0109 名付く者達の練磨と征進
12/28 …… 【空間】魔法について加筆改稿
7/8 …… 2章の改稿・再構築完了
【遷亜】と【天恵】と『煉因強化』の関係を改めて整理することができたところで、俺は、まず"名付き"達を次々と先行して――【遷亜】させていくことに決めた。
確かに長い目で見れば【天恵】による強化も重要で魅力的であるが、既に進化し成長して独自の役割を得ている"名付き"達に今更それを取得する術はない。
だが、そもそも技能それ自体は単なる外付けの強化装置のようなもの、というのが俺の理解。そもそもの迷宮の眷属としての、いわば技能以前の生物としての生得的・先天的な実力を活かす、という意味では"亜種化"こそがむしろ最適であろう。
――少しこの世界における「ゼロスキル」について掘り下げよう。
例えば、走狗蟲は進化したての状態であっても、【おぞましき咆哮】を、それが前提技能を満たしておらず「ゼロスキル」となっていない中でも放つことができる、という報告を多数受けていた。
だが、それも考えてみれば当たり前のことではある。
その「おぞましい」と"認識"され「咆哮」と"形容"される、相手に畏怖を与え身体を竦めさせるという"結果"を引き起こすことを目的とした行動は、そもそも走狗蟲が走狗蟲の役割を果たすべく創造され造型された生物学的な身体構造からすれば――できて当然な「能力」であったからだ。
だからこそ、走狗蟲に始まるエイリアン=ビースト系統に属するエイリアン達は等しく【おぞましき咆哮】を放つことができ、進化しても引き継ぐのである。
その「ギシャアァァッ」という擬音が適切としか言いようのない、エイリアン的口吻という造型から逆算された必然として。
なるほど、それが彼らの『系統技能』であると"認識"し、定義する存在にして主たる"この俺"の「観測行為」によって後付けで技能としての【おぞましき咆哮】が新たに世界法則側から付与され、付加され、外付け装置として強化されてはいるのだろう。
だが、そもそも、俺の存在とはある意味では関係無しに、エイリアン達には身体知としての【おぞましき咆哮】のような行為が実行可能なのであった――そう考えてみると、どうだろうか。
この世界での"ゼロスキル"の意味合いが、少しばかり変わる。
端的に言えば、それは「2種類」あることに、なる。
1つは、本当にその「ゼロスキル」を保有しなければそれが使えるようにならない、いわば外付けでインストールされたプログラムの実行装置・発動装置としてのゼロスキルである。思うに職業技能はこちらのタイプが多いのではないだろうか。
だが、もう1つのものとして、その生物あるいは「種族」として、そもそも先天的・生得的に有している一定の"能力"が――自分自身を含む何者かに「観測」される以前から、生物学的あるいは自然的もしくは文化的歴史的な必然によって有している、そんな"能力"が――"認識"された際に発現する「ゼロスキル」である。
これは技能でありながら、同時に技能以前の「身体知」のようなものであり、「身体知」としてのその能力に上書きされるか、相乗されるタイプのものである――つまり技能が無くとも当たり前に「できる」というものだ。
これを"俺の仮説"に沿って考えれば、なるほど、よりそれぞれの生物や種族をその生物や種族らしく、生きやすくさせるための仕掛けとも見れる。
【おぞましき咆哮】の例で言えば、走狗蟲達はそもそも最初から技能と関係無しにそれを身体知として当たり前の権利としてぶっ放すことができるし、彼らの役割としてそれを多用する。
同じことが、そこらへんの野生動物、それこそウサギみたいな生物にとっては【跳躍】みたいな身体知があるとして――もしもそれが「ゼロスキル」化したとすれば、その恩恵によって、ただでさえ当たり前であるその能力はその生物にとってより使いやすくなることだろう。
