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0217 膨張する異星窟は名付きと選り抜きを孕む

4/9 …… 摩耶さんより素敵なファンアートをいただき、本文中に掲載しております。

元URL:https://twitter.com/uqVQRpvExrB7GCZ/status/1771762579506925738/photo/1

 サイズの大小だけでなく、その質感の濃淡はおろか、まとう気配の強弱――強いていうなら帯びている『属性』や、より露骨にはそれぞれの能力の核となる『因子(ジーン)』が体現する現象などの気配(・・)を放つエイリアン=スポア達。


 それは肉々しき躍動と、生々しいまでの生命の容赦の無さが一同に会する領域であった。


 【エイリアン使い】オーマを中心に、6体の2世代副脳蟲(ブレイン)が花冠を成すならば、さらにその周囲を彩るのが、アルファ以下新規の個体をも含めた14体の第3・第4世代の"名付き"達。

 収縮し、膨張し、体液と呼気と魔素と命素が巡る「進化」と銘打たれたる変異の躍動で以て、まるでその身によって【おぞましき咆哮】を声高に体現するかのように――蠢く有様は【報いを揺藍する異星窟】の秘部であり、また根源であり、生命と胚が宿り誕じて生まれ出づる場所であることを、五覚に魔素と命素を加えた7つの感覚に直に震わせる(・・・・)が如くに訴えかける場である。


 ――果たして、エイリアン使いオーマと副脳蟲(ブレイン)達とキルメを加えた「2,000%UP(進化祭り)」とは、1体ずつ(・・・・)順次に"名付き"達を存在昇格(アセンション)させたわけではない。


 個々のエイリアン系統への進化や胞化に必要な魔素と命素はそれぞれの個体で異なる。

 加えて、進化が完了した後の維持(・・)のための魔素・命素が跳ね上がるという意味では――進化してエイリアン=スポアから"羽化"するタイミングは同時(・・)であった方が良いのである。


 同じ31日であっても、初日にアルファを第4世代にまで至らせた場合、最終日にそうするのと比較して実に30日分もの「第4世代」としての維持魔素・維持命素が消費されることとなる。


 未だ迷宮(ダンジョン)への脅威が存在する時分ならばいざ知らず、陣容が厚くなった従徒(スクワイア)衆や、半数の"名付き"に関しては活動させることができているが故の節約術(・・・)とも言えるだろう。


 ――斯くして、この同時(・・)の"羽化"となる。

 そのタイミングを可能な限り揃えるという点では、同じく第4世代へ胞化させていたファンガル種達や――量産(・・)対象となった第3世代の各系統達を調整弁として合間合間に挟みながら、オーマ自らが率いる『進化促進班』はその魔素操作と命素操作のリソースを、効果的かつ効率的にエイリアン達に配分してきたわけである。


 この意味で、第2世代の副脳蟲(ブレイン)達の羽化は全体の先触れ。


 『関所街ナーレフ』よりル・ベリ、ソルファイド、グウィース、ゼイモントにメルドット、ユーリルが。

 『侯都グルトリアス=レリア』より、ルク=フェルフ以下の5名が。


 【報いを揺藍する異星窟】に帰還し、進化という語が本来的に孕む巨大な時間間隔がまるで一杯の混沌のスープのように凝縮された共感覚的な意味での"熱"に帯び満たされた『大産卵室』へ集結するのと合わせて―― 一足先に「第4世代」へ至った"名付き"達が、その産声の如き咆哮を上げて姿を現したのであった。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


   ***


災厄獣(カタストロビースト) → アルファ、デルタ


挿絵(By みてみん)


 ビースト系統の基本ルートである走狗蟲(ランナー)を筋肉によって練り上げた、正統なる存在昇格(アセンション)に至りたる第4世代である。

 その変異は、走狗蟲(ランナー)がまず、上半身、特に両腕部を中心に異常発達していた戦線獣(ブレイブビースト)となり、次いで四肢全体が、複数の筋繊維が螺旋状に絡み合って引き絞られたる、悪魔的肉体美を体現する彫刻の如き肢体を成すという過程を辿る。


 そして災厄獣(カタストロビースト)となった今、その変異は改めて上記の過程を一巡(・・)したかのように、今一度上半身(・・・)を筋量によって肥大化させるという形で再現される。


 まるで螺旋獣(ジャイロビースト)の上半身と両腕に、極太の針を突き刺して、空気の代わりに筋肉(気体または液体)を流し込んだかのように、下半身の1.5倍のサイズにまで膨張。しかし全体が厳格なまでの筋肉によって引き絞られているため、この膨張はだらしなく膨らむということはなく――その全体的な彫刻的シルエットの"比率"をほぼ保ったままに、むしろ硬く膨張して屹立する(いわお)の如く"部分"的に巨大化。


 上体の両腕は、これまた絡み合った筋肉によって引き絞られている――という抑え(・・)と、内側から爆発するように湧き上がる筋繊維の膨らみ(・・・)の均衡点が「縦」に発散する形で、元の2倍もの長さにまで伸長する。

