29話 なんで命令口調ですか?
>莉菜さん、抱いていいですか?
莉菜さん、キスしていいですか?
莉菜さん、脱がせていいですか?
莉菜さん・・・していいですか?
目の前で、瞳を潤ませて見上げてくる莉菜さんの目を見つめ返し、僕はそんな事を考えていた。
制服の白いシャツが少しはだけ、白い肌の鎖骨が見えている。
もう少しで胸の膨らみが見えそう・・・
>莉菜さん、・・・
・・・
目覚まし時計を止めて僕は起き上がった。
なんて夢を見たんだぁっ!!
下半身もしっかり起き上がっているが、見た内容に若干、罪悪感が湧いてくる。
ただ続きを見たくないのかと言われれば、否定できないけれど。
『写真撮っておいた。
雪待が撮って見せた方がいいというので。』
水奈月莉菜は朝起きると、ノートに書かれた文字を見る。
「写真ってなによ?」
相変わらずほとんど説明の無い文に、疑問を口にする。だが、まあいいかと思い携帯の画像を確認した。
「これ、森高君?・・・か、かわいっ・・・」
水奈月莉菜は、その画像にお腹を抱えて笑いを堪えた。
「よう数音・・・」
朝から珍しく元気の無い祐二が声を掛けてくる。
「なんか疲れてない?」
「あのなぁ、昨日のあれで疲れないわけがないだろ。」
いや、当たり前の様に言うけど、経験した事がないから分からないって。
「次、数音の番な。」
「はっ?」
突然何を言い出してんだこいつ。着るわけないだろ、アホか。
「何着ても似合うのはイケメンに限るんだよ。」
「まぁな。」
おい。
さらっと自分がイケメンだと認めやがったなこいつ。
「かなり注目されていたよね。」
「別の事で注目されたいが、話しを逸らすな。」
ぐ・・・
「着ないとあの写真が誰かの目に触れるぞ。」
あの写真ってキスのだろうな・・・。若干目が据わっている祐二に恐怖を感じる。お前も道連れだと言わんばかりだ。
「それ、普通に脅迫なんだけど・・・」
「うん知ってる。だから数音も俺と同じ目に遇え。」
うわぁ、完全に道連れ目的だったよ。
「おはよ、見たよ森高くん。なかなか美人じゃない。」
そこで莉菜さんが笑いながら現れる。良かった、助かった。
「まぁな。」
美人は認めるのかよ。
「つーことで、次はこいつの番だから。」
って指差すな!まだ諦めてないのかよ!
「着ないよ!」
「なんでっ!?」
待て待て、着るのが当たり前みたいな驚き方すんなよ。何を期待してんだ莉菜さんは。
「私は動いている森高メイドを見てないのよ。だから数音が着て動いて。」
何おかしな事を言ってんだこの女は!
「おはよ。」
そこに現れた四乃森さんが、無言で紙袋を莉菜さんに渡す。
「いいの!?」
「友達にはあたしから言っておくから、遠慮すんな。」
余計な気を回してんじゃねーよアホっ!登校するなり何しでかしてくれてんだこの女も。
さらに隣で小さくガッツポーズしてんじゃねーよアホ祐二。
結局僕に回ってくるのかよ。
絶対着ないけど!
チャイムが鳴り解散していく面子を見ながら僕は誓った。
「数音、一緒に帰ろ。」
放課後を知らせるチャイムが鳴ると、莉菜さんが直ぐに僕のところに来る。死肉に群がるハイエナのように祐二と四乃森さんも寄って来た。
来るなよ!
「今日はメガでプリクラ撮りたい気分なんだよね。」
黙れ。
別の誰かと行けよ。何気なくを装う四乃森さんにそう思った。
「実は俺もそんな気分だった。」
「みんなで行けばいいじゃん。僕は今日は帰る。」
「そっか、また今度な。」
「次は付き合ってよね。」
僕が席を立つと、何故か二人はあっさりそう言った。この前の僕の態度を気にしているのだろうか?
僕の見えないところで、三人が親指を立てていたのを僕は知らなかった。
「待って数音、一緒に帰ろうって言ったのに、返事は?」
そっか、三人でグルになっていたわけじゃないのか?
