0206 割ることと斬ることは善悪の無きに於いて似たり
11/17 …… 地名ミスったので直しました。失礼いたしました。
【人魔大戦】において、【闇世】の初代"界巫"クルジュナードの率いる侵界軍を撃退した英雄王アイケル。その4人の子供達がそれぞれの祖となり、【盟約】を結んで、オルゼ=ハルギュア大陸オルゼ地方東オルゼの領域に【四兄弟国】という秩序が築き上げられた。
『長女国』こと【輝水晶王国】は西方への懲罰を。
『長兄国』こと【黄金の馬蹄国】は東方への征服を。
『次兄国』こと【白と黒の諸市連盟】は内海と南方への開拓を。
『末子国』こと【聖墳墓守護領】は、『長女』と『次兄』の狭間の山間部に在りて、【闇世】に備えて。
ヘレンセル村と【四季ノ司】達との関わりへの一件とを合わせて、リュグルソゥム一族との知識の共有もあり『長女国』への理解は大いに進んできたところであるが――元【聖女】と自ら称して『末子国』への距離感を明らかにした少女リシュリーは、かつて属していた国のトップたる【聖守】を、リュグルソゥム一族の誅殺事件に関わっていることを示唆したのであった。
『止まり木』に戻って、都度"裏"を取りながらであろう。
数秒ごとに沈黙しながら、ルクとミシェールが――ダリドとキルメは父母の悲壮あるいは鬼喜迫る表情を見て複雑そうな表情で黙っている――リシュリーにいくつか問答をし、それにリシュリーが答えるに、次の通り。
【聖守】とは『英雄王の末娘アルシーレ』の後継たる、終身制の宗教的象徴。
死後は主要な「枢機卿」達の互選によって選ばれるあたり、元の世界における世界宗教の一つとの一種の文化的収斂現象を感じないでもないが、要するに人望と"力"を兼ね備えた最上位の聖職者である。
……【癒やしの乙女】の神威の力によって「枢機卿」達の長命が永らえていることは想像に難く無いことであり――何となればまさに自身がその"加護者"である者もあった――つまり彼らは、政治的な駆け引きなどを除けば、当然であるがいずれも『神威』をその"力"としている。
選出母体がそうであるならば、【聖守】もまた基本的には『神威』を扱うものである。だが――。
「ですが、あの力は、神威などではありませんでした」
「神威であれば、私達とて気づくことができたはず」
直接にルクとミシェールを襲い、呪詛を刻みつけた「強いていうなら"鈍色"」としか表現できない存在に言及しながら、まるでその時の恐怖が蘇ったかのように、首筋に手を当てながら語る。そんな父母の姿にダリドとキルメもまた意識してか無意識か、自身の呪痕に触れている。
その故に、リュグルソゥム兄妹としては未知の魔法類似の力の存在を疑い――頭顱侯家が秘匿するそれぞれの秘法の裏側か、または、リリエ・トール家やギュルトーマ家のような、頭顱侯になることができる一族にまでその調査の対象を広げようとしていたのであった。
「リュグルソゥム家の皆様のおっしゃる通りです。【聖守】様だけが、お使いになることができる御力が、存在すると、私も知ったのです」
沈黙。瞬きの間に行われる数時間か、数日間に渡る調査と討議の旅を経て、ルクがやや疲れた表情を浮かべながら呻いた。
「――謎に包まれていた『秘色機関』……か。だが、そうすると【聖女】……いえ、"加護者"リシュリー様」
「どうして、未だ『末子国』の聖者の位階としては、序のまた序にあらせられた貴女様が、文字通り『末子国』の秘をお知りになったのでしょう?」
『末子国』は【聖守】を頂点とし、主には、布教と宗教的導きを主として各国へ教父を派遣する【聖墓教会】と、"裂け目"の封鎖やその先への討ち入りといった実質的な軍部を担う武装した僧兵団――正式名称【具足僧院】――の2大組織から成る。
この他、どちらにも属さぬ諮問集団としての【聖人会議】というものがある。