 当然、内部の骨もまた急激に伸びるが……さながら膨張する筋肉によって天然の「骨延長」施術がなされたかの如く太まり(・・・)。これにより、災厄獣(カタストロビースト)は、螺旋獣(ジャイロビースト)時代からほとんど変わらない下半身に支えられた歪かつ異様な巨躯を誇る、筋肉が暴走した場合にこうなる、という遺伝的突然変異の標本であるかの体を成す。


 その下半身の相対的(・・・)な貧弱さを侮ることなかれ。

 異形の長駆と化しつつも、その身を振り回す暴威はむしろ、与えられた器に対して全身と四肢の筋肉が筋力で以て"筋"衡を保つかの如く、むしろその彫刻めいた暴虐は態様の変転を可能としたのである。


 具体的には、上体を落としての「四つ足」モードと、下半身の筋力によってただただ力任せに立ち上がる「2足歩行」モードを使い分けることができるようになった、とでも語るべきか。


 立ち上がってその鋼線で編み上げた大木の幹の如き両碗を振り上げればゆうに螺旋獣(ジャイロビースト)の2倍を越える巨躯からの叩き下ろしの一撃を。

 四つ足でその全身を歪ませ筋肉という筋肉を撓ませてから解き放たれる一撃は、アンカー状の(あしゆび)によって大地に深く踏ん張った状態の城壁獣(フォートビースト)を吹き飛ばすほど。


 ――加えて、その暴威を主オーマの『護衛』としてデルタよりも巨躯を誇るアルファが、そのアルファよりは一回り小柄でも、"裂け腕"のまま進化したことで変則的な「六つ足」による突撃が可能となりより攻撃的な凶相を備えたデルタが、である。


 これを見た【武芸指南役】ソルファイドは「2体同時は相手にしたくない」と呟き。

 新生リュグルソゥム一家6名もまた「犠牲前提ならまぁ」と嘆息しつつ。

 吸血種(ヴァンパイア)ユーリルに至っては「殺されはしないかな」という低い目標を掲げて逃げ腰になりつつ、目覚めたグウィースにそのことを指摘されたバツの悪さをル・ベリはどうであるかと水を向けることで逸らそうとして「俺は当然エイリアン(御方様)側だ何を言っている」と告げられ。


「ほう、耐久力によほど自信があるみたいだな、ユーリル君。じゃあ、ちょっと吸血種(ヴァンパイア)研究の一貫ということで『性能評価室』で()()()みようじゃないか」


 ……と、主オーマの"沙汰"を受け、逃げようとした所を【虚空渡り】ですっ飛んできた爆酸蝸(アシッドスネイル)ベータによって補足。左右に現れた――筋肉クッションにより足音が意外にもほぼ無音――アルファとデルタに両腕を担ぎ上げられる形で『大産卵室』から運ばれていったのであった。



疾駆獣(ソニックビースト) → グザイ(NewCommer!!!)

 【闇世】で取れそうで取れなかった、生物相のちょっとした違いによって獲得が先送りとなっていた『因子:持久筋』により開かれたのが、戦線獣(ブレイブビースト)小系統の第3世代たる疾駆獣(ソニックビースト)である。


 その体躯は走狗蟲(ランナー)時代からさらに伸び、前傾化して発達した前脚が地に降りて四足となっている。『因子:豊毳』を有してはいないが――うっすらと体皮には産毛のような細かな体毛が生じており、湾曲した(やじり)の如くすらりとした流線型は、大型の猫科肉食獣を思わせる。

 しかし、それ以上に特徴的であるのは、走狗蟲(ランナー)時代からさらに発達した中脚(・・)の存在であろう。ちょうど前脚と後ろ脚に挟まれた脇腹の位置からさらに一対の脚は他と比較しても遜色ないほどの靭やかさを帯びて伸びており、その系統名に冠された「疾駆」という"役割"を成すのである。


 端的に、疾駆獣(ソニックビースト)の役割は「走る」こととそして「運ぶ」ことであった。

 さながら放たれた矢のように真っ直ぐと突き抜けることに特化しており、体躯を上下にうねらせるように、6本の脚が次々と地面を撫ぜて「跳ね跳ぶ」が如く。

 速さの秘密は"足爪"さえもが退化していることであり――悪路や高低差のある地形での機動力を犠牲にしているものの、特に平地や舗装された坑道では『脚力強化』などの諸々の煉因強化(バフ)を搭載した走狗蟲(ランナー)ですらも、その「倍」を越えた速度で追い抜くほどに至る縦横の機動性を獲得していたのである。


 ただし、速度と引き換えにその攻撃能力を減じていることには注意が必要である――というのが、一目疾駆獣(ソニックビースト)を視た【武芸指南役】ソルファイドの指摘。

 いかに体格が走狗蟲(ランナー)より大柄となっていたとしても、平地での安定かつ高速なる"疾駆"を保つためにその身体構造は調整されており、また走ること以外には融通(・・)が効かない。全身を保護する外骨格のようなものもまた存在しないため、単に障害物を配置されるだけで容易に転び、怪我をしかねないという弱点があることを早々に看破されていたのであった。


