0202 迷宮の一部となるは生きるためか、拡がるためか
1/9 …… グウィースの【果実】について修正
次に、俺は『イリレティアの播種』グウィースに向き直った。
円卓の中央に備えられた大きな魔力灯に、俺が技能【情報閲覧】を通して発動させた現象を織りなす魔素・命素が流れ込み、ぼう、と中空に描き出される"仄窓"となって浮かぶ。
【基本情報】
名称:グウィース
種族:イリレティアの播種[人族:ルフェアの血裔系]
職業:軽騎手
従徒職:幼きヌシ(農務卿[いきものがかり])(所属:【エイリアン使い】)
位階:20 ← UP!!!
【技能一覧】(総技能点80点)
元は【樹木使い】リッケル……が実質転生したような、あるいはそこから生まれたような『ルフェアの血裔』でありながら"樹人"でもあるこの幼児は、騒乱への介入においては『樹氷』どもを率いることで【冬司】と『氷竜』との闘争でその虚を最後に突く決定戦力となった。
称号【幼きヌシ】の影響がどこまで及んでいるかはわからないが、【闇世】の樹木はおろか、【人世】の樹木をもその身に宿し――ただの迷宮領主の従徒に留まらぬ片鱗を見せている。
それはただ単に、かつて彼がリッケルであった頃に『樹木』系の眷属達を、たとえば『宿り木樹精』などを統率していたことだけに限らず。
【騙し絵】家がユーリルを通して【転移】させてきた大量の鹵獲魔獣の中から『樹巨人』エグドを救出して懐かせただけでもなく。
その身に帯びた、あるいはその身にまとうそのものたる"森林"から、かつて『小人の樹精』が生まれた。そしてこの小さな樹精らが、海藻と入り混じっては『泡草の樹精』となり、また【闇世】や【人世】の樹木と入り混じって『若き樹精』へと進化するという"新種"として誕生したように――。
「! 出る!」
――再び、まるで催したかのようにグウィースがびくりと悶えて立ち上がる。
そして、今度は何だという目で、必要あらば取り押さえようと胡乱げな眼差しで"弟"を見守るル・ベリや、これから何が起きるんです? とワクワクしているダリドの眼前、頭を両手で抱えるてふぬぬぬと呻くや。
ぱぁっとこの世の喜びというものをふと悟ったかのような笑顔を作り、わらわらとよじ登ってきた小人の樹精達がおもむろに運んできた――【枝獣の種子核】のようなものを勢いよく食った。
「また、できる!」
そこから続けて呻くこと2~3分。
前回と同じように声を上げたグウィースの、枝で形成された下半身の爪先に、小さな小さな、とても小さな"花"が咲いたかと思うや。技能【花咲か童】力によってか――【第二の果実】の効果ではないことは『興奮林檎』の一件から既にわかっている――その小さな緑青色の花は瞬く間に成熟していき、ぶどうよりも小さな果粒を実らせて落ちた。
やがて、果肉の中から、まるで卵の殻を割るかのように破って這い出してきたのは……。
「みー! みー!」
「てゅー! てゅー!」
「グウィース、お前、また新しい種族を……いや、それがお前の"力"なのだな」
「すっごく疑問なんだ……ですけど、"新種"の存在がこんなに簡単に生み出されていいんですか?」
「何度も議論したじゃない。それが、迷宮とか【闇世】とかの在り方だってことだよねー、これ。でも、この子達……すごく可愛い!」
果たして、生まれ落ちたるはハムスターほどの大きさながら、四足でもそもそと這う植物型の魔法適応生物。葉が何枚も、キャベツかタマネギ状に重ねられたような形態の「クマムシ」あるいは「蝶々の幼虫的な意味のアオムシ」のようであり――【果液の葉精】という存在であった。
その名の通り、様々な"果汁の液"を背中の、何枚も折り重なった"葉"の渦の中心から露のように発する存在であり、早速、グウィースの創造種族としては「先達」にあたる小人の樹精達に……まるで家畜のようにドナドナされながら連れて行かれるのであった。
「思うに、果汁の葉精も【闇世】や【人世】の植物に触れて、色々と変化するんだろうな。グウィース、後で"検証"結果は副脳蟲どもに共有しておくようにするんだぞ」
