0216 高貴なる脳髄達は眠ることを知らず
1/9 …… 技士蟲の能力について加筆
傘の摩耶さんにファンアートをいただいております。
本話に登場する6体の、それぞれイメージ絵となります。
【闇世】の有力な迷宮領主達に対しては『童の遊び心』と自称したが、我ながら、この『童』は大層、趣味の良いものを捏ねて遊んだと言えるだろう。
俺を中心に、補助装置となる意図も込めて花弁のように周囲に6体並んだエイリアン=スポア(副脳蟲入り)ども。
元の副脳蟲が人間の幼児ほどもサイズがあるため、これらのエイリアン=スポアは下手をするとちょっとした「巨人の頭部」めいた大きさであったが――それがべりぐちょぬちゃあと、卵頂に自然に入った数本の亀裂に沿ってでろりとめくれて羊水の如き黄緑色のエイリアン体液を垂れ流しながら。
≪きゅおおおお! 僕たちの再誕さんの時間なんだきゅぴぃ!≫≪うーぬすしゃま!≫≪はじけとべぇ!≫≪生まれる~≫≪す、すごくドキドキするよ~……?≫≪僕たちの時代さんだね! うおおおおっ≫≪やったぁ! これでできることさんが色々増えるよ!≫≪あははははははは!≫≪イェッきゅぴー、モノ!≫≪ぶち羽化すぅ!≫
さも、ドロドロに溶けた巨人の頭部から"脳みそ"を摘出している映像の如く。
次々とその「威容」をさらけ出す。
既に彼らは――もはやただの"脳髄"ではない。
○お姫蟲
【基本情報】
名称:ウーヌス
系統:お姫蟲
種族:エイリアン=ブレイン
従徒職:チーフ
位階:12
【技能】
『帰卵回生Ⅰ』
『ぼくの号令』
我が"好奇心"たるウーヌスは、かねてより折に触れて切望していた通り――"姫"となった。
だが、その威容はもはや姫を通り越して"令嬢"とでも言うべきか。
6体とも、副脳蟲の「おむつ」部分を形成する顎骨部分と、肢のように這いずりに利用する触手が変態することで、各々の新たに得た姿形に応じた新たなる"装い"を形成している点で共通しているが――特にウーヌスの場合は変異は激しい。
フリフリでひらひらな豪奢なるスカート。
ちょっと高級感のあるおしゃれな襟巻き。
そして思い切りロールにロールを重ねたくるくるキラキラなツインテール。
――これだけ書くと、さぞ少女漫画チックでメルヘンな印象を受け取るかもしれない。
だが、中央部にででんと「脳髄」が鎮座して収まっている様は、いっそ重機の操縦士をより効率的に接続すべく「脳髄」だけにして余計な部位を全て取っ払うとかいう悪魔的な発想によって生み出された……かと思うほどの重厚さである。
≪きゅほほほほ……こ、これで僕は名実ともにきゅぴサーの"お姫"。お姫思う故に我お姫、なのだきゅぴ……!≫
などとのたまいながら、スカート(超微細な触手が編まれた無駄に滑らかな遠目からぱっと見は高級生地に見える光沢を放つ)をふりふり(蠕動)させ、その内側でもぞもぞと蠢く触手達に担がれるように――こう、のっし、のっし、ぎゅいいいん、ぐごごごご、と"姫"らしからぬ駆動音と共に近づいてくる。
≪造物主様見てみてー!≫
「馬鹿かお前は、どこに"ツインテール"を極太の鞭のように操って振り回す"お姫"がいるんだ――あぶねぇ!」
お姫蟲ウーヌスの側頭部から生えた、お前はどこの岩盤をボーリング調査する気だと言うほどに極太の穿孔機めいた螺旋で「くるくる」された両腕、ならぬ両ツインテールが空を切って振り回され、思わずレクティカごと仰け反った俺の頭上を掠める。
このくるくるツインテール、平べったくかつ鋭く変異した触手だけではなく、その内部にはこれまた脊髄のように変異した顎骨が芯とも筋ともなって通っており――遠目には割りとサラサラぬめぬめにトリートメントされたツインテールに見えるのがまた腹立たしい――振り回し方によっては剛鞭めいた裂帛の一撃を放ちかねないだろう。
ぶっちゃけ、"姫"というよりは重機であった。
それも割りと壁役に寄っている的な意味で。
≪きゅほほほほ、お行儀さんのなっていない輩さんには、きゅぴ殺奥義のこんにゃく破棄さんでお仕置きするのだきゅぴぃ!≫
……などと当人は、人のどんな記憶野を覗いたのか、社交ダンスとフラダンスとリンボーダンスを足して3で割ったような奇妙で奇っ怪な踊りを開始しており、通りがかった適当な走狗蟲をその「ダンス」の相方にしてくるくる、ふりふり、そしてぷるぷると回転し始める始末。
≪ち、チーフ……じゃなくてお姫が楽しそうなら……良かった、のかな?≫
≪うわぁぁあああ! う、羨ましいよお姫のふりふりぃ! 僕も欲しい!≫
≪うーぬすしゃま!≫
≪たたきつけろぉ!≫