 それでも、その進化先には『貨台獣(ポータービースト)』という、より"運搬役"に特化した存在であることが窺えたこと。

 加えて【エイリアン使い】において第3世代の"量産"の道が開けていたことから――オーマの指示下、楽師蟲(マエストロ)アインスによって『運搬班』が再編。


 従来は『飛脚走狗蟲(メッセンジャランナー)』(『強機動』『拡腔』を基本とし、状況と目的に応じて『擬装』や『共生』などで【遷亜】した個体達)によって担われていた【人世】と【闇世】との間での物資輸送――特に【人世】側で活動する各エイリアン達への『魔石』『命石』入りの臓漿(お弁当)――を、徐々に『拡腔』によって【遷亜】された"名無し"の『大胃袋疾駆獣(ストマニックビースト)』によって代替していくこととなったのである。



檻獄蛛(ジェイルスパイダ) → ニュー

 ウルシルラ介入戦で活躍した縛痺蛆(パライズマゴット)が【氷】と【雷】の両『元素系』属性によって進化した第4世代である。

 八脚が生え、蛆から蜘蛛への変異の過渡期的な造形であった状態から、特に前4脚がすらりと長くなる形で大きく伸長。後ろ4脚もまた鋭角的なフォルムを増した『徘徊性』タイプの蜘蛛――に非常に収斂した姿形となったのがニューである。


 その特徴は一言で言うならば「魔法近接戦闘」をこなす存在。

 それも、縛痺蛆(パライズマゴット)時代の神経毒によって相手の動きを奪う能力に加えて――【氷】と【雷】の両属性に適応(・・)したことにより、その"拘束"の手段が増える、という形において。

 八脚から繰り出される蜘蛛格闘(スパイダファイト)を標準としつつ、編み出した『糸』を前4脚にそれぞれ引っ掛けた『網』ごと掲げるように突進して飛びかかり、そのまま相手に正面から被せて絡め取ることを狙う戦闘スタイルである。


 そして、この『網』に【氷】属性による"(しば)れ"と、【雷】属性による"(しび)れ"の効果が組み合わさり、対抗的な能力を持たない相手に対しては実に糸そのものによる絡め取りと合わせた4重の束縛効果によってとにかく行動阻害するという能に特化していた。


 故に『(ジェイル)』として"冠名"されたのだな、と【エイリアン使い】オーマが納得する反面。


 適応しつつも【氷】と【雷】そのものを属性魔法として自ら駆使することはできず、発動のためには『氷属性砲撃茸(アイスグレナディア)』や『雷属性障壁茸(サンダーシールダー)』などから回収した属性結晶を要することが判明していた。

 しかし、それはある意味では元素系の属性現象そのものの生産を他に委ね、自らはその"活用"に存在昇格(アセンション)のリソースを振り分けたという見方もまた可能ということを意味しており、"名付き"として対精鋭に対する妨害的初見殺し性をより期待されることとなったのである。 



灼身蛍(マーターグロウ) → イプシロン

 元炎舞蛍(ブレイズグロウ)として「焼き討ち」部隊を率いていたイプシロンは、その進化系たる灼身蛍(マーターグロウ)と化し――主に2つ能力を得た。

 第一に、自らの意思によって『燃酸』の分泌をコントロールできるようになったこと。

 第二に、技能(スキル)【焼灼再生】という炎熱を高速の代謝に変換する形で超常(まほう)込みで自身を再生する能力である。


 加えて、その翼膜はパラグライダーあるいはパラシュートを彷彿させるように、巨大傘の如くより大きく広がって灼身蛍(マーターグロウ)自身の頭上(・・)に伸び――より広範囲で「小爆発」と炎熱の熱気自体を受け止めることを可能とし、気球や飛行船が熱された空気によって浮かび上がる仕組みをその生体的特徴の中に体得したのである。

 これによって浮遊(飛行とは異なる)の安定性が増し、しかし翼膜の拡げ方や構え(・・)を変えれば炎舞蛍(ブレイズグロウ)時代のような「爆撃飛行」も可能化。


 しかしその真価は、まるで進化前の「燃焼性危険物」であるという評価を覆すほどの補助(サポート)能力の広範な発揮にあった。


 その有様について、魔導の大家を自認する新生リュグルソゥム家当主ルクと長子ダリド&キルメの次に曰く。


「【火】を途中から【活性】属性化(・・・)して回復するだけでもわけわからないんですけど、なんですか、しかもそれを同じ【火】属性に適応(・・)した『エイリアン』達であれば――同じように回復できるって」


「ちょっと、"焼灼"という技術概念を認識レベルで間違えてるような……傷を焼き潰すんじゃなくて焼き治す(・・)って」


「一応、機序的には、うーん、【火】属性で適応しているなら【火】自体には耐えてそっくりそのまま【活性】属性()な再生能力を受け取っているって感じに見えるけどねー」


 【火】属性適応で【遷亜】もしくは存在昇格(アセンション)において『因子:火属性適応』を取り込んでいたエイリアン達に関しては、自然治癒を高めると同時に傷を焼灼してしまう効果を。

 【調停者:火】という竜種の力の秘密の一端に触れている竜人(ドラグノス)ソルファイドに対しても『伴火』として、また副職業(サブクラス)【火葬槍術士】たる主オーマに対しても、だけではない。燃える血液(・・)という意味において、吸血種(ヴァンパイア)ユーリルに対しても【焼灼再生】が効果を発揮することが見込まれており――イプシロンもまた検証のため、アルファ、ガンマを追って『性能評価室』に向かうこととなったのであった。