「あい、あい、りょ う か い ! オーマたま!」
小人の樹精達にドナドナされていく果液の葉精が、肌をつつつと這い降りていく感触がこそばゆいのか、けらけらと笑いながらも、俺の言を受けてビシっと敬礼の姿勢を取るグウィース。
その様子を複雑そうな目で見つめつつ――ル・ベリが俺の方を向いた。
「あの境界で成長した植物は、グウィースに馴染んでおるようですな」
頷き、俺はグウィースの「樹身」に観察を戻した。
【人世】側の生命でありながら、自然に伸びてきたことで"裂け目"を【闇世】側に垂れ伸びて、そのまま魔素と命素に適応してしまっていた【浸魔根】と【浸命蔦】と名付けた植物があった。
これらは、ダリドとキルメの魔導棍の材料となり、また一ツ目雀達が"杖絡み"をするための"装備品"として、その効能と効用を検証していたが――リュグルソゥム家もその分析に加わった結果、ある種の「魔素タンク」「命素タンク」として扱うのが最も良いという結果を得ていた。
同じ体積あたりの魔素・命素の蓄積量が、凝素茸が『因子:生晶』の力によって魔石や命石として生成するものを越えているのである。
迷宮核を体内に持ち、【黒穿】を持つ俺にとって優先度は低いが――魔法の力を多用するような場合に、じゃらじゃらと魔石の塊を大量に持つよりも、これで"杖"の1本でも製作した方がずっと恩恵は大きく、実際に雀達と"杖絡み"として運用したという現状の利用法が最も有利であるという判断となっていた。
――だが、その生産量に難点がある。
"裂け目"を【人世】側から越えてきた植物でなければならないという条件下、【領域転移】を繰り返す中では現存のわずかな【浸透根蔦】達を、同じように成長させるのは現実的ではなかったのである。
故に、俺はそれを、この【人世】の植物もグウィースの樹身に取り込ませてみたのである。
時間がかかり、なかなかそれが芽吹いて根付く気配が見えなかったが――技能【魔素維管束】を上昇させた辺りを契機として、グウィースの樹身のうちに【浸魔根】と【浸命蔦】が紛れて伸び、その両腕や下半身を形成する枝葉に入り混じっているのが観察されるようになったのであった。
「明らかにグウィースは動きが良くなっている。"命素"が、身体能力を上げているのだろう」
とソルファイドが武術や身体能力、戦闘訓練での立ち回り的な観点から述べれば、同様にリュグルソゥム家もまたグウィースの魔法への適性について前向きで肯定的な見解を述べる。
曰く――グウィース自身の技能による力との境目の判別は困難ではあるが、解釈によっては【土】魔法と【活性】魔法が入り混じった【樹木】魔法とでも定義できるような様子が観察できる、ということであった。
「魔素と命素を自活できているのに近い。俺が、体内に迷宮核を持っているのに、かなり近いな? ――いや、魔素と命素だけに、限られないからなぁ」
俺はヒュド吉に、グウィースが魔獣ジグソーパズルの際に行使した力を、奴の【未熟な調停】を助け得た力が何なのかを聞いていた。そして、その後ソルファイドにも確かめたことであったが――グウィースのそれは【調停】とも違う力である、とこの2体の【竜】の縁者は述べたのである。
それが何であるのかを確かめるには、さらに、役割と「できること」を与えていくのがあるいはより良いことであるのかもしれない。
それで、俺は元【泉の貴婦人】と、元【四季ノ司】達との約定の一部をグウィースに任せることにしていたのである。
"裂け目"を泉の水底に移しつつ――『長き冬』と【氷竜】がもたらした極寒によって疲弊した聖山の【深き泉】の木々を、森と山の中における生命の循環のようなものを、グウィースによって回復させることができないかと思い、まさに従徒職『農務卿』として働くよう命じたのであった。
現在も、グウィースが生み出しそして引き連れてきた若き樹精や宿り木樹精達が、一部はそのために自らを苗床とし――つまり樹木型魔法適応生物からまた元の"樹木"に転生しつつ、初夏のエネルギーを吸ってぐんぐん生育するかのように、急速に泉の周囲を草木の新しく深い緑によって覆っていく最中なのであった。
