表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

10話 あの、早く帰ってやりたいんですが?

『お願い莉菜

 R3とデッドエンドウォーを買って欲しいの。

 雪待くんとの時間、少しでも共有したい。

 ごめんね、我が儘ばかりで・・・』

水奈月莉菜は、ノートに書かれた文を見ると、机の引き出しに乱暴に仕舞い鍵を掛けた。




ついに来ましたよ、この日が。

放課後になったら当然ダッシュで駅前のゲームショップ、ガメラへ。店名がださいんだが、利用者の通称であって正式名称ではない。Game Media Landが正式名称だが、頭の二文字ずつを取ってガメラと呼ばれている。

誰が呼び始めたか分からないけど。


こういう日は、朝から学校に居ても落ち着かない。そして授業時間がひたすら長く感じるから嫌いだ。時間は常に一定の時しか刻んでいないというのに、人間の感覚ってのは不思議なものだ。

過ぎて欲しい時間程長く感じ、享受していたい時間程短く感じる。

変なの。


始業前に教室に登校してきたクラスメートが入って来ている中、水奈月さんも教室に入ってきた。僕と目が合うと、水奈月さんは視線を逸らす。

今日はあっちの水奈月さんか。

ふとそう思ってしまった。

おかしな気分だ。

なんだろう、この感覚。慣れて来ている自分に、違和感を感じる。

ただ、視線はどうしても胸元に行ってしまう・・・。


「数音、チャイムと同時にダッシュだろ?」

「聞くまでも無いだろ。」

最後の授業中に、授業で使っている教科書以外は鞄に全部詰め込んで、チャイムが鳴ったと同時に速攻教室を出る。教科書とノートは、鞄をすぐ開けられる状態にしておき、滑りこませるんだ。

そこまでやるのか?

やらないわけがない。

「R3のオンラインIDで、プレイヤー検索出来たよな。」

「ああ。最初のストーリーが終われば、一緒にプレイ可能だから、それからだね。」

「もちろん、そっから一緒に狩り行くだろ?」

「そりゃ当然。」

「後でキャラ名教えろよ。」

「分かった。」

休み時間にそんな会話をする。

しないわけが無い。

そして落ち着きもないし、授業にも集中できない。いや、授業に集中しないのは何時もの事か。


本日の授業が終わった事を告げるチャイムが鳴った。

僕と祐二は鞄を持って、直ぐ様教室から飛び出す。

「待て!森高と雪待!」

出たところで誰かが僕らを止める。それは聞き覚えのある声だった。

「なんだ水奈月、俺ら今日大事な用事があんだ。」

「水奈月さんごめん。」

「知っている。だから私も連れて行け。」

僕と祐二は怪訝な顔でお互いの顔を見た。そしてすぐに頷く。

水奈月さんの理由を確認している場合じゃない、今はそんな悠長な事はしていられないんだ。来たいなら付いて来させればいい。と、多分意見が一致したと思われる。

「よし、行くぞ。」

「うん。」

祐二が来いとばかりに手招きをして、僕らは三人で学校を出た。


開店直後ってわけでもないので、有名ゲームだったとしても並んでいるなんて事はない。

それに、最近はダウンロード販売も増えてきたので、わざわざメディアを買う人も減ったんじゃないかと思う。

僕と祐二の場合断然、現物派だ。

マンガも手に持って紙を捲りたいんだ。

「本体と、ゲームを買えば、出来るのか?」

お店に入る直前、水奈月さんが聞いてきた。そういえば初心者なんだよな。

ああ、つまり、僕と祐二が面倒を見なければいけないのか。

「一緒に回って必要なものを、教えていきます。いいよね祐二?」

「ああ、別に構わないぜ。」

「すまん。」

初めて水奈月さんに話しかけた時は、ほんとに恐かったけど、今の水奈月さんはそんな感じがしない。基本的には良い人なのかな。


それから水奈月さんの分の買い物も含め、僕らはついにデッドエンドウォーを手に入れた。

「よし、早速帰って起動だな。」

「うん、急いで帰らないと。」

「待て。」

やる気満々だった僕と祐二を、水奈月さんの声が水を差した。

「森高と雪待、悪いが家に来てくれないか?」

「げっ・・・」

「え?」

祐二は明らかに嫌そうな顔をしている。

「私一人では、設置できるかどうか不安なんだ、手伝ってくれ。」

もう、早く帰ってやりたいんだけどなぁ・・・


>がんばれ。

 それじゃ。

 もう一度みせてくれ。

 祐二よろしく。


出たよ・・・

毎回ろくなもんじゃねー。二人から嫌われそうな選択肢しかないじゃん。

>「この前見たよな・・・」

はぁぁぁっ!?

水奈月さんが僕の耳元でそう囁いた事で、選択肢は吹っ飛んだ。

ってか自分で見せたんじゃん。

それで脅すって・・・

「手伝ってあげよう、祐二。」

「お前、何言われたんだよ・・・。」

笑顔で言った僕に、祐二の顔はしっかりと呆れを表していた。

しょうがないじゃん。こいつ胸見たんだよとか言われたら、もう生きていけないって。

下手をしたら警察沙汰になりかねない。

それに、こっちじゃない水奈月さんは知らないんだ。だったら尚更知られるわけにはいかない。


それから僕と祐二は、水奈月さんの家にお邪魔して、テレビにR3を接続した。

早く帰りたいから急いで設置したのに、水奈月さんの母親がしっかりと、

お茶とケーキを用意してくれた。

「ゆっくりしていってね。」

したくねー!

僕は帰りたいんだっての!

水奈月さんの母親の笑顔は優しかったが、僕には帰らせまいとする所業に感じた。


ただ水奈月さんの母親は綺麗だった。一瞬、お姉さんかと思ったほどだ。

うちのボスのような貫禄も無いし、大違い。

って、思った事が知れたら怖いけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