟲
○操繰小蟲
幻肢小蟲は、寄生した生物の身体内で、特に運動神経に干渉して「偽の痛み」を与えてその行動を阻害することや、系統技能を取っていけば「存在しない手足」を動かすとかいう神経信号を混入させることで、身体感覚を致命的なまでに混乱させるという非常に攻撃的な性質を有している。
そして、ここから『因子:雷属性』によって進化した存在である操繰小蟲は一段上の力を持つ。
ただ単に混乱させるに飽き足らず――寄生してから十分に時間をかけてその生物の身体神経構造を掌握できた場合に、偽の神経信号を流すことによって、その生物の身体(特に筋肉)をある程度こちらの望む形に動かして操ることができるようになったのであった。
「え……! オーマ様、それって例えば死体なんかに仕込んでいたら――」
「ご明察だ、アーリュス。動物の筋肉に【雷】属性を流せば跳ね動くのは、そういうわけだろう? 神経と筋肉が腐り落ちていない限りは、操繰小蟲はその名の通り、生きていようが死んでいようが傀儡のように動かすことができるな」
ただ単に死体に取り付かせて罠とする、だけではない。
あるいは生きているうちに取り付かせておいて、斃したと思ったところから意識外の一撃を食らわせる、というだけでもない。
例えばこれを表裏走狗蟲の"他生物部分"に取り付かせれば――それだけで高度に連携することもまたできるようになる。
連携が俺の眷属達の本質であるのだから。
「でもそれって、それだけじゃありませんよね? ヘーラーの"役割"をようやく理解しましたよ、オーマ様」
――無論、巡視するエイリアンや野生動物に寄生させて運用しても良い。
だが「防諜」の本分が、発見次第の初期の即応でもあるというならば――寄生とは、敵に対してこそ行うことがその本分だろう。
「あらかじめ"巡視役"に取り付かせていた大量の操繰小蟲とか幻肢小蟲とか、あと心囁小蟲とかを一気に寄生させるってわけですかー……うわぁ、えっぐい。オーマ様、すごくえっぐいです」
「小醜鬼どもの調練にも大いに役立たせていただいているからな。御方様の生み出される眷属達に、無駄なものなど存在しないと言ってよいだろう」
なお、幻肢小蟲と操繰小蟲にはかなりデカいというちょっとした特徴があるのだが――最初からバレること上等での敵対的かつ攻撃的な状況下での寄生が前提ならば、そんなことは欠点とは成り得ないだろう。
多少、表裏走狗蟲やら表裏噴酸蛆やらが歪な肢体を晒していたとしても、そうと知らない相手に対しては、これもまた立派な初見殺しの1つとなるのであるから。
加えてヘーラーは、自らの「子」が死ねば死ぬほど力を増すとかいう称号を得てしまった。ある意味ではイオータとのシナジーも期待できるところではあるが……今後、【闇世】においてもますます重要となるであろう「防諜」を担わせるには、これぐらい尖らせても、足りるかどうか。
○微臓小蟲
操繰小蟲が筋肉の運動を乗っ取って操るならば、こちらはその臓器版と言ったところか。"脳"になることはできないが――血管と神経レベルでその生物の一部となることができるため、生存性は非常に高い。
感知に非常に弱く、また過半の臓器を置換することはできないという欠点はあったが、ただ単に野生動物や人間を"延命"させるという意味でならば使い勝手もあるという代物である。
だが、それでも即応性を求めるならば使いづらさが引き続いている事実は否めない。
後述する微脳小蟲と同じく、仮に「エイリアン」の本体にもっと自由に寄生することができたならば、ある種の"装備品"として活用することもできたであろうが。
それでも内政における活用策は見出すことができている。
――小醜鬼の形成不全のうち、特定の臓器が欠損したタイプであれば、微臓小蟲を仕込むことによって、労働力や資源としては潰さずに活用をすることもできるようになっていたのであった。
そうして知見を高めていけば――【騙し絵】家が行っているものとは一風異なる意味での"臓器売買"ビジネスに繋げていくこともできる、かもしれない。
少なくとも研究標本の作成という意味では、現在、片っ端から【闇世】と【人世】の野生動物達の「臓器」を微臓小蟲によって模倣させているところでもあり、長期的には、この知見が役立つと信じて投資をする価値はあるだろう。
何にしても、小蟲である以上はコスト自体は安いのであるから。
○微脳小蟲
微臓小蟲の活用法がある程度出てきており、3女神の"名付き"が役割を果たすようになった中で、新たに「どう活用すべきか悩む」存在の地位に入り込んだのが微脳小蟲であった。
"脳"と言いつつも、こいつは本来の意味での「副脳」なのである。
つまり、どこぞのぷるぷる遊んでいる連中と異なり≪ぼ、僕は……そんなことないよ!≫うるせぇお前だって大体流されているだろうが――おほん、元の世界の大昔の竜脚類のような存在の腰部にあったという、いわば神経の塊としての存在。
早い話が微脳小蟲に「意識」は存在しておらず、どちらかというと、自律神経であるだとかホルモンバランスであるだとか、そうした「意識」の介在しない身体制御的な部分について、寄生した生物のそれを真似るというものなのであった。
指示をすることによって、それらを混乱させることも、その逆に促進させることも可能であるが――例えば「脳死」状態の生物を生命維持させ続けるための"代替脳"として活用する、といったところであろうか。
少なくとも、現時点で即応性は無いものと思われる。
今後、よほど有用な生物や、たとえ植物人間状態であっても活かしておかなければならない重要な人物が現れた時に検討をすることもできるだろうが、直接的な迷宮防衛や迷宮経済の発展にはただちに利用できそうではない。
≪きゅぴぃ、きゅほほほほほ! 一応、僕達の【同調】さんの対象にはなっているのだけどきゅぴぃ≫
せめて、同種である『エイリアン』には寄生できない、という理由が判明すれば。
その理由がわかり、それが解除ないし対処可能なものであるとわかれば――微臓小蟲と同じく"装備品"として、手軽に俺の眷属達も強化することができるであろう。研究継続、といったところだと言えた。
***
以上、能力の確認や検証とその検討を兼ねた「同時羽化組」に関する従徒達への情報共有を終える。
量産が最初から目的であった第3世代以下達に関しては――"名無し"の母胎蟲達を含めて――この31日の間に順次エイリアン=スポアから羽化しつつ、あらかじめ「エイリアンネットワーク」全体に下していた指令や、進化待機組であった"名付き"達に率いられ、あるいはル・ベリらと部下きゅぴどもの協力によって、それぞれの役割にスムーズに入り込んでいる。
そうして――俺の迷宮と迷宮経済は、更なる拡大を経ている。
その有様を改めて確認すべく、俺はレクティカを起動しつつ――副脳蟲ブートキャンプのせいで筋肉痛が常時継続中で正直指一本動かすのも攣りそうになるほど痛い――従徒達に「巡視」の開始を伝達したのであった。
いつもお読みいただき、また誤字報告をいただき、ありがとうございます!
気に入っていただけたら、是非とも「感想・いいね・★評価・Twitterフォロー」などしていただければ、今後のモチベーションが高まります!
■作者Twitter垢 @master_of_alien
読者の皆様に支えられながら本作は前へ進んでいます。
それが「連載」ということ、同じ時間を一緒に生きているということと信じます。
どうぞ、次回も一緒にお楽しみくださいね!