なお、元々【人世】の存在であり、今はグウィースの配下という形になっている『樹巨人』エグドもまたその作業に黙々と、木々と加わっているところ。
≪グウィースちゃんのお天気予報さんは百発百中なのだきゅぴ。しかも、可愛い! これは……ファンがたくさんつきそうなのだきゅぴぃ!≫
≪確かぁ! 『長女国』さんでは、魔法使いさん達向けの【星杯古今報】さんっていう「しんぶん」さんがあったんだよね?≫
≪それだきゅぴ! 僕たちもグウィースニュースちゃんを作るのだきゅぴぃ!≫
……などと謎のグウィースアイドル化計画の企ぴ画書を提出してきたウーヌスを黙殺しつつ。
ゼロスキルではあるが、グウィースの技能のうち【雨の友】【風の友】【大地の友】が開くまで【魔素維管束】を上昇させたことや、【識り調べ】系の技能を上げたのもまた、そうした思惑からのこと。
これらはある種の察知・感知系技能と属性適応に近い性質を併せ持つ技能群であるようだったが、【人世】と【闇世】の"森"を束ねる小さな「ヌシ」に、これまで以上に、山川草木と自身の繋がりを意識させるものとなっていたようであった。
――そして、そのように世界を越えたグウィースが。
ル・ベリにも副脳蟲どもにも他の者にも言うことなく。
この俺にだけ、こう伝えてきたのである。
≪オーマたま。みなみの"森"が、たすけて、って言ってる≫
これもまた符合と捉えるべきであるのか、否であるのか。
あるいは、運命の巡り合わせとでも呼ぶべきであるか。
「海」ならば確定であったのだが、「森」とグウィースが表現しているのが少々引っかかるところの1点目。そして2点目は――。
≪エグドは、違うのか? ルク達の話では、あいつの故郷は"西"の【星灯りの森】らしいが≫
≪ううん、エグドは、ちがう。エグドは、逃げてきたって≫
物言わぬ、しかし、知性が無いわけではない言わば"準知性種"とでも呼ぶべき樹巨人である。例えば【情報閲覧】などにおいては職業が存在しない、という意味では『魔法適応生物』寄りだが――ユートゥ=ルルナの例もある。
彼の"事情"について、グウィースはまだ「ゆっくり!」聞き出しているとのことであったが、ただ単に【西方】の戦線で【騙し絵】家に鹵獲され、他の70数体もの魔獣どもと共に押し込められていただけではないということは確実。
さらに、その『称号』において、『ヌシ』という単語が符合している以上は――グウィースが【人世】と【闇世】を繋ぐということと、エグドもしくはその故郷が今後、何らかの形で関わり合うというのは大いに有りえること。
リュグルソゥム家の【樹木】魔法という分析が、奇しくも【星灯りの森林国】に住まう『黒森人』という種族の扱う"技"ととても近しいものであることを考えると、今後のグウィースの縁の一端は、そこにある可能性は想定できることであった。
……だが、【竜】との因縁を抱えるソルファイドだけでなく。
この幼樹もまたその運命の向き先として、今意識しているのが"南"であるとは。
関所街ナーレフで勢威を得ること、ルルから得た情報を元に【闇世】側でどう立ち回るかということ、そしてその"次"に【人世】でどんな一手を打つかを、俺は改めて頭の片隅に置きつつ、【情報閲覧】にて映し出す『仄窓』を切り替えた。
【基本情報】
名称:ルク=フェルフ・リュグルソゥム
種族:人族[オゼニク人]<支種:魔導の民系>
家系:リュグルソゥム家
職業:高等戦闘魔導師
従徒職:外務卿(所属:【エイリアン使い】)
位階:29 ← UP!!!
状態:疾時ノ咒笛(残り寿命・約2年5ヶ月17日)
【技能一覧】(総技能点105点)
【基本情報】
名称:ミシェール=スォールム・リュグルソゥム
種族:人族[オゼニク人]<支種:魔導の民系>
家系:リュグルソゥム家
職業:高等戦闘魔導師
従徒職:外務卿(所属:【エイリアン使い】)
位階:27 ← UP!!!
