1話 え、僕ですか?
僕、雪待 数音が高校二年D組になった春だった。進級に伴うクラス替えによって、季節だけでなく気持ちにも春が降りてきた。美人、と言っていいだろうと思う。背中の中程まである艶めく黒髪、眉が隠れる程度に切り揃えられた前髪、整った顔立ちの白い肌、優しげで大きめの瞳。
自分の感覚では美人だと思っている。いつも読書をしていて他の友達とあまり一緒に居る事が無いため、クラスでは浮いているように見える存在。その娘の名は水奈月 莉菜。
美人だと思ったところで、奥手な僕が何か出来るわけもない。彼女なんて居た事が無いのだから、何を話していいのかも、どう声を掛けていいのかも分からない。
読書していると言っても僕の知らない本ばかりだ。僕も本を読まないわけじゃない、ただ十割に近いくらいの勢いでマンガだ。だから本の話題も噛み合いそうにない。ゲーマーの僕とは、何から何まで話しが合わなそうなんだよな。
そんな僕が彼女に惹かれた理由。大人しそうでおしとやか。それに美人だ。惹かれないわけがない。免疫の無いゲーマーが行き付くところって言われると否定出来ない。ほっとけ。
無いとは分かっていても、ゲームやマンガで出て来るような出会いを想像してしまう。無いって分かってるんだよ、分かっているんだけど妄想するっての。この妄想は、普通の女子から見れば気持ち悪いオタクって言われそうだよ。うるさいっての。
でも水奈月さんの事は意識してしまってから、日に日に気になって来た。気にし始めると意識がどんどん向いていく所為か、可愛さが増して見えてしまう。いっその事、話しかけてみるとか。いやムリムリムリ。
>思い切って話しかける。
そんな勇気は無い。
初めから無かった事にする。
って僕は何で選択肢を考えてるんだ、ゲームじゃ無いっての。
>そんな勇気は無い。
って脳内で選んでんじゃねー!その通りだけどさ、馬鹿みたいじゃないか・・・。
「お、数音。なに一人で悶えてんだ?」
そこで中学からの腐れ縁である、森高 祐二が話しかけてくる。ゲームの趣味も合うしゲーセンもよく一緒に行く仲なんだが、何故か女子受けはいい。同じゲーマーのくせに何故か見た目もいい上に、社交性もあり内面のイケメンっぷりまで出しているなんて卑怯だ。死んどけ。
「いや、次の数学の授業の事を考えていたんだ。」
「そういう嘘はいらないっての。ところでさ、来週発売のデッドエンドウォー買うんだろ?」
「もちろん、祐二も買うよな?」
「当たり前だろ、一緒に狩り行こうぜ。」
「おうよ。」
そこでチャイムが鳴り、休み時間が終了した。その時に先程の失敗に気付く、次の授業は数学じゃなく物理だった・・・。
今日の授業が終わり、下校時間になったので帰る準備をする。一定の確率で遭遇する祐二からの、帰りゲーセン寄って行こうぜ
の誘いがあるか少し待ってみる。
「雪待くん、この後少し、時間もらえないかな?」
「ん?」
突然掛けられた女子からの声に普通に疑問を返した。返してしまったが無い無い無い、そのフラグが立つ可能性は僕の中には無いっての。声を掛けられた事で身体が勝手に反応して振り向いてしまったが。
「はい、大丈夫です。」
そこに立つ水奈月さんの姿を見た瞬間、頭の中が白くなって思わず敬語で返事をしていた。その僕の姿を見て、クスっと笑った笑顔がもう忘れられない。可愛すぎる。
「じゃぁ、行こうか。」
声も出ずに頷くと、水奈月さんの後を付いていく。
連れられて来たのは校舎の屋上だったが、普段は立ち入り禁止になっている事すら出て来なかった。だから疑問もなく屋上に侵入。
「話しって、なんでしょう?」
屋上に来ると、水奈月さんの背中に連行された疑問を投げる。
「同い年なんだから、敬語やめない?」
振り向いた水奈月さんが、笑顔で言ってくる。うん、そうする。もちろん、そうしたい。水奈月さんとタメで話したい。
「うん、頑張ります。」
免疫の無い僕には高すぎるハードルでした。
「じゃぁ、慣れたらね。で、話しって言うのは、雪待くん彼女いる?」
何でいきなり個人情報を引き出そうとする。ろくに会話もしたことの無い人間に、簡単にプライベートを聞くのはどうなんだ?
「いえ、いません。」
水奈月さんなので関係ありません。言っちゃいます。
「私と、付き合わない?」
んな馬鹿な・・・はっ?
僕は言っている意味が理解出来ずに、いや言葉の意味は分かるけど、理解が追い付かない。誰も居ない屋上を挙動不審に見渡すが誰も居ないから、やっぱり言われたのは僕かなって思う。
「・・・僕、ですか?」
自分を指さしながら水奈月さんに聞き直す。
「うん、他に誰がいるのよ。」
「ぇ・・・ぇぇええええっ!?」
あまりの事につい大声を出してしまった。こんなゲームねぇよ、あったら絶対買うわ。ってこれ僕の現実じゃないか。アホか。
「嫌ならいいのよ。」
「いえ、喜んで・・・」
返事をした後、慌てて屋上から二人で逃げた。僕が大声を出した所為だけど。二人での逃避は楽しくさえ感じたけれど、僕にとっては非現実的過ぎて、夢の中じゃないかとさえ感じていた。




