0198 ナーレフ騒乱介入戦~凍泉の三つ巴(8)
数ヶ月前、俺がこの世界に転移して最初に踏んだ地である『最果ての島』。
その地に割拠していた『小醜鬼11氏族』のうち、最初に当たったレレー氏族の長が得物としていた――黒き槍『黒穿』。
【嘯く潮の如き】ウィカブァランの末裔を称する"混じりもの"の【竜】たる多頭竜蛇が、どうにも選別して、あえて『最果ての島』に漂着させたものではないか、ということ以外はその出自も経緯も謎に包まれている。
【闇世】Wikiにもその正体に繋がるような情報は見いだせず、リュグルソゥム一家の見立てるところの「最低でも古代帝国以前」という、要するに【人世】においても来歴が全く掴めないですねという匙投げが、実のところは半ば真実の一端を捉えているとも思える。
さりとて、これを下手に【魔導大学】などに持ち込むという選択肢も今はあろうはずもない。
思わぬ奇貨ともなりえるが、思わぬ藪蛇ともなりえるからだ。それをやるには最低でも――マクハードにぶち上げてやった"構想"が実を結んだ後か、より【魔導大学】の実情を把握してからでも遅くは無い。
だが、そもそも技能【言語習得】にも反応が無いあたり、これは"言語"なのかという問いも俺の中で生じてはいたが――来歴が何であれ、今、俺の手の中にあって俺の役に立っているという事実が重要であった。
……その"力"は誂えられたかのようなものだったからだ。
握りしめた掌から、血管でも神経でもないが――もし迷宮領主としての【魔素覚】とでも言うべきものを「身体」の一部とするなら、まさに、俺の一部のように馴染んだ『黒穿』の、解読能わぬ古代文字が青白い仄光を放っている。
ただ単に【魔素】を通しやすく、『長女国』で言うところの"魔導の焦点具"として便利なだけではない。デェイールの捨て身の一撃を迎撃した際に、迷宮領主の権能である【領域】の力を通したのだ。
これが単に、その効果が"魔導の焦点具"としてのみ働く、とかいう代物だったならば、例えば【魔法学】が発祥した太古の【黄昏の帝国】に由来する道具という推察も成り立っただろう。
だが、そこに迷宮領主の"力"が通るという事実が加わると、話が変わってくる。
――あるいは迷宮領主用の、つまり【黒き神】が関わる"具足"の類であるか? "黒"という色からはまず、そのことを連想せざるを得ない。
――だが、もっと広い可能性も想定できる。
結論から言えば、『魔法』であろうが『迷宮』の力であろうが、もしくはもっと他の『超常』の力すらも通す可能性が『黒穿』にはあったのだ。
そして少なくとも、【泉】の元まで辿り着いた俺の手の中で、今までに無いほどこの黒い槍は、まるでその解き明かせぬ古代の紋様が生きてうねっているかのようにぶるぶると震えている。
【泉】の中心にて。
この『長き冬』とそれに寄生した極寒の氷獄を含めた全ての天変の震源地であると思われる――ビリビリと俺とは異なる【領域】の力を感じるその場所の央に、大樹ほどもある透明な氷の柱が屹立する。
そしてその内側には、半人半魚の『人魚』のような存在が――ただし下半身が魚の上半身とかいう異形の姿であるが――まるで微睡むかのような曖昧な表情を浮かべながら、氷漬けられたまま、時が止まったように佇んでいたのであった。
「【森と泉】の守護者【泉の貴婦人】か」
『そうだよ。我らが、無二の指揮者』
手の甲をまるで焼くように疼かせる【春司】に「お前の出番は、まだほんの少しだけ後だ」と鎮めて寝かしつけ、【魔素操作】によって生み出した【火】の属性で、その気配を誤魔化す。
俺の手に【春司】があると知られれば、ハイドリィが全力で奏でようとしてくることはわかっていた。ソルファイドが【春司】の宿った竜人であるという旧ワルセィレの民やエスルテーリ家の兵士達の誤解をあえて放置したのは、そういう意味もあったのである。
