0157 避悲撃劇の甘言
【盟約暦514年 跳び狐の月(4月) 第30日】
――あるいは【降臨暦2,693年 沃土の月(4月) 第30日】(101日目)
四季が織りなし移ろう様そのものが信仰されし旧【森と泉】の地。
【人世】に共通する暦たる"盟約暦"の上では、常ならば初夏に向けた緑の彩りもまた賑わおうとしていたであろう『跳び狐』の月の終わり。
ヘレンセル村では、つい昨日、村を襲い、駆け抜け――そして"冬"に再び飲み込まれつつも、しかし、確かに花の香を残しながら過ぎ去っていった『春疾火』の名残りが様々な意味で色濃く残る。
それは長く続く"冬"の害の終わり。
そして更には、被征服民にとっての抑圧された20年間が熱を帯びて発露するその先駆けとしての衝撃を孕んで風に乗り、地域一帯を吹き抜けていったものである。
……だが同時に「爪痕」とでも言うべきか。
冬と春が常なる移ろいを果たせず、常ならぬ相剋を繰り広げたその最前に面したヘレンセル村では被害もまた出ていたのであった。
只なる春を越えた【火】の害が村に及ぶことを防がんとした有志達。
その機会になんとか"春"の化身を一目見たいと願った村人達。
あるいはただ単に、自らが属する集団の主の命に従って動員された流れ者達。
如何に、其れが地域にて尊ばれる神性の一柱であったとはいえ、生きる基盤にして拠点である"村"そのものが、過剰なる【火】によって焼き滅ぼされてしまっては是非もまた無いことである。故に、こうした者達は"旅の学究者"にして、その別の顔は奇天烈なる"珍獣売り"の元締めであることが発覚した"旅人"の青年オーマの檄に動かされ、村を守る防衛部隊に志願した。
彼らを待ち受けていたのは【冬嵐】家の『工作部隊長』ハンダルスと【罪花】の『兵隊蜂』トリィシーによる"囮"の運命である。それが結果的に、【騙し絵】家侯子デェイールが解き放った【火】の『鹵獲魔獣』を数体、【氷】属性魔法によって迫り倒すことには繋がったが、重傷者を数十名出す事態となったのであった。
ただ、かろうじて死者が出なかったことを、果たして旧ワルセィレの民を慈しんだ【春司】による手心であったのか。
……はたまた、【血と涙の団】及びその賛同者達のための蜂起に備えてきた2代目の"後見役"マクハードがもたらした――比較的質のマシな【紋章石】による防御魔法などの恩恵によるものであるかは、その者の立場と信心の程度によって受け止めが変わることであろう。
ただし、これは「防衛部隊」に関する話。
元来は、【重封】のギュルトーマ家の手により【春司】がヘレンセル村へ運ばれることを知り。
それを『関所街ナーレフ』執政を務めるロンドール家の不正の確たる証拠として押さえる絶好にして最後の好機と信じて事を起こしたるエスルテーリ指差爵家は、看過することのできない被害を受けたのであった。
特に、当代の指差爵たる老アイヴァン=エスルテーリ。
ロンドール家の不正を監視せん、掌守伯の役目たるを越えて、いと麗しき【輝水晶王国】に仇なすは断じて許すまじ……との家風を継承してきた気骨の老指差爵は、部下達を一人でも多く村へ逃がすために殿に立ち、お椀一杯の水を持って薪の積まれた荷車丸ごとが燃されたかの如き大火に挑んだのであった。
さりとて、最下級とはいえ魔法使い達を統べる職責にある者。
老骨を打ち鳴らすが如く"火除け"の術式も駆使して、わずかでも【春】と【火】の進軍を遅らせしめた老アイヴァンは、そうした手段を持たぬ者と比すれば、まだ全身がボロボロに焼き焦がされた有様ではなかった。
魔獣の舌そのもののように彼を巻き取り、窒させてしまわんとした春焔の只中、昏倒した老アイヴァンは決死で取って返してきた数名の部下によって救出され、ヘレンセル村へ運び込まれたのである。
