4話 それ、自分から聞きますか?
何故僕が水奈月さんに選ばれたのか不思議でならなかった。どっからどう見ても普通の見た目だと思うが、ゲーマーなんて女子に敬遠される対象だろうと思っているからだ。でも僕の友人である祐二はそんなことはない。
つまりゲーマー云々の問題ではないのだろう。だから、水奈月さんが声を掛けるのが祐二だったら納得がいく。悔しいけど。ついでに呪うな。
僕の人生においてさして不幸な事はなかった。いや幸福もないけどね。
にも関わらず突然降ってきた幸福は、雨水のように地面に浸み込んで消えていきそうだった。どうして水奈月さんは、突然僕の家に来たいなんて言い出したのか。もしかすると、僕がどんな人間か早めに確認して、決断を下すためだろうか。
確かに、そう考えれば不思議じゃない。でもそうすると、なんで僕を選んだんだってところに行き付くのだけど。
「あの、散らかっているので、明後日はちょっと・・・。」
とりあえず拒否するしかない。嘘がばれて幻滅され、終わってしまうなら時間を稼がせて欲しい。もう少し、水奈月さんの笑顔を僕に向けていて欲しい。
「そう。でも男子の部屋って、散らかっているものだと思うわよ。だから私は気にしないよ?」
なんてこった。僕のバリアがあっさり破壊されてしまったじゃないか。そこは気にしようよ、出来た人なのかもしれないけどさ。むしろ僕が気にしているんだって。
「お客さんが来るなら、やっぱり掃除とかしたいなって。」
よし、僕がんばれ。水奈月さんが来るなら、この際本とかは諦めて、せめて掃除くらいはしておきたい。
「あ、それなら私も手伝うよ。」
・・・
手伝うよ、じゃねぇぇぇ!
あんたが招かれる人だっての!
って口に出して言いたいけれど、そんな勇気があるわけがない。そう悩んでいる僕に、水奈月さんは更に追い打ちをかけてくる。
「あ、もしかして、見られたらまずい物でも置いてる?」
何を言っているんだこの女はっ!そういう事を聞いてくるなよ。返事に困るじゃないか。
「そ、そんな物はありません・・・」
「なんか怪しいなぁー。」
クスっと笑ってそういう水奈月さんは可愛いけれど、怪しまないで欲しい。無い物は無いっての。何を期待しているんだよ、もう。
「いや、本当に無いですから。」
苦笑しながら言う僕に、水奈月さんは笑顔になる。
「じゃ、決まりね。」
勝手に決まったぁっ!
誰がいつ良いって言ったよ。いろいろ段階すっ飛ばしてない?それ。今の会話の中で、何処に僕の了承があったのかな?
「いや、まだいいとは・・・」
「そうなの?」
僕が言っている途中で、水奈月さんは首を傾げて疑問顔になる。その仕草がまた可愛いのですが。
>断固拒否。
なんとか誤魔化して先延ばし。
違う話題に誘導する。
すんなり受け入れる。
いやもう絶対、明後日とか無理ですから。ちなみに違う話題に誘導できるスキルレベルは無い!
>すんなり受け入れる。
「いいです。」
負けました。無理です。僕には拒否できません。誰か僕に免疫をください。
そんなわけで付き合い始めて五日目、水奈月さんは僕の家に来ることになった。僕に告白して来た事も、僕の部屋に来ることも、何故なのか未だに分からないけれど、ついにその当日が来てしまった。
土曜当日、午前中の授業が終わると校門の外で待ち合わせて一緒に移動する。祐二からのメガへの誘いは適当に誤魔化して断った。さらば祐二、元気でな。
昨日、不機嫌そうだった水奈月さんも、今日は話したいつもの水奈月さんだった。昨日は眼光が鋭かったので話してはいない。どうしていいのか未だに分からなくて戸惑うが、それについての言及は無いので、多分大丈夫じゃないかなって思う事にした。
「へぇ、ここが雪待くんの家なのね。」
「うん、僕の部屋は二階なんだ。」
「じゃ、行こう。」
昨日、一応掃除はしておいた。どうせマンガやゲームを隠すスペースなんて無いから、それはそのままだ。実際隠せたとしても、趣味を読書だと言ったものの、マンガ以外の本はほぼ無いのでスカスカの本棚だけ残ってしまう、それも不自然だ。
「お邪魔しまーす。」
ってなんで僕より先に玄関を開けて入ってるんだぁ!?
僕が考え事をしている間に、水奈月さんは扉を開けて入っていた。慌てて追って僕も玄関を抜けると、既に我が家のボスである母が居た。
「いらっしゃい。どちら様?」
「雪待くんと同じクラスの水奈月と申します。今日は遊びに来ました。」
何さらっと挨拶してんだ。
ボスの鋭い眼光が僕に向けられる。いや、意味が分からないんだけど。
「あらそう、ゆっくりしていってね。」
満面の笑顔でボスは、水奈月さんにスリッパを用意した。
「ありがとうございます、お邪魔します。」
水奈月さんも笑顔で返して、家に上がる。僕もその後に続いて、靴を脱いでいる時に静かな声が微かに聞こえた。
「あんたが女の子を連れて来るなんて夢にも思わなかったわ。」
あんた母親だろっ!なんていう言い草だ。
まあ、僕も思ってなかったけどさ。でも、人に言われると釈然としない。
「変な気は回すなよ。」
「はいはい。」
ボスにそう言って僕は、怪訝な顔をしてこっちを見ていた水奈月さんを連れて、二階にある自分の部屋に向かった。
「へぇ、これが雪待くんの部屋なのね。」
入るなり見渡して水奈月さんはそう言った。勉強机の椅子しかないので、クッションとどちらがいいか聞くと、クッションが良いと言うので床に置く。
「読書が趣味、ねぇ・・・」
はいはい、もう分かっています。でも嘘は付いていない。しかし、水奈月さんの冷めた視線は僕の方をしっかりと見ていました。
「ま、学校であれだけゲームの話しをしているのに、哲学書とか並んでる方が驚くよね。」
水奈月さんはそう笑顔で言った。
「予想はしてたから、気にしてないよ。」
なんて良い子なんだ。笑顔が眩しいです。やはりこの笑顔と離れたくないな。
でもそうすると、一体僕の何がいいのかますます分からない。
「で、いかがわしい本はあるの?」
ちょっと悪戯っぽい笑みで次はそう聞いてきた。
・・・
それ、自分から聞いてきますか?僕をなんだと思っているんですか。どうしたいんですか?
「だからありませんてばっ!」
必死で否定する僕を、水奈月さんは声を出して笑った。




