19話 あぁ、殺していいかな?
莉菜さんにキスされた。
おそらく間違っていないだろう。
って事で呆然としていた僕は、少し帰るのが遅くなった。時間からすると三十分程じゃないだろうか、よく覚えていない。
ただ、DEWにログインした時には、既にRINAがログインしていた。屈辱。
ご飯を食べながら、白米が唇に当たると、やっぱり夕方の出来事を思い出してしまう。
目を開ければ良かったな、とか。
キスしてしまった、とか。
僕はファミレスの前でそういう妄想をしていたんだじゃないか?という疑問も捨てきれない。
でも、感触は今もはっきりと覚えているから、きっとしたんじゃないだろうか。
もやもやする。
「早いとこ食べな、誰が洗うと思ってんのよ。」
なかなか進まない食事に、ボスが冷たい視線で言い放った。
「はい。」
そんな事もあり、ログインには二人より遅れてしまったわけだ。
ゼット ≪今日はずいぶんのんびりだな≫
RINA ≪ゲーマーのくせにね≫
誰の所為だと思ってんだよ!
ゼット ≪風上にもおけねぇな≫
RINA ≪そうだそうだー≫
だからお前の所為だろうが!なに一緒になって煽ってんだよ!
Alice ≪ちょっとぼーっとしてて、ご飯食べるの遅かったんだ≫
RINA ≪妄想?≫
おぃ・・・祐二に感化され過ぎだ。
ゼット ≪いや違うな、俺の予想では恋煩いだ≫
黙れ祐二。後ろから槍で突いてやろ。
RINA ≪きゃ、Alice可愛い≫
お前らいい加減黙れよ。
Alice ≪いいから狩り行こうよ。今日はマンティコアが襲っている西の村でしょ≫
ゼット ≪そうだったな≫
RINA ≪強いの?≫
Alice ≪多分ね。あと、毒と麻痺の状態異常があったかな≫
ゼット ≪あったな。解毒と解痺がいるな≫
RINA ≪私苦手かも・・・≫
Alice ≪とりあえず、行ってみようか≫
ゼット ≪だな≫
RINA ≪うん≫
昨日も何時もの乗りで疲れた。祐二と二人だったら何事も無く、黙々と狩りに専念するんだけどな。なんで莉菜さんや四乃森さんがいると、ああも精神的に疲れるんだろうか。祐二の奴も調子に乗るし・・・。
「数音、数音!」
朝教室に着いた僕に、やけに嬉しそうなハイテンションで祐二が話しかけてくる。
なんか嫌な予感。
「なんだよ、朝から元気だな。」
「そりゃな。大スクープだったからな。」
と言われてもね、僕はニュースとか情報番組は見ないから分からない。
「僕が興味無いの知ってるだろ。」
「いや、今回は絶対にお前を驚かせる自信がある。」
何処から湧いてくるんだ、その自信は。今までだってそんなに反応した事なんて無い筈なんだけど。
「まぁとりあえず席に着けよ。」
やけに勿体ぶるな。
席に着いた僕に、祐二は周りに見えないよう携帯の画面を隠しながら、僕の前に画像を出した。
!!!!!!!
「なんで撮ってんだよっ!!はんぐぅ・・・」
叫んだ僕の口を祐二が無理矢理手で塞ぐ。
「ちょっ、うるさい!周りに気付かれたら大変だろ。」
どの口が言ってんだコラ・・・
祐二が出してきた画像は、昨日のファミレスの前だった。しかも、しっかり莉菜さんが僕にキスをしている写真だ。やっぱり昨日のはキスで間違いなかったんだ。
じゃねぇっ!