すると、その生物や、生き延びるためにこそ自らのその長所に頼り続ける。それがそのまま、技能としては"自動点振り"のための本人の意志と努力としても判定され――この"長所"が、さらに強化されていくのである。
――そういう理解から、冒頭の結論に立ち戻る。
極論、技能は無くても困らない、というのが俺の現状把握であった。
もちろんあれば便利であり利用すべきだ。しかし、その恩恵を受けられないとしても――既に進化した"名付き"達にとっての【天恵】技能など――切り捨てたり、優先度を下げる材料とする必要性もまた薄い。
特に【エイリアン使い】の権能から生み出された眷属達には、そのそもそもの"役割"のために特化し発展し、そして進化することで得た生来的な能力が、元々十分に備わっているのであり、それを強化するのが【遷亜】や【煉因強化】と位置づけられる。
だからこそ、眷属にして従徒でもある"名付き"達は重要で特殊な立ち位置にあった。
技能システムのみを重視して、効果的効率的に攻略しようと思えば、例えばアルファ以下の"名付き"達は全員2軍に落として、新たに【天恵】ブーストを乗せた「統率役」を生み出すのが効率的な行動なのかもしれない。
だが、今のこの勢力拡大のための手駒の強化が迅速に必要な情勢下で求められるのは、理論上の最高加速度などではない。常に、現時点での瞬間的な加速力なのである。
……まぁ。
アルファ達を切り捨てる選択肢は無い、と結局言いたいだけなのだが。
――捨てられない。絶対に見捨てない。そんなせんせが、私たちは大好きだったよ。
そうして俺はアルファ以下、"名付き"達に【遷亜】を施し、また、新たな技能点の獲得源となった"従徒職"とそれぞれに期待する役目を吟味しながら、引き続き利用できるものは利用するということで「点振り」をしていったのであった。
***
○アルファ:螺旋獣
・位階:17
・従徒職:親衛隊長
・技能点:残り11点
"名付き"達の統率者にして、俺の最大の護衛であるという役割は変わることがない。今はル・ベリやソルファイドらが時折、俺に随伴することも多くなっていたが――それでも、アルファは俺にとっては「呼び出せばすぐにそこに現れる」存在として、最初の走狗蟲時代からの信頼で結ばれた眷属である。
その「統率」と「護衛」を強化するために、称号技能に多少振りつつも、【遷亜】との組み合わせとしては『因子:強肺』を選択。さらにダメ押しで【巨大化】させた。
――その心は、『強肺』によって強化され声量としてはもはや耳元で爆音が炸裂したかのような音響兵器と化したレベルの【おぞましき咆哮】によって、俺に接近しようとする敵性存在を物理的に食い止めること。と同時に、眷属心話の補助的な「指示伝達手段」の1つとして活用することにある。
さらに多くの武闘派・肉体派タイプの"名付き"達同様、『因子:再生』によって継戦能力を高め、また、【領域転移】によって遠方にいてもなるべく呼び出しやすくできるように『因子:空間属性適応』を取らせたのであった。
これで【遷亜】3枠である。
これがベストの選択であるかは、わからない。だが、今俺の手元にある手札を組み合わせて、アルファの役割をもっとも発揮させることができるのがこれだろうと考えて、こうした。
《アルファ殿がいてくださればこそ、御方様の指示に従って、お側をしばし離れることができるというものです》
《そうだな。だが……【人世】では、そうもいかなくなる。本当に危ない時はもちろん俺の眷属達全体を呼び出しはするが、それでも、しばらくは目立たせるわけにはいかない。お前とソルファイドに頼ることになる》
《御意のままに》
○ベータ:爆酸蝸
・位階:17
・従徒職:宴会隊長
・技能点:残り9点
