21話 す、鋭くないですか?
「ちゃんと真面目に向き合ったんだ、数音が気にする事じゃない。」
おい・・・
僕がごめんと零した直ぐあと、外階段に吹く風に髪を靡かせて、遠い目をした祐二が現れてそう言った。視線は何処か遠くの景色に向けられている。格好つけてるつもりか分からないけど。
「祐二・・・」
「なんだ数音、泣きたいなら胸くらい貸すぞ?」
壁に片手を付いて祐二はそう言って来た。アホか。
「警察に被害届け出していいかな、ストーカーがいますって。」
台無しだよ。
どんな思いで僕が此処にいると思ってるんだ。
「待て親友。」
「うるさい・・・」
そう言って校内に戻ろうとしたら、祐二が僕の腕を掴んで止めた。
「数音。俺は真面目に言ったんだ。」
祐二の方を見ると、その目は真剣に見えた。
「何処で何が起きているか、確かに俺には関係の無い事だ。だがな、人間って自分の感情を表に出さずにはいられないんだよ。お互い気まずくなる事だってある。それは受け止めて前に進まなきゃダメなんだ。今は後悔してもいい、ただ、前は向いておけ。」
ふざけて来ていたわけじゃない事は分かった。
僕の事を心配してくれているのだろう。
でも、今はそっとしておいて欲しかった。
四乃森さんを、傷つけた事に変わりはない。
って思うのは、僕の傲慢だろうか。
「ありがとう祐二、でも今は、一人にして。」
「分かった。」
おせっかいな奴だな。
授業中も、次の休み時間も、僕はぼーっとしていた。祐二は気遣かってか、話しかけて来なかった。それは水奈月さんも同じだったかもしれない。
「よし、今日の作戦会議だ。」
土曜日なので半日で放課後を迎える。最後の授業が終わった瞬間、祐二が僕のところに速攻来て肩に手を置くと、そう言った。ああ、そっとしてくれたのは二時間程か・・・。
「おい雪待と森高、行くなら今日も混ぜてくれ。」
と、四乃森さんも笑顔で近づいてくる。
え?
何時もの調子で近寄ってくる四乃森さんに、僕は驚いた。
その時、祐二に背中をグーで小突かれる。
(数音よ、相手の事を思うなら、これ以上恥をかかせんな。)
祐二が僕の耳元で小さく言った。
四乃森さんをよく見ると、目がまだ赤かったから、いつもの調子を演じているのだろう。
何がいつもの調子だ、僕は馬鹿だ。
祐二に言われないと、気付かないなんて。
「おうよ、今日は全開で行くぜ。」
「明日休みなんだから、当然。」
祐二に続いて僕も言う。
「お、二人ともやる気じゃん、まずはAliceを弄ってテンション上げてからだな。」
「イニシエーションだもんな。」
「いい加減飽きろって・・・」
いつから僕は通過儀礼になったんだ、アホか。
「水奈月も行くんだろ?」
「もちろん、Aliceを可愛がりに行きます!」
四乃森さんに声を掛けられた莉菜さんが、立ち上がってガッツポーズで返事をした。
僕以外がそれで笑う。
まて、目的が違うだろ。
いや、狩りに行くんだよ?
ただ、その雰囲気に、僕の気持ちは救われた気がした。
祐二の気遣いと、四乃森さんの頑張りに、救われている自分が、同時に情けなく感じた。
学校帰りに莉菜さんは、何故かスーパーのテナントでお菓子を買っていた。
これから家で食べるのだろうか。
だとしたら、コンビニのお菓子でいいんじゃないだろうか?わざわざ箱付きなんて贅沢な。
ついでなので、僕もチョコとか幾つかのお菓子を買う。
「またお邪魔します。」
玄関を入り、現れたボスに莉菜さんが挨拶をする。
「あらいらっしゃい。何時でも来ていいわよ。」
おぉ、家族の前では見せないボスの笑顔だ。
「ありがとうございます。これ、先程買ったもので恐縮ですが、召し上がってください。」
「まぁ、ありがとう、嬉しいわ。でも次から、気を遣わなくていいわよ。遠慮せずに遊びに来て。」
満面の笑顔じゃないか。こんなボス見た事ねぇよ。
「はい、ありがとうございます。」
次の瞬間、一瞬だけボスの表情が変化する。その一瞬は僕に見下したような目を向けた時だけだ。つまり、お前も見習えって事だろう。
余計なお世話だ。
部屋に上がると、莉菜さんが笑顔で僕を見据えてくる。
またあの乾いた笑顔だ。
まて、僕は何かしたか?