状態:
疾時ノ咒笛(残り寿命・約2年10ヶ月1日)
懐妊 ← NEW!!!
【技能一覧】(総技能点99点)
元来の役割分担通り、リュグルソゥム家における『止まり木』での連携戦術において、ルクは前線指揮官として【戦闘詠唱術】【魔力浸透:肉体】といった技能を、ミシェールは後方から全体を見渡しながら中遠距離からの補助と支援を重視する観点から【魔導戦指揮】や【共鳴連携】といった技能を自ら意識して高めている。
伊達に俺の【情報閲覧】技能を【リュグルソゥムの仄窓】として"魔法化"させただけのことはあり、既にこの一族は『技能点・位階上昇システム』について一定の理解に達していた。
ある意味では、あえて俺から指示をせずとも、『止まり木』での鍛錬の中で熱意型の自身点振りを行うことができるレベルで「コツ」を掴んだようだが――1点だけ、俺は彼らに指示を出していた。
「ざっと計算すると……3%。技能位階1あたりで10日。最大まで取れば108日の増、ということか」
「既に、我が君からは過分すぎるほどのお力添えを頂いております。復讐は復讐、復興は復興として、必ずや再起させた力を、我が君と【異星窟】のために尽くすことを、改めて誓います」
「……『止まり木』で過ごす時間と、現世で過ごす時間が、同じようで違う、という感覚自体はずっと持ってきました。だから、たとえ1日でも長く、家族と一緒にいられるようにしていただいたことは、ただ、ただ、感謝しています。本当に」
種族技能【適者の意思】。
かつて【人世】と【闇世】の大戦にあって、英雄王によって【闇世】の軍勢が撃退された後に、なお"荒廃"が根深く残った土地に残って生き延びてきたのが、オゼニク人の諸支族である。そうした歴史的背景があるのがこの技能である――かどうかまでは、流石に「過去のオゼニク人」と比較できない以上はわからないことであるが、しかし、わずかとはいえ「寿命の延長」効果があるようであった。
それでも、今後最大まで取得させたとしても増えるのは約3ヶ月強。
……俺が、彼らに与えてやれるのは、そのぐらいであろうか。
だが、既にお互いに与えられるものと受け取るものを定め、取引をして主従となった身ではある。リシュリーが目覚めた、という報告がユーリルから先刻来ているところであり、そこにまだ望みを託すことができる部分はあるが――いつまでも俺の立場で感傷していることはできないか。
前へ進むしかない、という念と共に、俺はダリドとキルメに意識を移した。
【基本情報】
名称:ダリド=フェイールス・リュグルソゥム
種族:人族[オゼニク人]<支種:魔導の民系>
家系:リュグルソゥム家
職業:彫刻操像士
従徒職:文務卿(所属:【エイリアン使い】) ← NEW!!!
位階:18 ← UP!!!
状態:疾時ノ咒笛(残り寿命・約3年0ヶ月19日)
【技能一覧】(総技能点69点)
【基本情報】
名称:キルメ=スェーレイド・リュグルソゥム
種族:人族[オゼニク人]<支種:魔導の民系>
家系:リュグルソゥム家
職業:狂化煽術士
従徒職:文務卿(所属:【エイリアン使い】) ← NEW!!!
位階:18 ← UP!!!