アルファと同じく、一番最初の走狗蟲であったベータもまた付き合いが深い存在である。好奇心旺盛であり様々なものにちょっかいを出す性格であるため、アルファのような統率的な役割は任せることはできないが……しかし幸か不幸か【黒き神】によって"注目"され、称号技能【虚空渡り】を得たことでその性能と役割は激変した。
対【樹木使い】リッケル戦では転戦に次ぐ転戦、転移に次ぐ転移を駆使して重要な役割を果たし続けたため、系統技能や称号技能が一気に上がっている分、【遷亜】には1枠だけ割り当てているが。
先に【空間】魔法について検討した時の通り、【虚空渡り】は即時性という点で【領域転移】を凌駕している。
だが、そもそも従徒献上知識によると、【西方】の吸血種達が駆使しているらしい【虚空渡り】という技は、俺が「移動術」であると捉えている通り身体への反動が非常に大きいとのこと。それこそまともな強化魔法無しに人間が使えるものではないようだが――そもそも【闇】属性の魔法とされているため『長女国』では禁術――そうしたデメリットについても、『因子:再生』で【遷亜】した"名付き"達や、爆酸蝸や城壁獣のような硬い連中であれば影響はほとんど無いに等しい。
このため、本来の奇襲自爆兵の役割よりは、最近では「運搬役」として多用しているところだが……本人はあまり気にした様子は無く、楽しんではりきって、最果て島の各地を"転移"して回っている。とにかく走る、物理的な座標距離を移動することが好きであった走狗蟲時代から、ある意味ではブレていないと言えるかもしれない。
――話を【虚空渡り】と【空間】属性の関係に移そう。
【領域転移】と共に【虚空渡り】では"裂け目"の向こう側へ、つまり世界をまたいで飛び越えることができない、という検証結果自体は驚くべきものではなかった。いずれも「銀色の水面」に阻まれてその手前に強制的に出現することとなり――"裂け目"を通ってからでなければ、その先の世界で【虚空渡り】は発動できないことがわかっている。
しかし、このことよりも大事なのは、『人攫い教団』の墨法師達の身に発動した【空間】魔法の転移(緊急回収術式)が【領域定義】と干渉したのに対し、【虚空渡り】では「転移事故」は起きない、という事実であった。
これは、ベータに適当な小醜鬼を所持させ、その出現位置のうちこの小醜鬼にのみ衝突するように計算して正確に【領域定義】を実験してみて、当の小醜鬼が飛び散らなかった――無論、【虚空渡り】による反動でズタズタにはなっているが――ということからも確証された事柄である。
そしてこれが、俺が【虚空渡り】を、確かに【空間】的な要素はあるかもしれないが単なる「移動術」に過ぎないと捉える所以である。
【空間】魔法における「転移」においては、必ず転移する元と先の2地点が存在している。そしてその正確な地点を示す「座標」が重要であるのは、墨法師達に分けられた3工程のうち『標師』という「座標担当」がいることからも明らかであるが――ならば【領域】の力もまた「座標」という要素を欠くことができないと言える。
つまり【領域定義】とは、【領域転移】によって転移すべき全座標を網羅して迷宮法則に組み込む力とも捉えられ――それ以外にもその地点その地点での魔素・命素の収量を変動させる迷宮経済的な意味合いも当然あるが――「座標」の指定に関わる超常であるからこそ、イセンネッシャ家の【転移】魔法と干渉したことの意味は、「座標」同士が衝突を起こして飛び散ったことであると受け止められる。
このことと比較すれば、ベータの【虚空渡り】に「座標」という要素は無いのだ。
ひょっとしたらエイリアン的連携や副脳蟲どもの【共鳴心域】経由で【領域】上の五感的な意味での座標情報を得てはいるかもしれないが、あくまでも、そこに向かって音速すら越えた速度で、はたまた亜空間でも通って、ただたどり着いているだけであるということ。
