0134 付け焼くとも夢は刃の如し
1/6 …… ゴブリンに関して小加筆
7/8 …… 2章の改稿・再構築完了
『西に下る欠け月』やマクハード商隊が、流された噂に引き寄せられてきた流れ者達を鉄砲玉に仕立て上げ、『ハンベルス魔石鉱山』へ次々と送り込んできている――などということは、俺は十分過ぎるほど知っていた。
俺の眷属達を通して「森の猛獣」達を駆り立てさせ、操りながら、間引きという名の"選別"をしていたのは、別に戯れでも偶然でもない。その結果、ラシェットというくそ度胸のある小気味良い少年が目に留まったのだって、偶然ではないのである。
――ならず者達がこの地に集まるように、誘引されるように仕向けた。
そしてそこに「命の危険と引き換えの報酬」という強い負荷を俺は意図的に掛けたのだ。
故に、むしろ複数の組織がその果実を奪い合おうとすればするほど、そこに必ず何かしらの利害対立や、ある種の出し抜きあいのようなものが生まれるのは至極当然のこと。
それで、俺はこうしていい具合のキッカケを得て、この"野営地群"に入り込むことができたわけである。
果たして現在、交渉によって仮宿として割り当てを受けていた"小屋"の1つでは、内部はおろか周囲まで含めて、外に繋いだ4頭の荷引き役の調教済亥象のせいですっかり獣臭くなっていたが……これでもグウィースに育てさせた芳香系の草花の花瓶をこれでもかと投入して緩和しているのである。
地を這うものでは『三叉鉾角山羊』、『鎧モグラ』、『葉隠れ狼』に幼体の『根喰い熊』などが檻に。
空を舞うものでは『綿毛スズメ』に『血吸いカワセミ』などが鳥籠に。
オマケで海中を泳ぐもので『鉄脚海サソリ』、『泡割きクラゲ』に『熱泉ナマコもどき』などなど水槽に。
文字通りの意味で「世にも」珍しい生物達に、鉱脈探索者達が構築した"野営地群"の入り口で拾った少年ラシェットがいちいち目を丸くさせている。
それは『関所街ナーレフ』からやってきた少々グレーな組織である『霜露の薬売り』の長ヴィアッドも同じことではあったが、こちらは流石に年の功がある。ラシェットのように新奇さに魅了されるということはない。
……それでも、ゼイモントとメルドットとの"老人同士"の会話で意気投合しつつ、しかし彼らの"若々しさ"に引きずられたのか、枯れた年齢の割りには、活き活きとした様子が戻っているようにも見受けられるのは面白いことだ。
ただ、こうした"一般人"達――『長女国』の貧民達の自虐的な自称では"才無し"――の反応を見る限り、少なくとも全く、この魔獣もとい"珍獣"達の正体が気付かれることは無さそうであった。
俺は単に『最果ての島』の『牧場』で代胎嚢によって生産し、成長を促進させて育てて用意した"商品"たる野生動物達だけを"珍獣売り"の二人組に預けたわけではなかったからだ。
――"珍獣"達に混じって、ラシェットがちょっと引いた顔で見守る中、ずんぐり小柄で筋肉質なる「人もどき」達もまたいそいそあくせくと動き回り働いている。
それらは言うまでもなく『最果ての島』産の小醜鬼――だけではない。
その労働力達の正体は、ゴブ皮を被った脱皮労役蟲達なのである。
もちろん"素"の小醜鬼個体も連れてきている。
そちらの方は未調練の"商品"という体を取って、檻の中に入れてはいるが――その真の役割は"裂け目"を接ぎ木または【画層捲り】のための「座標」確保要員である。
これで、後は隙を見つつわずかな【領域】でも確保すれば、少なくとも"野営地群"には有事に飛んでくることができるようになった。
理想としてはさらにヘレンセル村や『関所街ナーレフ』など、必要に応じて『長女国』の各地に売り物として派遣するのがよいが……まだ実際に"商品"として流通させる有用性と、そこから俺の存在や"珍獣売り"の大法螺が看破されるであろう影響が測りきれていない。
何故なら、彼らは小醜鬼なのだから。
故に、そのテストを兼ねて、ヘレンセル村をその目と耳と鼻で見聞き嗅がせているところである。