だが、その命は既に風前であった。
防衛部隊が旅人オーマと、彼に助力を申し出た『青年魔法戦士団』なる一行の助力を得て【火】の魔獣達と大立ち回りを演じる中。村に先んじて派遣されていたセルバルカやミシュレンドといった従士達、一人娘のエリスと、そのお供のように連れ回されているラシェット――老アイヴァンは彼が誰の子であるかを顔を見ただけで悟った――などに見守られるように、薬師にして密輸団たる『霜露の薬売り』の面々が、女頭領ヴィアッドを筆頭に必死の治療を続けるが……それはいささかの苦痛を和らげ、事切れるを先延ばしにするための気休めを繰り返すことしか手の打ちようのないものに留まるのであった。
魔法の才無き只人の技で治せないものは、彼女とてどうしようもない。同様に、いかに歴史ある指差爵家として歴代の王から下賜された魔導の力を帯び各種属性への耐性などを有した鎧・外套・装身具に包まれていようとも、魔獣達から食らわされた物理的な損傷や、【火】ではない【春】を通してまるで体内に暖かく灯りながら、しかしそこから【火】が燃え上がるかのように内側から炙られたかのような魔導の創傷に対し、治せないものは治せないのである。
――それこそ、魔法の才が有る者も無い者も、この段に及べば最後に頼るべきは神の御業。
【破邪と癒しの乙女】の神威であるが……。
「こんな時に、あの"奇跡"を起こしてくれた教父様はどこをほっつき歩いてるんだかねぇ」
息子も夫も"食い詰め者"として、国内の何処へ流れていったか知らぬヴィアッドは、一家の母であるを捨てて今の稼業に飛び込んだ身である。
そんな彼女の気性と感性をして、ナリッソという落ちこぼれたうだつの上がらない男は、どこか我が子のように見守ってやりたい心を微妙にくすぐる存在ではあったが――老いたやるせない"眼"で見据えるは、"野営地群"の側のそのまた奥の森々。
同じ穴のムジナとして、ヴィアッドは、この期に及んで村に姿を見せない『西に下る欠け月』が一体全体何をしたのか、何をしようとしているのか当たりをつけることはできており、ナリッソがそれに巻き込まれた可能性が高いだろうことを察していたのである。
無論、そのことに思いを馳せて、目の前で苦しむ老アイヴァンを含む火傷の患者達への処置を疎かにするものではないが。
さりとて、老アイヴァンの"刻"が急速に失われていく事実は変えられないのであった。
手を尽くしつつも、厳然たる事実としてそうであると告げたヴィアッドに対し、体中から――潰れた汗腺から発散されることのない、老境にあるまじき激しい発熱に苛まれる老アイヴァンは、ヴィアッドに人払いを頼む。
そしてそこに、一人ずつ、セルバルカ、ミシュレンドら主だった従士達を。
最後に、一人娘であるエリスを呼びつけるのであった。
ちょうど、【エイリアン使い】オーマが、その狙い通りになんとか彼の眷属達を使わずに『春疾火』を鎮め、後始末のためにヘレンセル村へ帰って来た、その後のことである。
***
「なるほど、それ以来、エリスの様子がずっとおかしい。自分を避けている気がする、と言いたいんだな? ラシェット少年」
防衛戦で臨時の指揮官になったことであるだとか、ミシュレンドとマクハードが村で起こそうとした混乱を未然にうやむやにした実績など関係無しに、俺はそもそもヘレンセル村に呼ばれた「本来の」理由である"治療師"稼業にル・ベリと共にバタバタと飛び回っていた。
リュグルソゥム兄妹曰く、どうも森に仕掛けていた【氷】属性の魔法陣による罠を『追討部隊』の一人である不良警官だか典型的な悪徳看守だかのようなちょいどころではない悪の雰囲気を漂わせたる――【冬嵐】のデューエラン家の家人であろうハンダルスという男に模倣された模様。