狂踊蛇(サルサスネーク) → イオータ

 ただでさえ、隠形(おんぎょう)を捨てて自身を極限まで鋭利化し、生ける刃物としての完成形にまで先鋭していた切裂き蛇(リッパースネーク)が、さらに自らを軽量化させて至ったのは――相手を切りやすく(・・・・・)するためのデバフ能力であった。


 【エイリアン使い】オーマの認識化における"冠名"において『サルサ』という踊りの語が連想させた通り、その肢体はただ単に鋭利化・軽量化されただけではない。

 さながら闘牛士(マタドール)か、或いはサルサ・ダンサーを彷彿とさせる踊り子衣装のような「外装」を――皮膚が変異したもの――うっすらと纏うという形でその姿形を変異させたのである。


 ちょうど、いくつもの"紐"や振り袖めいた"ラッフル"、束ね結わえた十数本もの半透明な"ロール"が変異した皮膚から伸びる形でたなびいており――これが『幻惑』の効果を生み出している。


 狂踊蛇(サルサスネーク)イオータが、さながらガラガラヘビの如く自らの尾をタンタンタタタンと地面にタップさせてリズムを取って踊る(・・)度に、この無数のラッフルやらロールやらフリルが揺れ動くことで――新たに発達したものを含めた2対4腕(・・・・)の『切り裂き鎌』が視覚的幻弄の波間を巧妙に隠され、錯覚されて(まぼろ)されながら、ますます目で捉えにくい閃撃と化して標的の急所に泳ぎ至る、というわけであった。


 しかもイオータは『因子:汽泉』によって【遷亜】したまま――技士蟲(エンジニア)イェーデンがエイリアン=スポアの中にいながら干渉したらしい――進化している。

 その身体から常時湧き出ている湯気によって風がなくともこのラッフルやらフリルやらの類がゆらゆらとたなびいており――猫じゃらしに引き寄せられる猫を自称する姫重機(タンク)がくるくる回転しながら接近。


≪きゅほほほ、イオータさんこそ僕のダンスパートナーさんに相応きゅぴぃ……さぁ、イオータさん、踊りましょうぞきゅぴぃ≫


「おい馬鹿誰かあいつらを止めろ。阿呆お姫がドリルロールを振り回すのを止めろ、どこがダンスだ、どう見ても"斬り結び"か"果たし合い"じゃねぇか! 武蔵と清十郎かお前らは!」


≪ハードラックさんさえも僕とイオータさんのおダンスにはついてこれないのだきゅぴぃ!≫


 などというやり取りの中。

 予想外にも『因子:幻弄』が微量解析されたことは余談である。



流没蚯蚓(リキディワーム) → ミクロン(NewCommer!!!)

礫棘蚯蚓(スパイクワーム) → パイロー(NewCommer!!!)


 【人世】への進出と、特に対【騙し絵】家の勢力を撹乱するに当たり、大きな役割を果たしたるビースト系統地泳蚯蚓(アースワーム)

 その2種の第4世代進化系のうち、流没蚯蚓(リキディワーム)礫棘蚯蚓(スパイクワーム)も、地中の潜泳能力に関しては退化しており――いわばファンガル系統に近づいた(・・・・)姿形となっていた。


 流没蚯蚓(リキディワーム)は、オーマ曰く「エイリアン型巨大アリジゴク」となり、口はノズル型となって液状化した土を激しく吹き付けることができるようになった他、潜泳能力は衰えつつも、液土の中で"浮揚"できる程度の「浮き」に変異した肢を放射状に伸ばしており。

 他方、礫棘蚯蚓(スパイクワーム)は、これまたオーマ曰く「エイリアン型巨大ポッド付きポンプ」となり、その蛸の胴体兼頭部の如く情報に膨らんだ「ポッド」の内側に多数の硬質化した成分を含む『肢と触手の中間物』の如き"鉤爪付き触手"を何十と収納した状態で、その身体を地中に埋もれさせている。


 ――【異星窟】の従徒(スクワイア)達をして驚嘆せしめたのは、その連携能力である。


 流没蚯蚓(リキディワーム)は技能【大地流融】でその全てを『地中の液状化』に特化させており、地泳蚯蚓(アースワーム)が体表付近わずか数センチの土壌しか軟らかく(・・・・)させることができなかったのに対して、1体で周囲十数メートルにまでをも液状化させることができるようになっていたのである。

 これは、一群となればウルシルラ介入戦で【秋ノ司】が宿っていた『泥濘子守り蜘蛛』に匹敵するほどの環境干渉能力であり、地泳蚯蚓(アースワーム)達をより速やかに地中潜航させることに集中させることや、狙った地上工作物を沈める(・・・)という戦術を実行可能としたり、硬い岩盤を掘り進めることができるようにすることで更なる坑道開発を効率化する――だけではない。


 "相方"の特性を、凶悪なまでのレベルで補助(サポート)することができるのである。

 すなわち礫棘蚯蚓(スパイクワーム)は、その上体を形成する「ポッド付きポンプ」に収納されていた数十もの"鉤爪付き触手"をポンプから伸ばし、軟化した地中を通り抜け――狙いを定めた特定の鋭角領域に半径数メートルに渡って潜泳潜航。