【聖墓教会】の聖職者としての地位を持たぬ"加護者"達の組織であるが、リシュリーの養父はこれに属す重鎮であったらしいが――【聖女攫い】の際に落命したとのこと。
以上3つともさらに異なり『末子国』内でも秘匿された『秘色機関』という存在がある、という情報までは、リュグルソゥム家は知っていたのであった。
かつて【騙し絵】家が『長女国』全土で暗殺と破壊の嵐を引き起こす集団と化す以前。
まだイセンネッシャ家が、高位の一族ではなく、『画狂』がその筆の赴くままに描き出したる集団としての【廃絵の具】と同一視されていた時期に――対峙していた、とされる特務部隊である。
「"秘された色"か。その……この俺の【翻訳】能力でもっても理解できない、《驫?》色、だったか? そんな連中が【聖守】の直属だと知っていたってことは、つまり、ユーリル少年、お前は連中と戦ってリシュリーを連れ出したってことか?」
いいや。
仮に『秘色機関』が、ルクとミシェールと彼らの兄をして手も足も出ない存在であったとして、それが「機関」と呼ばれるように集団であるならば、吸血種とはいえ一個人に過ぎぬユーリルが全力で抵抗し得ただろうか。
「『秘色機関』とやらに、その"加護者"の娘を攫うのを助けられたか、吸血種ユーリル」
「ふん。それとも唆されたという方が、正しいか……」
ソルファイドが静かに告げ、ル・ベリが値踏みするように吐き出す。
ユーリルはがっくりと肩を落とし、リュグルソゥム一家から顔を逸らしていた。
「……ごめん。隠していたわけじゃ、なかったんだ。ずっと安心することはできなかったし、リシュリーは結局【騙し絵】家に拐かされた。『長女国』を信用すること自体が、もうできなくなっていたんだ」
「いいえ、そのことを責めているのではありませんよ、ユーリルさん。あなたも、まして"加護者"リシュリー様も、私達の仇ではありません」
「色々と、まぁ……前提が根底からひっくり返ったってだけさ。それでも"事情"は、話してもらわなければならなくなったけれども」
リュグルソゥム家の先代当主夫妻や、ルクとミシェールの長兄らは【聖女】の亡命によって王都へ釣り出された。
しかし、そもそもこの「【聖女】の亡命」という事件自体が――『秘色機関』を操る【聖守】と【四元素】家と、さらには後にリシュリーをろくな抵抗無く拐かした【騙し絵】家の合作であった、としたら。
仮に、理由はわからないがルクとミシェールこそが真の標的であり、『秘色機関』の中でも最も【聖守】に近い存在が、あえて空になったリュグルソゥム家の侯邸を襲撃したのであれば――『末子国』もまた"首謀者"ということになる。
「オーマ様。決して傷つけず、痛めつけることもいたしませんので、少々、リシュリー様とユーリルの身柄を預かってもよろしいでしょうか」
「我が君の"望み"を邪魔することは決していたしません。ただ、それはそれとして、私達家族もまた"戦略"を組み直さねばならないと感じております」
傅く当主夫妻と、ダリドが深い深い礼を俺に向けたのであった。
「構わんさ。ついでにナリッソ殿と、あと、そうだな……ゼイモントも連れていけ。あいつの技能も、多少の参考にはなるはずだ」
「御心、痛み入ります」
"次"はナリッソをここに呼び出して、協力してくれた礼に感謝を述べ、次に彼の「今後」の希望について聞き入れるつもりであったが、それは後に回すこととなった。
ダリドに連れられながら、『審問室』から出ていくユーリルとリシュリーを見送る。
――まだ"仕置き"は続く。
ただ今、自分達の「順番」を待たされているグループの連中どもが、その本番と言っても過言ではないのだ。
既に大分、気が逸っているであろうルクとミシェールであろうが、まだこの場に残っていてもらわねばならない。無論、兄妹もまた従徒として、それを弁えているようであったが。