いっそ"情報共有種"ではなく文字通りの重機役を与えてもそれなりに働きそうな――いや、脳髄がモロ出しであるため引き続き副脳蟲として働いてもらう他は無いだろう。
「それで、主殿。"姫"……となったウーヌス殿には、何ができるのだ?」
"進化部屋"と化していた『大産卵室』に現れたソルファイドが、彼にしては珍しくちょっと引き気味になりながら――ウーヌスが振り回す「ドリルツインテール」を軽く首をひねって躱しつつ――問うてくる。
それで俺もまた脱線しかけた思考から、本来の目的、つまりこの「第2世代」の副脳蟲どもの能力把握に意識を移す。"羽化"のタイミングこそ合わさせたが、既に、副脳蟲どもからそれぞれが自覚したブレイン系統としての新たな能力については、【共鳴心域】によって俺の中に流れ込んできていたのである。
そしてまず、お姫蟲の技能の詳細については――。
結論から言えば、お姫蟲ウーヌスはその技能【帰卵回生】により、各エイリアン達を"退化させる"ことができるようになったのである。
"進化"と同等の時間がかかることや、さらに追加で魔素や命素を注ぎ込まなければならないこと――過程としては『エイリアン=スポア』を経た"変異"であるため――さらに、お姫蟲の段階では「2世代」までしか戻せないようであるが。
例えば戦線獣や凝素茸を幼蟲に。
あるいは代胎嚢を労役蟲に、爆酸蝸を走狗蟲にまで"退化させる"ことができるようになった、とのこと。
なお、この際【遷亜】と【煉因強化】ごとリセットされ、真の意味で素の走狗蟲なり幼蟲なりになる。前者に関しては、エイリアン個体の使いまわしという意味で利点であるが……後者についてはコストの重さから、少々悩ましいところでもあると言えるだろう。
そしてウーヌスが断言するに。
≪なんと技能点さんをリセットさんできるのだきゅぴぃ!≫
これは、なんと全ての技能テーブルがリセットされ、事実上の"振り直し"の道が開かれたということを意味している。
そしてその帰結として、ファンガル系統などで特に顕著であった「前世代の技能に振った技能点が死ぬ」という問題が解決されたこともまた意味されている。何故ならば、この進化時に進化先の系統技能に自動である程度点振りされてしまうという仕様もまた、お姫蟲の干渉範囲であるとわかったからだ。
さらにそれだけではない。
"振り直し"が可能となったことが意味するのは、幼蟲の【天恵】に係る三重矛盾問題の解決であった。
「一度【天恵】に振り切り、労役蟲や走狗蟲に進化させてから、また幼蟲に退化させれば……【天恵】によって得た技能点はそのままに、ビースト系統などとして【遷亜】をさせることができるようになる、ということですな?」
ソルファイドに続いて現れ、自らの【異形】の触手で器用にエイリアン=スポアや、絶えずそれらの世話で動き回る労役蟲達を避けながら現れたル・ベリがそう言った。その背中には、道中で眠ってしまったのか、すうすうと寝息を立てているグウィースをおぶっている。
≪あれ、オーマ様。それってもっかい……【天恵】取り放題なんじゃ?≫
≪ダリドにーさん、流石にそれは……"制限"ってやつが入るかも? 点は戻るけど、再取得は無理になっている、とか≫
【眷属心話】越しに考えを述べてきたのはダリドと、第4子にしてアーリュスの双子である女子ティリーエである。
彼らの指摘通り、そのままであれば【天恵】を取ってからまたウーヌスに戻させれば、理論上は技能点が無限生産できてしまうことになるが――流石にそれができれば『位階・技能点システム』自体の前提が崩れてしまうため、例えば【天恵】技能自体がグレーアウトするといったような"措置"が施されると俺は読んでいた。
だが、そのことを差し引いても、実質的にタダで15点を得た上に【遷亜】と組み合わせることができる意味は非常に大きい。
そして忘れてはならないのが――亜種化させたエイリアンもまた、お姫蟲による「退化」の対象となるということであった。
つまり、これは事実上の『転職』能力である。
≪つ、つまり僕は就職ゅぴ活動のリぷるーターのお姉さんということきゅぴね! みんなの運命を僕の髪の毛先さんでちょいちょいぷるんと操る……悪くないのだきゅぴ!≫
≪あははは、ウーヌスったら調子に乗っちゃってぇ≫
「……それで? オーマさん、この『エイリアン』達を互いに入れ替えることができるようになって、どんな良いことがあるんだ?」
空間がわずかに【闇】属性の気配で歪む、と同時に吸血種ユーリルが現れる。俺が"進化"に専念していた間に、多少なりとも【報いを揺藍する異星窟】の一員として慣れたのか、「エイリアン」という語の発音からぎこちなさが無くなっている。