――不思議なほど静寂で静謐な心地であるのは、あるいは俺の"認識"が、とても曖昧な状態になっているからであろうか。
周囲では、最後の死力を尽くすような戦いが続いていたというのに。
アルファがガンマとの間で俺を『エイリアン輿』ごとキャッチボールしている。
デルタの"裂け腕"にそれぞれ異なる一ツ目雀が装備され、魔法凶獣戦士とかいう悪夢の存在が即席で誕生し、魔法を詠唱中の"杖"達をその詠唱が完了しないうちにぶん回して殴りつけるようにして暴れている。
かと思えば、ガンマが俺を『エイリアン輿』ごと抱えて身体を丸めて『イタチ蛇』の螺旋状の重撃に耐え―― 一切の衝撃を『エイリアン輿』が肉塊のクッションとして吸収する――ついにそこを【転移】してきたベータが捉えた。
激戦の中で"竜巻の身体"が半減していた『イタチ蛇』の胴体を掴んで、そのまま【虚空渡り】を敢行したのである。
さしもの圧縮空気の乱気流も、それを生み出す"本体"を強制的に――【空間】的に強引に離断されてしまえば、文字通り一呼吸で離散してしまう。まるで輪ゴムで束ねられていた枝々が、輪ゴムが切れた途端に「はらり」と崩れてしまうかのように、飛びかかる走狗蟲達を次々と跳ね飛ばしていた"竜巻"が解除。
そして中空に再出現したベータから放り出されたところを、一ツ目雀達との間で換装を交換したカッパーが放った【魔法の矢:雷】による直撃を受け、ついに【夏司】がその宿り先を喪う。
同じ頃、【秋司】にも終焉が訪れていた。
意地になったハイドリィが、【冬司】の中で目を覚ましたマクハードとの間で壮絶な"引っ張り合い"を繰り返した結果、『子守り蜘蛛』は残された肢を双方から奏でられ、引きずられるようにして「股裂き」となってしまったのである。
――『イタチ蛇』が潰えたタイミングで、白旗を挙げるようにして投降の意思を示したヒスコフとその部下を含めた4名は速やかに制圧、捕縛される。遅れて、罵詈雑言を浴びせながら、エイリアン達に噛みつこうとすらする気迫で物理的に暴れるハイドリィが戦線獣に制圧されて無力化させられる。
マクハードと【冬司】だけが未だに激しい抵抗を試みている。
吹雪を支配し、氷雪とこぶし大の霰を降り注がせ、凍れる【泉】の氷上から逆さ氷柱を突き出させ、あるいは次々に『雪羊』達を生み出しているが――グウィースの樹精軍団が反対側から戦線を圧迫し、エグドを先頭に質量の暴力で【氷】を叩き壊しながら合流するに当たっては、生み出されるよりも叩き壊す速度の方が上回っており。
この様子なら"弟"の方は任せて大丈夫だろう、とエグドと目で会話して確信を得るに至ったル・ベリが、単身で『雪羊』と【冬司】が降らせる氷塊の中を、時にそれらを叩き壊し、時に触手を絡みつかせて"足場"として加速するように単騎駆けで突っ切り――アルファに合流して俺の最側で護衛に加わるのである。
――それらの一連の光景を。
物は試しに、と『黒穿』に通してみた【共鳴心域】越しに俺は認識していたのだ。
副脳蟲どもを始めとする俺の眷属達との【眷属心話】から伝達される数多の『エイリアン語』の――パラメータや数値の集合体としての"情報"として。
だが、実感がそこに伴わない。
生々しさや凄絶さとそれを塗り潰す極寒という"環境"の、生者達の争いを見下ろすかの如き冷厳さがそこにあるとわかりつつも――どこかそれを俯瞰し、時の流れや時間経過として超越するような、まるで早回しのVTRを茫漠と見ているかのような。
それは称号【四季に客う者】としての「一秒一年」の感覚によるものだけではなかった。
まるでそれに共鳴するように――【泉】の中央の氷の柱のその真ん前に、どうしてだか、幻影と追憶の中にいるはずの白い少女が後ろ手に立っている。
立ちはだかっているわけではないが、あえて悪戯のように邪魔をしているかのようにも思える。