数分後、別の入り口から威圧を兼ねた重武装の戦線獣達に連行されてきた面々を前に――俺は既に、【闇世】の【魔人】にして迷宮領主らしい不敵で不遜な態度を、歪めた口の端とひょいと眉間を歪めるように上げた片眉に込め、彼らに向き合ったのであった。
***
後ろ手に縛られ、憔悴しきった表情ではありつつも、ギラギラとした反抗心を隠さぬは、ナーレフ執政ハイドリィ=ロンドール。
同じく、激しい疲労が見られつつも、決して屈してはいないぞと眼光に殺意を込めるはハイドリィの『懐刃』レストルト=ミレッセン。
そして数は少ないが、あの激戦と極寒の中で生き残った者のうち、ハイドリィとレストルト、そして死亡したが『痩身』サーグトルの『副官』であったらしい者を含めた配下達6名が、この場に引き出されていた。
いずれもレストルト以上に疲弊の色が激しい。
――栄養補給は欠かしていないため精神的なものだろうが。
然れど、ハイドリィとレストルトほどに気骨を表している者は見受けられない。中には俺の眷属達が介入を始める前に昏倒しそのまま仮死状態となった者もあり、そうした者からすれば、この俺の迷宮【報いを揺藍する異星窟】の有り様は完全に初見となろう。
法則はおろか世界すら異なり――迷宮領主の【領域】という"孫世界"的な意味で――これからの己の命運を嘆く悲壮な表情もまた多岐であった。
なにせ、絶えず、どこからともなくこの迷宮内の様々な"音"が――例えば地上部に近い位置にあるル・ベリの仕事部屋からのものなど――響いてくる『客間』で、数日を過ごしていたのだ。
そして時折、自身の視界を横切り、あるいは補給のために現れる労役蟲や巡回している走狗蟲達の姿を日に何度も垣間見ている。それだけでも、精神的な責め苦としては十分すぎただろう。
臥薪嘗胆とでも呼ぶべきか、耐え忍ぶことができているハイドリィとレストルトだけでも大したものであろうが――それすらも既に崩れかけ。
最後の最後に悪罵の一つでも俺に投げかけるのがやっとであろうが、それすらも、その意思を埋め込まれた共覚小蟲に感知されるやル・ベリの鋭い鞭が空を裂くように跳んできて抵抗心ごと打ちすえる。
――この先、さらに何をされるかなど、想像すればそれだけで恐怖心で絶命してしまう可能性も、あったろう。
「万が一に自害しようとしても、まだ死なせてやれないから、そこは観念してくれ。すぐに、そこにいる『維管茸』が取り付いて、適切な蘇生措置を働かせてくれるからな」
「悪魔め……!」
救急救命用の"一式"が完備されている様を、目で指し示してやる。
我が迷宮ながら、何とも手厚いことである。
鞭網茸からの派生である「第4世代」ファンガル系統『維管茸』は、鋭利な突起のついた無数の網状の組織器官として「触肢」を発達させていた。戦闘用には向かないほど微細で脆弱な、毛細血管だけをまるごと人体から抽出でもしたかのような「網」であったが――その用途は生物同士を接続して、特に心肺機能を補助しながら延命させること。
数は5基にも満たないが、臓漿と組み合わせることで、その切り離した血肉の"維管"を水増しして労役蟲らと接続することにより――『因子:共生』の力をいかんなく"治癒"に向けることができる。
騒乱への介入戦と、【氷竜】が生み出した極寒の中にあって、俺の眷属達の損耗を抑え、そしてナーレフやエスルテーリの兵士達、【血と涙の団】の団員達の生存率を高めた裏の功労者こそ彼らなのであった。
そして、それだけではない。
特に、この"捕虜"達の中でも厳しい仕置きをせねばならぬ者達を青褪めさせたのが――技能【巨大化】と【内臓流動】により、紡腑茸が生み出した"人間の臓器"を多数体内に保持する、名付けて『臓果触肢茸』達が林立する光景であった。
"脳"以外であれば、ありとあらゆる臓器の見本市であるかのように、その拍動する様をうねうねと見せつけながら、俺は屈服を迫ったのであった。