その顔は相変わらず陰鬱的な方向に反抗的であるが、そういう印象を与えるのは、生まれ持った三白眼と装束の全体的な黒さによるものだろう。
ユーリルの疑問に答えるならば、以下のことが言える。
限られた幼蟲達を状況に応じて大規模に変異させることや、重要な指揮個体たる"名付き"達を様々に「転職」させて対応可能状況を増やして使い回しやすくする……などというのは序の口。
「転職」がもたらす真のインパクトは、エイリアン同士の更なる共鳴と同調と連携の深化である。
なるほど、確かに技能はリセットされる。それはすなわち【継承技能】を維持できないということである。
だが――そのエイリアン個体が、俺の迷宮に誕生した一個の知覚力を持つ生命として"経験"した事柄、例えば身体知は維持されていると見るべきである。
例えば、元遊拐小鳥の経験を持つ走狗蟲を生み出すことができたとすれば、どうであろうか。
この個体は、現遊拐小鳥達とよりスムーズに連携することができるようになるのである。何故なら、かつて己が「そう」であった経験により、【共鳴心域】によって遊拐小鳥と接続される際に――「飛行」という未知の感覚を"ノイズ"として除去する必要が無くなるのである。
「それだけ、副脳蟲達の負担が減るということですな。そしてエイリアン同士の連携も、より身体機能のレベルで自然になされるようになる……と。ますます"無駄"が省かれる、ということに」
極論、将来的に「全てのエイリアンが全ての系統を経験」したならば、もはや【共鳴心域】による"未知感覚除去"が不要のものとなるのである。
それは単純に、俺の迷宮の群体性・一体的な活動を根底から強化する代物であった。
○賢者蟲
【基本情報】
名称:アン
系統:賢者蟲
種族:エイリアン=ブレイン
従徒職:発電池
位階:12
【技能】
『共覚同調』
『残業適正』
我が"自制心"たるアンが選んだのは――全てを識り、全てを見通すかの如き"賢者"であった。
まるで杯のように顎骨部分が、ほっそりと気品あるワイングラスめいた骨格に形状を変異させつつ。
触手達と斜め縞模様状に絡み合って放射状を成し、まるで宝物をそっと置く台座の如くすっと立ち上がっただけではない。
その上部に鎮座した"脳髄"こそ大きな変化は無いが――特筆すべきは頭頂部、いや、脳頂部に咲いた夜色の如き水晶体であった。
≪ものすごおおく、遠くまで視えるよ! 感じ取れるんだよ! うわああ、情報さんの大洪水だ!≫
≪お洒落な宝石さんなのだきゅぴ。僕の指輪さんにしてやるのだきゅぴ≫
≪ちょ、お姫やめてってばぁ!≫
……忍び寄る、というにはいささか剛撃めいたドリルロールに対して賢者蟲アンがしゃがむ。と同時に、ぎゅぼんと夜色水晶体をそのうねる脳みそのしわの中に引っ込め――花弁のようにその周囲に咲いていた襞が急膨張。
例えるならば2段の鏡餅のように、お姫の魔の手を躱しつつ、収納してしまったのであった。
その有様は、脳みその上に小さな脳みそを載せたようであるか。
あるいは脳みその上から、何らかの突然化学変異によって、新たな脳みそが"コブ"のように部分分離的に生えてきたかのようであるが――「姫重機」を追っ払うようユーリルに無茶ぶりしたところドリルロールに絡みつかれ、さながら有刺鉄線に正面衝突した脱走者のような状態になったのを横目に、俺は賢者蟲の能力確認を進める。
――この夜色の水晶体は、材質は属性砲撃茸や属性障壁茸らの『属性結晶』と同等のものであったが、どうも"根っこ"の部分では神経的にアン自身と接続しているようであり、取り外すことはできない。おそらく無理に取り外せば重体レベルの大ダメージを負う、という意味では軽々と外に晒すべき代物ではないだろう。
だが、重要なのはその能力である。
姫重機がくるくると踊りながら他の者に絡み始めている隙に、アンの2段めの脳みそがギョバァと肉々しく割れて中からその実をのぞかせた夜色水晶体には――薄紫色の空の景色が映っていた。
≪イータさんが視ている光景と繋げてみたよ!≫
この夜色水晶体。
アンがその時点で副脳蟲として"同調"しているエイリアンの視界に映った映像を、そのまま映し出されるのである。
≪きゅほほほ、これでアルファさんの筋肉をいつでも肉眼で堪能さんできるきゅぴねぇ≫
無論、これが賢者蟲の技能【共覚同調】の真価ではない。
副産物……というか、かなりセーブした省エネモードでの能力に過ぎない。
その真価は、この夜色水晶体に直接手を触れた時に発揮される――。
瞬間、俺は【勁絡辮】によってレクティカと繋がっていることさえも忘れた。
