9話 げ、違法じゃないか!?
こんな展開はマンガの中ですら見た事がない。
それ以前に、本当に意味が不明だ。なんで水奈月さんはシャツの前を開いて僕に見せたのか。僕は何かに騙されているんだろうか?
実は目の間にいるのは水奈月さんに変身した何かで、僕を陥れようとしているとか・・・。
僕なんか陥れる意味も分からないけど。
「いつまで突っ立っている、もう戻れよ。」
水奈月さんにそう言われ、僕は今の状況を思い出した。そうだった、現実が意味不明すぎて思考がどうにかなっていたようだ。ただ、混乱する頭とは違って、悲しい事に身体は反応してしまったようだけど。
「は、はい・・・」
あ、もうボタン留め直してる。
っていやいやいや、残念がってる場合じゃない、早いとこ帰ろう。
そう思うとお辞儀をして足早にその場を後にする。
でも気になってちょっと振り返ってみた。
!?
水奈月さんは空に向かって、白い息を吐いている。
いや、春なのに白い息は無いだろ。
よく見ると左手の人差し指と中指で、白い棒状のものを挟んで持っている。
タバコ!?
って、えええぇぇぇぇぇっ!
未成年者喫煙禁止法で禁止されてるんですがっ!
見つかったらやばいよ・・・。
そう思って立ち止まった僕を、水奈月さんが気付くと睨んできて、追い払うように右手を振る。
ヘタレな僕は止めるなんて事は出来ず、目を逸らすとその場から立ち去った。
家に帰った僕は、予想通りゲームどころじゃなかった。
放課後の出来事がぐるぐる頭の中を廻り続けて。
でも、あの水奈月さんは怒っているというよりは、別人な気がしてきていた。
僕と居る時と、行動も態度も言葉使いも全然違う。
待てよ、二重人格!?
の、演技?
そんな事を考えているうちに、僕はコントローラーを持ったまま寝落ちしていた。
翌朝、無駄な電気使うなとボスに叩き起こされたけど。
『やさしく、しといた』
水奈月莉菜は朝起きると、ベッドから起き上がり何時ものノートを確認した。一行だけ書いてあるその文字を見て、不安しか覚えなかった。
昨日の出来事の謎は解けるわけもなく今日も学校。
最近、よく分からない出来事が起き過ぎている気がする。なんかそう考えると、何時もの生活が遠のいているような気がした。
朝、教室にいた水奈月さんと目が合うと、微笑んでくれたので、今日はいつもの水奈月さんなのだろう。
と、思うようになった自分に違和感を感じなくはない。
いつものって何?
じゃぁ、昨日の水奈月さんはいつものじゃないの?
当たり前なんて、何処で分かるの?
僕が知っている水奈月さんは、この四月から一緒のクラスになったという事と、よく本を読んでいるという事実しかない。
何を基準にいつもとか思ったんだ僕は。
水奈月さんの事、何も知らないじゃないか・・・。
「いよいよ明日だな。」
「ほんと、やっとだね。」
休み時間に話しかけて来た祐二に、僕は相槌を打った。自分でも分かっているが、水奈月さんの事が気になり、空返事だ。ずっと楽しみにしていたゲームだというのに。
「なんだよ、元気ないな。ついに振られたか?」
振られてねーよっ!って言いそうになって焦る。付き合っているのばバレるじゃないか。
「あのな、妄想はしてないっての。」
「誰も妄想なんて言ってないぞ。」
ん、あれ、ほんとだ。いつも言われているから、当たり前のように思ってしまった。
ああ、何時もって言うのは、こういう日常の事だよな。
積み重ねた経験と時間。
そんなの、無い。
「そんな状態じゃ、狩りなんて出来ねーんじゃね?」
「するに決まってんだろ、待ち望んでたんだから。」
「だよな。」
「そうだよ。」
「それ、私でも出来る?」
僕と祐二が話しているところに、突然水奈月さんが入ってきて、少し驚いた。
「難しいんじゃねーか?俺らも体験版ちょっとやっただけだし。操作も慣れないと、最初の魔獣すら勝てないぜ。」
「だね。実際にやってみないと、フォロー出来るかも分かんないし。」
「分かった。ちょっと一人で頑張ってみる。慣れたら、一緒に遊んでくれる?」
「そりゃ構わないぜ、人数居た方が盛り上がるしな。」
「うん、僕もそう思う。」
そこでチャイムが鳴ったので、解散した。もしかすると、水奈月さんともデッドエンドウォーが一緒に出来るんじゃないかと、僕の中で期待が膨らみ始めた。
放課後、水奈月さんに誘われ、いつものファミレスに移動した。
いつもって言っても、まだ三回目だけど。
これってデート?
それとも、学校帰りに友達と話しているだけ?
経験の無い僕に、その線引きがよく分からない。
「あの、雪待くん・・・」
普段と違い、何かを言いずらそうに水奈月さんが話しかけてくる。
「はい?」
「あの、昨日なんだけど、ちょっとぼーっとしちゃってて、よく覚えてないの。」
は?
昨日って、あれだよな。僕が真っ先に思い出すのはシャツのボタンを外した事だった。
「それが、どうしたんですか?」
「私、変な事してなかったかな?」
不安そうな顔で水奈月さんは、昨日の事を聞いてきた。
いや、変な事と言われてもな。
変と言えば変かもしれない。
>シャツの前を開いてましたよ。
学校でタバコはまずいですよ。
ごちそうさまでした。
もう一回見たいです。
げ・・・また出て来たよ。僕の頭の中はしょうもないな・・・。
しかもろくな選択肢ねーし。
実際四つあるけど、水奈月さんを困らせるか、僕が嫌われるかの二択じゃねーか、アホか。
>変わりが無かった事にしておく。
よし、新しく作っておいた。
「べ、別に、変わったところは、無かった気が・・・。」
「えぇ、私何をしたの!?」
・・・
僕の挙動不審な言動は、選択肢の効果を打ち消しました。
だから、効果がもたらされませんでした。
僕の馬鹿・・・
「いや、ほんとに何も、無かったですから。」
胸の膨らみを見せてもらいました、とか言えるかっ!
「嘘!ちゃんと教えて。」
「ほんとです、ただ、普段より・・・」
「普段より?」
「不機嫌な感じではなく、口調は、穏やかだった気が、します。」
後から思い出してみれば、そんな気がした。最初のインパクトに比べれば、だが。
「それだけ?」
疑わしそうな目で水奈月さんは僕を見るが、それ以上はほんとに言えない。
「うん。」
「ならいいけど、もし雪待くんに迷惑をかけていたらと思うと申し訳なくて。」
迷惑じゃない、とは言い切れない。けど、気にはしていない。
「迷惑なんて、全然無かったです。」
「そう、良かった。」
水奈月さんは笑顔でそう言った。ファミレスに来て、やっと普段の笑顔が見れて嬉しかった。
けど、胸の膨らみを思い出し視線がそこに行ってしまうのは、後ろめたかった。