「運が悪かった、としか言いようが無いよな、ハイドリィ。お前はお前で、全霊で努力し続けてきた―― 一族の栄光を取り戻すために。だが、お互いに手を出す物が被ってしまった。排除しようとする者であった以上、排除される覚悟は、あったはずだろう? だが、泣き言があるなら、今のうちだ」
「……『長女国』が、【人世】が、泰平の混乱の中で今も眠りこけていることをこれほどまでに呪ったことはない、【魔人】め。時機さえ、私の味方だったならば――今跪いているのは、お前だったのだ……ッッ! 怨敵め、神敵め、大敵め……ッ! 【騙し絵】家の大馬鹿者どもに大馬鹿をさせたことが、生涯の不覚になろうとは……」
「蠢動し始めた【魔人】の脅威を未然に防いだ英雄として、お前の名前が残ったのかもしれないな。俺達の差なんて、ただそれだけだったのかもしれない。それに、俺自身もお前達への恨みそのものは別に無いのだから――ただ、俺の目的のためには相容れなかった」
「人間の振りを……おのれ……おのれ、おのれ、おのれッッ! 覚悟はできている、一思いに殺すが良い! この私の死を以て、麗しき『長女国』への警鐘としてくれる……たとえ貴様がどれだけ隠蔽や遅延に力を入れたとしてもッ! ――いつか必ず、その素性は暴かれる……そこの【皆哲】の生き残りどもと同様に――」
レストルトの方は『懐刃』らしく、主人が語っている限り、自ら口上を述べるつもりは無いようであった。だが、その抜身のナイフのような眼光は、手負いである今だからこそ、解き放たれれば真っ直ぐに俺の首を狙いに来るであろう鋭さを湛えている。
――そんな機会が訪れることは、もはやないのであるが。
「意外ですね? 軍門に降るから命だけは助けてくれ、とみっともなく命乞いをするかと思っていたのですが」
「"魔女"め……! 貴様のその胎から、次々と、魔人と魔獣どもの尖兵となった存在が生まれ落ちるのを……嗤いながら見届けて逝ってくれるわ……ッ!」
侮辱の罵声にも、激昂するようなこともなく、薄ら笑うミシェールと、その隣で口を結んで佇んでいるルク。ハイドリィが「私の知る情報が目的だろうが」などと述べているが、全て、くすくすと嗤いながら聞き流している。
まるで――元とはいえ頭顱侯であった一族の恐ろしさを知らない、その空回るような"気骨"が新鮮で滑稽であるかのように。
いかに、彼らの主人たる【紋章】家が、生ぬるく過保護な存在であったのかを暗に仄めかすかのように。
敵対して、あるいは不都合であるが故に刺客を差し向けられて命を奪われるのは――むしろ『慈悲』なのだということを。
それとも、眼前に並ぶ大量の移植用臓器やら移植用肉塊やら移植用神経と維管茸の「意味」を、気づいていて気づかぬように虚勢でも張っていることを、とうに見透かされていることにこそ、気づかないように自分を叱咤しているかのようであった。
『必要な情報を抜き取ったら、苦しまずに楽にしてやれ』と、この場面でこの俺が、あえて言うことはもはや無い。
その後の「審問」の中で、サーグトルの配下のうち下っ端に過ぎなかった1名については「無罪」と判定して――『送還組』扱いとして監視役の戦線獣に連れ出させた。だが、それ以外は、終始無言を貫いたレストルトを含め、全てリュグルソゥム家の……というよりはミシェールの"復讐欲"への「餌」とすることに俺は決めた。
それは、たとえハイドリィが平身低頭して跪いてこの俺への"協力"を約束したとしても変わらない判断だっただろう。
この俺自身として、ロンドール家やそれに仕えた者達に、恨みはない。
ハイドリィに「審問」しつつ、俺自身の心情の吐露ともなっていたように、ただ単に道が衝突しただけのことであり、違う条件下なら取引や交渉をすることもできただろう。
だが、今のこの状況では――【四元素】家にも【冬嵐】家にも"梟"にも【騙し絵】家にも【血と涙の団】にも、あらゆる存在から生贄の羊として屠殺されようとしていたロンドール家を抱え込むことは、百害あって一利なしとしか言えなかった。
