0125 模擬戦~緑色の兄vs緑色の弟
7/8 …… 2章の改稿・再構築完了
ヘレンセル村行きへ連れていくのは、従徒からはル・ベリ、ソルファイドの2名を。そして色々考えたが、"名付き"達からは【遷亜】枠最後の1つを『擬装』で埋めたカッパーを、連れて行くこととした。
リュグルソゥム兄妹は別働隊である。
しばらくは【空間】魔法の魔法陣回路である"人皮魔法陣"からの解析と、それを生体資源に応用するという研究に集中させる予定である。
だが、それも、ミシェールが無事に出産するまでの間のこと。
生まれた長子に"名付け"を行い、そして代胎嚢によって『成長』させた後は、【エイリアン使い】と共生する新生リュグルソゥム家の名乗りを上げる形で親子そろって「別働隊」として、後から【人世】にやってくる予定で計画を組んでいる。
これらを念頭に置いた大まかな方針の打ち合わせと、アドリブをする際の判断基準や、【人世】と【闇世】の間における【眷属心話】以外の連絡手段の確認など、準備には十分な検討を重ねている。
そして、今俺の眼前。
ミシェールとは別の代胎嚢に入っていたル・ベリが、異形特化の『ルフェアの血裔』としての種族技能【鋳蛹身】を発動させ――自身の【異形】を再抽選――まるで孕んだ豚か牛の腸を直接切り裂いてぶちまけたかのような勢いで、ずりゅぐちょどちゃぁ、と、身長がまた2cmほど伸びた体躯で這い出て来たのであった。
≪成長期さんなのだきゅぴ、間違いないさんなのだきゅぴ≫
≪おかしいなぁ、牛乳さんは補給してなかったはずなんだけど……≫
"認識"が己の在り方に影響し、さらにその権能や異能にも影響を与えるという迷宮領主能力の特質が――その配下にある従徒にまで及ぶということを、俺はまさにル・ベリの【鋳蛹身】によって早い時期に知ることができていた。
特に、俺の【エイリアン使い】と遭遇して、彼の母リーデロットが施していた"仕掛け"と合わせて「生まれ直す」という経験をしていたル・ベリは、いっそ自らの『種族』すらをも『ルフェアの血裔』から新たに派生させるレベルで、自分自身を俺の迷宮の一部たる存在と位置づけている。
――すなわち、この再抽選は完全ランダムとは異なり、ル・ベリ自身がある程度の指向性を以て、現在の己の【異形】を変更することができるのである。
そのことを理解した上で、俺が彼に下した"方向性"の指示は2つ。
第1に、現在の戦闘スタイルからは大きく変えないこと。
特に【異形:四肢触手】自体は維持することが望ましい。急激に【異形】が別のものに変化してしまう場合、ことによると一からまたその身体に慣らさねばならず、迅速かつ臨機応変に【人世】で活動できないからである。
第2に、隠密性を高めること。
『ルフェアの血裔』であるとか【異形】の存在などは、隠せるならば隠すのが望ましく――それを【異形】の力でなんとかできやしないかと、位階上昇した分の技能点で【第三の異形】まで取得させておいたが――そこで、俺の【エイリアン使い】の『因子:擬装』を強く意識しろ、と命じておいた。
さらにダメ押しとばかり、隠身蛇達にル・ベリの前で様々な『隠形』を実演させ、また『ハンベルス鉱山支部』の戦いで活躍した『追跡隠身蛇』らとの最果ての島を舞台にした"隠れんぼ"訓練を敢行。徹底的に「隠す」イメージを刷り込んだところ……。
【基本情報】
名称:ル・ベリ
種族:人族[ルフェアの血裔系]<汎種:異形特化>
職業:闘技士
従徒職:内務卿(所属:【エイリアン使い】)
位階:27 ← UP!!!
