28話 ご、ご主人様!?
「いえ、特にはありません。」
僕がその場の雰囲気に耐えられなく、逃げ出しただけの話しだ。悩みなんて大層なもんじゃない。あれがゲームでも学校でも続くのなら悩みになったかも知れないが、今のところそれも無い。
「そうなの?悩み事、困った事、些細な事でもいいのよ?」
一日さぼっただけで何を気にしているんだろう。
「あの、本当に何も無いですから。」
「そう、分かったわ。」
どちらかと言えばこの状況が困った事だ。早く返して欲しい。
「じゃぁおしまい。何かあったら遠慮なく相談してね。」
先生はそう言うと椅子から立ち、指導室の扉を開けてくれた。
「はい。」
指導室を後にすると、僕は急いで教室に戻る。
「お、意外と早かったじゃん。」
最初に気付いた祐二が、そう言った。
「怒られたか?」
「いや、何か悩みは無いかって聞かれただけでした。」
四乃森さんの疑問に答える。
「よし、じゃぁ行くか。」
「ところで、何故私も一緒なんだ?」
祐二の合図に、水奈月さんが疑問を口にする。そう言えば、水奈月さんは状況を把握して無いのかもしれない。
「この四人に意味があんだ。付き合うくらい問題無いだろ?」
「まあ、構わんが。」
四乃森さんの言葉に、渋々納得した水奈月さんを含め、僕らは駅前のバーガーKOFへ向かった。
その前にだ。
近くのデパートに、四乃森さんと祐二が入っていった。食べる前にする事があると言って。
「何故二人だけなんだ?」
「さぁ、僕に聞かれても分からないです、ただここで待ってろと言われたので、待つしかないです。」
水奈月さんに聞かれても、四乃森さんが言い残した事以上は分からない。
「そうか、まあいい。話しは変わるが。」
「なんでしょう?」
祐二と四乃森さんに対して、さして興味も無さげで水奈月さんは話しを変えた。
「昨日はありがとうな。あいつ、喜んでいたんだ。」
「そ、そうですか。」
一体どこまで知っているんだ?今までの話しからすれば記憶の共有は無いと思う。お互いがお互いの事を聞いてくるし。
「あそこまで喜んでいるのは、初めてかもしれない。」
「あの・・・どこまで知っているんですか?」
そんなに言われると、何処でどう知っているのか気になってしまう。でも、それは僕から聞く事は出来ない。そこまで踏み込んでいいのかも分からないし。ただ、水奈月さんが何処まで知っているかくらいは、いいかなって。
「お互いノートに思った事を書いているだけだ。何があったかは分からないが、嬉しそうなのは十分に伝わって来たんだ。」
ノート・・・原始的だって思ったら失礼かもしれないが。
だけど、そんな方法だったなんて。
「そうなんですか。」
「あいつには私が言った今の話しは言うなよ。」
「はい。」
いつも仏頂面に見える水奈月さんの顔は、今は少し優しそうに感じた。
「ところで、体育館倉庫裏での私の行動を話したな。」
優しそうに感じたのは気の所為だ、鋭い視線が怖い・・・。
あれが伝わってしまったのか。
「すいません、流れで問い詰められてしまって・・・」
自爆なんですがとは言えない。
「まあ私も、短絡的だったところはあるからな。」
短絡的というか、別方向に向かった気がします、なんて言えないよな。
「しかし遅いな。」
「ほんとですね。」
祐二と四乃森さんが消えてから、既に二十分ほど経過している。一体二人は何をしているんだ?
待っていてと言ったからには、僕らを二人にして放置って事は無いだろうけど。
「せっかく来たのだから、私は早く食べてみたいんだが。」
「僕もそうです。」
あと、水奈月さんと二人は間が持たない。
「お、出てきた。」
と思ったところで、水奈月さんが言うのでデパートの方に目を向けると、四乃森さんがこっちに向かって手を振っていた。
「なんでしょう?」
「さあな?」
祐二は見当たらない。
手を振っていた四乃森さんが、入口から外に何かを引っ張っている。
「まさか・・・」
「げっ・・・」
四乃森さんが無理やり引き摺り出したのは、メイド姿の人だった。
まぁ、メイド服を着た祐二だったのだが、遠目からは判別出来なかった。
「ほお、こんな催しがあったとはな。しかし何故メイド姿なんだ?しかも森高のみ。」
「あぁ、昨日いろいろありまして・・・」
「そうか。」
説明していいのか分からないが、問い詰めるような事は無かったので話さなかった。
「屈辱だ・・・」
「バレないバレないって。めっちゃ似合ってるよ、森高さん。」
歯を食いしばるように言った祐二に、四乃森さんが楽しそうに言う。
「さ、食べに行こう。」
「待て!!この恰好で行かせる気かっ!」
四乃森さんがバーガーKOFに向かおうとすると、祐二が慌てて引きとめる。
「それじゃここで着替えてもらった意味が無いもん。」
さらっと言った四乃森さん。最初からこれを考えていたんだと気づく。今朝の不敵な笑みはこの事だったんだなと。
「私も手伝おう。」
どうやら水奈月さんも面白がっているようだ。四乃森さんと二人で祐二を連行していく。
祐二の助けを求める視線から、僕は目を逸らしてついて行く。
すまん、祐二。
お店に入ると僕らは席を確保する。店内の混雑は、開店して間もないからってわけではないだろう。ファストフードのお店は利用者が多いみたいだし。
「じゃ、森高さんお願い。」
四乃森さんが、祐二に買いに行かせようとしている。
もうこれ罰ゲームかなんかじゃないか?
僕が言われている事より、扱いが酷い気がしてきた。
「僕、行ってこようか?」
と、席から立つと祐二が手で制してくる。
「気にするな数音、俺が行ってくる。」
「そうだよ雪待、メイドの仕事なんだから。」
「お前が言うなよ。」
「お前じゃないだろ?」
え、それって、ご主人様!?
言うのか?
だけど祐二は言わずに僕らの注文だけ確認すると、レジの方に向かって行った。
「やり過ぎ、じゃないかな?」
「もう本人も開き直ってるし、いいんじゃないの?」
そうかなぁ。
僕の時みたいにならないといいけど。
「待たせたな。買ってきてやったぞ。」
「森高さん、違うんじゃないかなぁ?」
買って来た祐二に、四乃森さんがニヤニヤしながら言う。確かに。
>お待たせ致しましたご主人様、だろう?
跪け!
食わせてくれるんだろ?
祐二、付き合ってくれ。
うわ、鬼畜かよ。最初のはいいとして他はなんだ。しかも最後は何考えてんだよ、バカか!無いだろ!
>お待たせ致しましたご主人様、だろう?
無難にここだろうね。
「お待たせしましたご主人様。」
って、言う前に言ったぁ!ってか言わされたんだよな、恐るべし四乃森さん・・・
本人は満面の笑みだっだが、メイドさんは不貞たような顔でバーガーを齧る。
あと、店内に居たお客さんの視線を集めたのも、言うまでもなく。