 そこで、【土】魔法【屹立する岩槍】に似た(・・・)機序を発揮し、大地から天に向かって逆向き(・・・)に突き上げるように、土壌を突き破って数十もの"鉤爪"が突き出すと同時に【岩槍】をその周囲に纏うように形成。

 『(れき)(トゲ)』を槍衾(やりぶすま)の如く生み出し、滅多刺しと言うべき密度で地上を穿ち貫き、一帯を天然の串刺し地獄か、強制的な百舌鳥(モズ)の早贄の集合会場に変えてしまうという"範囲制圧アタッカー"の役割を担っているのであった。



榴骨翟(フラックフェザント) → ウプシロン(NewCommer!!!)

 風斬り燕(エッジスワロー)から派生した第4世代たる榴骨翟(フラックフェザント)の最大の特徴は、まるで天から垂れ下がった一繋ぎの(こぶ)の塊の如き"尾"である。

 飛行に適した鳥類への収斂的体型変化は風斬り燕(エッジスワロー)の際に既に済ませている、と言わんばかりにその進化における変異のエネルギーを全て"尾"に注ぎ込んだかの如く。さながら、ヘリコプターから垂れ下げられた救助ロープに、何人もの被救助者が連なって団子となったものを、激しく羽ばたいて果敢に引きずって吊り上げ(・・・・)ているかの如き具合である。


 だが、一見して直接戦闘に向かないこの榴骨翟(フラックフェザント)の役割は、空中における『砲台役』であった。


 それも「空対空」または「空対地」の、である。


 この1つ1つが赤子の頭部ほどにも膨れた"瘤"の中には――『因子:汽泉』がもたらす現象による圧縮空気と、さらに『因子:骨芽』によって生成された数百もの骨の粒(・・・)柘榴(ざくろ)の如く詰まっていたのである。

 そして榴骨翟(フラックフェザント)は、これを空中で、垂れ下がる尾を振り回す遠心力をも利用して全身を宙返りさせる、と同時に団子状に連なる"瘤"のうち最先端にあるものを、砲弾の如く、千切れるがままに投擲。


 一定の距離を目標に向かった投擲瘤型砲弾が炸裂することで、さながら破砕手榴弾かはたまた花火の如く、あるいは熟したる柘榴の実の如く、内部に充満した1つあたり数センチの骨粒(・・)を数百とぶちまけ圧縮空気の弾けとともに破裂させるがままに射出する――という仕組みとなっていた。

 ここに、ささやかではあるが風斬り燕(エッジスワロー)時代から引き継ぐ『因子:風属性適応』による【風】魔法による指向性の誘導が合わさり、散弾状に対象に降り注ぐという塩梅。


 特に、遮蔽の存在しない空中において、多少の機動力で飛び回る存在が相手であったとしても、バードショット弾の如く「面制圧」によって傷つけることが可能というわけであった。


≪しかも、ミューさんやベータさんのみたいに、少しずつ成長して補充(・・)されるからね!≫


≪あらかじめたくさん生産さんさせておいて……ガンマさんに投げてもらっても、いいよね……?≫


≪もぎたて~?≫


≪あははは、ウーノ違うよ? もぎたてズダダダダァアンさんだよ! あはは≫



槍牙鯨(ランスホエール) → シグマ(NewCommer!!!)

 剣歯鯆(サーベルドルフィン)が「海の戦線獣(ブレイブビースト)」ならば、こちらは「海の螺旋獣(ジャイロビースト)」と呼ぶのが最も適切だろう、というのが【エイリアン使い】オーマと彼を補佐する第2世代副脳蟲(ブレイン)達の共通認識。


 下唇どころか下顎を喉骨から貫通するように突き出した2本の「牙」は、もはや"剣"どころではなく"槍"と化しており、その頭部だけを見るのであればオーマの元の世界で言う海獣「イッカク」を想起する異様。

 しかし、両腕が螺旋獣(ジャイロビースト)めいた引き絞られた絡み合う筋肉に近づいていることで強靭性も柔軟性も増しており、バタフライ+ドルフィンキックに代えてクロール+ホエールキックによる高速遊泳を会得し――海中における重騎兵槍突撃(ランスチャージ)を敢行可能な、エイリアン筋肉部(海棲タイプ代表)とでも呼ぶべき存在と化したのであった。


 なお、後述する理由により、元は海棲型を率いていたはずのシータが飛行タイプ(・・・・・)となったことにより――その統率個体としての役目を引き継ぐべき"名付き"とされたのがシグマである。

 陸上での活動能力を捨てるように巨体化した槍牙鯨(ランスホエール)シグマに率いられた剣歯鯆(サーベルドルフィン)の集団による戦列突撃が放つ偉容は、さながら海中に生じた筋肉の津波の如く。災厄獣(カタストロビースト)の存在と合わせて、副脳蟲(ブレイン)達に、もはや何度目となるかもわからない再び筋肉ブームを巻き起こすこととなるのは……このしばらく後のこととなるのであった。



凍筒鮙(ウィンターウィング) → タウ(NewCommer!!!)