【技能一覧】(総技能点99点)
【異形:四肢触手】は外れてしまったものの、【第一の異形】と【第二の異形】でそれぞれ【両肩触手】と【腰椎触手】という形で本数自体は維持され、新たに獲得させた【第三の異形】によって――【色変皮】という皮膚に作用する【異形】を獲得することで、俺の期待に応えたのであった。
……少々、効きすぎたと言っても過言ではないが。
「ぐ、グウィース。に、にいたま……?」
「ん? そうだ、俺だグウィース。いや、まだ足りないのか? 御方様から与えられた力を使いこなすため、俺は"完璧"であらねばならない――」
元気いっぱい唐竹割り、を地で行くグウィースには珍しい困惑の声色。
それもそのはず。
――我らが『異形特化』であるはずの典型的な『ルフェアの血裔』、【人世】で言うところの『魔人』族であるル・ベリであるが、【色変皮】によって【両肩触手】と【腰椎触手】の表皮を変え、さらにそれらを衣服の内側で腕や腰に巻いて隠すことで目立たなくさせる……というのは、まだ良い。
だが、この異形の『色変』の効果対象は別に【異形】に限定されるものではなく――ル・ベリの「全身」だったのである。
果たして、どこからどう見ても『魔人』然とした青白い肌は、血色が良く健康的に日焼けしたかのような油田砂漠の王族然とした艶のある褐色となっており、ガラリとその印象を変えていたのであった。
グウィースが困惑するのも無理は無いだろう。
普段見慣れた頼もしい頼れる兄貴が、ガラリとその雰囲気を変えているのだから――だが、何をどう思ったのか、ル・ベリは自らの『擬装』が十分にグウィースに通じていないと誤解したらしい。
しかも、そこに間の悪いことに――そこに便乗した副脳蟲野郎が、
≪きゅぴ。ここはル・ベリさん、グウィースちゃんと同じ色にしてみるのがいいのだきゅぴ!≫
などと明後日のベクトルのアイディアを吹き込んだ。
なるほど、と、何が「なるほど」だ何を納得したのだお前と小一時間問い詰めたくなる俺の突っ込みより早く、ル・ベリがみるみるうちにその全身をグウィースと同じ新緑色に変化させやがったのである。
――それを見たグウィースが、今度は困惑から一転。
瞳をキラキラさせ始めて「グウィースも! グウィースも!」などと、一体何に感化されたのはとんとわからぬが、しかしおそらくはグウィースにとって何か大事な感性の琴線に触れたであろうことは想像に難くない、幼児特有の全身これ太鼓なりと示さんばかりの渾身の大声で興奮し始め、いつもの2割増しの勢いでル・ベリ("触手"を含めて新緑色)の腹部に突進と同時に"触手戦"を敢行。
質感の異なる緑色と緑色が互いの動きを制し合い、押さえ合いながら、それぞれの緑色の本体同士も、これまた頭部に登攀を試みる新緑幼児とその頭をむんずと押さえてやめろ馬鹿ものと引きずり下ろそうとする新緑にいたまの"格闘戦"が開始。
その様子を副脳蟲どもが、俺の記憶を勝手に類語辞典扱いでもしているかのような、無駄にバリエーションに富んだ「緑」を表す語句を無駄に駆使して無駄に多用しながら無駄に流麗な実況を繰り広げ、いつの間にか「観戦」に現れた小人の樹精やその"亜種"達がポラゴの実の種をチップ代わりに賭け始めるという有様に至ったのであった。
……おぉ、我が【第一の従徒】ル・ベリよ。
お前のビルドを少し軌道調整して今回【格闘】系統に振ったのは、個別に位階MAXとするよりも、同種近縁の技能を複数持たせることで「掛け算の積み上げ」的な効果を検証するためのものだったのだが、"点振り"早々に副脳蟲胴元どもが何に使うかも不明なポラゴの実の種を集めさせるためにその効果を披露させられることになるとは。
――だが、まぁ狙い自体は正しかったか。
このままじゃオッズがまずいきゅぴぃ、とか言っていた胴元が観客席にたむろしていた宿り木樹精にまで勝手に参戦をそそのかし、はからずも事態はル・ベリvsグウィース軍団の様相を呈していた。
そんな騒ぎを感知したのか、ソルファイドがやってきて【心眼】でル・ベリを凝視するや、「なんだと、グウィースが増えた!?」などと彼の"眼力"をそれなりに信用していた俺にとって極めて衝撃的なことをのたまう。