風斬り燕として【闇世】の薄紫色の大空を哨戒飛行するイータの視ている景色が。浴びている『黒き太陽』のやわらかな光が――眷属にとってもそれは穏やかであると今知った――風斬り音だけでなく、イータの鋭敏な感覚が捉えている気流や眼下に広がる海流の音が。
気配が、振動が、味が。
『因子:豊毳』によってイータの全身を包んでいる【風斬り羽】が気流に薙いで全身を震わせる感覚が。
肉体の躍動が、振動が、鼓動が、拍動が、息遣いが。
神経を駆け巡る電気信号が、筋肉の繊維一つ一つまでの動きが、血管を流れる血の一滴までもが。
あらゆる感覚を通して、触れた者に共有されるのである。
――まるで今、俺がイータに「なった」かのように。
【眷属心話】が届く範囲で、かつ、間に他のエイリアンによる"中継"を挟んだ場合は効果を発揮しない……という制限はある。
しかし、【勁絡辮】によって他のエイリアンと繋がった状態の俺の感覚をすら塗り潰して一時的にそのエイリアンが感じている全てを――痛覚さえも――タイムラグ無しに捉えることができる価値は計り知れない。
これは事実上の他エイリアンの感覚ジャックによる"外部端末"化である。
しかも、この恩恵を受けることができるのは俺だけではない。
ル・ベリに試しに触れさせたところ、珍しくその表情からはいつもの不機嫌さが消え、「おおお」と感嘆一色に染まったのである。
つまり――特定のジャックした個体限定であるが、このほとんど迷宮領主自身に等しいレベルでの【同調】を、アン自身と他の配下に共有することができるのである。そしてその感覚ジャック個体に【共鳴心域】越しに指示を下すこともできる。
それはそのまま、俺と副脳蟲以外の"管制役"を用意できることを意味しており、今後の人事や人材運用において役立つだけではなく……『感覚』を学習するという意味では【勁絡辮】によって直接そのエイリアン個体と繋がることができる俺にとっての"予習"効果も得られるという副作用があると言えた。
≪一つ気になるのですが、オーマ様。"死んだ"場合の感覚もフィードバックされるのではありませんか? それ≫
≪そうなる前に"切る"から大丈夫だよ! あ、僕自身も大丈夫だからね!≫
≪あははは、あはは。その点に関してなら、僕も役立つかもね? あはは≫
この意味では、超覚腫に軽々に接続してはならないという問題もまた【勁絡辮】と同等ではあろうが、中継者が俺の自制心である以上は全幅の信頼を寄せることができる。
少なくとも俺以外であれば、超覚腫と【同調】することはでき――【共鳴心域】において副脳蟲どもが情報を整理するよりも早く、場合によっては、些細な違和感や異変に真っ先に気づくことができるようになると言うべき能力なのであった。
○楽師蟲
【基本情報】
名称:アインス
系統:楽師蟲
種族:エイリアン=ブレイン
従徒職:心配がかり
位階:12
【技能】
『群律同調』
『悪い想像』
我が"羞恥心"たるアインスは、基本能天気な連中の多い副脳蟲どもの中でも心配性であるという点で若干浮いた部分もあったが――まさか本当に浮かぶとは。
もはや何の動力によって浮遊しているかなど突っ込みはしないが、楽師蟲は、一言でいうならば俺の元の世界の所属国家の某国民的RPGに出てくる某粘液系生物のうち「空を飛ぶ」ために、その胴体の左右の形状を"羽"のように変異させたシルエットをした副脳蟲形態であった。
……それか、どこぞの耳で空を飛ぶ子象の頭部を切り取って頭皮と顔と頭蓋骨を丸ごと溶かして脳みそだけ露出させた、とでも呼ぶべきだろうか。
そんな俺の物騒な喩えなどどこ吹く風。
文字通りどこからか吹いている"風"によって、ふよふよ、ひらひらと、必死に羽ばたく必要すらなく、水中のクラゲであるかのように泰然自若と当然の権利のように宙を漂っている。
一応、その巨大な象の耳を複数枚重ねたかのように広がる"羽"が、凧のように風を受けていると説明できなくもないが、ウーヌスが振り回すドリルロールに対して明らかに気流と違う方向に慌てて退避するとかいう回避挙動を見せている辺り、お前実は【風】属性使えるんじゃないかと小一時間問い詰めたくもなるが――アインスがおどおど困りそれに付け込んだウーヌスがまたふざけるだけなので、目こぼしをすることとしよう。
本人曰く、【闇世】の魔素と命素の"流れ"に載っているとのことであるが――その意味する所を測りかねていると。
≪運んで運んでー≫と言いながら蜘蛛の糸に群がる亡者の如く、中空から垂らされたアインスの触手にしがみつこうとするウーヌス、アン、ウーノ、イェーデン、そして何故かモノの部下きゅぴのジーとトリーといった副脳蟲どもが『悪夢の特大一房ぶどう』状態となる。アインスが流石に≪お、重くて運べないよう≫と言いながらずるずると大地に引きずり降ろされていく様子を、ソルファイドやユーリルと共に生暖かく見守りつつ。