 第3世代海棲型エイリアンの撥水鮙(ジェットウィング)の能力は、【水】属性と【風】属性を操ることによってその全身に細かな気泡を生み出して纏い、ジェット水流を生み出す高速機動であった。

 これは、あたかも飛行機が空中に飛行機雲を生み出すかの如き「水泡の道」を生み出すが――より魚雷じみた流線型に進化した凍筒鮙(ウィンターウィング)は、新たに取り込んだ【氷】属性の力によって、この"水中の飛行機雲"をそのまま凍結して固めて「氷のチューブ」に作り変えることができるようになったのである。


「要するに、こいつが通り過ぎた(・・・・・)箇所が(・・・)そのまま(・・・・)氷の管(・・・)と化す(・・・)、ということだな」


「待ってください。海中に自在に――障害物を生み出す、ということですか?」


「数体、港の近くに放って自由に泳がせるだけで……対抗策の無い大型船は出航ができなくなりますね」


 まさに海運の大国である『次兄国』に対し、万が一(・・・)にも海上・海中で争うような場面になった際に、力を発揮する能力であろう。


「それだけではないぞ。御方様の説明通りなら、海中に『氷の砦』さえも短期間で作ることができるではないか」


 海中温度により、この"凍筒(いてづつ)"自体は、一定時間で融けてしまうことは避けられない――海を丸ごと凍らせるのでもなければ。

 しかし、もしも数体の凍筒鮙(ウィンターウィング)を縦横かつ複雑な機動で海中を巡遊させた場合、そこには即席の海中構造物が生み出されることとなるのである。それは海底の地形と組み合わせることができれば、檻として機能し、あるいは砦にも、罠としても活用することができるであろう。


「流石に多頭竜蛇(ヒュドラ)の図体は捉えられないで問答無用で突破されるだろうが。あいつと協力している人魚(マーメイ)とその使役する海獣どもだとか、後は【深海使い】殿の眷属(ファミリア)に対しては、対抗できるかもしれないな?」


「『海亜(デミ・シー)』どもの搦め手にも対抗できるかもしれませんね。【ネレデ内海】に出るなら……あれらの襲撃も警戒しなければならないはず」


 この意味でも、言わば海中における環境干渉役、戦場形成役として、直接戦闘を受け持つシグマ以下筋肉班と異なるグループの指揮個体が必要である、というのがオーマの考えなのであった。



波嵐鮫(サーフィンシャーク) → シータ

 鮫ス、いや、元八肢鮫(バインドシャーク)シータが、ついに飛行することができるようになった。

 それは【風】と【水】の属性適応因子によってもたらされた現象操作により――小規模な竜巻(トルネード)を引き起こして、それによって生じた「高波」に自らを乗せ、そして物理的に空中へと射出して飛ばす、という形によってであるが。

 なお、陸上でも自身含めて十分な【水】魔法の発動によって竜巻(トルネード)を引き起こすことができれば同様に飛行(滑空)可能。


 しかし、鮫ヌンティウス、いや、現波嵐鮫(サーフィンシャーク)シータは満足していた。

 この異能を得たことにより、道化蟲(クラウン)モノによる強烈な『飛行班』への推挙に押し切られた楽師蟲(マエストロ)アインスから『飛行班』に配属され――主オーマもまたこれを苦笑しながら追認しつつ――再び【三連星】として、ゼータ、イータと共に肩を並べて戦うことができるようになったのであるから。


 故に、鮫ニシウス2世、いや、未来の三位一体鮫(トリニティシャーク)シータは更なる【異星窟】と主オーマと同胞(はらから)たるエイリアン達への貢献を誓うのである。陸空海の3つの領域において指揮個体たる"名付き"として働くこともまた己に与えられた能であり、役割であるが故に――最も臨機応変たる【三連星】の『蛇足』として(鮫だが)、活躍をすべきことにそのヒレを鮫肌をぶるりと震わせるのであった。


≪あはは、あはは、創造主様(マスター)創造主様(マスター)。そのうちお姫(ウーヌス)にシータさんの【遷亜】をリセットさせる時でいいんだけどさぁ、【火】属性因子を入れてみたら……あははは≫



羽衣八肢(カモフラクトパス) → ファイ(NewCommer!!!)

 新たに『因子:紋光』による現象発動能力を得たことで、八肢鮫(バイドンシャーク)から派生した撹乱タイプのエイリアン系統である。

 オーマの記憶を覗いた技士蟲(イェーデン)曰く≪ゲーミング巨大蛸足さんだぁ!!≫と言わんばかり、そのカモフラージュ能力によって【闇世】のワインレッドな海水の色にさえも適応し、透明化したかの如くに姿をかき消す様はまさしく海のカメレオンか、はたまた海の忍者であるか。


