9 昔話2
「私はね、選炭場ってとこで働いていたんだよ」
昔々の事を思い出すようにとつとつと話し出した。
「そこはね、掘り出した石炭を水の中で、良い悪いを選別して出荷するんだ。ほぼ、機械がやるんだけどね。やり切れないものあってさ、そういうのは人がやるんだよ」
「それじゃ、冬とか大変ですね」
美咲殿があいの手を入れる。
「当時の炭鉱はね。先端の産業だったからね、普通に温かいお湯が流れて、各家庭にも供給されていたし、大きな病院もあったしね。とんでもない過酷な労働作業の様に後から作られたイメージでは無いんだよ。
もちろん、穴の中に入って仕事していた人にとっては過酷以外の何ものでもなっただろうし、実際、落盤事故があるとサイレンが鳴って、坑口に心配でみんな集まるんだよ。あの音は、今でも忘れられないね。
落盤だ!!
ってさ。集まるんだ。
家族が穴の中から出てくるとホッとして、出てこなかった人には悪いけど、心の底から嬉しいって思うよ。でも、さっきまで隣で心配しあっていた人の家族が出てこないとかあるからね。複雑だったよ」
「そんなにしょっちゅう事故って起こるんですか?」
美咲殿はおばあちゃんの話に聞き入っていて、目を輝かせながら次のクダリをおねだりする。
「そうね、小さいのは結構あったかな、一年に数回、大きいのは数年に一度、でも大きいのは起こったら……もう、終わりだからね」
「終わりってのは?」
「助からないって事だよ。
ガスが出て爆発、水が出で水没、落盤、全部地面の下何百mだよ。
掘った途端に爆発とか、坑道途中で落盤とか、怖いよね。真っ暗のなか閉じ込められるんだから」
「そうか、逃げられないんですね。トンネルの途中で起こったら……怖いね」
その時の怖さを美咲殿には見えてきているのだろうか? 顔色が悪くなって腕を胸の前で組んで小刻みに震えている。
「美咲殿、戻って」
僕はその様子で美咲殿の肩を軽く揺らして、“今”に戻した。
「怖い話、しちゃったね、ごめんなさいね。別のお話にしようかね」
「私こそ、ごめんさい。もう大丈夫です」
僕に戻された美咲殿が息を吹き返した。