4 平面クロス2
「じゃあ、まずは、こっちの築堤越しに登って炭鉱口まで行ったら、ここに戻って操車場を流そう」
美咲殿の一声により方針は決まった。まずは、目の前の平面クロスだ。
今は県道と市道の交差点? 十字路ではあるのだが、ほぼ、丁字路、さっきのおばあちゃんが言っていた切通はその?な方向、駅の方向にあって舗装もされず、草が生い茂っていて、車道というよりは、人道だ。
「昭和30年くらいかな?」
美咲殿が、平面クロスのあった十字路、今はほぼ丁字路の道横で言う。
「そうだね。その辺から、お願い」
「それじゃ、見てみよう」
ボスリントン眼鏡にそっと手をかけ、それを外すと、大きく切れ長の中央に鎮座する美咲殿を美咲殿たらしめるはっきりと大きな漆黒の瞳を交差点の中央に向けて、少し、ほんの少し眉間にしわを寄せた。
刹那、時が流れる。
美咲殿のメガネは度が入っていない。有害紫外線とブルーライトカットのレンズだ。普段は眼鏡をかけることで、現在の時間を生きているのだが、眼鏡を外すと、美咲殿の過去を見る力を発現する。要はきっかけ造りだと、いつもは見ていたくないので、自分自身への暗示だと以前に聞いた事がある。
そして、目の前に現れた、色あせて、ひび割れしかないアスファルトの灰色がかった路面の色が鮮明に藍色になって、真新しい道路の路面が現れる。時の流れを逆行している証拠だ。
映像の逆再生をみているように。
「昭和30年についたけど……無いね、線路。もう少し、時代を遡ってみようか」
確かに、映像が止まったその交差点に線路は現れなかった。
「炭鉱最盛期くらいのはずだと思うんだけどなあ」
僕に眉を上げて訴える美咲殿に、僕も相槌を打つために視線を合わせた。現在の光景ではうっそうとした草むらだった場所が、整地されていて、
「美咲殿! 背中!」
美咲殿が立っている背後に線路が、見えている。
「あれ? これじゃ、R200どころか、平面クロスにもならないね」
そう、今までカーブを山側へと伸びているように思っていた線路跡なのだが、実際に見えているのはR200の手前からまっすぐに伸びてそのまま直進している。
「さっきのおばあちゃんが言っていた操車場に繋がるんじゃないの? ほら、僕の背中の線路もカーブして操車場へと向かっているよね」
山からR200を経て駅へと進むと思っていた線路が全く逆の方へとカーブしていた。
「ああ、そうだね。他の炭鉱も合わせて操車場に一旦、貨車を集めてそこから、改めて駅へと運びなおしていたのか。とすれば、それは、線路は改修されたという事だから、さらに前の時代になるのか……10年遡ろう」
美咲殿がそう言うや、再びアスファルトが見えなくなり、一気に舗装がなくなり土がむき出しの地面の上にレールが見えてきた
……あった、昭和20年」
嬉しそうに微笑む美咲殿がしずかに呟き、僕を見る。
二つの路線が直交に交わる。平面クロスが十字路の通りに出現した。
二本のレールと二本のレールがまさしく交わっている。レールとレールの間にレールがあり四角形をそこのクロスだけで形を成して、改めてそこから4つの方向へと、外側へとレールは続いていく。
「762と508だね」
謎の数字を答えた僕なのだが、この数字はレールとレールの間の寸法で、この寸法が違うとお互いの貨車は通る事が出来ない。
平面クロスを見ていた僕達が見ているレール間の幅だ。R200を描く方が762mm、別な方、直交している方が508mmだ。両方とも、いわゆる軽便規格というもので、大まかに言えば、レール間の幅が小さいほど低コストでレールを施設出来る。現在の鉄道は新幹線と一部私鉄が1435mm、JR在来線の多くは1067mmになっている。ちなみに夢と魔法の王国の西部川鉄道は762mmだ。
僕達は時代の新しい順から古い順にみていたのだが、どうも、ルートのの改修をしていたようだ。
昭和20年頃には、炭鉱それぞれが駅まで石炭を搬出していたようだが、それ以降は、操車場を設けて一旦そこに貨車を集積し、そこからは、駅まで専用線で運ぶように改められていて、美咲殿のR200も僕の平面クロスも昭和20年まではそこにあった。
そういうものらしい。