 かと思えば、魚群を模したかのようなキラキラとしたキラメキをその体表に表現するなど、高度な『映像生成』能力を見せたのである。

 そしてこれに目をつけたのが、『珍獣売り』として商人的な視点と発想が板に付いてきたゼイモントとメルドットであった。


「旦那様、この"素材"は有用なだけでなく高く売れますぞ?」


「そうですか? うーん、確かに幻惑効果的な意味では魔法に拠らないから、感知魔法に引っかからない魔導具化する価値は高いかもしれないけれども――」


「いやいや! 違いますルク殿。隠密性を高めるための道具ではなくて、ですな」


「「芸術品(アート)として売りましょう!」」


 思わず顔を見合わせるルクとオーマに先んじ、コンマ小数点以下の速さで夢追いコンビの言わんとするところを理解したのはウーヌスと、そしてミシェールであった。


≪きゅぴ! ……間違えた、きゅほほほほ! 僕達の造物主様(マスター)記憶をファイさんに伝えれば、高度な芸術さんが――生み出せるというわけきゅぴねぇ! 造物主様(マスター)を孔明さんな芸術家さんにする計画さんを発動しなければならんきゅぴぃ!≫


「あら、そういうことなら大賛成です、我が君」


「えっ……母上……!?」


 普段(・・)の厳しい、しかし冷静な母が()以外のことで興奮した様子を初めて見たかのように驚いたアーリュスの口を、ダリドとキルメが静かに塞いで余計なことをさせまいとする。

 要するに、絵画と聞いて彼女の復仇(・・)的感傷的な意味での"こだわり"が持ち上がったことを長子コンビとして察知したのである。


 果たして、『エイリアン様式』が生み出された時に近い説得と熱意ある論法がミシェールの「我が君」呼びの連打によって【エイリアン使い】オーマを押し切り――ファイは指揮個体というよりも【報いを揺藍する異星窟】の『宮廷芸術家』という従徒職を獲得することとなり、せっせとその"羽衣"を、絵画の如き紋様と化しては引っ剥がされるブラック絵師も真っ青の役割に任ぜられることとなってしまったのであった。


(にーさん、ねーさん……絶対、もっとこう戦術的な意味でももっと有効な活用法があるはずじゃぁ……ぐももも)


(ダメダメ。とりあえず母様の好きなようにさせておくんだよ、こういう時は!)



幽灯魷(ウィスプスクイド) → クァイ(NewCommer!!!)

 羽衣八肢(カモフラクトパス)ファイと海中工作部隊コンビ……となるはずだったクァイであるが、同じ『因子:紋光』を現象として取り込みつつも、こちらはそれを主要な【光】属性能力として発動するという形での進化を経ている。


 幽灯魷(ウィスプスクイド)は――激しい閃光を放つ粘液を吐き出すことができる。

 これは単に、接近してきた敵に対して目潰しとして機能するだけではなく、粘液の濃度を調整することでその光量と光の持続時間を増減させ、海中における灯台の役割を果たすことができるのである。


凍筒鮙(ウィンターウィング)が作り出す"氷の砦"と組み合わせれば、【眷属心話(ファミリアテレパス)】の海中での代替手段として役立てることができる。部下きゅぴどもを『海中仕様』にすることができないし、お前達も、気管支が無いくせに何故か溺れやがるからな……」


≪ソルファイドさんの"温泉"には何時間でも入っていられるよぉぉ!≫


「それでのぼせて【共鳴心域】使えなくなっていたら意味も世話もないだろうが……」


 だが、と【エイリアン使い】オーマが顎に手を当てて片眉を上げて思案顔をする。

 彼は「光を通し、閉じ込めることすらできる粘液か……」と口にしており、何らか、元の世界(・・・・)の知識を思い起こすような表情をして、単に「光る」という以上の新たな能力は一見して持たなさそうである幽灯魷(ウィスプスクイド)の"活用法"に関して思いを巡らせていたのであった。


   ***


 この31日の間に――俺が"名付き"を一気に増やしたのには理由がある。

 簡単なことだ。

 彼らは指揮個体であるが故に、つまり、相応にその指揮される(・・・・・)"名無し"エイリアン達が増えた、ということ。


 6副脳蟲(ぷるきゅぴ)で1日。

 上記の第4世代化の"名付き"達で12日。

 第4世代のエイリアン=ファンガル種とエイリアン=パラサイト種のうち、すぐに能力を検証したかった数系統で計10日。


 ――残った8日分は、全て第3世代以下を量産する時間に充てたのだ。


 その結果、単純なエイリアンの数だけでいえば、俺が副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもとキルメを補助動力炉(ブースター)として携えた「進化祭り」の前後で、ほぼ2倍近くにまで急拡大している。

 相応に"名付き"達もまた倍増させる必要があった、というわけである。


 そもそも、個々の"名付き"達とは決して圧倒的な個体としての武勇の獲得を目指した存在ではない。

 "象徴"という意味で世代進化を先行させてはいるが。


 どれだけエイリアンネットワークを強化しようとも。

 どれだけ個々のエイリアン達の連携能力や同調能力を高め、それを第2世代副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもによって強化・効率化させようとも――根本的に"名無し"達というのは、主脳(この俺)副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもが統括する全体意思とでもいうべき、いわば『エイリアンネットワーク』の髄に、その根本的な「判断能力」を全て委ねてしまっている。


 つまり、群体として一個の生き物の如く高度複雑に連携する能力を獲得した代償であるのかもしれないが、その「群体知性という名の"意識"の()」からの不意討ちには、弱い。

 そういう側面があることが、ウルシルラの泉を巡る戦いからはっきりと傾向として見て取れた。これは、あるいは副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもという「個にして群(イレギュラー)」なる存在が誕生したことの"副作用"であるのかもしれない。