おい、お前まさかグウィースのことを「色」だけで判別していたんじゃないだろうな、とさらに小一時間お小言を増量しようという気分になった俺であるが―― 一応、ル・ベリであることに気付いたソルファイドが、これまた胴元どもに唆されたのか、セコンドよろしく短くもよく通る言葉でル・ベリに次々に助言をし始めたのである。
……それが【武芸指南役】として的確なだけに、俺も言葉をつぐまざるをえない。
なるほど、【鋳蛹身】で"とっかえ"する以前の【異形:骨鉤爪】が無くなって武器や防具としての用途は多少制限されたが――【両肩触手】と【腰椎触手】を巧みに自身の両腕や両脚に巻き付けることで、言わば「外骨格」的に拳速や脚速を増強する、という格闘法がより洗練されていた。
そうして"素質"面での底上げを図ったところに、我が迷宮の【武芸指南役】が良くも悪くも生真面目かつ短文的確なる指示を出したものだから、オッズがぁオッズがぁ、とうるさい副脳蟲どもが更なる悪ノリに雪崩打つ。
≪グウィースちゃん、新しい"武具"だよぉっっ!≫
などと、どこかの精密粒餡投擲自走砲を彷彿とさせる所作で、どう見てもうたた寝していたところを叩き起こされたとしか思えない投槍獣ミューに『枝の絡まった棒』を豪投させやがる。
しかしグウィースも然る者。宿り木樹精の肩によじ登って『騎乗』した状態で、ばらりと空中で拡げた片腕でミューが投擲した『枝の絡まった棒』を受け取るや――なんとそれの正体は、グウィースという【ヌシ】を通して吸い上げられた【武器喰らい】の"因子"だか"遺伝子"だか"情報子"だかを与えられて小人の樹精からプチ進化したとしか思えぬ存在たる『剣戟の樹精』であり――ル・ベリはいつぞやの対【樹木使い】戦を彷彿とさせるかのような状況に追い込まれたのであった。
そしてそれを眼帯越しに"視た"ソルファイドが、武器を使う剣士の性分が疼いたか、ル・ベリだけでなくグウィースにまでセコンドをし始めたことで突発的模擬戦の行方はさらに混沌。
しまいには労役蟲達まで何故か集まってきて、掘り出した礫ころだとか、硬い木の根だとか、価値のよくわからないものを胴元どもに賭け始める始末。それでも、にいたまの威厳を見せつけんとル・ベリ(緑黄色)が宿り木樹精を組み倒してグウィースをひっ捕らえにかかるが、なんだなんだと今更現れたルク兄様に目ざとく目をつける副脳蟲ども。
≪ルクさんのカッコいい植物魔法さんが見てみたい~≫
などと訳の分からないおだて文句で乗せさせ、はからずも『イリレティアの播種』たるグウィースと【土】【活性】などといった複合属性からなる"【植物】魔法"の連携テストに至ったのであった。それによりグウィースの"腕"が一時的に膨張・成長・巨大腕化して、幼児らしい後先考えない渾身の一撃でル・ベリがまるで蝿のように叩き伏せられたのが印象的であったか。
……普通に、グウィースにその【植物】魔法を覚えさせたらどうなるんだろう、などとビルド考察心が刺激されたのが腹立たしいわけだが。
過日の技能システムに関する考察ではないが、普通に有用そうに思えるから困る。
『イリレティアの播種』、通称"魔人樹"たるグウィースは、『ルフェアの血裔』の血をある意味では引いていると言える以上は――技能面で優遇されていないとしても『魔法』そのものへの適性はあって然るべきであろう。そして、どうにもリッケルから受け継いだものや、俺の従徒であることから駆使している、極めて迷宮領主的な力に目が行きがちであるが、同じ「植物を操る」という結果であっても、それをもたらす超常の種類自体は複数持っていてよいはずである。
事実、【領域】能力と【空間】属性魔法の、ある意味では予測不可能とすら言えるシナジーを、他ならぬこの俺自身が遭遇して、それを戦力に取り込んでいく判断をしたのだから。
――従徒同士としての連携や、せっかくこの俺という迷宮領主に仕えることとなった身の上同士である。
ルクとミシェールが本格的に"子育て"を開始したら――そこにグウィースを交えさせて『魔法』を、多少でもグウィースに習得させていったならば、どうであろうか。
……などと考えていると、【虚空渡り】によって爆酸蝸ベータが出現。
