0163 秘され匿されしを穿つ仄窓(そくそう)[視点:皆哲]
【人世】は遠く、【像刻】家候都グラン=ゼーレヘイレにて、アイゼンヘイレの"苔生した布人形"が呟いたのと、まさにその同じ時刻のことである。
距離はおろか「世界」すらをもまたいだ【闇世】の迷宮【報いを揺藍する異星窟】において、事実上この迷宮と共生状態となりその命運を共にすることとなりつつあった新生リュグルソゥム家においても――ヴェールに包まれていたアイゼンヘイレ家の"秘匿技術"の秘密の一旦が明かされていた。
「正直、想像の埒外だな、これは……本当に」
「だよ……ですよね! ですよね! 当主様。予想と180度も違うって!」
『止まり木』の空間。
最後の兄と妹というたった2人だけであった時と比べて、一回りほど大きくなったリュグルソゥム家の侯邸を臨む丘の四阿に親子2世代4名が集う。
かつては現世に"本体"があり、『止まり木』のそれは仮初めのものであったが――攻め落とされ、焼け落ちた今、リュグルソゥムにとって「侯邸」とはこの共有精神空間に存在する、記憶と思索の限り拡張し、また変容する空間そのものとなっていた。
「はい、ダリド。大袈裟にもったいぶって吹き散らかさない。全くもう!」
双子の兄でも弟でもある存在――リュグルソゥム家にとっての生誕とは、胎内に先立って『止まり木』内で起きるため、多胎の場合に生まれ順という概念はない――を嗜めつつ、キルメが新たなる【光】と【精神】の複合属性魔法――『創始冠名ノ制』に従って名付けたる其の名は【リュグルソゥムの仄窓】――を『止まり木』内で発動。
するや、青を基調とした白混じりの、まるで彼らの肉体が活動の場としている洞窟内に似た仄光が、石板か、あるいは"窓"のように寄り集まり――新生リュグルソゥム家が現在仕えている主が『技能テーブル』と呼ぶ存在を模したものが、『止まり木』の空間にみるみると再現されていく。
――無論、記されたる"情報"は、主にして【エイリアン使い】オーマに視せ、彼の口から聞き取ったものでしかない。
あくまでも模造であり、例えばリュグルソゥム家自身が、その"情報"の変化を自律的に感知して"情報"を新しいものへと更新するというようなことはできないが……記されたる「文言」の数々は、当初、そうあれと期待しまた予期していたものの、それでもリュグルソゥム家にとって衝撃を伴う"情報"の数々であったのだ。
そしてダリドが、それが彼自身が熟慮して選択した現在の自らの職業であるからこそ、思わず両手をバタつかせ、仄光の窓を掻き散らしてしまったこともまた、然もありなん。
「随分と"偽装"だらけ、ですね。職業の『名称』と、中身の実情が、ちょっと乖離しているとしか言えませんね、兄様、ダリド、キルメ」
「『生き方の誘導』とかいう【心得】の系統を除けば、大まかに3つ。最上段のものは、まぁ人形師が成り上がった一族らしい普通の技能群だけれど、問題は残りの2つ。何なんだろうな、この"偽装"のオンパレード」
「――それも執拗に【魔法】であることを"偽装"していますよねぇ、これ……」
リュグルソゥム家もまたかつて頭顱侯として、『止まり木』と呼ばれる独自の超常、すなわち魔法類似の力を"秘匿技術"として保つ一族であった。
当然であるが、それは他の頭顱侯家と同様に、魔法類似ではあるものの【魔法】であることとして、公称していたものである。何となれば、頭顱侯が魔導貴族の大家として、謀略の獣であったりミューゼの【浄化譚】を引き継ぐ者であると同時に、太古からの【魔法学】を正統に引き継ぐ求道の探求者であるという側面を持つのは――身も蓋もないことを言えば、如何に己の"秘匿技術"を【魔法学】の学説の中で解釈し、強引であろうとも位置づけるかという必要に迫られてのことであるのもまた、一面の真実であった。