――楽師蟲の技能【群律同調】は、一言でいえば、エイリアン達が連携する【共鳴心域】ネットワークの自由自在な"組み換え"であった。
喩えるならば、副脳蟲どもが形成する【共鳴心域】が、全エイリアンを統括してその中に俺や他の従徒達を【眷属心話】によって統合する「エイリアンネットワーク」とでも呼ぶべき共通のサーバーの内部に、特定のエイリアン達を選別・選抜した「個別ネットワーク」を作り出し、あるいは統合し、あるいは分割し、あるいはそのメンバーを入れ替えたりすることができるのである。
そもそも、エイリアン同士の"連携"にはお姫蟲の説明でも言及した「未知の感覚除去」という問題が存在していた。
例を挙げれば、噴酸蛆が【強酸】をその体内から吐き出す"感覚"は、走狗蟲や隠身蛇などと"連携"するに当たっては本来的には「不要」な情報なのである。
同様に、空を飛ぶエイリアン達にとっては必要な気流の感覚やら風の強さやらといった情報は、水中を泳ぎ進むエイリアン達にとってノイズとなる。
【共鳴心域】の役割は、この俺に対するものも含めて、そうした個体別系統別同士の間で発生する「不要な感覚」のフィードバックをフィルタリ≪ぷるたりんぐなのだきゅぴ≫うるせぇフィルタリングだ! ……フィルタリングをするというもの。
そして、エイリアン達の全個体だけでなく俺も従徒達も含めて「エイリアンネットワーク」に繋げる場合には――【同調】すべき【感覚】の精度をそこそこの程度、落とさざるを得なかった側面が実際上はあったのだ。
無論、これでも現在のエイリアン同士の連携は大いになされているが――アインスの楽師蟲としての能力は、この問題にお姫蟲による「長期的解決」とは別の視点から対処するものとなる。
「実質的な意味で『部隊管理』をすることができるようになる、というわけですな。御方様が、あえて『班』と命じずとも――複数のより連携を取りやすいエイリアン同士を、極めて高効率に同調させられる、と」
「しかも、アインス殿の"説明"通りなら、それを随時に行えるということか」
「瞬時に行動パターンを複数グループに変化させつつ、しかもそれをこちらの対応よりも早く組み替えたりずらしたりできる群体知性型の魔獣、と考えたらとんでもないよね……ですね」
レクティカの影で、"杖絡み"状態の一ツ目雀を抱え込んで瞑想するように丸まっていたキルメが目をこすりながら起き上がる。
現在、リュグルソゥム家の他の者達が【闇世】に帰還し、臓漿の『高速道路』に乗って『大産卵室』にまでやってきている最中のことであるが、彼女の指摘する通り、アインスはむしろ副脳蟲ども全体に対する負荷を軽減してその【共鳴】能力を高める存在であると言える。
たとえ将来的にはお姫蟲が「全個体が全系統を経験」させたとしても、純粋に今後桁が1つ2つという単位で増大していくであろう俺の迷宮の戦力を管理し、かつ戦術的に操って敵対者と対峙するという意味で、特に瞬間的な判断と致命に対する鋭敏さが生死を分かつ戦闘時などにはより重要な能力となるだろう。
その"分割"能力には今のところ限りは無いように見受けられ――ごく簡単にアインスが「整理整頓」を行って【異星窟】全体を20~30の「グループ」に分け直したところ、それだけで、体感ではあるが10%程度は俺の眷属達の動きが効率的になったように感じられた。
斯くの如く、【楽師蟲】が体現する権能は、さながら何十種類もの楽器を揃えた大楽団の指揮者が如く、ネットワーク全体を調律するものであるというわけであった。
○司祭蟲
【基本情報】
名称:ウーノ
系統:司祭蟲
種族:エイリアン=ブレイン
従徒職:食いしん坊
位階:12
【技能】
『融体回癒』
『美食家』
我が"不動心"たるウーノが就任したのは"司祭蟲"である。
その見た目は、遠目から見ればちょっとした「お椀」の上にこんもりと御膳の如く載せられた"脳髄"である。"脳髄"にさほどの変化はなく、かなり「でかい」お椀だなという印象を与えるが――その実態は長く伸びたウーノ自身の大小の触手達によって、民族工芸品の如くこれでもかというほどみっちりと編み込まれた肉絲の"籠"。
そこに、さながら鳥の巣に鳥の卵が乗るが如く、顎骨がちょこんとした円盤となってかろうじてその台座性を主張するような小円盤が形成され、その上に本体が乗っかっているのであった。
≪え、これ……す……すっごい、ふかふかさんだよ……?≫
≪うーぬすしゃま!≫
≪のりこめぇ!≫