「祐二、盗撮は犯罪って知ってるよね。」
僕が睨んで言うのも気にせず、祐二が肩に手を回してくる。
「よく撮れてるだろ、この画像欲しいよな?」
聞けよ、人の話し。
>毒殺する。
撲殺する。
絞殺する。
刺殺する。
おぉ、珍しく満場一致だ。たまにはまともな選択肢も出て来るじゃないか。とはいえ、直ぐに実行可能なのは撲殺か絞殺だろう。
>とりあえず殺す。
「ねぇ祐二。」
「な、なんだ?」
若干僕に引いて祐二が返事をする。
「とりあえず、殺していいかな?」
「お、落ち着け数音。早まるな、水奈月が悲しむぞ。」
近付く僕の肩を押さえながら祐二がそう言った。ずるいよねぇ、莉菜さんの名前を出すなんて。
「本当に犯罪だよ?」
「分かってるって、悪かったよ。今すぐ削除するわ。」
「え?」
携帯を操作しながら言った祐二の言葉に、僕は落胆を隠せなかった。それを見た祐二が操作の手を止めて、僕に悪そうな視線を向けてくる。
「欲しいんだろ?」
くそ、むかつく。
「欲しい・・・」
にやりと笑った祐二の顔が腹立たしい。この画像を見る度に思い出しそうだと思うと、貰わない方がよさそうな気がした。
それと、昨夜は妄想じゃなく恋煩いとか言った理由も理解出来た。そう思うとやっぱりむかつく。
プリクラに続き、また人には見られたくない画像が手に入ってしまった。
というか、祐二にはもう見られてしまったという事になるのか。
うわぁ、友人に見られるとか、恥ずかしすぎる。
「ファミレスの前で、人の写真撮るとか、どんだけ暇人だよ。家でDEWやってろっての。」
「ええ、一人だと面白くねぇもん。」
ゲームが面白くないみたいに聞こえるからやめて。DEW普通に面白いからね。
「よぉ、おはよ。お前ら今夜空いてる?」
そこへ登校してきた四乃森さんが話しかけてくる。いつも通り入って来るまでは空井くんと一緒だ。
僕も莉菜さんと登校してみたいな。
ふとそんな事を思った自分に驚いた。いままで、そんな事考えられもしなかったからだ。
「おう、行けるぜ。ってかいつでも夜は狩ってるからな。」
「そっかぁ。じゃぁ見つけて合流するわ。雪待は?」
「うん、大丈夫。」
「今日さ、素材集め手伝って欲しいんだよね。部活があるから、お前らには追いつけないからさぁ、足引っ張らせろ。」
四乃森さんはそう言うとニコっと笑う。何処か悪戯っぽい笑みが可愛く見える。それより、追いつこうとするなよ。
「帰宅部なめんなよ。」
「ああ、あたしも帰宅部に入りゃ良かった。」
ねぇよ、そんな部。
祐二のなめんなよも、よく分からない。
「じゃ、夜な。おはよう、水奈月・・・」
四乃森さんは今度、水奈月さんの方に近づいて行った。水奈月さんも誘うつもりか?僕の予想通りなら今日は水奈月さんだ。戦力としては期待出来ないだろう・・・。
放課後、祐二も水奈月さんも帰り、僕も真っ直ぐ帰ろうかと考えていた。思えば今週、月曜から木曜まで真っ直ぐ帰れていない。
祐二が暇人行為をしたのはその所為だろうか?
とりあえず、明日の土曜は莉菜さんと話しがあるから、今日の放課後くらいはのんびりしたい。
「なぁ雪待。」
椅子から立ち上がったところで、声を掛けられる。この声は四乃森さんか?
「ん、どうかしました?」
「ちょっとだけ、話しいいか?」
えぇ、なんだろう。四乃森さんが僕に話しって・・・。DEWか、それなら納得。
「う、うん、いいよ。」
来た先は立ち入り禁止の屋上だ。莉菜さんもそうだが、何故躊躇なく踏み入れるのか・・・。
「ネットで調べる範囲以外は、僕も分からないですよ?」
考える素振りをしながら、屋上についた僕は、四乃森さんにそう言った。
「いや、DEWの話しじゃないんだ。」
「え?それは、ごめんなさい。」
「あ、気にしなくていい。普通は、そう思うもんな。」
そう言う四乃森さんは、両手をスカートの前で合わせ落ち着かなげにしている。どこか何時もと違う雰囲気に感じるのは気の所為だろうか。
「え、と。なんでしょう?」
何故か僕と目を合わせようとしない四乃森さんの顔は、照れているような雰囲気に見えた。どちらかと言えば活発な女子、と言ったイメージだったのだが、今はショートボブの髪の間に見える表情が、可愛らしく見えた。
「雪待、ってさぁ・・・」
「は、はい。」
なんか、嫌な予感がする。
「その・・・好きな奴とか、いんの?」
で・・・デジャヴ!!?