だが、そのような頭顱侯という階層特有の事情を差っ引いて考慮しても、なお、アイゼンヘイレ家の「彫刻兵」の技術の"真実"は――奇怪なものであった。
「どう【魔法学】の範疇に含まれるかをこじつけているか、じゃない。逆に言えば、これはどうこじつけることもできないほど、【魔法】ではない、そういう"秘匿技術"だってことだ」
「なんか、あたしの【狂化煽術士】なんて素直すぎて、予想通り過ぎて、いっそ可愛いって思えるくらいなのに……」
呟き、キルメが【リュグルソゥムの仄窓】によって【彫刻操像士】の隣にまた新たな青白の仄かなる情報の"窓"を生み出し、浮かび上がらせた。
【継戦派】の主力にして西方の【懲罰戦争】の最前線に立ち、当主は不退転の常在戦場をその責務として科され、内政と『長女国』内の折衝については大権を与えられた『副候』が置かれているという二重統治体制が執られている【聖戦】のラムゥダーイン家。
彼らは、単なる【活性】属性の作用や威容だけでは説明の付かない、異常とも言えるほどの回復能力と継戦能力を誇る部隊をその私軍に備えており――特に『長女国』中からかき集めた流れ者や食い詰め者や難民達を、他家では囮か肉盾のような役にしか立たない「身一つ」しか持たない"才無し"達を、北方の蛮民達とさえも素手で殴り合うことができるような即席の狂戦士に短期間で作り替えてしまう【生命】魔法をその"秘匿技術"としている。
だが、その正体は、【闇世】に落ち延び【エイリアン使い】オーマから知らされた数々のこの世界の"秘密"のうち――【命素】なる概念をルクとミシェールが知った時から二人が推定していた通り。
「うん、何回見てもがっつり【命素】まみれだよね、これ」
「我が君が持っていらっしゃる【命素操作】が劣化し、限定されたような技能が特徴であり、そしてその"核"となっていますね」
「そして、崩れ落ちる身体を前提として、それを"過剰"に再生させることで相殺する……なんだ、まんま【聖戦兵】どもの戦い方そのものじゃないか、これ」
「ぶっちゃけ、聖戦兵が半裸なのは趣味かと思ってた……ましたけどさ!」
「逆だよ……ですよねこれ! むしろ、半裸にでもして傷を負いやすくしないと、再生され過ぎてしまう。重傷前提の突撃兵達」
無論であるが、その"秘匿技術"の「起源」についてまで解明できるものではない。
『狂化煽術士』について言えば、【命素操作】の下位技能を有していることから、"画狂"イセンネッシャと同じく【闇世】の迷宮の従徒のような存在が祖であるという意見も出たが、逆にかつての【大戦】の折に【人世】側の勢力が学習し、知り得るに至ったという反論も出たからであった。
そもそも【人世】出身の自分達であるにせよ、竜人ソルファイドにせよ、迷宮の従徒として、主オーマが操る【命素】の恩恵に浴していたからである。
単に【人世】では知られておらず、知覚されておらず、認識されていなかっただけで――しかしその作用そのものは、おそらくは世界が創成された時からあったものであるに違いはない。【聖戦】のラムゥダーイン家は、単に何らかのキッカケによって、それに気付いたに過ぎないと言うこともできるであろう。
だが、今後"復讐"を果たし、また同時に主オーマに潜在的に仇を成す存在の中でも「王国最大」の戦力を持つ【聖戦】家の弱点を確定させることができた意味は非常に大きい。
「とりあえずオーマ様をど真ん中に投入して【命素操作】を一発ぶっ放してもらうだけで全停止させられ……ごめんなさい母上冗談なんですごめんなさい」
「あわわ……え、ええっと、長期策でいくなら【命石】の価値を誰よりも真っ先に理解しそうだから! 売りつけて依存させて経済支配して、内部に取り込んでいくとか!」
「それも悪くない。でも悠長に浸透を待たずとも、要するに【聖戦】本家の『狂化煽術士』どもが【命素】をあの狂戦士どもに振り分けて、管理し支配しているわけだから――」