お祭りにこの自分を呼ばないとはどういう了見であるか、とでも言わんばかりに愉快そうに咆哮を上げ――リッケル戦の際に城壁獣ガンマから引っ剥がして、ル・ベリの盾兼ソリとなっていた『硬い殻』を、緑色の『異形魔人』にナイスキラーパスしたのであった。
するとにわかに副脳蟲陣営がぷるぷるきゅぴきゅぴし始め――モノを筆頭にベータ側に付く3体が現れ、模擬戦は副脳蟲同士の代理戦争の様相を呈し始めた。
簡単に言えば、それぞれがル・ベリの援護だ、グウィースちゃんの援護だということを口実に"名付き"達を次々に呼び寄せ始めたのである……一応、兄弟対決(緑色)であるという建前を守っている以上は、俺もこれはこれで良い戦闘データが取れると思い始めてしまったので黙認している自分に呆れるのだが、決して脳をぷるきゅぴに侵されたわけではない、と言っておこう。
さて。
ウーヌスがグウィースの『騎獣』としてガンマを召喚したかと思えば、モノがル・ベリの『エイリアン武器』として切裂き蛇イオータと縄首蛇ゼータを同時召喚して、その言いくるめの特技によって無理矢理ル・ベリに"装備"させる。
【鞭術:中位】を技能MAXまで高めたル・ベリの巧みな"縄さばき"によって、ぶおんぶおんと振り回されるゼータとイオータに対し、2対1はおかしい、と主張し出したイェーデンが八肢鮫シータを呼び寄せてグウィースの『第二騎獣』などとわけのわからない喝破をし、シータがグウィースをその触手で掴んで振り回して、隠身蛇小系統の『第三世代』2体のしなりすぎた鞭のような"捕縛"攻撃をことごとく回避させる。
だが、それに触発されたのか、"振り回し"の本場を見せてやると謎の気合を発揮したのは縄首蛇のゼータであった。
同胞が殺されたわけでもないので、借りてきた猫のようにきょとんと大人しく振り回されているイオータとは対照的に、【連星の絆】の【先鋒】たるを【蛇足】に見せつけてくれんと、振り回されながら器用にル・ベリを掴んで逆に振り回し始めたのである。
「ふむ……これが、主殿の良く言っていた『触手戦』か」
などとソルファイドが本気か呆けているのかわからない呟きを垂れ流すが、断じて違う。
ル・ベリとグウィースの一種微笑ましい兄弟交流である『触手戦』とは、彼らがそれぞれの触手「を」しっぺ合戦よろしく振り回しながら牽制しあい騙し合い引き倒し合うことであり、間違っても触手「に」振り回されることでは、ない。
……のだが、片やエイリアン達との連携によって自身の身体を跳び回らせる機動戦にも慣れていたル・ベリに、片や【軽騎手】の職業技能によってまた別の意味での連携能力を高めていたグウィース。意外にも自ら「が」振り回される状況に適応しながら、迅速にそれに適応しつつあった。
なるほど、双方ともに譲れぬ何かがあるのである。
ル・ベリ(緑)は「兄たま」たるプライドを。グウィースは本家本元の「緑」たる在り様を。
≪きゅおおおお! これだきゅぴ、これだきゅぴぃ!≫
≪や、やめてぇぇぇぇちーふぅぅぅ……僕たち巻き込まないでぇぇぇぇ……!≫
――ぷるきゅぴども、【共鳴心域】を悪用してエイリアン&緑色兄弟の振り回し振り回される感覚に"同調"してトリップしてやがる。
「主殿。【命石】を使って短期間で鍛え上げる、という案は効果的だったようだ。ル・ベリもグウィースも目に見えて体力が増え、そして動きが良くなっている。多少力技ではあるが、要所要所で瞬発力を発動して――」
"実況"役どもがそれをもはや放棄して我欲にまっしぐらとなる中、相変わらずのマイペースさが目立つ生真面目なる竜人(赤色)だけが"解説"を続けているが、既に観客達は全員、グウィース軍団として参戦させられて吹き飛ばされ、あちこちで伸びていた。
一方で労役蟲達(黒色)はといえば、エイリアンらしい【群体本能】が発動したあたりに種族としての違いというか差が出ていたのか、いそいそと小人の樹精達を介抱するかのようにその鋏脚でうやうやしく運んでいくのであった。
いい加減、俺は辛抱ならず、何でもいいから気を逸らすことのできる対象を求めてセコンド竜人に【情報閲覧】を発動する、が。
【基本情報】
名称:ソルファイド=ギルクォース
種族:竜人族<支族:火竜統>
職業:牙の守護戦士(剣)
従徒職:武芸指南役(所属:【エイリアン使い】)
位階:33 ← UP!!!