「――それじゃあマクハードの坊やには、私から話を通しておいてやろうかねぇ。もっとも、そんなことが必要無いぐらい、あんたの"先触れ"どもは勤勉に働いたようだけれど?」
「なんの! それもまたヴィアッド殿が目をかけてくれたからこそ!」
「今日び、我々のような"夢"の高邁さがわかるあなたのような方が……『長女国』にもいたとはなぁ!」
「"夢"……"夢"ねぇ。あんたら二人組と話していると調子が狂うんだが、嫌な狂い方じゃない。ずっと胸の奥の棚の奥のそのまた紙で包んだ薬箱の奥にでも詰め込んでた、そんなもんを引っ張り出してくれてからに。『約束』の件、忘れるんじゃないよ?」
さて、果たしてそれを約束というべきか取引というべきか。
別に大仰なことなどではなく、ゼイモントとメルドットは『薬売り』から身を立てた老女ヴィアッドに、様々な素材を優先的に卸すことを取り決めたに過ぎなかった。
今でこそ"密輸団"として、しかも武闘派の『西に下る欠け月』と時に激しく争いながら関所街ナーレフで活動する『霜露の薬売り』であるが、その長ヴィアッドは元は『長女国』の流れの薬師であったという。"枯れ井戸"であったため、それこそ【活性】属性であるだとか「癒やし」の神威であるだとかが幅を利かせる『長女国』では、彼女の技はあまり正当には評価され得なかった。
――それでも彼女には"野心"という名の夢があったのである。
魔法の力に頼らずして、薬師としての技を探究するという。
だが、それが高じていつしか手段であるはずの"素材集め"が本業の密輸になっているというのも因果なものである。
……どうにも、実質的に"エイリアン混ざり"として転生し果てたゼイモントとメルドットには、俺が当初想定した以上にロマンを語り、浪漫を吹き込み、情熱を注ぎ込むかのように、老いも若きも問わずにその者が持っている"夢"を引っ張り出す「才」があったとしか思えない。
「そ、そうなんだ! ゼイモントさんにメルドットさんはただの"武装商人"じゃなくて……"海拓商人"なんだ……!」
「はっはっは! 旦那様も小気味の良い坊主を拾ってきなさった! 今日日、危険な航海譚に関心のある『長女国』の坊主なんぞ珍しい」
「ゼイモントよ、そりゃあお前、"運び屋"どもがまとめて食い詰め者どもを劣悪な工船に二束三文で売っぱらってしまうからなぁ。内地出身では、良い印象を持つ方が珍しいというものだ」
――いっそ、胡散臭いとラシェット少年に思われていた分、彼らが吹く「法螺話」の信憑性が増したか。はたまた、その無駄に自信とロマンチシズムに溢れた軽妙な語り口が、少年の心を改めて鷲掴みにしたのか、知らないが。
≪"珍獣売り"の二人め。大分、付け焼き刃の"知識"が馴染んでいるじゃあないか?≫
貧民窟出身の邪教の地方幹部が巡り巡って"エイリアン混じり"に変貌し、詐欺師に近い商人に扮するとは、人生何があるかわからないものだな。
ルクとミシェール及び――その子供たちが、共有精神空間『止まり木』で数日かけて練り上げた設定にノリノリである様子は、微笑ましいと見るべきか苦笑すべきものと見るべきか、ちょっと俺としても悩ましいところであるが。
大体、鉱山鉱脈の開発が主な経済活動であった【人攫い教団】でのし上がった元老人2名だ。海に出たことも、ましてや海運国家として名高い『次兄国』――【白と黒の諸市連盟】――の大型の商船だの輸送船だの"武装船団"だの海上都市船だのに乗った経験なども、一切合切皆無であろうに。
≪きゅぴ。でも、知らないさんで物を語るさんよりも、一応はルクさんミシェールさん達が考えた『カバーストーリー』さんを僕たちがイメージ伝達さんしたのだきゅぴぃ!≫
≪あぁ、うん。だとすれば大した睡眠学習か、仮想現実体験だな? 確かに、知らないで想像を掻き立てて語るよりは、一応は「体感」してはいるわけか。まさか"エイリアン混じり"になったことで、そんな副作用みたいな相互作用がお前ら副脳蟲どもとの間で起きる、とはなぁ≫