「狂戦士どもに裏で【命石】を流せば、彼らはもはや『狂化煽術士』に従わずとも、狂戦士としての力を振るうことができるようになりますね、ルク兄様」
然すれば、そこに対立や不和や叛逆の目を生むこともできよう。
よほど条件が符合し、上手く事を運ぶことができるならば――狂える【聖戦兵】達自身の手で、その使役者であった【聖戦】のラムゥダーイン家の者共を八つ裂きに引き裂かせることすら、できるかもしれない。
「他もこれぐらい、わかりやすければいいんだけれど」
「やっぱり【像刻】家が、意味不明なんだよ……ですよねぇ」
新生リュグルソゥム一家が【彫刻操像士】の分析にここまで力を入れ、『止まり木』で長い時間をかけているのには理由があった。
【騙し絵】家侯子デェイールの"仕込み"による『鹵獲魔獣』達と【人攫い教団】の武装信徒数百名を【異星窟】が迎え撃つ、その前段。
彼らを呼び込む、当の"仕込まれ"役とされていた吸血種ユーリルと交戦した際に――キルメと共に勇んで出撃したダリドであったが、まさに彼が職業として選択した『彫刻操像士』は、十分にその機能を果たせなかったのである。
『長女国』第6位頭顱侯【像刻】のアイゼンヘイレ家の主力たる『彫像兵』は、言わば【聖戦】家とは異なる意味での強力な"非魔法"の兵士であった。
人形や彫刻に「偽の命(アイゼンヘイレ家の自称)」が吹き込まれ、まるで意思を持ったかのように――術者の指示に従って――非常に知的に行動し、自ら判断して、しかも生身の肉よりはずっと頑丈で強靭なる「木石」から削り出された身体で最前線を支える、使い捨てにしても良い存在。
例え砕かれても、砕かれた欠片同士を再び「人の形」に集めて接合すればたちまち蘇り、さらに数が揃えば、敵陣で彫像兵同士が互いに互いを"修繕"することで高い継戦能力を発揮する。
そしてそもそも、継戦能力をという意味では、いくら飢餓に強いとは言っても長期間に渡ってはそれを無視できない聖戦兵と異なり、食事自体も当然のこととして不要である……という意味で、兵士の資質を有した"理想の兵器"たる存在であった。
だから、ユーリルの迎撃のため、まだ幼い身体のまま急遽出撃せざるをえず、職業選択後に主オーマにその技能テーブルを見てもらう前であったダリドは、確かに【造形術】のゼロスキルの効果によってか「人型」の彫刻を制作することまではできたが――それに自律した意識まで宿らせることは、どうしてもできず、また期待した「自然にその知識が頭の中に浮かび上がってくる」ということにまでは全く至らなかったのだ。
その故に、やむなく、ただの冗談で思いつきに過ぎなかった「中身はエイリアンでしたじゃじゃーん」を副脳蟲コンサルタント(自称)達の勧めるままに実行。
同じく他の頭顱侯の職業を選択し、こちらは見事に使いこなして周囲のエイリアン達を"狂化"させていたキルメに馬鹿にされないよう、早々に彫像兵を爆発させるという奇策で誤魔化したのであった。
無論、その事実がバレた際に、父母から『止まり木』でこっぴどく絞られたのであるが――実際に主オーマから「なんじゃこりゃ」という表情で知らされた技能テーブルの"中身"を回覧するに、同じく、4名揃って首をひねりつつ現在に至るのであった。
「百歩譲って"偽装"系はまだいいんだ、まだ。【魔法】どころか下手すると魔法類似ですらないってのは、アイゼンヘイレ家の連中の魔法使いとしての資質自体に疑問符を何重にも叩きつけてやれるネタではあるけれど、」
「それでも『そういう力』として、駆使して君臨できているのもまた事実。6位頭顱侯であり、【聖戦】家と共に【懲罰戦争】の前線を支える主力であることは変わりませんからね」
――問題は、全体の3分の1をも占める『思念』系とでも呼称すべき技能の存在であったのだ。