状態:心眼盲目(※一時的)
【技能一覧】(総技能点119点)
こいつ……悟ってやがったのか。
『眼球』を紡腑茸によって再生したため、盲目は眼帯による外付けの"一時的"なものとなっているソルファイドだったが、称号技能としてはきっちり【心眼】は維持されていたようである。そしてそれどころか、彼の絶技もまた一気に鍛錬の中で伸びており【悟りの剣】を獲得するに至っていた。
端的に言えば、戦う相手の力量に合わせて自らを調律することができるのである。【心眼】による静的な一種の戦力看破と合わさり、剣戟を交える前から、それこそ一目見ただけで相手と無間の精神時間の中で幾百合も切り結んでその実力を把握し、最適な踏み込みを為さしめるもの。
リュグルソゥム一族の『止まり木』とはまた似て非なる、まさしく宮本武蔵に曰く、無刀に至る「剣」という名の闘争の概念的本質に迫ろうというもの。
それは『ハンベルス鉱山支部』の攻略戦で予定外の敵戦力として登場した『狼憑きフィック』との相対で、瞬時にその力を見極め、探り、自身が【武芸指南役】として求められている役割を果たすという即断という形で現れていた。
――つまり、【人世】の武芸者や戦士達がどの程度の"戦力"を持った存在であるかを、副脳蟲どもの【共鳴心域】を通して俺の眷属達に学習させるために、手を尽くすのでも手を抜くのでもない、正しい意味での「試し」という視点から、彼の元傭兵である他国の戦士の力量と個性を引き出す最適な戦闘力で相対した――ということである。
より具体的に言えば、
『1.2ウルフィ・フィック=1高レベル遷亜有り戦線獣』。
もっと言えば、
『2ウルフィ・フィック=15走狗蟲』(※多対1の場合を除く)。
根本的なことを確認すれば、
『1螺旋獣(デルタ)≦1ソルファイド≦1螺旋獣(アルファ)』。
すなわち、その眼力は正当にして正統。
ただ唯一、いかな【心眼】を以てしても、この竜人の剣士は、俺の"認識"に密接に関わってしまっていやがる副脳蟲どもの暴走を"認識"できていないというのが致命的なのであるが――。
「……なるほど、大体わかりましたよ、オーマ様」
あぁ、お前もか、ルク青年。
「【命素】とは超常を抑制する超常――【魔素】が、魔法においては人の欲望や信念を捉えて現実をそれぞれの属性に従って"上書き"していく作用であるのに対して、【命素】とは、その作用が術者本人に逆流しないように抑える力。『魔法学』の範疇からの理解ではありますが、実際に起きている現象や力の流れを見ていると、そうであるとしか思えません」
曰く、当初は【活性】属性であるか、【聖戦】のラムゥダーイン家の秘匿技術である【生命】魔法にかなり近いものである、と理解していたとのこと。
しかし俺の迷宮にやってきて、実際に『命石』を分析し、またそれをソルファイドが発動する様子や、副脳蟲最適化によって"鍛錬"する俺とル・ベリの様子を観察し、分析し、さらに『止まり木』でそれを持ち帰って精神世界で"再現実験"して検証する中で――属性自体を越えたより上位の概念として仮定してみたところ、そういう特性が見えてきたと、そう言うのであった。
だが、うん、ルク君や。我が【外務卿】や。
生真面目第2号(やつれ色)として頑張って分析してくれたのは有り難いし、きっと今の俺にとって今後この世界を考察していく上で大事な情報を出してくれたって頭はわかるんだが、俺の頭と認識は既に「ぷる」と「きゅぴ」に埋め尽くされて、垂れた白黒熊猫のように精神がとろけそうになっているのだよ。
≪可愛らしい、我が君――意外な弱点と、言うべきなのでしょうかね。ルク兄様、そろそろお戻りくださいね≫
結局。
アインスの叫びを聞いたみんなの頼れる怖いボスであるアルファがのしのしと現れ、【おぞましき咆哮】によって全員を物理的に衝撃波で吹き飛ばして転ばせ、ぷるときゅぴで侵された俺の頭の中を真っ白色にするまで、模擬戦という体を取った狂騒は、しばし続いたのであった。
※本話は再構築に伴い、話順が入れ替わりました。上書きによる入れ替えしかできないため、過去にいただいた感想と話の内容が噛み合っていませんこと、ご了承下さい。
読んでいただき、ありがとうございます。
また、いつも誤字報告をいただき、ありがとうございます。
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また、次回もどうぞお楽しみください。





