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5話 あの、近いんですが?

私立櫻陵高等学校二年生の僕は、短い人生だったと思い始めていた。

いやだって、こんな可愛いクラスメートが告白してきて、しかも僕の部屋にいるとかおかしいでしょ。僕に死亡フラグが立っていて、その前に少しでも思い出を残してやろうと考えた、誰かの陰謀なんだよこれは、きっと。


「ね、なんか話してよ。」

いきなり難易度MAXクラスの要求を出すなよっ!そんなの無理ゲーだって、瞬殺ものだよ。

「あ、苦手なんですよね・・・。」

そもそも来たいと言ったのは水奈月さんじゃないか。とは、言えない。そんな勇気があったら、もっとスマートに会話してるっての。

「森高くんとはよく話しているじゃない。」

比べんなよ・・・。

「祐二は、中学の時からの腐れ縁だから。」

「そうだよね、私がちょっと無理言ってるよね、ごめんね。」

水奈月さんは優しくそう言った。本当に分からない、なんで僕にここまでしてくれるのか。

「いや、あの、嬉しいです。」

気遣いに感謝してそう言ったところで、部屋の扉がノックされる。


父親と言う名のボスの下僕は、現在会社に居る。土曜出勤だとか言ってぼやいていたから。

姉と言う名の悪鬼も、大学に入ると寮生活だから家には居ない。

つまり、この部屋をノックするのはボス以外にはいないということだ。

「はーい、どうぞ。」

ってなんでお前が返事をするんだ!

と、返事をした水奈月さんに突っ込む。もちろん、心の中で。一瞬、柔らかい気持ちになった僕は、もうそういう突っ込みしちゃうとその前の気分って飛んじゃうよね。台無しだ。

「お茶を持って来たの。こんなものしか無いけれど、良かったら食べて。」

と、お盆を家のボスが運んで来た。

「わぁ、ありがとうございます、頂きます。」

笑顔でお盆を受け取る水奈月さん。

「何お客さんにやらせてんのよ。」

ボスが冷たい目で見下してくる。いや、あんたの息子だよ?そんなスペックが無いの知ってるよね?

「じゃぁ、好きなだけゆっくりしていってね。」

水奈月さんに笑顔でそう言うと、ボスは去って行った。


「せっかくだから、頂きましょう。」

水奈月さんはお盆を、僕との間に置いた。

流石はうちのボス。

お盆の上には近くにある洋菓子店、エクレールで買ったケーキが乗っていた。家にそんなものが常備されている記憶は無いので、今買いに行ったんだな。

そして、何時も箱に入って殆ど見る事の無い、高そうなティーカップ。ご丁寧にティーソーサーの上に乗っかっている。

そこまではいい。だが僕が流石と思ったのはそんな事ではない。そのケーキセットは一人分で、他に乗っているのは僕がお小遣いで買ったコーヒー牛乳だ。

「好きなの?コーヒー牛乳。」

ですよねぇ・・・。そう思いますよね。僕だってたまにはケーキを食べたいっての!

「そう、好きなんです。」

逆らえないのでそう言っておく。実際、コーヒー牛乳は好きだから、いいかと諦めはつきやすい。早速紙パックの口を開けて飲み始める。

「ね、マンガ読んでみていい?」

「え、うん。」

紅茶を一口飲んだ水奈月さんがそう言った。本棚を眺める水奈月さんから視線を落とすと、制服のスカートから白い足が伸びている。

そういえばうちの学校の女子、だいたい膝上丈だったな。まともに足なんか眺めた事なんて無いけれど、今目の前には白くて柔らかそうな太腿がある。

初めて近くで見た女性の足に、視線が固定される。何故か、見とれてしまっていた。


あんまり見るのはよくないよな、そう思ったが外せない。

その時、水奈月さんの顔がこちらに動き出した、どうする・・・。


>じっと見つめる

 そっと目をそらす

 じっと見つめる

 じっと見つめる


って、選択肢考えている場合じゃないって。

しかもなんだこの選択肢、なんの陰謀で誰が考えたんだよっ!紛らわしい上に回避が一つしかないじゃないか。

>じっと見つめる

ってちがーうっ!


「どうしたの、頭を抱えて。」

よし、結果オーライ。何かの陰謀のお蔭で顔は逸らす事が出来た。

「いや、なんでもないです・・・」

「なんか変な事でも考えていた?」

・・・回避出来てないじゃん。

「そんな事はないです。」

「そう。これ読むね。」

本棚から一冊のマンガを取った水奈月さんは、笑顔でそう言った。特に何かしたわけでも無いけど、何故か若干後ろめたい気持ちになるのはなんだろう。

「あ、ケーキは食べないと乾いちゃうね。一つしかないけど、半分こする?」

ケーキの皿を手にした水奈月さんが、首を傾げて聞いて来た。

その仕草だけで十分です。

こんなに可愛いものだとは思わなかった。

免疫が無い僕を殺す気ですか。

「どうぞ、遠慮なく食べてください。」

ただでさえこの状況は、大変だっていうのに。食べたいのは食べたいですが、一個しかないので、そこまで欲張りじゃないですよ。そう思って言ったのだが。

「えー、一緒に食べようよ、それともケーキ嫌い?」

と言って皿を持った水奈月さんが迫ってくる。フォークで切り取ったケーキを僕に向けて。

「ほら、口を開けて。」

「ちょ、水奈月さん、近いですって・・・」

間近に迫った水奈月さんの笑顔は、楽しそうだった。

少し悪戯っぽい笑みが可愛い。

しかもその顔で、ケーキを食べさせようとしてくるなんて。

死ぬ。


放心してしまった僕は口が開いた状態になってしまい、ついに口の中にケーキが押し込まれた。


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