「可能性が低いなってことで棄却した説に……旧【九相】家、でしたっけ。200年前に粛清された一族の技の系譜なんじゃないのか、てのがありましたよね? ち……当主様」
「忌まわしき『死霊操作』の技、だね。今でこそ、あれは【生命の紅き皇国】の死霊術師どもの【遺念術】が正体だって判明しているけれど……『思念』と聞いて、最初に連想するのは確かにそれでは、ある」
「"禁術"でしたよね? 【闇】属性と並んで、『長女国』では。それなら、ここまで執念深く正体を『偽装』しようとするのも、説明できなくもないですけど」
――だが。
「キルメの言う通り。これが【遺念術】の"隠れ蓑"と呼ぶには、どうしても、違和感がある技能がありますね?」
凶獣たる『蝙獣』や殺しても殺しきれない種々の吸血種の兵科だけでなく、それ以上に吸血種の【魔法】において、非常に恐ろしく、魔導の大国である『長女国』をして手を焼く恐るべき力こそが【遺念術】を駆使する死霊術師達による"死者の軍勢"であった。
だが、逆に……いや、当たり前のことを言えば、すなわち【遺念術】とは"死者"を操り干渉する技であり魔法なのである。
対し、『彫刻操像士』の技能テーブルの右上。
『思念』が『繁殖』する、というのは、どうしても『死者』を操る技術にはそぐわない代物であったのだ。
それがリュグルソゥム家を悩ませ、手分けして――少しだけ多くの記録や記憶にアクセスできるようになった『止まり木』の侯邸内で――調査と議論を繰り返させていた所以である。
このままでは、アイゼンヘイレ家の秘術をただ垣間見ただけ。
謎が謎のままむしろ深まり、解けないのであれば、解き明かしてご覧に入れようと主オーマに大見得を切った新生一族の沽券にすら関わる事柄であると同時に、この手で仇を討つ上での障害を排除する算段がつかないという不確定要素が残り続けることを意味していたのである。
――だが、そんなリュグルソゥム家の執念が、『止まり木』世界においてついに実を結んだか。
ルクは古い文献から、アイゼンヘイレ家の始祖たる人形師アイゼンヘイレが、生涯を通して修繕し続け、苔生しても決して肌身離さずに持ち続けていたという――1体の古い布人形が存在する、という記録を発見したのであった。
「……で、その"繁殖"とやらが前提技能となっている【青苔律若】ってわけね、うん――ねぇキルメ、つまり、どういうこと……!?」
「ええっと? ――助けてきゅぴちゃん!」
窮したキルメが一時現世へ戻り、【眷属心話】を経由して副脳蟲達に確認するに――。
≪呼ばれてぷる出てきゅぴぃぃぃいっっ! 解説さんしよう! 造物主様いわく、"青き苔こっこーさんの律するが若し!"みたいなのだきゅぴぃ≫
果たして。
"苔生したマリアンヌ"と呼ばれていた、人形師アイゼンヘイレが肌身離さなかったという布人形と、【青苔律若】という技能のどちらにも「苔」という語が現れていることは、偶然であろうか。
主オーマが唱える――認識によって職業も、称号も、そして種族さえもが法則を変容させられる、啓かれ開かれたる仄窓から垣間見えるこの世界の隠されたる"真実"であるのだとすれば、その問いの答えは「否」であろう。
リュグルソゥム一家はそう断じる。
それしか手がかりが現状無いということもあったが、それほどまでにその「苔」という文言の符号は異質であり、また、象徴的だったのだ。
「"苔"……植物が相手なら、グウィースちゃんに聞いてみるのが一番かもだけれどさ」
「まぁ、その肝心の"苔"を手に入れないと、どうしようもないだろうな。だが、そうか、ひょっとしてそういうことなのか?」
「【思念隠滅】ですね、ルク兄様」
【像刻】のアイゼンヘイレ家の彫像兵達には、その相互自律的修繕能力と並ぶ、ある特徴が存在していた。
彼らは――術者たるアイゼンヘイレ家の魔法使いが戦場から離れる際、共に離脱が困難である場合。