状態:疾時ノ咒笛(残り寿命・約3年0ヶ月19日)
【技能一覧】(総技能点69点)
ルクとミシェールで効果があったため、二人もまた【適者の意思】を。
また、【止まり木】関係、つまりリュグルソゥム家の"基本"の部分を。
そして、彼らの両親と違う点として【迷宮生まれ】の系統に振り、【効率強化:心話】と合わせて、俺の眷属達との連携能力を大きく高めさせていた。
既にその効能は現れている。
リュグルソゥム一族としての連携戦術そのものは相変わらず健在であるが――ダリドとキルメに限れば、対ユーリル戦でも、対追討部隊戦でも、むしろエイリアン達との連携でよりその実力と戦闘能力を発揮していたのは、当の双子が自認するところであったのだ。
「リュグルソゥム家は迷宮と共に在る一族へと、変わっていくでしょう。それを、私達は拒みません」
「"亜人"だって広義では『人間種』ですし。僕達だって、まぁ、ちょっと他と『時間感覚』が変わるだけですから!」
称号は暫定諸神である、この世界のシステム管理者がつけた認識票であると同時に、当人達が自らの在り方を規定する指標でもある。
称号そのものが消えたり現れたり時に変化するならば――それがさらに、自らの種族という認識そのものが変貌する際には、例えば『称号』の『種族』化のようなことが起きても全くおかしくはない。リュグルソゥム家は、この俺の迷宮と【エイリアン使い】への依存をますます深めていくのである。
――それは語弊を恐れずに言えば、彼らの『エイリアン化』という側面を孕む。
例えば、遷亜と煉因強化は、彼らに効くであろうか。
ダリドとキルメに話を戻そう。
ルクとミシェールを踏襲して、この二人には新たに従徒職を与えた。
どうも、リュグルソゥム家はたった二人の兄妹から始まった初代当主夫妻に倣い、男女の親族をペアとして家族計画を練り、また活動をしてきたのが基本であるらしい。
その影響であろうが、ダリドとキルメもまた「二人で」同時に【文務卿】として、俺のために今後さらに様々な"調べもの"を担当することとなったのであった。
そして『職業』技能については、エイリアン達との連携やシナジーを優先する形で、特にキルメの【狂化煽術士】は【再生】能力を生物に与える形でビルドを構築している。
これもまた、あの【氷竜】が生み出した極寒の環境において、なんとか体力によって力技的に耐えることができたという意味で狙った通りの効果を発揮してくれたわけであるが……問題はダリドの『彫刻操像士』である。
【思念】と『人形への偽装』から成る、想定外に独特かつ特徴的な技能群であり、それだけでも頭顱侯【像刻】のアイゼンヘイレ家の秘術の異質さが垣間見える"情報"であったが、少なくともグウィースに聞いてはみたものの『苔』の秘密については見当がつかない、というものだったのだ。
斯くなる上は、戦場でか、謀略かによって実際にアイゼンヘイレ家から壊れていない彫像兵を回収するかという視点で、つまりその正体を探る意味で【思念】系統を上昇させたわけであるが……今のところ、ダリドとしては、何も「感知」できる気がしていないとのことである。
……だが、だからといってダリドの職業選択が無駄に終わったわけではない、ということは騒乱介入戦における活躍からも明らかな通り。
「これはこれで、思ったより使える……ますんで! ちょっと試したいことが、あるんですよね」
「あたし達が想像した以上に、『彫刻操像士』として――"人形"とか"彫刻"を操る時の強制力が強かったんです」
≪きゅぴぃ、このきゅぴに任せなさい! ダリドちゃんを立派なマイスターさんにきゅぷロデュースしてやるのだきゅぴぃ!≫
そしてその効用をさらに悪用、もとい活用して、ダリドとキルメは更なる俺の眷属達との"連携"策を考案しているようであったので、そちらに関しては全面的にリュグルソゥム家に任せることとしていた。副脳蟲どもが絡んでいるのが、やや不安要素ではあるが――などと考えていると。
「旦那様! ゼイモント=ジェミニ、ただいま参上いたしました!」
「同じく、メルドット=ヤヌスもこちらに! "遺跡"より、戻りましてございます!」
勢いよく『司令室』の戸が――若干みちみちとした肉質な音が混じった気がしたが――ギギギイと開け放たれ、既に元の【人攫い教団】幹部からは変化しつつある夢追いコンビの二人が入ってくる。
表裏走狗蟲を半身に持つことから【人世】でも活動しやすい彼らには、騒乱介入の後もすぐに仕事を命じていた。