「座標」が混ざりようが無いため、事故も起きようが無い、ということとなる。
≪だからこそ【転移】技術は【闇】属性の技と解釈されていたわけです――実質的にはその身を"隠している"わけですからね≫
≪イセンネッシャの技とは、結果は同じでも、機序が異なっているのです。そして人の身で【転移】魔法を扱うからこそ、彼らは麗しき【輝水晶王国】の脅威となりましたが、同時に【生命の紅き皇国】のまさに【虚空渡り】を使う工作員達を狩ることができる存在でもあったのです、我が君≫
細かい違いとはしては、そうであろう。
だが――それでも【虚空渡り】と【空間】魔法が、ひいては迷宮の力と共に【黒き神】に由来するものであるということまで否定する視点ではない。
無論、主神の"片割れ"である【白き御子】もまた【空間】の力を有していると思われる以上、そちらに由来する可能性自体も完全には否定されないが……ここまで情報が出ているならば、ほぼ、イセンネッシャ家は迷宮出身であると決め打ちして行動しても大禍は無い、と俺は判断したわけであった。
【闇】属性と【空間】属性に関する検討はまた後にして、話を"名付き"達に戻そう。
今のところ、【黒き神】に"注視"されていることの影響と思われるような、何か怪しい行動などはベータには無い。
即時性が便利であるため、緊急時などには今後もベータの【転移】を活用する場面はあるかもしれないが――多少の用心は起きつつ、それでも俺は、ベータが迷宮領主俺の被造物であり、文字通り最初期からの股肱の配下だという線を曲げるつもりは無いのであった。
○ガンマ:城壁獣
・位階:16
・従徒職:【エイリアン使い】の盾
・技能点:残り4点
護衛であるアルファが総合的な判断能力と統率能力の発揮による臨機応変な動きが求められるのに対し、俺の「盾」であるガンマに必要なのはとにかく硬いこと、倒れないこと、絶対に破られず砕かれぬことである。
その観点から『因子:重骨』、そして、確かに【領域転移】は数十秒から数分間という時間がかかるものであるが――それでもある意味でガンマの足の遅さを補うことができるよう、臓漿経由で遠隔から呼び出すことができるように『因子:空間属性適応』で【遷亜】した。
なお、ここしばらくはいざという時の俺の「盾」になるのに支障が無い程度に"硬殻"を引っ剥がして、素材として活用していたが――『因子:再生』によって、この"硬殻"の生産速度も若干向上している。
ただ、相当に硬い代物であるため、現在の技術力ではいささか加工に窮しているのが実情ではあるが。
それでも、エイリアン建材の中に仕込んだり、迷宮内の要所に仕込んだり、あるいは重要な任務についている走狗蟲に文字通り"盾"として持たせるという運用を今後増やしていくことができるだろう。その意味では、もう2、3体ほど「純生産役」として調整した城壁獣を進化させることも検討中である。
《リッケルめとの戦いで存分に活用させていただきました。ガンマ殿の"鎧"は少々重いですが、取り回し易いですからな》
《"魔獣素材"としても相当、質が良いかと思います、オーマ様。しかも生体素材というところが、また。ええと、【遷亜】でしたか、それで「属性」の効果を付与させたものは下手な魔防具にも匹敵する耐久性があるかと》
《本当に加工さえできれば、装備を色々と一新できるんだがな。現状、アルファかデルタに無理やり力任せに引きちぎらせるしか「細かく」する方法が無い、てのが残念だ》
《金属ならば丘の民なんですけれど……生体素材ですからね。協力関係を今後築けるならばですが、スィルラーナならば、あるいは……》
《【西方諸族連合】か。とりあえず頭の片隅に留めてはおこう》
○デルタ:螺旋獣
・位階:16
・従徒職:【エイリアン使い】の剣
・技能点:残り5点