『赫陽山脈』を始めとしたいくつかの山脈によって、ちょうど元の世界と比較すれば、ドイツ地域とイタリア地域がアルプス山脈によって隔てられるように、『長女国』と『次兄国』は南北に並ぶ兄弟国であった。
ただし、平野と平原が多く広がり魔導の叡智によって農業大国の性格を持つ『長女国』に対し、『次兄国』はその名の通り多くの都市が共通の法規である"憲章"によって連盟として束ねられた共和制国家であり、そのルーツは英雄王アイケルの"次男"ライクツィオ=ヴァイケリーリによる【海運譚】に遡る。
複雑な海岸線から成る東オルゼ地方南部の海岸地帯に、歴史上いくつもの交易都市や海運都市が成立し、互いに交流し時に争いながら発展してきたものが束ねられた海運大国であるという。
そんな『次兄国』の主要都市のほとんどが位置する『白黒海岸』地帯の南方。
元の世界で言えば、イタリア半島に対する地中海のような存在として『ネレデ内海』という海域があるが――そのさらに南方に、空前の未開地として"砕けた島々"なる領域が。そして、さらにその幾千とも幾万とも言われる"砕けた島々"を越えた先には、"砕けた大陸"と伝えられる領域があるとされている。
以上がリュグルソゥム兄妹による【人世】側の基本知識。
――だが、俺は迷宮領主として、つまり【闇世】Wikiにアクセスできる存在として、実はこの"砕けた大陸"の正体には一つ見当がついていたのである。
「【竜主国】の内紛の一因となり、そして文字通り"砕かれた"大陸……か」
ゼイモントとメルドットの商隊としての『設定』をおさらいしつつ、ソルファイドが眼帯を指で押さえながら静かに呟いた。心なしか、その赤髪が揺れ、彼が腰に佩いた『火竜骨の双剣』が疼いて震えたように見えた気がした。
――曰く、ル・ベリの【弔いの魔眼】を受けた折。
竜人ソルファイドは、自身の遙かなる"祖先"であった【塔炎竜】ギルクォースの直系の子孫が、まさにその"内紛"と思しき、竜主同士の壮絶な死闘という「死の記憶」を垣間見たという。
無論、完全な情報ではない。
だが、【闇世】Wikiのうち『竜主国』に関して、俺がアクセスできる範囲の文献の中から「大陸が千々に砕かれた」という一文があった。
リュグルソゥム兄妹に確認する限りは、【人世】で他に砕けたような地形をしている箇所が見当たらないこと――『ネレデ内海』の先にある"砕けた島々"と"砕けた大陸"とは、この【竜主国】の争いが原因で"砕かれた"ものである、という仮説を立てることができる。
「あの"狼憑き"フィックめが言っていた『集尾翼散会』の件もありますな。赤頭……そこのソルファイドの望みであると御方様が感化なされました、『竜とは何だったのかを調べて、そして識ること』に関する、今後の有力な手がかりの一つでしょうか」
「無論、そこまで見据えた上でゴーサインを出した表の顔だ。いずれはそこにも探索の手を広げていくことになるだろうな」
"砕けた島々と大陸"が未開地であることには理由がある。
リュグルソゥム兄妹曰く、『ネレデ内海』には――"海魔"が存在すると伝えられるらしいが、中でも、この"砕けた島々"の近海とその沿岸域では、その活動が非常に活発で『次兄国』にとって長年の重要課題であり続けているらしい。
しかし、それでも気骨に溢れた命知らずか、はたまた危険を冒す者達が世には絶えないもの。海魔の海域を突破して"砕けた島々"を探索し――少なくとも【四兄弟国】圏では見られない珍しい動植物の数々を捕獲して連れ帰った者も、歴史上、あるにはあるとのことであった。
そしてその「珍しい動植物」の中には――。
『【人世】の知識と文化では、広義の「人族」には「亜人」を含みます。【氏族連邦】の「戦亜」どもなど、ですね。おぞましい話ですが、我ら神の似姿とも混血が可能――まぁ、出生率も生育率も低いらしいですけど。ですが、見た目は「人族」に近くても……こうした「亜人」連中とは異なる存在が「砕けた島々」にはいるようなのです』