蠢く、だとか、蠕動する、などというレベルではない。
引き絞って圧縮したのかと思うほどに、その「お椀」の下部を成す触手の"網"は、みちみち、ぎちぎちという非常に張りのある音を立てながら、ずるずる、ずぞずぞと前進するのである。いっそこの触手網製お椀こそが「本体」であると思わせるほどの存在感を放っているが――妙にその跛行速度が高くて、傍目にはちょっともじゃっとした巨大カーリングが軽く揺れながら滑ってくるかのように感じる有様。
果たして、この「肉絲のお椀」の生物学上の存在意義は何であろう、と俺が首をひねっている眼前。浮遊せるアインスを引きずりおとした副脳蟲どもは、ウーヌスの部下きゅぴであるドゥオとトレースを交え、まるで遊園地のアトラクションに対して移り気な小学生の集団の如く、きゃいきゃいと≪僕も乗せてー≫と言いながら次々に「お椀」の上に乗り込んでいく。
司祭蟲ウーノはといえば≪みんな乗れるよ~≫などとのんきに言いながら、お椀を形成する肉絲状触手どもを≪ふんぬっ≫と言うや、折りたたみ傘を拡げたかのようにぶわりと拡げてそのまま9きゅぴ追加で乗船させ……ずぞぞぞぞとその「悪夢のフルーツ盛り合わせ」じみた異容で、誰に届けるともなく気ままに『大産卵室』を這い回る始末なのであった。
「なんというか……自由なんだな、オーマさんの配下達って」
人間を食料にする――正確にはその【血液】をだが、故に臓物なども見慣れているはずの――吸血種ユーリルをしてそう言わせるのであるから、俺の眷属達の中でも一段と、この副脳蟲どもは、オブラートに包んだ言い方をすれば「不可解で謎めいた存在」であることは明らかであると言えるだろう。
なお、司祭蟲としての能力は非常にシンプルでわかりやすい。
ウーノは端的に言えば『範囲ヒーラー、範囲バッファー』であり、技能【融体回癒】の力により、その拡げた曼荼羅か細密画の如き"肉絲触手"の領域で接続したエイリアン達に対して、その自然治癒力を急速に高めて快癒に導くだけでなく、若干の属性魔法に対する抵抗力も付与するのである。
特に、それは多数の維管茸と属性障壁茸を部分的に兼ね合わせた能力であるだけでなく、状況にもよるが「トリアージ」能力が非常に高い形で現れる。
この"肉絲"の触手達の1本1本が、傷を覆って血管に癒合して体液の流出を防ぐだけでなく――【治癒】という目的のためには範囲内に入り込んだ全てのエイリアン達と癒合。全体を1個の生命のように繋ぐことで、集団による回復力を高めるのである。
それは各個体の体内で生み出されたホルモンや自然治癒物質、新生した細胞自体をも共有して均すことによる、言わば数の暴力的な【治癒】技能である。
まさに、即死しなければほぼ確実に蘇らせることができ、戦力の再利用と再配置の要とすることもできるべき強力な回復ユニットと化したのが"食いしん坊"ウーノなのであった。
≪きゅぴ。その分ものすごくウーノ自身はお腹が空きそう……≫
≪お腹いっぱいのエイリアンさんを繋げれば、そこから栄養さんも供給できちゃうね!≫
○技士蟲
【基本情報】
名称:イェーデン
系統:技士蟲
種族:エイリアン=ブレイン
従徒職:てっぽー玉
位階:12
【技能】
『煉亜調律』
『早撃ち』
我が"克己心"たるイェーデンが「きゅぴきゅぴ会議」を経て選択したのは、彼の大胆不敵な性格からすればやや意外ではあったが、技士蟲である。
体躯そのものは他のブレイン系統第2世代どもと比べれば小型である。
少なくとも、その触手や顎骨部分を肥大化させてこれでもかと拡げていたり……というようなどこかのお姫のような状態にはなっていない。
しかし、その新たなる能力として獲得したであろう"役割"は見た目からもはっきり連想できるものであった。
まず、全体的に長くなっている。脳髄の形状はそのままに、それを縦に引っ張って長く伸ばした、どこぞの風と水によって100年育てられた森になだれ込もうとしていたかの如き赤い目玉の巨大芋虫のような形状となっている。
そしてその背には顎骨が変化した"背びれ"が生え――最も重要な特徴は、口の部分……いや、口など副脳蟲どもには無いのであるが、ちょうど芋虫で言う『口吻』がある箇所から、太さも長ささもまばらな、先端が様々な形状となった数十本もの細かい触手が生えていたのである。
そしてイェーデンはそれを自由自在に器用に操ることができる。
ちょっとした「生きた手術道具」か「工具セット」とでも呼ぶべき代物であり、労役蟲達が【遷亜】させることでやっと様々にその"肢"に応じた「使い方」を分化させられるのに対して、単独でありとあらゆる複雑な細かい「作業」ができることを予感させる。