それの構築のために、リュグルソゥム家にとっての怨敵の一人であり、天敵でもある【歪夢】家走狗【罪花】に属するトリィシーという女術士が広域の【精神】魔法を利用して、塹壕の内側で守りを固めさせていた防衛部隊から"人足"を引き抜いたおかげで被害が広がったのである。
《【精神】魔法が我が君に及ばされなかったのは、準備不足だったのか。はたまた様子見のつもりか、》
《あるいは『ルフェアの血裔』には作用しないものであるか、わかりませんが。【歪夢】家を相手取るには、特別な備えが必要となりますので》
ともあれ、そうして一晩中駆けずり回り――急患という急患に対して俺は【命素操作】で、ル・ベリはその【闇世】で培われた母直伝の医療技術で『薬売り』達を手伝い、できることをしながら、一晩が嵐のように過ぎていった。
そんな俺が一息ついた様子を待って、おそらくは部屋の外の邪魔にならないところでずっと待っていたのだろう、ラシェットからの相談なのであった。
よほど言いづらく困惑していた様子であったか。
話の入りでは、俺が従士長ミシュレンドによる村長セルバルカの制圧計画を"魔法"によって阻止した様子を、興奮気味に――興奮した振りのように――話していたが、心配事が別にあると顔に書いてあることなど【情報閲覧】を使わずとも、俺にとってはよくわかる。
下らない世辞など覚えなくていい、と小突いて、黙って促して話を聞いてやれば、次の通りであった。
曰く、老アイヴァン=エスルテーリがもはや長くない。
そのことについては俺自身も診た限りであるし、薬師ヴィアッドやル・ベリとも同意見である。手立てだけで言えば、あるにはあるかもしれないが――加護者を使うことは有り得ず、また、一生幽閉するつもりで【闇世】の俺の迷宮へ連れて行き【エイリアン使い】の力で以てなんとかしてやるという選択肢も、残念ながら無かった。
相手が相手である。
ルクとミシェールの見立てを待たずとも、保守的で愛国的で、相当の難物であることがあきらかな古強者の下級官吏の如き老骨であることは、明らか。残念だが、俺とは相性が悪い。
たまたま【春司】を抑制する点で同じ方向を向いていたが、【闇世】から【人世】に姿を現した"魔人"としての素性を明かし、エイリアン達の存在を知らせ、しかも並み居る部下達に怪しまれないように事を動かしてまで命を救う試みをするメリットは見いだせなかった。
……無論、【春司】と【火】の魔獣達に単身で部下達を逃がすために挑んだ気骨に免じて、"治療師"としてできる限りのことはしたつもりではあるが。
だが、それ自体は老アイヴァンもまた自ら悟ってのこと。
村長セルバルカであるだとか、従士長ミシュレンドであるだとかを一人ずつ呼び寄せ――そして最後に、エリスを呼びつけて、長らく何事かを話し込んでいた様子だったとのこと。
――まぁ、身も蓋もない話をすれば。
実はその全てを、村に撒いておいた種々の諜報網から、既に俺は大体の話は聞き及んでいたわけであるが。
「指爵様が、長くない……先生の力でも無理だってんなら、ダメなんだろ。でも、そしたらエリスが――エスルテーリ家を継がなければならないことに、なる。こんなタイミングでさ」
「そうだな。こんなタイミングで、だ。ラシェット少年よ、お前はエリスから、そもそもどうしてエスルテーリ家がこの村に来たのかは聞いてるのか?」
まず、一つ確認する。
例え諜報網を敷いていても、俺とて聞くべきことと聞かぬべきことの分別は保っているつもりである。少なくとも、淡い何かを抱いている少年少女同士が交わす会話まで、エイリアン達のリソースを割いてまで監視・盗聴させたりはしない。
――大体わかるからな。
――■■君と、■■ちゃんのことみたいに?