輪郭のみが茫と浮かんで境界さえも掠れている幻であるというのに――吹雪と銀氷が埋め尽くす中でまるで切り取られたようにその存在だけは直観できる。
そしてそんな彼女に向けて、『黒穿』が、静かに震え続けていた。
――黒き槍の本体か、刻み込まれたる紋様か、はたまたその両方か、いずれが反応しているのかはわからない。しかし、それは今、明白に迷宮の力を越えてこの俺自身の"認識"と、そして【四季の残滓】にすらも触れているようであった。
それがまた、ヒュド吉が嘯いた【擾乱の姫君】という言葉をより強く想起させる。"彼女"の詳しいことは何も知らない頼りにならない竜の生首であるが、しかし、同時にその"同僚"の気配を感じると報せてきたからこそ――俺はこうして、【泉】までついに来た。
右手の甲が鼓動する。
強制的に宿らされていた魔獣から解き放たれ、ある意味ではただの【夏司】と【秋司】に戻りたる気配が――まるで導かれるように俺と氷の柱の間をぐるぐると漂っている。
大勢は決していた。
【冬司】に【血と涙の団】にエスルテーリ家に、ロンドール家にギュルトーマ家に【騙し絵】家に"追討部隊"と、もしもこれらの全てが連携してこの俺の迷宮【異星窟】と対峙してきたならば――俺は『長女国』側で勢力を得るという方向性を一時断念せねばならなかっただろう。
力をつける前に滅ぼされてしまわないように、俺は大きく戦略を変えなければならなかっただろう。
リュグルソゥム兄妹のため、というのは真実ではあるが口実でもある。
急いていたのはこの俺だったからだ。
それで、いくつか賭けに出て、あるいは思い切りが良すぎた判断もあったが、全てを連携させず合同させないように、こうして矢継ぎ早に転戦してきたのである。
――だが、それでもまだ終幕には一歩足りない。
まるで求める"宝物"を守る最後の番人であるかのように。
弱り陰り、迷宮経済との消耗戦に敗れつつあった【冬】の頭上から、無数の氷塊氷礫の類と共に、幾条もの極寒を体現しながら『氷竜』が降り注ぎ。
同時に、『人皮魔法陣』による【転移】魔法を発動させながら、渦巻く火気と剣気を振りまきながら――巨大な竜の生首ことヒュド吉と、ナーレフ軍の"巨漢"ことデウマリッドを伴った竜人ソルファイドが現れる。
そして、俺が意識を入り込ませ、嵌まり込んでいた曖昧なる『認識』を中断させるかのように。
【泉】と【貴婦人】、【冬司】と他の司達、エイリアン達とナーレフ軍の成れの果てを一瞥し、睥睨してから、【竜言】で以て『氷竜』が語りかけてきたのであった。
≪今なら少しだけ【鐘霆竜】と【騒嵐竜】の気持ちがわかるねぇ。【竜主】なるこの身が、【黒き神】の使徒如きに対抗されるなんて≫
まるで高速再生されていた遅い世界が、太陽を逆に回転させたように、空間ごと軋む。【竜言】と称されるだけはあり、それは言葉そのものに宿る力によって――俺を包む認識に、何かをこじ開けようとするような"意思"を押し通さんとする圧力そのものであった。
急速に、まるで夢から覚めていっそ清々しく冴え渡るかのような、覚醒の感覚が冷えた血流のように頭を駆け巡り――怜悧な感覚が情報の洪水となって、俺を俺たらしめる思考の密度へと戻していく。
「偽物なんだろう? 劣化体の如き【竜】よ。そこの『ヒュド吉』と同じく、お前は本体から切り離されたただの想定外だ」
≪小さな小さな自覚すら無い使徒め。真なる【竜主】ともどきの違いもわからない愚弄には、報いを与えなければならないねぇ≫
「お前の相手は、この俺ではなかったのか? 【氷凱竜】の"意識"よ」
"的"ではなく"そのもの"である挑発を叩きつける。
事実俺は、酷く不機嫌な心地であった。それを全て、口の端に浮かべた笑みにして『氷竜』を見上げて眼差しの中に込めて睨めつける。もし、今俺に【魔眼】があったのならば、きっとこの古の存在の影をも害せる自信があった。