それを押して投降を受け入れたとしても、ハイドリィのような存在は、配下にしても確実に裏切る予感があった。どうして、彼のような男が迷宮領主の忠実な"協力者"になどなれようか。
そしてこれは、彼に仕える者達のうち、特に重要な部分で「一蓮托生」であったサーグトルやレストルトのような者達であっても、同じことなのだ。
……いや、サーグトルあたりは【狂科学者】なりに、研究に専念させてやる体制さえ作れていれば転ばせることもできたかもしれないが。
――いずれにせよ、『送還組』にしてやるのと同じ処置を施したとしても、人間の本質は、変えられない。
加えて、執政とその側近達がまとめていなくなり出征した兵士達もまた帰らないという、この状況下を最大限利用するには、この二人と、そしてもし生きていたとしてもサーグトルについては、排除する以外の選択肢は無いのである。
迷宮領主として、容赦のある対応はできない。
それは、ルクとミシェールに対して約した"報い"という意味からもである。
ハイドリィ=ロンドールからは、【紋章】家の情報や、関所街ナーレフについての情報や、知りうる限りの他家の情報と、そしてリュグルソゥム家にとっての誅滅事件の日の『長女国』側の"裏側"を。
レストルト=ミレッセンからは、ハイドリィの『懐刃』であったことから関所街ナーレフの「全て」に関する情報もそうであるが――彼が特に警戒していた、ユーリルの元庇護者にして使役者であった"梟"について、知りうる限りの情報を。
それらを、旧ハンベルス鉱山支部を制圧した際に入手した【人攫い教団】の「拉致目標のリスト」と突き合わせて―― 一挙に『関所街』を掌握する有力な糧とする。
無論、"梟"がせき止めていた「都合の悪い情報」が流れ込んだ【紋章】家の出方次第ではあるが、総合的には、時機は俺の味方だと見ている。
だから、何があっても「情報」は引きずり出される。
それがどのような形となるのか、例えば、果実を潰して中の種子を取り出すかのような形で割られるのかを、あえて、ここで雄弁に語って聞かせてやる必要ももはや無い。彼らはリュグルソゥム家の"預かり"とする沙汰を決し、宣告して、『客室』の方ではない領域に連行していくように、俺は戦線獣達に命じたのであった。
例え、恨んで憎んでいる相手だって、俺は自分の手でそいつが破滅したのならば、それを戒めとして俺の中に刻み込んできた。
――『鬼に会うては鬼を斬り、仏に会うては仏を斬る』ってのは、そういう意味としても捉えられるよな。わかるか? マ■■。何が斬られるか、じゃない。
――どう斬るか、だよ。
XXX先輩の眼光が脳裏に蘇る。
それは自己擁護ではなく、自己正当化でもなく、自らの成したことを受け止めるということなのであるから。
元の世界であの複合企業――フロント企業に過ぎない――に至るために、何人かから情報提供を受けた。
俺を『ハーメルンの笛吹き男』になぞらえて、壮絶な社会的制裁を受ける原因を作ってくれた週刊誌記者。
K教授のゼミのOBであった人達。
県庁に務めていた、ただの子煩悩な父親でありながら、人に知られてはならない"趣味"を持っていた係長。
大手事務所から独立して個人事務所を構えたばかりであった新進気鋭だった俳優。
当然の摂理のように、その悉くが……自分を待ち受ける運命も知らずに、闇から闇へと葬られていったのであった。
俺はそもそも「良い人」ではなかった。
目的のために手段を選ばない人間性は、元々備えていたのだから。
だから、ハイドリィもレストルトも、その部下達も、生かして利用するよりも"糧"として。
その頭を果実の如く割って情報を取り出し、胴体はこの迷宮の養分とする方が利が大きいならば、そうするだけのことなのである。
――そんな風に自分自身に言い聞かせながら、俺は「次」を呼び込むように俺の眷属達に指示を発した。
 