――あぁ、幻影がうるさいなぁ。
膨れ面をして、今は引っ込んでいろ。今の俺は一時的に「オーマ」ではなく……「先生」と呼ばれた存在の精神状態になっている。そういうスイッチを、ラシェット少年に押されてしまったんだからな。
果たして、ラシェットは首を横に振るのみであった。
「詳しいことはさ、あんまり。ただ、『関所街』の執政ハイドリィが悪いことをしていて、それをエスルテーリ家は止めないといけない、そのために来たんだってことは聞いたらしい。指爵様から」
――あぁ。素直じゃないガキどもだな、本当に。
「相当の高齢だからな、アイヴァン指爵は。苦痛は和らげているが、正直なところ、まだ息があるのは一種の執念だろうな。それでも長くはないだろうがな、もってあと2、3日かな」
「……エリスが指差爵様の地位を継ぐなら、エリスは――執政と戦わないといけなくなるってことなのかなって。指差爵様の代わりに、セルバルカ村長とか、ミシュレンド……さんみたいなエスルテーリ家の人達を率いて、さ。それが心配だから、それをずっとエリスに聞きたいんだけど」
「避けられている、と。逃げられている、と。視界の端に入ったらそそくさと距離を取られてどこかへ行かれてしまう、まぁそんなところだろうな。あなたのことなんて大嫌い、興味も無い、と取り付く島もない感じなんだろうなぁ、ラシェット少年」
これがこのような状況でなければ。
少年と少女の淡い恋心を、冷やかしすぎないように、しかし空回りしてすれ違って無駄に無意味に傷つかないように"適当"に誘導してやるところなのだが。
生憎と、自分の目的も大事な俺の口を突いて出るのは、一種の甘言を孕んだものであった。
「――ここで一つ、特別な情報を教えてやろう、ラシェット少年」
『廃絵の具』一行にとっても、【血と涙の団】にとっても。
そしてこの件の直接の実行者であり、己が悲願のための行動を開始して引けなくなっているロンドール家にとっても。
誰にとっても"想定外"であるこの状況。
今、俺が欲しているのは、【春司】という重要な最後の駒を横から全く無関係だった"闖入者"に掻っ攫われるという事態に対して、『関所街』執政ハイドリィ=ロンドールがどう動くか、それによって『関所街』で何が起きるであろうかということを確かめる「眼」なのであった。
「村長は【深き泉】を護るために帰還することを主張し、他方、従士長はこの事態の収拾のためにロンドール家との関係修復……を装って直接『関所街』へ乗り込むべきだと主張したらしい」
「――は?」
「そして、エリスは。どっちを選んだと思う?」
前者なら、物理的な意味でも社会的な意味でも大きく別離してしまうことを意味する。
後者なら、止めることのできない危険な場所に赴くのを止められない無力さを噛みしめることとなる。
それは、どうしてだか放っておけない淡い想いを抱いた相手とのそのような別離は、まだ己が何者に成れるかを知らない、魔法の才能だけがこの世の絶対の基準であるとしか知らされていない、単なる丁稚に過ぎない"枯れ井戸"の少年にとっては――言葉にすることはおろか、思考することさえ、酷く辛くてしんどいことだろう。
……だから、俺は"盗み聞き"した話の「一部」をラシェットの耳元に囁くのである。
「エリスはどっちも選ばなかった。だが、その代わりに、一人で『関所街』に乗り込んでハイドリィ=ロンドールに問いただすつもりらしいぞ?」
「――は? なっ……は、え……!?」
繰り返すが、本来ならガキ同士の淡くて子供っぽい……だが、だからこそそこに純にして真なるものが潜む、己の存在を世界と向き合わせるためにとても大切な、大切な何かを確かめるべき場面を、それに至るそれぞれの「大事なもの」を"盗み聞き"するつもりなど、なかったのだ。
だが、エリスと老アイヴァンという、俺が【人世】の地で最初に活動すべきヘレンセル村に重要な影響力を持った「有力者」の動向について、情報収集をしないわけにはいかなかった。
――俺はエリスとラシェットの因縁。
彼らの親同士の因縁を、死にゆく老父とまだ若すぎる娘の会話から、聞き取った。そしてそれがエリスにとって、ラシェットに対して「言えなかったこと」となり喉奥に刺さった"骨"であるということを、聞き取ってしまったのであった。
だから、軽蔑しないでくれよな、と言いつつ、軽蔑なんてされないだろうとわかった上で、俺はどこかにいるかもしれなくて、そしてどこにもいないかもしれない幻影にそんな言い訳をした。