「盾」たるガンマに対し、「剣」としてとりあえずイオータと使い分けて初手で突っ込ませることに特化させたデルタは、防御をある程度捨てて攻撃性能をとにかく向上させるという思想の元、『因子:再生』と『因子:強機動』で【遷亜】させた。
種族技能の【巨大化】の分だけ、アルファよりは小柄ではあるが――猛攻の激しさだけならば、アルファとイオータを抑えて最上格であり、ソルファイドをしても『火竜骨の双剣』+負傷を覚悟しての全力、竜の息吹有りでなければ対抗できないと言わしめる存在である。
捨てた防御はある程度は『因子:再生』に頼ることができ、その上で系統技能と称号技能にそれぞれ振った上で螺旋獣としての強さを引き出した形を取っている。
《きゅぴ。最近、ミューさんにやたらと絡んでいるのだきゅぴ》
《投槍選手権さんでは! アルファさんよりもすごいんだよ、デルタさん!》
《え、えっと……ミューさん、デルタさんに"上角"さん取られるの嫌がって、最近あっちこっちに逃げてるんだけど、いいのかな……》
《あはは、そりゃ諦めるしかないねー。だって何が気に入ったのか知らないけど、ミューさん以外の投槍獣さんにはデルタさんあまり絡まないしあはは》
○イプシロン:炎舞蛍
・位階:14
・従徒職:放火魔
・技能点:残り9点
走狗蟲時代は、ベータの腰巾着としてついて回っていたイプシロンであったが、生きた空飛ぶ焼夷爆撃兵器たる炎舞蛍となってからは島中の自由な移動を禁じている。最果て島の上部は森林地帯であるため、まかり間違えば山火事が容易に発生するということもあるためである。従徒職として"発生"した『称号』も、積極的に点を振りたいと思えるものでは、ない。
……しかし、リッケル戦ではイプシロンも【火】属性に関する駆け引きの中で大いに役立った功労者であり、一応の"平時"と言える現在は、むしろ暇をしてくれている方が良いというものかもしれない。妙な「衝動」がゼロスキル的な意味で起きないように。
一方で、飛行型ではないにも関わらず空を飛ぶ存在であるため、遊拐小鳥達との連携の訓練なども日々行ってはいる――火属性障壁茸を複数設置した特別な訓練空域の中でだが。
また、有事にはベータが麾下の爆酸蝸達を率いて、恐るべき「空間転移」自爆兵と化すにあたり、その『爆酸殻』の中に"詰める"ための「燃える強酸」の生成役ともなっていた。酸でもあるため「燃料」とするには相当の工夫が必要であるが、モノが考案した凶悪な罠の数々だけではなく、実はソルファイドが島の中に作成した"温泉"の燃料の一部にも使用されているのである。
《その「罠」が発動しなくて本当に良かったですよ……せっかくの貴重な『墨法師』どもの"入れ墨"が消失するところだったんですから。なんて罠を設置する許可を出したんですか、オーマ様。洞窟の中で焼き払うなんて》
《ふむ。だが、条件と地の利が同じならばお前達も同じことをするのではないか? 魔法使いよ》
《当然です。【火】と煙は空気を焼いて、生物を燻して肺や気管支に傷をつける手にも使えますからね、閉じ込めて窒息させるのを早めることもできる……ええと、竜人のソルファイドさん。貴方だって【火】の系統ですよね? 危険性はわかってますよね》
《ルク殿とミシェール殿は、聡明でよく考えて最善手を打つことができると御方様から聞いている、是非ともその知見を御方様の役に立ててくれ。そして、そこの赤頭は勘は鋭いが中身は今一つでな。グウィースの"乗り物"ぐらいにしか役に立たない、と知っておけばよい》
《グウィース! 海、い き た い!》
《なんで"樹人"が【火】の竜人に懐いているんだ……》
○ゼータ:縄首蛇
・位階:16
・従徒職:備隊長
・技能点:残り7点
当初から"3兄弟"として扱い、今では【連星の絆】という称号を得て、走狗蟲時代の連携能力の検証と研究と実証と、そしてフィードバックに大いに役立ってくれたゼータ。
