第18話
――静かな路地裏に大きな爆発音が響き渡る。遠くからでも分かるほど、土煙が高く立ち、鳥たちはギャアギャアと騒がしくなる。
どう考えても異常事態なのは火を見るよりも明らかで、その周辺には既に人だかりができ始めていた。
***
「ばっかやろーーー!!」
ここは先程までライトエッジと対決していた路地裏とはまた、別の路地裏。何故ここに居るのかというと、それは単純明快だ。
彼女の起こした爆発音で、野次馬のプレイヤー達が集まってきてしまった為。もっと言うと、野次馬たちに姿を見られると、質問攻めにされるのが目に見えているので、此処まで彼女を抱えて逃げてきたのだ。
……しかし、まぁ。
「とてつもなく派手にやってくれたなぁ!?」
「だって、MOONさんが手合わせなんていうから、それなりに本気でやったんですよ? 文句を言われる筋合いはないはずです」
「そりゃ……そうだけどよぉ……」
そうだとしても、彼女は手加減という言葉を知らないのだろうか。一応街中なのだ。大きな音を出したら、プレイヤー達が集まってくるのは少し考えれば分かるはずなのに。まぁもう何を言っても手遅れだが。
「で? 少しは敗北の余韻は紛れたか?」
「もしかして……それで……?」
彼女も今気付いたようだ。俺がライトエッジに唐突に勝負を仕掛けた理由が。しかし、それだけで敗北の余韻が消え去るとも思えない。
だから、少しだけ力を抜いて相手をしたがそれでも、彼女は強くなっていた。手合わせをしたことは無かったが、初めて会った時より格段に強さのレベルが上がっている。
少しだけ力を出して『陽炎の歩法』擬きや『霞の歩法』を使って応戦したが、恐らく本気でやっても彼女には届かない。それほど、強くなっていたのだ。
やはりセンスがあるプレイヤーの成長速度は目を見張るものがある。
「まぁ……さっきの戦いで負けの気持ちは紛れました……。一応御礼を言っておきます……。ありがとうございました」
例を言われる筋合いは……あるのか、ないのかよく分からないが、まぁ御礼を言われて嫌な気分にはならないな、うん。
「御礼を言われる筋合いは……ないけど。まぁうん励まされたならいいけどさ」
「何照れてるんですか?」
俺の人生で、女の子に礼を言われる日が来るなんてな。思いもよらなかった。いい気持だ……。
「おーい、おーい? 何呆けてるんですか~?」
彼女の声でハッ、と我に返る。どうやら、礼を言われた事に感傷していたのだが、他人から見れば抜け殻のようになっていたのだろう。
「い、いや何でもない……」
「そうですか……? ならいいんですが」
どこか腑に落ちないような顔をして彼女は唸るが、『君に御礼を言われた事で感傷に浸っていたんだ』などと言えるわけもなく、俺は黙りこくる事しかできない。
俺と彼女の間に静寂な時間が流れ、どうしても気まずくなってしまった。
「「あ……あの!」」
お約束の静寂な時間からの2人の声が重なる。しかし、こうやって当事者になってしまうとどうしても恥ずかしいというか何というか。声が重なってしまって赤面してしまう。
しかし、ライトエッジは俺に何の話を切りだそうとしていたのだろうか――。
***
――結局数10分程、その裏道で時間を潰し彼女はゲームから落ちていった。帰り際の彼女の顔は闘技場で負けてしまった時の顔よりよっぽど明るくなっており、俺なんかの励ましで元気付ける事が出来たのなら万々歳だ。
「しかし……どうするかぁ……」
俺が悩んでいるのは、ライトエッジへの対応の事ではない。この余りに余った時間をどうやって消費するかという事を悩んでいるのだ。正直闘技場であんなことが起きるなんて思ってもいなかったので、その後の事を何も考えずに行動してしまっていた。
オンラインに入っているのはMAKIだけだし、闘技場でPVPをするのも性に合わない。かと言ってボスレイドに向かうのも1人では勝てる見込みなんてない。
そして、俺の下した決断は……。
ゲームを止めて久々に外でも歩こうという事にした。幾ら陰キャ生活をしているとは言え、運動しなければ早死にするだけ。であるならば、歩くなりして少しでも長生きしてゲームをプレイしよう。というよく分からない結論に至ったのだ。
***
「意外と外の空気も悪くないな」
玄関を開けると、日差しが強くなっており季節が夏に近くなっている事を自分の身をもって知る事になった。まだセミは鳴いていないが、今から耳障りになるぐらいに鳴き始めても違和感がない。
道路のアスファルトが熱を放出しているのか、歩いているだけでも汗が滲み出てくるが何故かそれが心地よく感じてしまう。しかし、水分を取らずに歩き続けて倒れてしまうのも問題なので、俺は涼むついでにお茶を購入するためにコンビニに寄ることにした。