そのうちの1つが旧ハンベルス『魔石鉱山』への出撃であり、追討部隊のうち「2番煎じ」に絡め取られることなく、取り残されていた【剣魔】デウフォンと"兵隊蜂"トリィシーの捜索であったのだが――。
「誠に、申し訳ありません。【剣魔】と【歪夢】の女魔導師は既に脱出した後であり――」
「ルク殿からいただいた魔法陣を使いましたが、【転移】魔法が使用された形跡は無く……どうも、"遺跡"の奥深くにまで逃れたのではないかと疑っております」
「ふむ。まぁ、外に出られぬならば、地下に逃げるだろうな。主殿、俺が行って来ようか?」
「……いや、遺跡がどれだけ広いか、現時点では想像もつかないからな。その調査が先だろう」
少なくとも『長女国』側の出口は固めなければなるまい。
デウフォン達は俺の眷属を見てはいない。しかし、リュグルソゥム一族が迷宮と組み、場合によっては【魔人】と化しているか、その眷属と化しているという想定は立てているだろう。
……だが、それ以上の情報であれば、既にツェリマが、瀕死の重傷を負ったとはいえ【騙し絵】家に持ち帰っているのである。派閥間抗争によって【魔剣】家に情報が行かない可能性もあるにはあるが、デウフォンとトリィシーが生きて戻ったとしても、大勢は変わらない。
逆に、彼らとは本格的に敵対せずに、刃を交えずにすれ違ったという見方もできるからだ。
特に――ロンドール家の支配を失い、一時的に「自由」となった関所街ナーレフをこれから掌握するに当たって、【紋章】家との交渉が重要な局面に急転していくこととなる公算は、高い。それは取りも直さず、同じ【継戦】派閥である【魔剣】家との今後の接触ないし肚の探り合いの在り方を占うものとなる可能性もあるのであった。
第一、本気で狩り出すにしても、個人が一軍を滅ぼすとまで言われる【魔剣】家の、それも直系の称号持ちを相手取るには、未知の遺跡は広すぎる上に地の利を得られるかが不明瞭に過ぎる。
搦め手を取ろうにも、トリィシーの【精神】魔法がサポートに回ると考えると、厄介極まりない相手である。
彼らはエイリアンをまだ知らない以上、取り逃がすことも前提とするならば、隠せる部分は隠した方が良いが……その場合、動かすことができる雑兵は小醜鬼達となる。
だが【精神】魔法の前では、たとえ形成不全であっても即座に無力化されるであろうし――リュグルソゥム家であっても、天敵である【歪夢】家の魔導師を相手取るには、相応の準備が必要なのであった。
つまり"遺跡"内のどこへ行ったともわからぬデウフォンとトリィシーを本気で狩るには、最低でもソルファイドとリュグルソゥム一家を加えた最精鋭部隊を派遣した上で、調査を少しずつ進めながら、炙り出すしかなくなるのである。
そして当然ながら、最高戦力をそのような形で長期間、貼り付けてまで、あの2名を今狩り出さねばならないかというと微妙なところであった。
「捨て置くしか、ないか……だが、調査は調査で進めていかないとな。その仕組みの構築と体制づくりを合わせてやって、という意味で、お前達を『珍獣売り』として、正式に【血と涙の団】に接触してきてもらったんだからな」
今は、デウフォンとトリィシーが脱出するとしても、容易には『長女国』に戻れぬように"遺跡"を封鎖しておくことを優先するしかないであろう。
そして調査の過程で改めて遭遇するのであれば、その時こそ、彼らを袋のネズミとする局面となるのである。
そのためには、関所街への浸透を本格的に進めて掌握することと合わせて、"遺跡"を探索していく体制を整えていかなければならない。そうした企図も含めて、俺はゼイモントとメルドットの技能を次の通り、伸ばしたのであった。
【基本情報1】
名称:ジェミニ
系統:融化走狗蟲
種族:エイリアン=シンビオンサー(共有:ゼイモント)
従徒職:諜報隊長
位階:13 ← UP!!!
状態:身体共有 (ゼイモント)
【基本情報2】
名称:ゼイモント=アンヌソン
種族:エイリアン=シンビオンサー(共有:ジェミニ)
職業:神秘探究士
従徒職:蹟務卿 ← NEW!!!
位階:40 ← UP!!!
状態:身体共有 (ジェミニ)
【技能一覧】(総技能点185点)
【基本情報1】
名称:ヤヌス
系統:融化走狗蟲
種族:エイリアン=シンビオンサー(共有:メルドット)
従徒職:探索隊長 ← Change!!!
位階:13 ← UP!!!
