祖母と妹と一緒に食べる究極のカキ氷
人によっては気分が悪くなったり、受け付けない表現がありますので注意してください。
私は物音で目を覚ました。普段なら下校の時刻だ。
階段を下りて廊下に出ると、扉が開けたままになっているのが見える。
線香の香りが漂う部屋の中を見渡すと、机の上に何か置かれていた。
シロップのかかっていないカキ氷のようだ。
私はカキ氷が好きだった。夏になればいつだって、氷を削っては様々なシロップをかけて食べたものだ。
特にいちご味のものが一番好きだった。母親や祖母にせがんではシロップを買ってもらった覚えがある。
ある時私は、粉雪の様に細かく削り落とした氷に、いちごシロップをかけたカキ氷を食べた。
少しざらざらとした普通のカキ氷とは違い、口内へ運ぶと同時に一瞬で溶けてなくなり、やがて爽やかないちごの香りが鼻から抜けていったのだ。
私は衝撃を受けた。これほど素晴らしいカキ氷は食べたことがなかった。
思い返せば、この頃から少しどこかおかしくなったのかもしれない。私の心は更なる衝撃を求めていった。
粉雪のようなカキ氷を作れる機械がどうしても欲しかった私は、日々うるさいくらいに母親に頼み込んだ。どうしても自宅で、自分の手で作りたかったのだ。
母親は結局、首を縦に振る事はなかった。しかし、見かねた祖母が購入してくれる事になった。
私は歓喜した。それはもう喜んだ。これで毎日あの素晴らしいカキ氷が食べられるのだ。
自宅に機械が届いてからは、妹の分まで毎日せっせとカキ氷を作っていた。そんな私を見て、祖母は一番喜んでいた。
その後も私は最高のカキ氷作りに精を出し続けた。いつか究極とも言えるカキ氷を、祖母と妹と一緒に食べるのだと約束したのだ。
祖母が亡くなった。老衰だった。
祖母の頬は、氷の様にひんやりと冷たくなっていた。もう血も流れていないのだ。
私はこの出会いに涙を流した。
火葬の最中に待機している部屋では、肉が焼け落ちていく様を想像していた。
私の胸も焦がされている様に感じた。
納骨する時に、ボロボロになった祖母の骨と対面した。
私はついに、嗚咽をこらえる事が出来なかった。
そして人間が死ぬと、部屋に線香の香りが満ちるのも知った。
胸いっぱいに吸い込むと、昂ぶる気持ちを抑えてくれる。良い香りだ。
私は究極のカキ氷を作り、祖母との約束を果たそうと思った。その為の準備はもう済んでいる。
以前より優れた機械も用意した私は、作業を開始した。
動き出した機械が凄まじい破砕音を部屋中に響かせている。
やがて大きい受け皿にサラサラの粉雪が積み重なり山を作っていく。
機械を止めた私は、片付けながらも気持ちが昂ぶるのを抑えられなかった。
大きく息を吸い、線香の香りを胸いっぱいに満たしていく。
用意する赤いシロップを上からかけた後、肉が溶ける様に山が崩れていき、シロップが染み込んでいく様を想像する。
――駄目だ、我慢できない。
私は片付けを済ませると、部屋の扉も開けたまま一目散に玄関から外へと飛び出した。
祖母と妹と一緒に食べるカキ氷は究極に違いない。一体どれほどの衝撃を与えてくれるのか、今から楽しみだ。
究極という言葉はどこか胡散臭い