実際に、イェーデンはこのうにょうにょわしゃわしゃと、捉えられれば間違いなく「改造」されてしまうであろうと見るものに本能的な予感を抱かせるが如き触手の束により――ビースト系統、ファンガル系統を問わずに「調整」することができるのである。
――技能【煉亜調律】によって、【遷亜】済のエイリアン個体に対して『煉因強化』を付け加える、という形で。
そしてこの能力の延長線上として、技士蟲は【遷亜】したまま進化させるという離れ業もやってのけた。
ちょうど、ほとんど羽化寸前の状態でほとんど内部的には貴化が完了していたまま、イェーデンは"名付き"達へのそれをつきっきりで補助さえもしていたのである。この点に限れば、技士蟲の能力はお姫蟲の能力と対置される関係にあると言える。
≪みんなまとめて――僕が面倒みてしまうよ! 大冒険さんに相応しいボディさんに改造してあげるよ!≫
≪まぁ僕たちブレイン系統にはできないのが残念さんだけどねっ!≫
だが、この俺の【異星窟】としては、イェーデンとウーヌスの力と合わせることによって、【天恵】と【遷亜】と【煉因】に係る三重矛盾が、ほぼ完全に解消された瞬間を迎えたと言っても過言ではない。
技士蟲イェーデンがつきっきりで"手術"もとい"改造"を行わなければならないのという意味での当然の制限はあるが――もはや、俺はこの3つのエイリアン強化法を取捨選択する必要が無くなったと言える。
さながら『位階・技能点システム』の側から、先手を打って【エイリアン使い】に押し付けられてきたある種の"制約"が、俺の分身たる副脳蟲達によって返されたかのような塩梅であったのだ。
「こうなるとわかっていたら、アルファ達の"第4世代"化を遅らせるという手もあったな?」
≪きゅほほほほ。いずれ僕がもっと高貴さんになったら、全部解決さんするのだきゅぴぃ! きゅほほほほ≫
などとウーヌスがアインスの"羽"を扇子代わりにぱたぱたとさせ、暴れられて逃げられたところではあるが、この副脳蟲チーフの言う通りではあった。
当然のことではあるが、第2世代のブレイン系統達は――やがて第3世代に至るのであるから。
お姫蟲が「2世代」巻き戻せるならば、女公蟲は「3世代」。その"先"は「4世代」「5世代」と巻き戻すことができるようになるだろう。
今アルファらという一部の"名付き"を先行させていたとしても、長い目で見れば後で退化させることはできるのであるから。
○道化蟲
【基本情報】
名称:モノ
系統:道化蟲
種族:エイリアン=ブレイン
従徒職:ウーヌス飼育係
位階:12
【技能】
『共鳴阻害』
『ウーヌス感知』
我が"警戒心"たるモノは、自らが「そう」であると自認していると思しき役割通りに――道化蟲となった。
直接俺と話すことは少なく、ウーヌスを通してという形を取ることが多いが、だが、ある意味では最も直接に、語弊を恐れずに言えば「避雷針」の如く何かが俺に降りかかるのを逸している。
異世界転移者でありながら迷宮領主であるという、きっとこの世界においては特殊でイレギュラーな立ち位置にあるであろうこの俺に対して――知りすぎないように、その『警戒』を発揮していた時から、なんとなくそういう予感はしていた。
≪あはははは、あははは! あはははは! たーのしー!≫
そしてそれは、よりはっきりと、その「形状」からも「役割」からも仄めかされるに至っていた。
他の副脳蟲どもが概ねその脳髄の形状を保っているか、わずかに変形させているだけであるのに対し。
モノだけは、脳髄を、形容し難くまた名状し難い有様に変貌させていた。
まるで窒息して苦悶のあまりのたうって暴れ回る大蛇のような伸びた数本の触手状にばらけた脳髄。かと思えばしゅるりと互いに絡まって巻き取り合い、喩えるならば「ソフトクリーム」のような形状を形成し――また不規則にぶるぶる震えてのたうつ。
ウーヌスのドリルロールが自らの意思によって調子に乗ってぶん回されているだけであるのに対し、モノの「脳みそ触手」はそうではない。完全に、自らの意思と全く関係ないエイリアン=ハンド症候群を呈しているかの如く不規則で暴れん坊であった。
ウーヌスら5体以外の近づく者は、幼蟲であろうが自らの部下きゅぴであろうが、この俺であろうが巻き付いて投げ飛ばそうとしてくるほどに"不機嫌"なのである。
モノの"上半身"を成す、さながら中世ヨーロッパの宮廷道化が被った帽子のような脳みそ触手どもは。
絡み、解けて、まるで崩れた失敗ソフトクリームの如く常に揺らいでおり――しかし、技能【共鳴阻害】によってもたらされる害はそれだけではない。
≪きゅぴ。僕たちは本能さんでわかるよ! モノがみんなにとって不可欠さんなんだって≫
