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3 平面クロス1

 まあ、実際に線路があるわけでは無い。既に、線路は取り払われ、道路になっているが、でも、僕達、廃会には見えているんです。二つの交わる線路が……。


そもそも、何で二本出ているかと言えば、経営母体が違うから、違う会社だから、両方で折半すれば良かったのにね、仲悪かったのか?


で、ここの平面クロス。これは危険。このR200のカーブの中間地点にクロス地点がある。当時と街並みが同じだとすれば、冒頭の通り、見通しが悪く100m先に貨車が行く手を遮っているのが初めて見えるという、とんでもない状況だったはずだから。重量物の、しかも昔の貨車は100m手前でブレーキを慌てて掛けてもそりゃあ止まりません。


「美咲殿、これは聞き込みをしないといけないのでは?」


聞き込み担当、武器は屈託のない笑顔、とても聞きやすい腹式呼吸からくるハッキリとした話法で、シャイなあん畜生の僕には到底出来そうもない、初対面の人に突然、すいませ~ん、などと気軽に声を掛けれる上級スキルをお持ちの美咲殿にせっついた。


「すいませ~ん」


言ってる傍から、何の躊躇もなく右手を高らかに上げて、1オクターブ高い声を上げると、私、美人でしょ、と、美人特有の、ほら、私を見なさい、見せてあげるわ、どう?どう?といった声が聞こえてきそうな、全身からみなぎる自信を纏い美咲殿はグイグイ行く。


自転車を右手に押して、前からくる80代くらいの地元の人と思われる、小さなおばあちゃんを目ざとく見つけて、話しかけた。この辺りは流石だ、炭鉱が閉山して既に50年以上、その時代を知る人はそのくらいの年齢なのだ。


美咲殿の渾身の笑顔とお年寄りにもはっきりと聞こえる腹式呼吸と美人圧の強さに圧倒されるおばあちゃんは、立ち止まらせられ、話を聞かさせられている。


「ここに昔、炭鉱があった頃、十字に線路が交わってたと思うんですけど、ご存じですか? 私達、その平面クロスを……ふふふ、見に来て、……」


美咲殿は残念ながら自分の興味がある事は、異常に早口でまくしたてるヲタ特有の口調になり、自分がどう見られているかというフィードバックが壊れる悪い癖があって、今、まさにその真っ最中でおまけに脈絡なく笑いながらしゃべっている。傍から見ても結構、ヤバい奴だ。


「ああ、そうだね。ここは、線路が交差していたね。それで、なんていうんだろうね、旗振りの人が立っていたよ。その人が信号機みたいな役目をしていたと思うね」


おばあちゃんは矍鑠かくしゃくとして、美人圧と対峙している。大したものだ。散歩の途中なのだろうか、動きやすそうな服装で、狭い県道の路側帯の右側を歩いて来た。おばあちゃんが言ったことを受けて、後ろに控える僕をチラリと見やった美咲殿は、ニヤッと笑っている。


おお、いきなりのヒット。この間、行った場所では、勧誘か何かと間違われて誰も相手してくれなかった。


「私達、そのころの炭鉱の引き込み線を調べているんですよ。ほかに、その時の様子が残っている場所ってありますか?」


「そうね。この先に操車場ってのがあったよ。すぐそこに、まだ、レールが残っているから、行けばわかるでしょう。

あと、ここもね、二年前まではレールが普通にあったんだけど、今は取って、歩道になっちゃったね」


そう言いながら、50cm程道路より高くなっている場所を目で追う、おばあちゃん。


「それと、そうだね、あのお家の影に切通しになっているところがあって、そこには小さな橋の後が残っていたとおもうんだけどなあ」


おばあちゃんは、首を傾げながらも、一生懸命思い出して、僕たちに丁寧にお話をしてお別れしていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 美人圧・・・興味深い言葉ですね。意味がよくわかります。 楽しみに読ませていただいております<(_ _)>(*^^*)
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