「な、なんでしょうか?」
「何か隠してない?」
えーと、なんで?どうしてそういう話しになったんだろう。僕は特に何もしていなんだけど。
「数音、お茶。」
ボスが現れた。
「あ、ありがと。」
ボスからお茶を受け取って部屋に運ぶ。今日は緑茶だったが、香りがいいのでこれも良いやつなんだろう。
「あの、特に何もないですが・・・」
心当たりも無いので、そう答えた。
「四乃森さんと、何かあったよね?」
う・・・その事か。莉菜さん、鋭過ぎませんか?とは言えない。
「ちょっと。」
「話せない事?」
「いえ、そんな事はないです。」
それから、昨日と今日有った事を莉菜さんに説明した。
「そんな事が有ったのね。でも、私を選んでくれたんだ。」
莉菜さんはそう言ったが、表情は笑顔とまではいかなかった。
「怒ってます?」
「そんなわけないでしょう。四乃森さんには四乃森さんの思いがあるんだもの。誰が悪いわけでもない。でも、数音が告白された事は面白くないの。」
そうですか。僕はどうしたらいいんだ。
「告白されて嬉しかった?」
「いえ、困りました。」
嫌じゃないけど、そう言ったら機嫌を損ねそうだ。
「それは私の時も同じじゃない。」
言われてみればそうだった。
「そう、ですね。」
その通りだ。ってなんで僕が責められているような状況になっているんだ。困るの当然じゃないか、もう。
「でも話してくれてありがとう、嬉しい。」
そこで莉菜さんはいつもの笑顔を見せてくれた。
「それじゃ本日のメイン、旅行の話しをしましょ。」
「う、うん。」
そう言えばそうだった。でもさっきの話しでもう疲れたよ。
「数音、お菓子。」
再びボス。
「はいはい。」
「おばさん、ご馳走さまです。」
「いいのよ、ゆっくりしていってね。」
僕が受け取ると、莉菜さんがお礼を言って、ボスが笑顔を返す。ただ僕に視線が向いた時には、その笑顔は無い。
またエクレールでケーキを買って来たな。ご丁寧に紅茶も淹れてある。それも当然の如く一セットのみ!
流石はボス。
内部には厳しい。
「で、何処か行きたいところってある?」
高難易度の質問をするなよ。ゲーマーで出不精の僕にそれを聞きますか?
「まさか、行こうって話してたのに一切考えて無いとか、無いよね?」
う、そういう事か。ここで、うん、とか言ったら怒られそう。いや嫌われるだろうか。
何処でもいいから考えておけば良かった。
なんかないか・・・
>西の村にある山の麓
東の港町付近にある海岸
南の湿原にある綺麗な湖
北の高原にある街の有名な花景色
何処も映像は綺麗だった。ってアホかっ!全部DEWの中にあるフィールドじゃないか。
怒られるどころか必死!
>中央拠点の展望台
そこから離れろ僕!死にたいのかっ!
なんか無いだろうか・・・
「は、箱山・・・は、どうでしょう。」
それはボスが下僕と話していた会話を思い出したものだった。
今年は久しぶりに箱山に行こうとかなんとか。
それ以外に思いつかない。
僕は、莉菜さんの反応をうかがう。