必ず、予め埋め込まれている【火】属性の焼却魔法術式によって、最低でもその表面を数センチの厚さの"黒炭"に覆われるまで焼き尽くされるのである。
そのような単純な"隠滅"によって、自律機動し思考判断さえもする彫像兵達の秘密が隠されること自体もまた他の頭顱侯家にとっての「謎」であったが、しかし、そこに「苔」という要素を足して考えてみたとすれば、どうであろうか。
――現時点で解明には至らない。
だが、少なくともその重要な取っ掛かりは得られたとリュグルソゥム家の4名は判断したのであった。
「で、ダリドはそのまま『彫刻操像士』、やるわけ?」
「キルメこそ、その喉にすっごく悪そうな『狂化煽術士』やるの?」
「やるよ。予想通りだった、異常にオーマ様の『エイリアン』達と相性がいいと思う。迷宮の【領域】の外で活動するネックの一つが"命素"でしょ? オーマ様の【命素操作】を、部分的にでも代行できるのは、すごく重要かなって思うかな、あたしは」
「わかった。だったら、僕もこのまま『彫刻操像士』やるよ。だって僕らの大事なもう一つの目標は、お祖父上や、お祖母上、叔父上、叔母上達の仇討ちだろ? 怖いのは――単純に強い相手じゃ、ない。訳の分からない気味の悪い相手、だ」
「……"人柱"になるってことだよね、それ。解明できるかもわからない。普通に他の職業を選び直してそこに振れるかもしれない技能点を、そのためだけにつぎ込むってこと、だよね? その意味――わかってるんだよね?」
「うん。わかっているよ」
現世で主オーマに呼ばれ先に戻った父母を見送り。
四阿に並んで腰掛けるダリドとキルメは、リュグルソゥム家の次代を継ぐ宿命にある二人は、淡々と、どこか沈痛で、しかし、どこか深い信頼に裏打ちされた、そのような自分達二人にだけ通じる何かを心に秘め、それがあることをお互いに知っていることを前提に言葉を交わしていたのであった。
キルメは、ダリドの心を悟っていた。
【リュグルソゥムの仄窓】によって浮かび上がりたる『継承技能』の技能テーブル。そこに、青き白き淡い仄光によって形成したはず、それも主オーマの力を模写した単なる再現魔法であるにも関わらず――赤黒い呪詛の文字が、意思を持った赤黒さであるかのように、ただの模写であるはずなのに、二人の心をどこか切なく締め付けるのであった。
『止まり木』では、まるでそれを見えぬようにするかの如く、父母が隠していることを二人は知っている。
現世では――まだ"肉体年齢"としては、本当に生まれ落ちたばかりの二人には、ほとんどそれは浮かび上がってきてはいないが、それも、早晩の話でしかない。
父と、母と。
そして大事な肉親であるお互いと、そしてこれから生まれてくるであろう弟や、妹や、そして自分達の子らとは……きっと『止まり木』で長い長い時間を共に過ごすことは、できるであろう。
だが、生身の肉体は。
現世にて、再び代胎嚢に入り、中途で終わっていた「大人の身体」への成長を再開していた二人は、例え成長を完了させても。
2、3年程度しか生きられないのである。
主オーマや、もはや様々な重層的な意味で切っても切り離せない存在となった「エイリアン」達や、副脳蟲達や、グウィースや、ソルファイドやル・ベリや、ユーリルや、加護者リシュリーなど――現世で知り合った者達とは、たった数年しか、時間を共有できないのである。
逆説的である。
『止まり木』で長い長い時間を"家族"と共に過ごせばこそ、それ以外の者達と過ごす時間が短いということを、ダリドもキルメも既に、その儚さを理解してしまっていたのであった。
それでもダリドは、その「たった2、3年」を。
新生リュグルソゥム家の礎とすることを、覚悟し、決意していた。
その心を、キルメは理解し、そして否定することはできず、また、しようとも思わないのであった。