――この無礼な『氷竜』もどきは、よりにもよって白い少女を踏み潰すように俺と【泉の貴婦人】の間に割って入ったからだ。
それで、彼女がかき消えてしまったこともまた、俺が瞑たる微睡みを中断させられて、強制的に覚醒させられた原因である。
降り注ぐ氷塊をソルファイドが溶断し、ル・ベリが叩き落とす。
そして俺自身もまた『黒穿』を振るって、隙間を抜けてきた破片どもを焼き飛ばした。それらをブラフにした足下からの逆さ氷柱は遊拐小鳥達が運んできた氷属性障壁茸に減殺され――出現する端からガンマによって踏み潰される。
≪……やはり、この私ではこんなものか。まぁ保った方なのかもしれないがねぇ≫
などと嘆息する、風に見せかけて。
一際巨大な吹雪が立ち込める。周囲に散った無数の氷塊を――凍った木石をも巻き込むように、およそ【氷】に属するものは全て雪片氷片の如く舞わすことこそが己の当然の権利権能であると言わんばかりに浮かせる『氷竜』の悪辣さよ。
「残念だが、もう詰んでいる。やれ、グウィース」
≪グウィース! みんな、かくれんぼの時間は お わ り !≫
――俺の最後の伏兵への指令と応ずる幼樹の声。
と同時に、宙に浮かんだいくつかの氷塊が――その中に混じっていた、ただ凍っていただけの樹氷が突如として、中空にて内側からひび割れ、砕き、その中から宿り木樹精や若き樹精らが出現。
次々に氷原に降り立ち、『氷竜』の足元から出現し始めた『氷の羊』達を破壊し始める。
そしてグウィースを載せたエグドが、重低の鬨と共に【氷】により再構築されつつあった『氷竜』に突進。いくつかの氷の巨塊に粉砕しながら、壮大に突き飛ばしたのである。
そして"巨漢"が動く。
何やら「これが俺の最後の一撃だッッ」とやたら巨大な声でソルファイドに合図しながら、俺の魔法系属性系のエイリアン達が生み出している【魔力】はおろか、消し去られはしないまでも【領域】すらをも揺るがす【呪歌】をぶっ放しながら――安全装置無しの個人携行兵器を発動させた反動で自身も吹っ飛ぶかのような衝撃で、巨体を反対側に舞わせて雪中に突っ込むデウマリッド。
猛将らしい捨て身の為せる技か、短時間の共闘によって無言の信頼関係が育まれたが故に託した行動であるか微妙に判断しかねるところであるが――如何にして下位者が上位者を縫い留める業を編み出したるや。
渾身の【呪歌】が、砕け散った『氷竜』をさらに上側から鎧うように呪い、その再構築と再生の動きが確かに、縫い留められたのである。
――数分も保たないだろう、と俺が直感するのと同時。
『焔眼馬』クレオン=ウールヴを出現させた魔馬の俊足を以て一挙に砕けた『氷竜』の中心に飛び込むソルファイドを目で追いつつ――俺も既に動いている。
『エイリアン輿』がアルファとガンマの剛力の合力によって空中へ放られ。
待機していたイータとゼータらによって受け止められ、直後、俺を一切の衝撃から守り体勢や姿勢さえも補助していた『輿』の触肢茸達が急造の投擲器の如くその組み合わせを変化。
射出装置と化し、俺は背中から強い衝撃を――推力となるものでありダメージを受けるものではない――受けながらその加速と慣性に乗り。
睡眠時も繰り広げられてきた副脳蟲ブートキャンプによって鍛えられ、自然と動くようになった身体能力と、そしてカッパーが生み出す【風】属性の気流――『イタチ蛇』が生み出していた乱気流を学習したものである――に乗って飛翔。
飛び回る遊拐小鳥達を次々に追い抜きながら、『黒穿』を両手で構え、空中から大地に向かって杭を突き立てるかのように、全体重と重力加速をも乗せるようにして。
崩れ去った『氷竜』を制圧せんと『火竜骨の双剣』から【竜の火】を吹き上がらせたソルファイドの頭上から落下しながら――。
「【火々葬々】」
