18話 あの、聞いていいですか!?
「僕は、全然構わないです。」
いきなり旅行なんて言われたからびっくりしてしまった。僕の出不精は家族も良く知っているから、ここ数年は家族旅行も、僕は省いて計画されるようになった。
家から出るのが面倒、ゲームしたいから行かない。そんな自分勝手な奴を、ボスが何時までも数に入れるとは思えない。それはそれでいいんだけど、勝手に行ってくれるから楽だし。
そんな僕は今、莉菜さんの誘いにそれ程抵抗感がなく、頷いていた。
行ってもいいかなって。
「ほんと、嬉しい!」
そう言った莉菜さんの笑顔は、とても可愛かった。
ただ、どうして僕なんだろうという疑問は、依然としてなくならない。ゲーマーだって分かった筈だ。そんな奴が家から出るなんて、思っているのだろうか。にも関わらず誘って、嬉しそうにしている。僕にはそれが、よく分からない。
「何処に行くか、後で相談しようね。」
「う、うん。」
「今度の土曜日はどう?」
土曜か、DEWを全開でやりたい気分ではあるけど、先週は出来たから。莉菜さんの方を向かないと、嫌われるのもイヤだと、僕の中にそんな思いがある事に気付いた。
「うん。学校が終わったらですよね?」
何を馬鹿な事聞いているんだ僕は。学校でそんな話し、出来るわけないじゃないか。二人で旅行の相談なんかしていたら、どんな事を言われるか。
「そうよ。数音の家で話そ。」
「えっ!?僕の家ですか?」
まてまて、何故そうなる。この前来たんだから、もういいじゃないか。
「えぇ、なんで驚くのよ。一度行っているんだから、もう気にしなくてもいいでしょ?」
あ、考え方が逆なんだ。
「なに、それとも何かやましい事でもあるの?」
莉菜さんはそう言うと、疑いの眼差しを向けてくる。いや、何もないよ・・・。
「ありません。」
「だったらいいじゃない。ダメ?」
「いえ、僕は全然、構いません。」
男の家に遊びに来るって、僕にはよく分からないけど、どうなんだろう。普通の人は、どういう風に思うんだろう。やっぱり、親しい間柄って事なのかな?
僕もそこまでアホじゃない。何か間違いがある可能性だって考慮する筈だ。女の子から行くって言った場合、その危険も考慮しての事なんだろうか。
だったら、尚更付き合いだしたばかりで、融通も配慮も無く、見た目も良くないゲーマーの僕に、何故莉菜さんはそこまでするのだろう。
「なら、決まりね。」
僕の悩みとは関係なく、莉菜さんは笑顔でそう言った。
「あの、聞いていいですか!?」
「どうしたの、真面目な顔で改まって。」
勇気を出した僕の問いかけに、莉菜さんの顔にも若干緊張が見えた気がした。
「なんで、僕なんでしょうか?」
今まで思っていた疑問、ずっと聞けなかった事を、我慢出来ずに聞いた。もし、このまま聞かずに時間が流れたら、後悔しそうだと思ったから。それと、遊びなら、自分をこれ以上、傷つけないために。
「外見じゃなく中身、かな・・・」
「それは、話してみないと、分からないじゃないですか。」
今までの何処で判断したんだよ、話したこともないのに。一年の時は別のクラスだったから尚更だ。
「何となく、そんな気がしたの。付き合ってみて間違いじゃないって分かったよ。」
「でも、それだったらもっといるし、見た目も良い人いるじゃないですか。」
それは、僕の理由にはならない。
「森高くんと話している、数音の雰囲気に惹かれたのかもしれない。」
「趣味だって合わないのに。」
読書をしている人が、休み時間にゲームや馬鹿話しをしている男子に惹かれる?よく分からない。
本当はここまで言うつもりなんて無かった。だけど、一度言い出したら、止まらなくなっていた。
「趣味って不変じゃないのよ。」
「え?」
そう言った莉菜さんの顔は、包み込むように優しい笑顔だった。
「女の子は、好きな人との時間を共有したくて、よく変わるのよ。そうじゃない人もいるけれど。これ、飽きっぽいのとは違うのよ。」
僕には、よく分からない。
「好きになるのも、人それぞれ。私は、直感だったのかも知れない。自分でもはっきり分からないんだ。でも、数音が気になって声をかけたの。」
そうは言われても。
「実際、理由を聞かれても、明確な答えは返せない。ごめんなさい。」
結局、それ以上の追及は出来なかった。目の前で、頭を下げる莉菜さんは、真面目に話していたように僕には見えたから。
「ごめんなさい、急に・・・」
「いいの。突然変な女に告白されて、付き合ってみたけど、不安になるよね。」
いや、聞いてたのかな、人の話し。僕が謝ると、莉菜さんは苦笑いしてそう言った。
「莉菜・・・さん、可愛いのに、僕みたいなのを、というのが不思議で・・・」
やはり抜けない疑問と、もう一度ちゃんと言っておこうと僕は口にしたのだが、聞いてないな。目を輝かせて何かを期待しているようだ。
「あの、最初の方よく聞こえなかったの、もう一度言って。」
ん?それはいいけど、態度と一致していないのが意味不明だ。
「莉菜、さん、可愛いのに・・・」
そこまで言ったところで両手で頬を押さえると顔を逸らした。
「・・・」
可愛いって言われたいだけなんだな。可愛いけどさ。僕の話しは何処に行ったんだよ・・・。
「私は今、幸せだよ。」
ちょっと顔を赤らめて言う莉菜さんを見ると、それ以上何も言えなかった。演技でそこまでするだろうか?だったら信じてもいいんじゃないか?そう思ったから。
恥じらって言う莉菜さんが、可愛いからまぁいっかなんて事は決してないぞ。
「ご飯食べたら集合?」
ファミレスを出て別れる時、莉菜さんが聞いてくる。DEWの事で間違いないだろう。
「うん。今日も出来るの?」
「もちろん。」
莉菜さんは笑顔で言うと、真面目な顔になる。
「私が数音の事好きなの、本当だからね。信じて欲しい。」
その言葉には真摯さがあったと思う。真っ直ぐに僕に向けられた目に、僕は射竦められ頷いていた。
「信じてくれるなら、ちょっと目を閉じて。」
言われるままに目を閉じる。何故か、なんの疑いも無かった。次の瞬間、唇に何かが当たった感触で慌てて目を開くと、目の前から莉菜さんの顔が遠ざかって行った。
「な・・・なにを・・・?」
「いつか、数音からして欲しいな。」
莉菜さんは恥ずかしそうにそれだけ言うと、走って去って行った。
えっ?
結局僕、キスをされた?で合っているんだろうか。
でも、柔らかい感触と、鼻が触れたような感触は、そうなのかも知れない。
キスじゃなければ、顔を近づけなくてもいいよね?
そう思うって、その考えを繰り返し、暫くファミレスの前で呆然としていた。




