33話 友達とか、勘弁してもらえます?
私立櫻陵高等学校、二年C組の教室に、水奈月莉菜は朝から出向いていた。
「遠影。」
遠影摩都璃はその声にはっとして、椅子から立ち上がる。
「莉菜さま。今日も凛々しくていらっしゃいますね。」
両手を胸の前で合わせ、頬に朱を見せるように、恍惚とした表情で遠影摩都璃は言う。
「私の友達に対する嫌がらせは今後止めてくれ。そうでなければ、遠影とは絶交する事になるぞ。」
それだけ言うと、水奈月莉菜は二年C組の教室を去って行った。
後に残された遠影摩都璃は、硬直したまま動かずに直立していた。胸の前で両手を合わせた姿は変わらなかったが、顔は血の気が引いたように白くなって。
『莉菜・・・
C組の遠影さんがね、数音を脅迫するの。
莉菜さまから離れろって。
言っても聞かないの。
本人から注意して欲しいな。』
水奈月莉菜は今朝、ノートを見て後悔していた。もっと早くなんとかしておくべきだったと。
(私だけに関わるならまだいいが、周りを巻き込み始めたら流石に言わなければならない。)
そう思って朝からC組に行ったのだ。
(しばらくは大人しくなってくれるだろう。)
横目に雪待や森高が話すのを見ながら、水奈月莉菜はそう考えていた。
「扱う言語が同じなのに会話が成立しない、ってのは何だと思う?」
朝から祐二がそんな事を言う。その疑問は理解出来るけれど。
「僕にだって分からないよ。」
昨日の遠影さんの事なんだろうけど、こっちの話しは聞く耳持たずに、一方的に言って去って行ったもんな。
「だよなぁ。」
今度からは遠慮なく、直接来るって事を考えると憂鬱だ。
また見下したような扱いを受けるんだろう。
「相手が分かってるんだから、とりあえず見かけたら避けよう。」
「それが一番いいな。」
差出人不明の手紙よりも対処しやすいと思った。直接は確かに嫌だけれど、相手が分かっている分、怖くはないなと。
「そういやDEW、五月一日からゴールデンウィークイベントが始まるな。」
「そうだね。昼の十二時だっけか。学校に来たくないよね。」
「ああ。どうせなら今日から配信してくれりゃいいのに。そしたら日月の連休楽しめんのにな。」
「だよねぇ。でもイベントモンスター結構強そうだよ。」
「それ、あたしも行きたいんだよ。」
登校してきた四乃森さんが話しに加わってくる。
「当たり前だろ。水奈月も大分慣れたし、四人なら行けるだろ。」
「そういや浩太、来月下旬の中間テストで平均点越えたらゲーム解禁だってさ。もしかすると、参加してくるかもよ。」
「無いな。」
「うわ、酷い。」
ばっさり切り捨てた祐二の言葉に、思わずそう口に出ていた。
「うん、あたしも無いと思ってる。」
可能性の話しを出したのはあんただよ!
酷くないかこいつら。空井くんはせっかくDEWやりたがっているんだから、少しは応援しようとか無いのか。
放課後、祐二にメガへの誘いを受けていたの向かう事にする。
一昨日行った時は話しだけで、結局ゲームしないで帰ったから。だったら別にメガじゃなくても良かったんじゃないかと思った。
だが、二人で校門を出た直後、僕らの前に立ち塞がる人物が現れる。
「げ・・・」
「う・・・」
二人そろって露骨に嫌そうな顔をする。
手が付けられないんだからしょうがない。
なんとか遠影さんを避けて、メガに行く方法が無いかと思案する。
「あ、あの!・・・」
「ご、ごめんなさい勘弁してください呪わないでください・・・」
「慌て過ぎだろ・・・」
声にびっくりして思わず、捲し立ててしまった。いやだって恐い事に変わりないだろ、呆れられても困る。
「こちらこそ、ごめんなさい・・・」
は?
どゆこと?
突然そう言って頭を下げた遠影さんに、疑問しか出て来ない。
「どうなってんだ?」
祐二も疑問を口にする。そりゃそうだよね、昨日と態度がまったく違うんだから。
「森高くんの言う通り、莉菜さまの友達に迷惑を掛けるのは良くないと思って。」
昨日と言ってる事が百八十度違うんですが・・・
なんだこの掌返しは。
祐二も隣で引き攣った顔をしている。だよね。
「それで、その・・・」
今度は何を言い出すんだ?
「と、友達になってくれませんか?」
なに?
遠影さんは少し恥ずかしそうに顔を背けて、変な事を言い出した。
>いや無理
呪いの世界へ還れ
ぎり下僕なら
嘘付け
わりと酷いな。僕はそんな風に思っているんだろうか。ただ、あんな手紙や扱い受けたら思っても不思議じゃない。
>嘘付け
だから、そんな事を言われたところで、信じるのは難しい。
「嘘ですよね?」
「嘘だな。」
祐二も同じ意見だったようだ。
「そ、んな・・・嘘じゃないです!」
そう言って遠影さんは首を左右に振る。それはそれで、目のやり場に困るんですが、武器も一緒に揺れてますから。
「ほんとです、私は莉菜さまに嫌われたくないんです。」
と言って、遠影さん泣きそうな顔をしていた。
それが本音か。
目的が変わっていないなら、手段が変わっていくだけだ。そう考えると、友達とか勘弁して欲しいんですが?
と思って祐二を見ると、祐二も首を振っていた。
「それ、俺らと友達になる必要がねーじゃん?他を当たってくれ。」
「ごめん・・・」
泣きそうに立ち尽くす遠影さんを置いて、僕と祐二はメガに向かった。
若干後味の悪い気分で。
それから二人でメガに行ったけれど、あまり気分が乗らずに早めに切り上げた。
帰ってDEWをやるかという事で。
家が見えて来ると、玄関の近くに櫻陵の制服を着た女の子が立っていた。
見間違えるわけもなく、水奈月さんだったが、その水奈月さんがいったい何の用だろう?
と思って近づく。
「雪待、私の知り合いの所為で迷惑を掛けて悪かったな。今日止めるように言っておいたから、おそらく今後は嫌がらせは無いと思う。」
そういう事だったのか。
遠影さんが泣きそうだった理由が分かった。最後に言ったのが、本音で間違いないだろう。
「水奈月さんの所為じゃないですよ。それと、ありがとうございます。」
「いや、私は特に・・・」
と言って水奈月さんは顔を逸らした。
それを言いにわざわざ来てくれたんだな。
「あら水奈月さん、いらっしゃい。好きに上がっていいわよ。」
げっ、ボスに見つかった。ってか今日は莉菜さんじゃないってのに。
「申し訳ない、私は今日別の用事があるので、これで失礼する。」
と言った水奈月さんにボスが怪訝な顔をした。
ですよね。
「明日は頼んだ。」
僕にだけ聞こえるように言うと、水奈月さんはボスに軽く頭を下げ帰って行った。
「なんか、雰囲気変わった?」
「気のせいだよ。」
ボスの疑問に適当に返しながら、去って行く水奈月さんの後ろ姿に心の中で、「うん」とだけ返事をした。