『初代兄妹様の"知識"にある文献の中では――「獣蛮」と呼ばれております。"標本"に関する"知識"もあったので、ルク兄様と共に検めてみましたが、なんと言いますか。獣の如き人と言うべきか、それとも、人の如き獣と言うべきか……少し判断に迷いました、我が君』
この「カバーストーリー」を作るに当たり、『次兄国』の建国譚にまで初代当主兄妹の"知識"にアクセスすべく『止まり木』内を深く潜っていたリュグルソゥム兄妹。
そこで彼らが見つけたのは、この世界における、言うなれば"知性ある種族"の大きな分裂であり分断に関する秘奥の知識であった。
自らをこそ今世の『神の似姿』と称するオゼニク人種にとって、【四兄弟国】の建国譚は【闇世】の"魔王"――初代界巫【城郭使い】クルジュナードとの大戦のみにあらず。
むしろ、その後の「亜人」達との争いが本番である嫌いがある。
それは500年の時が経ってさえ、英雄王アイケルの子孫たる『長女国』と『長兄国』が、互いにその背を預けるような形で、長女は西に【懲罰戦争】を行い、長兄が東に【大東征】を行ってきた歴史からも窺うことができる。
そして、この「亜人」と総称される"広義の人族"たる者達。
その中には、森に適応した森人や、山岳と坑道に適応した丘の民といった、俺の元の世界におけるファンタジックな知識から理解可能な者もあれば、見た目が人族とほとんど変わらない存在でありながらその人族の血を吸い喰らう吸血種、全身に『遍紋』という名の入れ墨を刻んで訳の分からない『魔法類似』の力を発揮する巨人、果ては"義体"とかいう訳のわからないものにその魂を乗り移らせるとかいうこれまた『魔法類似』の中でも特級に曰く付きの技術を持つ『白霧の民』などが居り。
さらには【懲罰戦争】の最前線に立つ【ウル=ベ・ガイム氏族連邦】の構成種族である、人ならざる"身体変化"を誇り、その変異した身体部位ごとに「氏族」を形成する戦亜――さらに細かくは空亜、海亜に分かれている――達もまた含まれている。
この『戦亜』という種族については、「エルフ」だの「ドワーフ」だのという"翻訳"が俺の認識上なされていたせいで、勝手に「獣人」であるというイメージを俺は抱いていたが……。
『はぁ、"獣人"……ですか。確かに「牙」だとか「爪」だとか「鎧」だとか、あの闘争狂いの狂戦士どもは"獣"そのものではありますし、一部はそういうのに近い見た目の氏族もありますが――それでも、学問上は、連中もまた確かに「人族」なんです』
とこのようにルクにあっさり否定されていた。
ルクから【従徒献上】された"知識"からは、なるほど、結果的には確かに「獣人」と言うこともできなくもない"身体変化"をしているのが戦亜という種族であったが。
だが、それでも、あくまでも、その基本形は「人族」であると即座に理解できたのは――この俺が、迷宮領主としては生命の進化と変異と役割獲得を強烈な世界認識の根幹に据えた【エイリアン使い】だからであろうか。
それでも「人族」という存在の知識を前に、比較することで、俺は直感してしまったのだった。
小醜鬼が何なのか? について。
彼らもまた『ルフェアの血裔』と"交配可能"であることの意味は――すなわち"穢す"ために生まれた存在である、という知見から、俺は「亜人」が何なのかということを類推できてしまったのだ。
彼らもまた、おそらくは小醜鬼と同じなのではないか、と。
『神の似姿』を、それも現在のオゼニク人達の自称ではなく、かつて『ルフェアの血裔』と分かたれた際に【人世】側に残っていた者達をこそ、共通の祖とする存在こそが「亜人」の正体なのではないか、と。
"亜"たりとはいえども、どれほどの特殊能力や、特化した特徴や、技術文化的な隔たりがあろうとも、それでも彼らはあくまでもこの世界の「人族」なのではないか、と。
……という話を前提として。
その一方で、ルクとミシェールが『止まり木』の深部から発掘してきた『獣蛮』の"標本"は――つまり、初代当主兄妹であるリュグルとソゥムもまた生きていた実物を見たわけではない――正しく、俺の元の世界のファンタジックな知識と照らし合わせる中では、最も「獣人」に近い姿形をした種族であると言えた。
