32話 この人一体なんなんですか?
やるなと言われるとやりたくなる。そんな禁忌を犯して僕らは放課後の屋上に来ていた。
「とりあえず、中身見てみようぜ。」
この手紙の差出人はまだ、祐二の口から語られてはいない。内容とかどうでもいいから早く教えて欲しいな。
『雪待、言っても分からないようだな
コレハ オドシデハナイ
呪われてから
コウカイスルガイイ・・・』
「ほんとだぁ・・・」
「確実に現在進行形だな、これ。」
少し楽しそうに言う二人。こいつら、他人事だからって・・・。
ってかほんとに呪われたら嫌なんだけど。呪いなんて信じてはいないけど、無いという根拠が示せるわけじゃない。
あと単純に、文章が怖い。
「で、誰なの?早く教えてよ。」
莉菜さんが急かす。僕も早く知りたいんだけど、なんで勿体ぶってんだよ。
「どうしようかな。」
どうしようかなじゃねぇ!なんの為に集まったんだよ。ただ怖い思いするだけじゃないか。
「もう、集まった意味がないじゃない。」
そうだ、もっと言ってやれ莉菜さん。
「分かった言おう。この手紙の差出人は二年C組の奴だ。そうだろ遠影!」
祐二はそう言うと、屋上の出入り口に目を向けた。が、扉から特に反応は無い。
「え?遠影、さん?」
クラスが違うので名前も良く知らない。
「遠影 摩都璃。一年の時、同じクラスだったわね。」
「そうなんだ。」
って、女の子!?
「えぇ。そんなに話しかけてくる子では無かったのよ。何度か一緒に下校したくらいかしら。ただ、それも一学期だけで、その後はあまり話した記憶が無いのよ。」
へぇ。謎だ。
「返事が無いって事は、この手紙が教員や警察に渡る事になるぞ。」
更に祐二が扉に向かって言う。本当に居るのか?祐二の演技か、格好つけて言ってみただけじゃないのか?
と思っていたが、ゆっくりと扉が開くと現れたのは、女の子だった。
身長百五十くらいだろうか、小柄で細身な見た目だった。セミロングくらいの黒髪はポニーテールにしてあり、顔の横は結わずに垂らしている。現れた遠影さんはフレーム無し眼鏡の奥に、動揺の色を浮かべた瞳が揺らいでいた。
「まんまと嵌められたのね・・・」
遠影さんは近付いてくると腕を組んで、そう言って悔しそうに顔を背けた。いや被害に遭ったの僕なんですが・・・。
呆れて遠影さんを見ていると、ある事に気が付く。細身で小柄なわりに、組んだ腕の上に膨らみが乗っかっていた。ちょっと視線が釘付けになってしまう。
ってそうじゃなくて。
「なんで、こんな手紙を、僕に?」
僕が疑問を口にすると、凄い勢いで正面から睨んでくる。
「ゴミ虫の分際で、莉菜さまに近づくからに決まってるでしょうが。」
何を言われたか分からず一瞬硬直する。いや、その気迫に驚いたと言った方が正解だろうか。
どちらでもいいけど、この人一体なんなんですか?
なんで僕がそこまで言われなければならないのか。
「これ以上、数音を侮辱するなら許さないわよ。」
そこで莉菜さんが僕と遠影さんの前に割って入った。
「お前に要は無いわ。私が慕っているのは莉菜さまだけなのよ。」
・・・えーと、はっ?