今でこそエイリアン系統はイータ、シータと分かれているが、それもまたさらなる「諸系統連携」のフィードバックを継続的に得続けるためのものであり――小醜鬼の生産が安定化している現在、擬似的にそれらを敵性存在扱いした「討伐訓練」でも、3連星はその強力な連携能力を発揮している。
中でもゼータは、称号の力もあるが「守勢」の指揮に長けるようになっていた。
必要に応じて自身の『縄首』を、敵の拉致ではなく味方の回収に差し向けたり、必要な箇所に文字通り走狗蟲を"投擲"するのである。なるほど、投げる際の豪速だけならばデルタが副脳蟲どもの「大会」では1位だったかもしれないが、『因子:伸縮筋』からもたらされる絶妙のコントロール精度という意味では、ゼータが最も的確であった。
そして重要なのが『因子:共生』で【遷亜】させたことである。
これにより、ゼータは『縄首』によって負傷した味方を回収しつつ―― 一時的にであるが、細胞を癒合させて心肺機能を補助することなどもできるようになっており、まさしくその称号の通りの役割を発展させていると言えるのであった。
《さりとて、攻勢に弱いわけではないがな。次々に小醜鬼を"縛り首"にしていく様は、同胞への慈愛とは敵への断罪と同義だってよくよく思わせてくれる》
《何がやばいかって、大抵のそこら辺の一般魔法使いは「詠唱」しますから。それをいきなり窒息させられるわけですから、まずパニックになりますね。結構な"魔法使い"殺しですよ》
《その分、【紋章石】を多用するディエスト家や【魔法陣】を使うタイプには対抗されてしまうでしょうけれど》
《きゅぴ。最近は海辺で、よく"釣り"さんをしているのを見るのだきゅぴ。イータさんとシータさんと連携して、お魚さんを釣っているのだきゅぴ。ヒュド吉の餌のバリエーションさんが増えて万々歳なのだきゅぴ》
○イータ:風斬り燕
・位階:15
・従徒職:空挺隊長
・技能点:残り9点
『因子:豊毳』による遠隔の風斬り羽の射出で敵を牽制することもできる存在であるが――【連星】の2番手として強力な打撃を与える者として、俺はイータにはあえて『因子:再生』で【遷亜】を行い、またその機動力を高める方向で調整を行った。
というのも、その"進化先"には『因子:再生』によって開かれる第4世代である『天墜燕』が在ったからである。その体躯からいっても、「海の戦線獣」たる剣歯鯆に並ぶ「空の戦線獣」たるこそが風斬り燕ならば――『天墜燕』は「空の螺旋獣」となるものと思われたからである。
そうした役割を強化するという意味で、機動力を全体的に増強する【遷亜】ビルドが有効と考えたのであった。
なお、イータは現在、【闇世】側での哨戒任務の中核についている。
その圧倒的に向上した飛行能力により、長時間に渡って滞空して、ヒュド吉レーダーと合わせて多頭竜蛇の動向を監視し――海中の探索班にその情報を共有しているという塩梅である。そしてこれを利用して、少しずつであるが、シータ率いる突牙小魚や撥水鮙らの部隊が、遠洋の大型魚を"捕獲"してくることができるようになっていたのである。
《そして、それをゼータが"釣る"……と。まぁ、それもまた連携っちゃ連携だな》
《きゅぴ。『因子:水棲』さんと『因子:水属性』さんで亜種化さんさせた『潜水労役蟲』ちゃん達も大活躍なのだきゅぴ》
《おう、報告書待ってるからな》
《ぎゅぎゅ!?》
《御方様、そのことでお話が。実はグウィースが、妙なものを見つけたと……》
○シータ:八肢鮫
・位階:15
・従徒職:水軍隊長
・技能点:残り11点
【連星】のトリを飾り、水棲タイプのエイリアン達を率いるシータであるが――モノの遊び心によって見事に「鮫」と化したのであった。
ただし、その遊泳能力は随一である。
下半身を形成する複数の「触腕」によって水中で自在に機動することができ、最高速度でこそ撥水鮙達には敵わないものの、縦横の潜泳は水面と海底を問わないものであり、イータの警告に従って多頭竜蛇から逃げ切ることも可能。
