第6話
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いつもと同じように30分前に学校に来て読書を済ませる為に空き教室入ろうとし、ドアノブに手をかけた時に違和感を感じた。少しぬくもりがあるのだ。
俺が最初に来るときは夜の寒さに冷やされて冷たいドアノブが、それこそ人の体温より少し低いほどに温められている。中に誰か居るのかもしれないという事を念頭に置き、ゆっくりとドアを開き隙間から中を覗き見る。
そこには、相も変わらず埃っぽい部屋の中に何故か明淵がいた。
「な、なんで明淵がいるんだ……?」
その声に気付いたのか、スマホを見る顔をこちらに向け「私が居ちゃ悪い?」と小声で反論してからまたスマホに戻ってしまった。ここにいる事情を聞くためにもまずは部屋に入らないといけない。しかし、女子の同じ部屋に2人きりで入るというのは――。
「そこでぶつぶつ言ってないで入ったら?」
顔を一切動かさずに、彼女に諭されてしまった。渋々教室に入り、俺も本を開く。
スマホを触る音と紙をめくる音が静寂の教室の木霊する。しかし、彼女がこの教室にいるために俺から話のきっかけを作り出す。
「で、何で明淵がここにいるの?」
「『居ちゃ悪い?』ってさっきも言ったよね?」
即答だった。しかも、同じ質問を繰り返し言われたからか少し不機嫌そうに彼女は返答する。
「悪くはないが、気になるんだ。俺はこの教室でいつも読書をしてから教室に行くのが日課だ。いつも使っている教室に話したこともない知り合いが唐突に居たらそりゃ気になるだろ」
「……へぇ。君ここでいつも本、読んでるんだ。良い事聞いたかも」
何が良い事なのだろうか。……もしかして、俺に好意を寄せ居ているとか――。
「君が居なくなればこの教室は私が独りで使えるわけだし」
そんな事だと思った。というか、こんなことで俺みたいなボッチにこういう陽キャが好意を寄せているのではないか、と勝手に勘違いしてしまうのは、陰キャ特有の思考回路なのだろうか。
しかし、ここは俺が1年かけて見つけた安住の地。いわば学校のなかのたった1つのオアシスなのだ。簡単に譲る訳には行かない。
そこで俺は彼女には悪いと思うが、少し強めの言い方をしてここから立ち去ってもらうことにした。彼女のような陽キャならあの教室にだっていつの間にか溶け込めるだろう。そう考えたのだ。
「悪いが、ここをアンタに譲る訳にはいかない。ここは俺が見つけた安住の地だ。あんたの居場所はない。あんたのような陽キャならクラスの輪に溶け込むのだってそう難しくはないはずだ。ここから即刻出ていけ」
強い言い方になってしまっているのは分かっている。もしかしたら彼女を傷つけてしまう事になってしまうかもしれない。だが、こっちだって苦労して見つけた場所を渡すわけにもいけない。それが彼女だけでなく俺も傷つく羽目になっても。
「ふーんボッチ君のくせに偉そうなこと言うじゃん。何あたしがここにいちゃ都合でも悪い事でもあるの?」
「都合が悪いとかじゃない。俺は、他人に俺の領域を勝手に侵されるのを嫌悪しているだけだ」
「あんたもあたしが陽キャみたいだから、クラスの輪に入れそうだからっていう先入観だけで拒絶するんだ。そうやって勝手に決めつけて他人の人生の時間を奪い取っていくんだ。気に食わない」
「何がだ。何が気に食わない!」
教室の空気がピリピリと俺の頬を刺激する。おそらく彼女の怒りの感情が空気を伝って俺に伝わってきているのだろう。
「あんたみたいな先入観だけで他人の人生を狂わせるような事を無自覚でやっている人間擬きが存在を許されているってことが気に食わないって言ってるんだよ。前の学校でもそうだった。家もそうだ。『ここに進学しろ』だの、『お前これ好きそうだからやるよ』とか、『自我を貫くことがカッコいいとでも思ってんのか』とか、自分の思うように動かない人間に対して抱いた憎しみとかの感情を押し付けてくるなよ。反吐が出る」
スマホをポケットにしまい、怒りを露わにしたまま空き教室のドアを強く開け、飛び出していった。
彼女が出て行った後の教室は静寂を取り戻したが、何故かいつもよりその教室は寂しさと静寂にあふれているような俺にはしていた。
***
教室に入ると、昨日と変わらない1人でスマホを触っている彼女の姿があった。しかし、身体から滲み出るように俺に『怒り』が投げ付けられて、教室の空気、というより俺と彼女の空気は先程よりピリピリとしていた。
それは授業が始まってからも続き、俺が先生に当てられて黒板に回答を書きに行くときも、まるで背中からナイフで刺されそうな怒気をぶつけられ、正直冷や汗が止まらなかった。
彼女をあの教室から追い出したのは、俺だけのためではない。俺みたいに1人で教室でいるより、クラスの輪に混ざった方が絶対的に楽しい学校生活を過ごせると思うからだ。だから、一緒にいるという選択肢を破り捨て突き放した。先程の彼女の話を聞いている限りどうやら前の学校や家で色々あったようだが、楽しい学校生活を過ごせばそれなりに忘れたり、和らいだりするだろう。
俺は彼女の怒気に当てられながらも、どれだけ彼女があの教室に執着していても突き放す覚悟を決めていた。それがどれだけ修羅の道を行こうか、どれだけ彼女が俺の事を嫌い、俺を目の敵にしたとしても俺はその決心を変える事はないだろう。
――昼休みに例の教室に行くとそこには彼女は姿はなかった。朝のいざこざで少しは腹を立て、立ち入らない気になったのだろうか。どちらにしろ彼女にしろ俺にしろ、それぞれ損得を被った結果になったと言えるだろう。
だが、この教室は本当にこんなに広くて、静かで寂しくて、1人というのはこんなにも孤独だったのだろうか。
この時の俺は彼女とのいざこざで俺の中の『孤独』というものに対する価値観、見方が変わっているという事に気付けていなかった。
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