いや待て。つまりあれか、莉菜さんじゃなく、水奈月さんの方なんだな。ややこしい・・・。
ってか気付いているのか。莉菜さんと水奈月さんの違いに。
「まぁ落ち着け。話しが進まねー。」
祐二はそう言って二人の間に割って入る。
「遠影、お前が水奈月の事をどう思うが勝手だ。だがな、これはやり過ぎだ。」
手紙を遠影さんに突き付けて祐二は言うが、遠影さんは視線を鋭くする。
「本来なら昔から莉菜さまの周りを飛び回る、小うるさい羽虫のお前も呪ってやりたいくらいだ。」
うわぁ・・・
怖い。
でもやっぱり祐二は、水奈月さんと昔から知り合いだったのか。
「俺の事はどうでもいいが、とりあえずこれで終わりにしておけ。」
「これ以上、莉菜さまと馴れ馴れしくしないなら、考えるけど。」
引きそうにない遠影さんに、祐二は溜息をつく。
「なぁ遠影よ。お前の思いを押し付けるのはいいが、それを水奈月が望んでいるとでも?」
「当然よ。」
言い切った。遠影さんは自分の思いから、視野狭窄に陥っているんじゃないかな。なんか見ていたらだんだん、僕も冷静になってきた。
「分かった。」
「分かればいいの。知れてしまったからには、今後手紙なんて回りくどい事をしなくて済むわ。」
折れた祐二に、遠影さんはそう言うと、フっと口の端を上げて去って行った。
待って、何も解決してないんですが。
「悪ぃ数音、俺には勝てん。」
勝ち負けの問題じゃないだろ。って僕だって何も出来ないけどさ。
「大丈夫、数音?」
「う、うん。まだ何かされたわけじゃないし。」
心配そうな顔をする莉菜さんに、僕は苦笑いしながら答えた。これは、どうしようもないよ。
「遠影は可愛い上に、強烈な武器も持っているが、あれは差し引いてもマイナスからは上がれないな。」
なんの評価だよ。
だけど強烈な武器ってあれか、胸か。確かに大きかったけど。
って祐二の話しはスルーだ。
「でもなんか、嫌な予感がするなぁ・・・」
僕の呟きを最後に、僕らは屋上から解散した。
「ねぇ数音。」
祐二と別れたあと、僕は莉菜さんとファミレスに寄る事にした。家に来るとか言われたけど、この前の出来事もあり遠慮してもらった。ボスや悪鬼は莉菜さん側に付くので、僕の精神が擦り減る。
「どうかしましたか?」
「日曜ってなにかある?」
「無いです、何処か行きましょうか?」
DEWをやりたいくらいだ。でも、それは一人の時間になんとかなる。
ゴールデンウィークには早速、GW限定イベントが配信されるけど、それまではのんびりやればいいし。
と思って言うと、莉菜さんが驚いた顔をしていた。
「どうか、しましたか?」
「数音から、そう言われるとは思ってなかったから。」
そうか。そうなんだね。僕も言われて気付いた。でも普通にそう思ってしまったんだよね。
莉菜さんと一緒に居たいって、自分の中でそう思っているところがあるんだろうか。
「あのね。数音と、映画見に行きたいなって。」
「何か見たいの、あるんですか?」
「違う、数音と何か見に行きたいの。数音ってどんなのが好み?」
>任侠もの
ホラーもの
マフィアもの
ギャルゲーみたいな女の子がいっぱい出るハーレム系
なんで最初が任侠なんだよ。むしろ怖いから見たくないっての!ろくな選択肢ねーな!
普通、ファミリー向けほのぼのアニメとかさ、こころ温まる動物ものとか、泣ける恋愛ものとかあるんじゃないのか?
なんで好き好んで彼女とそんな映画を見に行かなきゃならないんだ・・・。
>ハーレム系
ってまてコラ!僕のデートを台無しにする気か。
「ハー・・・」
って何を言おうとしてんだよっ!
「ハー?」
莉菜さんが首を傾げる。
「ハートフルな、感じ?」
「なんで疑問形なのよ。」
と言って吹き出すように笑う。危なかった、ろくな事をしないな僕は。
「映画館に行って決める、のはどうですか?」
「あ、いいね。待ち時間にお茶をしたり。って思うのは私の勝手かな?」
「いえ、いいですよ。」
素直にそう思った。ゲーム以外の時間の過ごし方、考えた事も無かった。確実に莉菜さんの影響なんだろう。
そうか。
まだ漠然としか分からないけれど、相手との時間を共有したいってこういう事なのかな。
だから、莉菜さんはDEWを始めたのかもしれない。
一緒の時間を共有したいから。




