12 行くか!
「おばあちゃんは、亡くなった旦那さんに会いたい? 見るだけだけど、声もかける事も出来ないけどいい?」
僕は、突拍子もない事を言ったと思う。
今まで、目に光を失っていたおばあちゃんが、目を丸くして僕達を見ているから、それは当たり前の反応だと思う。
「ははは、ぜひ会いたいねえ」
優しく微笑むおばあちゃんは、まるで僕の言ったことなど、見ず知らずの若い奴のたわごとぐらいに思っているに違いない。当たり前だと思う。当然の反応だ。全く現実的な話ではなく、夢、絵空事のそんな類の話を見ず知らずの僕達に持ち掛けられたように感じているのだろう。
僕は、美咲殿に目配せした。合図を送った。
美咲殿なら、出来るから。
美咲殿は、過去の風景を見せる事が出来る。
過去の、そこにあった生活を、人々の暮らしを見せる能力を持っている。その力を使って美咲殿は廃線の跡で実際に走っていた貨車を、人々の暮らしを見て、リンクしている僕にも見せてくれているのだ。決して、アレな子が見える気がして大はしゃぎしていたわけでは無い。
そして、美咲殿なら、僕が言わなくても同じことを言うに違いないと思って、先に美咲殿への何のことわりもなくおばあちゃんに聞いてみた。
美咲殿は、会話を引き取ってにこやかに話を始める。
「おばあちゃん、お名前は?」
「深雪」
「深雪さん、可愛いお名前。
旦那さんとお別れしたのはいつ?」
「昭和19年10月15日」
「出発したのは何時?」
「14時過ぎ」
「今は13時05分だから、いけるね。私、時間までは操れないの。深雪さん、私の手を取って、目を瞑って」
「ははは、こうかい?」
右手を出して、こたつの左手に座る美咲殿に、しわの刻まれた痩せた細い腕を出して、言われるままに目を瞑り、にこやかに微笑んでいる。そして、全くあてになどしていない子供のお遊びに付き合うと言った風情だ。当然だと思う。
美咲殿はボスリントンをソッと右手で外し、こたつに置くと、深雪さんを見て、微笑んだ。
「じゃあ、行くわね。昭和19年、1944年10月15日」
にこやかに微笑む深雪さんはうっすらと相槌を打ったように見えた。