イータと同じく、とにかく機動力をまずは重視させたのであった。
そしてその副作用であるか、地上でも――触腕を器用にうねらせることで、さながら「垂れた蜘蛛」だか横向きの走り方をする砂漠の蛇の集合体であるかのような動き方ではあるが、陸上でもそれなりの移動能力を誇るようになっていたのであった。
そして、最近はヒュド吉を甘やかす副脳蟲どもの依頼を受けて、様々な海中生物を捕獲しているのである。
……そしてその際に、ル・ベリが廃棄した小醜鬼や"なり損ない"を撒き餌にしていたようであったが、ある時、乗り物好きのグウィースに目をつけられたのが運の尽き。壮絶な「触手戦」の末、この下半身がタコである鮫のような流線型の胴体をした"名付き"もまた、その「騎乗生物」の一つとされてしまったのであった。
――グウィースがその「小さな冒険」の際に何を見たのかについては、また、改めて確認することとしよう。
○イオータ:切裂き蛇
・位階:14
・従徒職:【エイリアン使い】の狂犬
・技能点:残り10点
【同胞の護り手】たるゼータの"影"のように生まれたイオータの称号は【嗜戮の舞い手】である。
闘争性と敏捷性による回避性能の高さから、デルタに並んでとりあえず突っ込ませる鉄砲玉扱いをすることができる存在であり、リュグルソゥム兄妹の力を測るのにも役立てたが、その性能は、改めて見てみてもわかりやすい『軽装狂戦士』といった具合である。
既に進化時に『因子:強機動』を取り込んでの切裂き蛇であるため――『因子:汽泉』の【遷亜】で運動性を別口から高めることとした。
どうも"平時"はイオータにはストレスが溜まる環境であるらしく、定期的にアルファやガンマ、デルタなどと「模擬試合」をして憂さを晴らしているようであったが、俺や彼らには逆らわないので御することができているとは言えるだろう。
……というか、最近はソルファイドと切り結んで、ぐいぐいとその「剣術」の動きを学習しているきらいもある。早晩、敵対するものにとっての危険度は跳ね上がっていくことだろう。
《まぁ、性質はわかったので次は前のようにはいきませんがね。魔法が使えない戦闘タイプ一辺倒なので、次は捌けます、次は。ええ》
《ルクさんの強がり~》
○カッパー:一ツ目雀
・位階:13
・従徒職:【エイリアン使い】の杖
・技能点:残り5点
元は飛行部隊でイータの副官役をやっていた個体を"名付き"化させて取り立てたのがカッパーである。
【魔法】の鍛錬と合わせて、そのエイリアンとしての形状から、長らく俺の"杖"役としても扱っていたわけだが――果たして称号を獲得し、名実とともに俺の"魔法の杖"になっていたのであった。
中でも特徴的な技能は【思考連携】である。
便利であったため、進化後のためにある程度取っておいた分の技能点をすぐに注ぎ込むことを即断したが、俺のやりたいことを、ある程度は【眷属心話】にさえも先んじて読み取り、それに応じた行動を取りつつ、副脳蟲どもの【共鳴心域】を通してフィードバックしてくれるのである。
この点、護衛であるアルファや盾であるガンマとはまた異なる意味で、そばに置いておいて活用したい存在であるとも言えるだろう。迷宮領主能力としての【魔素操作】が補助されるというのも普通にありがたい話であり――そして"進化"先の名前は『三ツ首雀』。
すなわち、今は1つのみである【属性換装】が3つになる、と想定できる。
考えても見れば、身体を鍛えるのにあたっても、俺は副脳蟲達による「効率的な鍛錬」を現在も継続中だ。【魔法】に関しても、こうしてカッパーの生来の役割に頼ることは、【エイリアン使い】として間違ったものではないと言えるだろう。