比較して喩えるならば、戦亜が「人間を獣に近づけた」一方で、獣蛮は「獣を人間に近づけた」存在であると言えるだろう。
ルクとミシェールが『止まり木』で発見したものを副脳蟲どもの【共鳴心域】を通して"翻訳"させ、視覚映像情報としてこの俺に伝達してきた、その『鹿蛮』と呼ばれる"標本"は。
言うなれば「鹿が二足歩行する」ような個体であった。
逆に言えば、二足歩行している以外は完全に鹿である、そんな存在だとも言える。
人対獣の成分のうち、後者が8割9割を占める、かろうじて人に近づけた――そもそもなんで人に近づけたのかすらよくわからない――そんな存在に、なるほど、俺の認識における翻訳では「人」の字はつかないのも当然であろう。
ましてや「人に亜するもの」でもなく、その結果、「獣人」の範疇からもさらに外れた「蛮なる者」として『獣蛮』と"翻訳"された……というのが、俺自身の現在の理解である。
『ええと、オーマ様。ついでに付け加えるとですね、「長兄国」が【大東征】でここ200年ばかりの討伐対象にしている「獣腿人」とかいう、これまた訳の分からない連中がいます。こいつらは我々「人族」とは半交配が可能らしく――え、うわ、ちょっと待ってミシェールなんで突然』
ミシェールの忠誠心は大したものである。
この俺に対して、ルクが悪戯半分、日々の意趣返し半分といった念から考察材料という名の"燃料"を過剰に投入しようとしたのを即座に察知して連行していったような気がしたので、深く考えないことにした。
――ミシェールの"忠誠心"は、強ければ強いほど、なぜだか俺の中で警戒心が囁くのであるが、今はそのことは良い。
無論、ルクが今付け加えようとした「下半身が純獣」とかいうもっと訳の分からない「亜人」もカバーストーリーの候補として検討はしていたが――そういえばグウィースが似たような連中と遭遇していたな?
……まぁ、そんな諸々を勘案して、ゼイモントとメルドットは、『次兄国』でも十数年に一隊現れるか現れないかという「"砕けた島々"帰り」という『設定』としたのである。
少なくとも、『長兄国』の獣腿人も、【西方諸族連合】の爬虫類人達――竜人とは全く異なる――も、単純にその生息域はここからは遥か遠方である。そんな連中が、わざわざこんな国境地帯の辺境にまでやってくる理由が無いのだ。
この点、『次兄国』帰りということであれば、まだ、ギリギリ言いくるめられるラインであるという判断なのであった。
ヴィアッドが去っていくのを見送った後。
ラシェットを"あやす"のをゼイモント&メルドットに任せ、俺は小屋の奥の方に陣取る。そしてル・ベリとソルファイドに見張りを任せながら、魔法の杖――に扮したる"名付き"たる『三ツ首雀』カッパーを構え、全身の神経のその先に、まるで新しい神経を構築していくかのような感覚に包まれながら、深く複雑に意識を集中させていく。
ゼイモント&メルドット扮する"珍獣売り"の野営地群への仰々しい闖入にかこつける形で、俺は堂々と――寄生小蟲を植え付けた鳥獣達を、何十という単位で野営地群に侵入させていたのである。
あらゆる小屋に1~数匹、だ。それは"寄り合い"の上層部であると、組織に属さずに流れてきた食い詰め者であるとを問わない。
そうして下準備をしておいて、俺は、今直接【眷属心話】によって――文字通り、この小さな小さなエイリアン達が入れ替わり立ち代わり、交代してそれぞれの母胎蟲へ持ち帰ることで絶えず更新されていく情報の洪水を、収集し、副脳蟲どもの助け≪ぷるたりんぐと呼ぶのだきゅぴぃぃ!≫を借りながら、その整理と統合を開始するのであった。
――少々、気になる状況だったからだ。
※本話は再構築に伴い、話順が入れ替わりました。上書きによる入れ替えしかできないため、過去にいただいた感想と話の内容が噛み合っていませんこと、ご了承下さい。