状態:身体共有 (メルドット)
【基本情報2】
名称:メルドット=グシク・グシク
種族:エイリアン=シンビオンサー(共有:ヤヌス)
職業:遺跡探索士
従徒職:探務卿 ← NEW!!!
位階:37 ← UP!!!
状態:身体共有 (ヤヌス)
【技能一覧】(総技能点175点)
まず、正式に俺の従徒となっていた両名に対して、物は試しと「人間部分」に従徒職を与えてみたのである。
すると、"名付き"として俺の眷属であり従徒として既に従徒職を与えられていた「エイリアン部分」とは別判定されて、その分の新たな称号と技能点が獲得されたのであった。
それから、従徒職の「スライド」ができないかを試している。
ヤヌスからは【主の影法師】という従徒職を、今後の遺跡探索に向けて『探索隊長』というものに変えたが――"影法師"は他の者に与えることとしたため、その結果については後としよう。
結論から言えば、継承技能として前の従徒職時に"点振り"された技能は残り、例えばそれが回収されて技能点が戻る、ということは無いようであった。
「それでも、2身1体とはいえ、技能点の合計が御方様すらをも大きく越えていますか……ううむ」
「ル・ベリさんの言う通りなんだけど、でもこうして見ると、お爺ちゃん……じゃなかった、元お爺ちゃん達の【継承技能】に余計なものがありすぎるって感じが」
「はっはっは! キルメ殿、そう言われるのはそれはそれでむず痒いような複雑な気持ちですが……なに! 旦那様から共有いただいた知識によれば、経験を重ねて成長すればするほど、また新しい技能点も手に入るということでありましょう?」
「嫌というほど"遺跡"まみれの生活となるからなぁ。幸い、旦那様より預かった『珍獣売り』の仕事は――主要な部分を任せて引き継ぐことのできる者が、手に入ったわけですからなぁ! これを本業として、専念することができるようになる、というものです」
その他の技能としては、より一層「2身1体」を効果的効率的に稼働させられるようにという意味で【異体】系技能を進めているのはビルド方針通り。
そして、遺跡を探索せんとばかりにその人生における運命を歩んできた二人に、当人らが望みまた今の状況で俺にとっても好都合である、それぞれの『神秘探求士』と『遺跡探索士』の主要な技能を上昇させてやったというわけである。
……いつの間にか、曲がりなりにも【人世】出身のオゼニク人(種族がバグってはいるが)であるにも関わらず、メルドットの方に『ルーファ派九大神』のうち【空間】属性を司るとされる"後援神"【七ツ掌と欺きの盲者】が関心を向けてしまっていたわけだが、点振りされない範囲での「注目」は不可抗力であろう。
それはそれでますます、例の"神代"の遺跡とやらが、俺の目から見て、何らかの意味か役割を持つという疑いを深めるものであったわけであるが。
「だがな、ゼイモントにメルドットよ、"遺跡"探索も『珍獣売』としての活動も、もし上手く行くなら……合流するし統合されることになるからな? お前達二人みたいな気持ちの良い"夢追い"じゃないと『珍獣売り』は名乗れないからな」
≪きゅきゅっ! それってつまりジェミモントさんとヤヌドットさんが『珍獣』さんみたいだってこときゅぴね! 確かにとってもフルーティさんな姿形さんなのだきゅぴぃ!≫
「ははは! これはまた、これはまた、旦那様からキツいお叱りだ。おい、メルドット、かくなる上は我々で大道芸を披露して"客寄せ"するしかあるまい?」
「抜かせ、お前だけでやっていろ。年甲斐もなくはしゃぎおって……だが、正式に旦那様から従徒として認められ、さらに大きな役割も与えられた。こんな"人生"を、俺達はずっと、送りたかったのだなぁ」
違いない、と相も変わらずに自分達のペースで腐し合い、笑い合う"夢追い"どもである。
その様子に、いささか、辛気臭い空気が流れつつあったリュグルソゥム家の4名もそれぞれの笑みを浮かべている様子に――俺は少しだけ、救われたような心地がしたが、それは見せぬように。
"次"の確認と検証を行っていくべく、移動の準備を居並ぶ従徒どもと開始する。
「仕置き」の本番は、これからである。





