6 鉱区
「築堤沿いに走って鉱区を目指すよ」
良い笑顔の、どう?美人でしょの押し売りスマイルの美咲殿に先導され左に緩くカーブし穏やかに登っている田舎道を自転車で走り、穏やかな気温も相まって気持ちのいいサイクリングだ。
左手に築堤を見ながら、上りながら、
「おおおおおーー」
クルクルクルクル。
「ハイケイデンスクライマーや!」
小野田君と鳴子君を一人二役で再現中らしい。
そんな上りじゃないよ、山道じゃないよ……
762mmの規格で穏やかな鉄道カーブを描く線路を見ながら、僕達は平面クロスから1kmほどの炭鉱口を目指している。周りは田んぼと民家が点在する傍から見ると寂しげな、殺風景な場所で時折、本当に時々車が行き交う県道だった。
「このカーブもなかなかいいわね」
坂を上り切った上で、1m程度の鉄橋がかかる場所で振り返りながら来た道を見て美咲殿が呟く。
車も人も通らない田舎の県道、道路の幅はどのくらいだろう……車が十分にすれ違える幅はあるが路側帯は無く、左手に50cm程度の高さの築堤が並行して走り、そこが廃線跡になる。おばあちゃんの言った通り今は歩道になっていた。
そして、美咲殿が言ったように下りを眺めると鉄道カーブを伴った緩やかな右カーブと穏やかな下り坂、そして、田植え中の水田が周囲にひろがり、その奥はいずれも山が迫っている谷あいの水田と廃線のハーモーニーといったところか。僕達はその道をさらに進む。
「美咲殿、ホッパーだ、でけぇ~」
貨車へと石炭を積載する施設装置のこと、大きさは奥行100m、縦10m、高さ15mくらいのコンクリート製の巨大な直方体で、その下には高さ5m程度の柱を立てて階上に建設する。直方体の上にはコンベアで石炭を次々と供給して、その直方体の下には貨車を待機させ石炭を積み込む。石炭を貨車に積み込むための施設で引き込み線の始まる場所だ。現在も取り壊されることなく当時の面影をしのぶことが出来る。
その巨大なコンクリート製のホッパーが僕達の視界に入ってきたことで、この引き込み線の現地確認作業が終わりを見た事を意味する。
ホッパーから供給された石炭を貨車に積み込み、穏やかな右カーブと下り坂を抜け90度南へと向かった後に下り坂が終わりR200の左カーブを当時の商店街の中を抜けて東へと90度回頭後、直線で最寄りの国鉄の駅まで運ばれた、行程凡そ5km、高低差20m。R200の鉄道カーブなど現状ありえない急カーブ、これにR200萌えの美咲殿が大喜び、昭和20年まであった平面クロスはロマン。