「うん、いいですよ。」
「来週もうゴールデンウィークでしょ。日時そろそろ決めない。」
ああ、そう言えばそうだった。この前の件ですっかり忘れていたよ。
「そうだね。ファミレス行きます?」
「数音の家じゃダメ?PCで情報見れるし。」
いや携帯でも見れるじゃん。
「多分、大丈夫です。」
基本平日はボスしか居ない。三度目だし、前程の緊張もしないだろう。
「じゃ、決まり。」
隣を歩く莉菜さんの手に、僕の手が触れる。恥ずかしさもあったけれど、自然と手を繋いでいた。
「あらいらっしゃい。」
「お邪魔します!」
家の前で解かれた手には、まだ少し感触が残っている気がした。
莉菜さんはいつも通り挨拶をして、ボスもいつも通りの態度だ。きっとこの後エクレールにケーキを買いに行くんじゃないだろうか。
二階に上がろうとすると、ボスが携帯を手にするのが見える。
あ!!
「弥那子には言うなよっ!」
「分かってるわよ。」
渋々携帯を置くボス。分かってる態度じゃねーだろそれ。まったく、油断も隙も無い。
「ね、ミナコって誰?」
部屋に入ると莉菜さんが聞いてくる。そう言えば、話した事無かったか。
「あっき、じゃなく・・・姉です。大学二年で、寮生活しているんで家にはいないんです。」
「へぇ、お姉さんが居るんだ。でも数音って、女子慣れしてないよね。」
悪鬼は悪鬼だからな。
「姉があまり、女子っぽくないというか・・・」
「そうなんだ。」
他ではどうか知らないけれど、少なくとも家ではない。
「ところで数音、日時決める前にお願いがあるの。」
「な、なんでしょう?」
まだ何かあるのか。と思って聞くと、莉菜さんはさっと紙袋を僕の前に置いた。持ってたのかよっ!
「だから、着ませんよ。」
「お願い、私の前でだけでいいの。」
と、上目使いでお願いされるとなぁ。
いいや、でも誓ったんだ。着ない。
「ちょっとだけでいいの。数音との思い出として私に頂戴・・・」
何を好んで男のメイド姿が見たいんだよ。
でも、ここまで言われると断れない。
「少し、だけですよ。」
「ありがと!」
凄く嬉しそうな笑顔する莉菜さんを見ると、しょうがないなって思えた。
着替えている間、部屋の外で待ってもらう。
黒いタイツも、スカートも変な感じがした。
扉を開けて莉菜さんを部屋に入れる。
めっちゃ恥ずかしいんだけどこれ。鏡は見たくないし。
って、凄い嬉しいというか、楽しいというか、おもちゃを与えられた子供のように莉菜さんは目を輝かせている。何が楽しいんだか。
「似合うじゃない!」
嘘付け。
ただの男子高校生でそれは無いだろ!
「お座り。」
何故命令口調になるんですか・・・?
僕がメイドだからですか?でもとりあえず正座する。もういいだろう、着替えたい。
「もう、いいですよね?」
「待って!」
莉菜さんはそう言うと、携帯を取り出す。まさか・・・
「残さないでくださいよ。」
こっちに向ける携帯と、莉菜さんの腕を掴んで写真から逃れようとする。
「あっ!」
僕が引っ張った事により、莉菜さんがバランスを崩して僕の方に倒れ込んでくる。
痛い、また頭を打った。
「強引なのね。」
莉菜さんはそう言ってほほ笑んだ。
強引なのね、じゃねー!
ってこの状況はマズイって!
莉菜さんが倒れた僕の右足を、足で挟む形で倒れ込んでくる。メイド服のスカートが捲れ、莉菜さんの太腿の感触がタイツ越しに伝わってくる。
暖かくて柔らかい・・・
ってヤバイ、あそこが反応するって・・・
その時階段を駆け上る音が響いてきた。
えっ!?
もっとダメだろそれっ!
「数音!彼女が来ているんだって!?」
と言いながら悪鬼が部屋の扉を開け放つ。
「あっ・・・」
終わった・・・