「駄目だ……駄目だ、そんなの。殺されるに決まってる……! なんでだよ、エリス!」
ラシェットがうわ言のように言うが速いか。
俺は全身を思い切り前のめりにさせるようにして体を伸ばし、ラシェットの襟をひっつかんで首根っこごと引きずり倒すように引っ張って、今にも走り出そうとしていた直情型のガキを押さえ待たせた。
「まぁ待て、落ち着け、待て、この"頑丈"な少年め、まったく」
ここでエリスのところに行かせて「言い合い」の一つでもさせれば、まぁ、ジュブナイル小説的な展開としてはお互いに相手に言えなかったことや抱えていたことを一気に吐き出す山場の一つにでもなるのだろうよ。
だが、俺は――俺の頭の中では、先程からずうっと、正確にはエリスと彼女の老父からこの"お話"を聞いた時から、ずうっと技能【悲劇察知】が疼いていたのである。ビリビリと、鼓膜を破らんばかりに頭の中でガンガンと、比喩的な意味なのか物理的な意味なのかの境界すら定かでないレベルで。
……今、ラシェットをエリスの下へ行かせることが【悲劇】であるというならば、俺が選ぶ選択肢などそう多くはないのであった。
それが、今俺がオーマであると同時にかつて「先生」と呼ばれたマ■■としての己を前面に出している理由であった。
だから俺はラシェットに、囁くのである。
「先生」であると同時に、しかし、己の利益と目的のために行動する、とてもとても利己的な迷宮領主として。
「『力』が欲しいかよ? 少年」
「……オー、マ、先生?」
てっきり止められ嗜められるとでも思っていたのだろう。
よほど俺の続く言が意外であったのか、予想外であったが故に、反駁しようとしていた言葉は行き場を無くし、ラシェットはそれを飲み込んでしまったようであった。
嫌だなぁ。
今の俺は、そんなに悪い笑顔で笑っているだろうか。
「エリスを守れるだけの『力』と、あとちょっとした手助けと"おまじない"を俺はお前に与えてやれる。あぁ、ついでに【孝行息子】らしく、ナーレフにいるおっかさんに幾許か、まぁ当面は困らない程度助けてやることができる手立ても与えてやれる」
今、俺が拠点としている「元祭殿」の跡地は、既に【エイリアン使い】としての【領域】の中である。
そこでは眷属でも従徒でもない、知性ある、己を認識しうる存在としてのラシェットが――俺の迷宮領主としての能力で捉えられていた。
まだ、彼は従徒ではない。
だが、その心が揺らいでいるのが俺の眼にはありありと視えていた。
技能【情報閲覧】から派生した力である、従徒に対する『職業干渉』の力が、青白い仄光となって、俺にだけ視えている「ステータス画面」の中で『職業』欄を妖しくなぞっていた。
どうやら、完全な従徒となっていなくとも――揺れ動いているならば、まるで透かすように、視ることだけならばできるのだと俺はラシェットを観察しながら既に把握できていたのであった。
『選択可能職業』
・重装戦士[盾]
・略奪者
・斥候
・武装商人 ← New!!!
「お、俺は……」
「ただし、だ」
強めたつもりが無い語気が勝手に強まったように感じたのは「マ■■」としての感覚か。それとも「オーマ」としての感覚であったか。
「エリスにはしばらく会えなくなるな。本格的に、俺に仕えることになるんだからな。その代わり、この世界の"本当の姿"が見れるようにはなるかもしれない、がな」
エリスが思い詰めて『関所街』へ乗り込もうとしているなら、ちょうどよい。
俺もまたちょうど、次の一手を"積極策"で行くのか、一時の"様子見"で行くのか迷う様子が垣間見られたマクハードを、裏で焚き付けることを画策していたところだったのであるから。
この母親思いで、まっすぐで、頑丈で小気味良いクソ度胸のある少年が――俺を「先生」と慕ってくれる少年が、俺の代わりに「眼」となって『関所街』を内偵してきてくれるのであれば、この状況、実にちょうどよい。
……まぁ、別に断られてもよかったがな。
ラシェットは逡巡し、しかし、あぁ、きっとどうせ「父親」のことを思い出しでもしたのだろうか。それとも、エリスを荷車の下に隠して猛獣達の前に「盾」となって立ちはだかった時の気持ちを思い出しでもしたか。
悩んだのは数秒。
歯を食いしばるような意を決した顔になり、お願いします、と絞るように声を出しながら、俺に深々と頭を下げたのであった。