今後、もう少しカッパーがレベルアップしていけば『因子:擬装』あたりで最後の【遷亜】枠を埋めて、場合によっては【人世】へ持ち込むことも、考えている。
○ラムダ:塵喰い蛆
・位階:12
・従徒職:【異星窟】の災害
・技能点:残り14点
『因子:噴霧』と『因子:汽泉』で【遷亜】させた結果――副脳蟲どもの仕業であるが――大変なことになった"名付き"である。生きた粉塵生成装置というのも生ぬるく、呼吸をする度に周囲に猛烈な、灰の如き粉塵をばらまく迷宮内の災厄と化したわけである。自らの意思で制御できていない様は、もはやさっさと「進化」させてやるでもしない限り、おさまらないかもしれないが。
……そしてそれが従徒職と『称号』面でもある意味保証されてしまっているのであった。
どうにもこの"認識"というものは厄介で、一度俺の中でそうであると「しっくり」来てしまうと、それは非常に強固なものとなる。数日間意識喪失して記憶と白昼夢の間をさまようことになるため、副脳蟲どもによる"改竄"もあまり使わないでいたいところだが。
その意味では、ラムダのこの特性は――『称号』技能のうち【恐怖惹起】を使いこなしたい場面があるのであれば、多少の【連携低下】を甘受してもよいといった判断だろうか。低下するのはラムダだけであるならば、他のエイリアン達がフォローすればよい。
その意味でも、ひとまず区画を隔離して、周辺で仕事をする労役蟲達は『因子:塵芥』で耐性をつける形で【遷亜】済であるが。
運用は慎重に、今後考えていかなければならないだろう。
動きが鈍重であり、ベータ直伝の「転がり移動」などさせようものならさらに灰の粉塵を撒き散らすことは目に見えていた。当面は「罠」として、性能が近い瘴塵茸などと合わせてファンガル系統ぽく運用するのが吉であろうか。
○ミュー:投槍獣
・位階:12
・従徒職:【エイリアン使い】の鏃
・技能点:残り13点
噴酸蛆らの系統とは異なる、言うなれば物理的な射撃役、遠隔攻撃役である。
……投槍獣の登場前は、その筋力によって豪投を主に行っていた螺旋獣組のデルタに今は絡まれているが。
同時にこの"骨の槍"は、ガンマの"鎧"と同じく、武具としての使用価値も高い。
ただ、この点に関しては骨刃茸という存在も同じ役割を果たすことができる競合的な存在ではあるが。それでも、ミュー自身が次々に連射していく「弾」を生産するという意味では、『因子:骨芽』を重ねる形での【遷亜】は有効なものである。
――そして、他のエイリアン系統でもそうであるが、パターンとして、前の世代の技能が次の世代に引き継がれ、前提技能となって新たなものが開かれるパターンがいくつかあった。今はまだ"骨"であるが……投槍獣の「次」は、『鉄串獣』なのであった。
また、従徒職を追加したことで"生えて"きた『称号』の技能であるが――見るからに、いつか俺が顎を狙撃された際に毒を吸い出してくれそうである。いや、それだと逆であるか。投槍獣としての性質とは普通に親和性が高いので、イプシロンやラムダとは異なり、ミューには振ってやることとしたのであった。
以上、"名付き"達である。
なお、"名無し"達に関しては単なる眷属であるため、点振りに関してはもう少しシビアになるが――アルファ達の様子を見ている限り、エイリアン系統としての固有の技能は、無理に点振りしたりゼロスキル狙いとせずとも良い、とわかったのは収穫であったと言えるだろう。
すなわち【遷亜】が優位であるうちは、【天恵】ブーストの有用性は相対的に下がる。
環境に応じて特化させた『潜水労役蟲』や『鉱夫労役蟲』などを新たに派生させていることと相まって、俺は加冠嚢の更なる増産を決めたのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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