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11 昔話4

「ねえ、おばあちゃん、あの人が旦那さん?」


美咲殿は壁にかかる額縁の写真の坊主頭の人を指さした。


「そうだね、今の話の人はその隣」


羽織を来て七三分けの真面目そうな男の人の写真を指さしている。襖の上の写真が入った額縁は3つあって、女の人と男の人二人だった。


「戦争でね、死んじゃった。終戦まで広報が入らなかったから、帰って来るって喜んでたら、次の年の秋にね。戦死しましたって……髪の毛だけが帰ってきたのよ。フィリピンだったか、ビルマだったかそっちの方でね。弾に当たった訳じゃなくて餓死だって聞いたよ。


その前の徴兵検査で背が少し足んなくてね。本音を言えば、よかったー。って、思っていたの。それから、警察官の試験に受かって、炭鉱辞めて街に行こうって時に軍隊に取られちゃった」


ほら、おばあちゃんのお茶をすする笑顔が、一瞬で険しくなった。美咲殿はグイグイ行き過ぎるところがあって、その先、亡くなっている人とおばあちゃんの関係にまで思いを巡らせて、聞くか聞かないか悩むようなところが無いのが玉に瑕で……


「私ね。旦那さんが戦争に行くときにね。喧嘩しちゃたの。子供だったのね。置いて行かれて寂しくて、喧嘩を吹っ掛けて、“顔もみたくない!”って、最後の夜に言って、それっきり、言葉も交わさずに送り出しちゃった。バカよね。何でそんなことしちゃったんだろう」


手に持つ湯呑を見て、ため息をついているおばあちゃんは、元々、小さいのに背中を丸めて、昔々の思い出を昨日の事の様に後悔を口にして、瞳の色を失わせている。


最後の挨拶か……


「おばあちゃん、それが心残りなの?」


美咲殿は目の輝きを失った、おばあちゃんをまっすぐに見て答えを求めている。


「おばあちゃんはね、心残りを一つ残しておく。そういう人生を送ってきたんだよ。

全部、やりたい事をしないで一つだけ残しておく。


そうすれば、また、その心残りの為にその場所に行こう、その人に会おう、また、頑張ろうって思えると思ったんだけど……


違ったね。それは、取り返しのつかない場面の話しじゃなかったんだよ。


……心残りかって? そうだね……心残りと言えばそうだね。心残りだよ。


でも、実際は、止まったままだよ。あの日の時に縛られて、全然、未来に向かって動けなかった。


そんな、人生だったよ」


おばあちゃんの言葉は、か細くなって、やがて外を見て、話さなくなった。


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