≪ダウジング~≫
≪ま、造物主様、モノのこれは……悪気があるわけじゃ、ないからね……?≫
≪モノがいっちばん危っ険さんな所に立っているんだよ、代われるモノなら僕が代わりたかったなぁ≫
≪大丈夫大丈夫! 僕たちは6体で一つだからね!≫
その奇怪な上半身を振り回して這いずり回る道化蟲モノは、他の5種のブレイン系統全ての正反対の効果と悪影響をもたらすと言えた。
周囲のエイリアン達にデタラメな"指令"を繰り出して無駄な行動で迷走させ、エイリアンネットワークに接続すれば、同調における"ノイズ"(不要な感覚のフィードバック的な意味)をばらまく。
そこには一切の悪意や害意は無いが、それが逆に、その"帽子"を成す脳みそ触手の不規則な挙動と同様、道化蟲モノ自身の意思とは関係無く行われており――何かがバグってしまったかのようなにすら思える奇怪さ。
だが、ウーヌス達はそれがモノの"役目"なのだと、急に知能指数が上がったかのように達観して受け止めているのである。
曰く。
≪道化蟲モノがいるから、僕達は僕達の"役割"を果たせるのだきゅぴ≫
≪だ、第3世代に存在昇格さんするには……必須なんだよ?≫
≪部下きゅぴちゃん達を増やしてくれるよ~≫
≪僕たちを1つで運用してくれれば、悪影響は最小限に抑えられるよ!≫
≪みんなで立ち向かうってことだね!≫
――とのこと。
実際に、第1世代ではきゅぴごとに2体までだった部下きゅぴが4体にまで、総勢30きゅぴまで増加させられることが迷宮領主としての知覚からわかっていた。
唯一、害にならない点と言えばこれだけであるか。
なお、ウーヌス達がさらに続けて言うには、部下きゅぴ達の「第2世代」への進化には――おそらく道化蟲をさらに愚者蟲にまで進化させることが必要であろう、とのこと。
すなわち最上位の世代は常に、俺の分身たるこの6体のみ。
そして、部下きゅぴ達を進化させるに当たっても――必ず道化蟲の小系統を含む「6体」をワンセットとしなければならない、らしい。
以上のことを「本能」的に悟り、認識した、とのことであった。
……この世界の謎をも追っているこの俺にとって、"認識"という表現の重さを知らない副脳蟲どもではあるまい。
「ますますお前達の存在が謎めいてくるな。当初は、俺の【エイリアン使い】という力の中に現れた"情報共有種"というだけの中継器的存在だと思っていたんだがなぁ――まるで、逆だ。お前達の存在に合わせて『ブレイン系統』という存在が、捻じ曲げられたかのように感じるよ」
≪きゅぴぃ?≫×4
≪きゅ、きゅぴぃ……?≫
≪あははは、きゅぴきゅぴ。まぁ、まぁ、任せてよ創造主様あはは≫
≪一つだけ、教えてくれ、モノ。まだ答えられないならいつも通り誤魔化してくれていい≫
故に、俺はモノに個別に【眷属心話】を送って聞く。
少なくとも――この世界に迷い込んだ当初や、副脳蟲どもを生み出した当初よりは、俺はいくらかはこの世界について理解が深まったはずであったからだ。
≪お前が俺に対して、直接対峙しないようにしている、知らせないように心を砕いてくれている「それ」は――諸神絡みなのか?≫
この世界にこの俺が迷い込んだ原因の"第一候補"。
未だ、神託のような形ですらも接触してくるような気配は無く――しかしその周辺で、確実に俺に対して注視をしている存在達である。現に称号や展開や、あるいは迷宮領主としての権能に対しても、間接的に"干渉"してきているとしか思えない行動を取っている。
そんな彼らの思惑を可能な限り推し量ることこそが俺の今の行動原理の一つだ。
だって、そうだろう? 仮に本来の目的さえもが彼らにとって、"駒"を動かすための具であるのだとすれば、どれだけ強大な力を与えられたのだとしても、それは俺が目的を達成できることを保証し得ない。
盲従盲信するようなことはなく、しかし同時に衝動的に逆らうでもなく、一定の"警戒心"と"好奇心"を保って接するべき存在達である……そう今は考えている。
果たして彼らが、古代神話の如き「人格」のある存在であるのか、はたまた新たな神話のようにおよそ人智によって慮ることのできる次元を超越した、それこそ名状し難き存在であるのかは、今の時点ではわからない。
だが、もしもモノが俺の"警戒心"として、その道化蟲としての存在意義によって可能な限り、俺が『神』について知り過ぎることを抑制しているのであるとしたら――。
しかし、そこまで考えておいて、俺は再考を促されることとなる。
モノの"答え"は、俺の想像を全く裏切るものであった。
≪あははは、違うよ、創造主様。あははは≫