 俺はそんな思いを新たにしている。

 もしも【エイリアン使い】の権能さえも、それがどれほど俺自身の独創的な"世界観"によって誕生した迷宮(ダンジョン)法則であったとしても、実際には諸神(イ=セーナ)が施す「縛り」の影響を受けていたのだとして――それを破った(・・・)のがウーヌス達だからだ。


 本来の(・・・)副脳蟲(ブレイン)は、知能があるとしても「部下きゅぴ」レベルに留まっていた……いや、留められ(・・)ていた可能性を俺は感じているのである。


 だからこそ、強烈な"個"を持つウーヌス達が【共鳴心域】を統括している副作用のようなものとして、連中が誕生する前の初期にはまだ多少なりとも存在していたように思える"名無し"エイリアン達の個体ごとの独自の状況判断能力が――ほとんど脇に追いやられているような気がしている。


 故に、そうした独自の決断能力を、指揮単位ではあっても快復させる形で補うのが「群にして個」たるアルファ以下の"名付き"達の役割なのである。


 ネームドとなったことで、他ならぬ彼ら自身が、己を他の個体と明確に区別するよう自我付けられていることを自覚している。

 この故に"名付き"達は、「エイリアンネットワーク」の全体意思に全てを呑み込まれ同化されて塗り潰されることなく、しかし独立することもなく、それと共存・併存(・・ ・・)できているのだと言える。


 ウーヌス達が統御する「エイリアンネットワーク」から必要な情報を受け取って周囲を統制しつつ、なお、一個体としても最前線で闘争し、あるいは"名付き"同士で高度に連携する様は、己の自我にこそ由来する独自の状況判断能力を未だに保っていることの証左だろう。

 そして明らかとなったのは、アルファ達は、必要に応じて【副脳蟲(ブレイン)】の中継を経由せず、直接「エイリアンネットワーク」を通して他の特定のエイリアン(名付き含む)と、限定的ながらも交信を行うという感覚を練磨研鑽しつつあるということだった。


 これは"中継"とは明確に違う。

 特に【人世】と【闇世】を挟んだ場合にも顕著であるが、時にはウーヌス達が繋ぐ【眷属心話(ファミリアテレパス)】のコンマ小数点以下の時間さえもが命取りとなる場面があろう。

 だが――アルファ達はそれを独自判断によって周囲を巻き込んで即時の連携を行うことができ、これこそが、特に対【四季ノ司】戦なんかで、「ある(つかさ)を全力で相手にしていながら、一連の行動の中に、まったく脈絡なく他の司に対する牽制に繋がる一撃を意図的に混ぜ込む」とかいうような、柔軟な戦術的行動を実現したカラクリの種だと思えた。


 「エイリアンネットワーク」に盲従しすぎる"名無し"達とは異なり、ある時は"名付き"同士としての「共同意思」を形成しつつ、またある時は一個体としての独自判断を行うという連携を"名付き"同士で苦もなくこなしたわけである。


 しかし【異星窟】の内に蠢く俺の眷属(エイリアン)達の絶対数が増大している現在。

 組織の肥大化に伴って「階層」を増大させる必要があるのは、元の世界であってもこの世界(シースーア)迷宮(ダンジョン)であっても同じこと。


 "名付き"達の指揮能力を補佐する存在として、言わば"準名付き"とでも呼ぶべき存在として、俺は「選抜(エリート)個体」の導入も決めたのであった。


≪そのための『因子:血統』ということだな。『因子:肥大脳』と組み合わせて、あと1枠はまぁ、『因子:強知覚』をベースに、個々の系統や班の目的ごとに違うのを入れればいいだろう≫


≪りょ、了解だよー……イェーデン、その、ちゃんとやってね? 変な"冒険"さんは……しないでね?≫


 例えば選抜労役蟲(エリートレイバー)選抜走狗蟲(エリートランナー)といった具合に。

 その最適な比率の検討も副脳蟲(ぷるきゅぴ)どもに丸投げしつつ、俺は、次に(・・)"羽化"をし始めたエイリアン=ファンガル種やエイリアン=パラサイト種の第4世代達に意識を向けたのであった。


X/Twitterで募集した亜種アイディアより、真昼さん、エシさん、虎さん、摩耶さんなどからいただいたアイディアを活用させていただきました。

皆様、多数のアイディアをいただき、誠にありがとうございます。

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[気になる点] ソニックビーストは中脚があるってありますがランナーの時から中脚ありましたよね? あと、ブレイブビースト系統は4本腕ですか? それとも、ジャイロビーストだけ4本腕ですか?
[気になる点] アルファやデルタは進化するたびに筋肉が強くなるが進化以外の筋トレなどで筋肉を鍛えることはできるのでしょうか [一言] 通り過ぎた箇所が凍る凍筒鮙で、地中・天空に続く水中魔法陣が作れます…
[良い点] アルファ、デルタの進化 螺旋獣でもやばい筋肉なのに災厄獣だとどれほどのパワーになるんだ、しかも第5世代がある [気になる点] 礫棘蚯蚓の猛毒因子の要素が見当たらない [一言] 檻獄蛛の糸が…
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