職業【火葬槍術士】が帯びる、一見【火】属性でありながら、決してそれだけに留まる様子を見せない何らかの『超常』が――『黒穿』に通ってソルファイドの隣で大地に。
この氷原にして凍土にして"環境"そのものの暴威で以て、本来の自然法則を塗り潰している巨大な領域を生み出す【竜】に突き立つ、だけではない。
【竜の息吹き】まで使い、つまり、自身もぶっ倒れること上等で残された力を全て文字通りに吐き出していたソルファイドの【竜の火】までも通し。
――さらに、さらに、俺の手の甲で再び鎮めを覆して自己主張をした【春司】の【火】をも通し。
3色とも4色とも表現するしかない、入り混じりたる【火】にして【火】に限られぬ力を綯い交ぜ。
『黒穿』が『氷竜』の心臓部で炸裂させたのは【葬送】の【火】であった。
――『因子:死属性』を再定義。解析率2%に上昇――
其れが再びソルファイドの【調停者:火】の力によって――【竜言】によって――再び【火】の形を取り、しかし【葬送】の力と入れ違い入り混じりながら、氷獄そのものであるはずの『氷竜』を構成する氷体に二重の疎密波の如く伝播。
≪酷いねぇ、屈辱だねぇ。謎掛けの答えを拒絶するだなんて、【竜】への愚弄もいいところだねぇ。その"挑戦"、この私が忘れても――必ず思い出して、いつかツケを払わせてやろうじゃないか≫
まるで、無駄に出来の良すぎるという意味で出来の悪い環境シミュレーターのようなゲーム世界で、吹雪の地域に溶岩地帯を召喚したかのような無茶苦茶な概念的な暴発が出現。
それは気候や気流や気圧といった自然世界のパラメータとしては逆に一切、静まり返ったように現出することなく――しかし、概念や"認識"というこの世界の根源に片足の爪先を突っ込んでいる俺がまさに認識できる、ある『領野』において、何か致命的で巨大な爆発のような嵐を引き起こして――そしてそれは1秒にも満たず、爆縮のように静まり返る。
溜めて溜めて溜めて、そして「ふう」と一つの呼吸と共に全てが泡のように弾けて霧散してしまい――急速に【氷】の気配が融け消え、後にはただの【冬】だけが残ったのであった。
――壊しちゃったんだ、竜。
――せんせ、ちょっともったいないことするね。
――色々と、便利なんだけれどね。でも、いいよ。
思案気に顎に手にやるソルファイドの【心眼】の視線を感じつつ。
俺は手の中に、確かに葬ったという実感を得ていたが――その意味するところを確かめるのは、もう少し先のこと。
だが、それを確かめるためにも。
「戻るぞ、ソルファイド。この騒乱のケリをつけに行こうか、いい加減」
「……了解だ」
最後の最後で、あの『氷竜』はソルファイドに何か【竜言】で語りかけていたように見えた。あるいはそれに関係するのか、一瞬、何か俺に言いたいことがあるような様子であったが――それも含めて、後で聞くこととしよう。
俺はすかさず『エイリアン輿』を担いで転がってきたガンマに担ぎ上げられながら定位置に戻り、腰掛け、再び【泉の貴婦人】の元へ歩を向ける。
力を失いすぎて、今や『長き冬』すらをも維持できないまでにその身を縮小させながら、それでも俺の眼前に立ちはだかるように【泉の貴婦人】の前に佇む【冬司】と。
そしてそこから溶け出すように吐き出され、どこか呆然と、厚く空を覆っていた曇天にわずかな小春の切れ間すら日差しとして差し込み始めていた天を見上げていたマクハードを見やりながら。
いつもお読みいただき、また誤字報告をいただき、ありがとうございます!
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■作者Twitter垢 @master_of_alien
読者の皆様に支えられながら本作は前へ進んでいます。
それが「連載」ということ、同じ時間を一緒に生きているということと信じます。
どうぞ、次回も一緒にお楽しみくださいね!





