第15話
――ライトエッジが闘技場に姿を現した。会場が彼女の登場にどよめいているが、そりゃそうなるだろう。
基本的に闘技場に来るのは男性のプレイヤーで女性のプレイヤーが来ることなど滅多にないからだ。しかも、エルフ耳を付けてまるで戦闘をしなさそうなプレイヤーだから尚更会場がどよめく。
「おい! 女の子だぞ!!」
「マジか! ここにに女性プレイヤーが来るなんていつぶりだ!?」
「しかも、筋肉ゴリラとかサイクロプスじゃないぞ! エルフだ!」
どの方向からもこんな声が聞こえてくる。
しかし、本当に何故ライトエッジがこんなところに? とは思ったが、彼女も彼女なりに何かストレスでも解放したくなったのだろう。いつものように両手に拳銃を持ち、くるくるくる。と回しながら闘いが始まるまでの時間つぶしをしていた。……なぜ彼女はここまで自信ありげなのだ?
対する相手もライトエッジとは逆のゲートから入場してきたのが見えた。太もものホルダーには1丁の拳銃が入っており、右手には日本刀のような物を携えている。
しかし、相手のプレイヤーがとても強い。実際に刃を合わせたわけではないが、場外にいる俺ですらわかる。ここまで離れているのに、気を抜けば一瞬で首を刈り取られそうな、鋭利で頬がひりひりと痛むような闘気を常時発している。
両者が闘技場に上がり、他のプレイヤーを寄せない程の殺気の嵐が吹き荒れる。
『開始』
無機物な声の号令と同時に、相手のプレイヤーがライトエッジに向けて一瞬で距離を詰める。それと同時に土埃と、とてつもない轟音が客席を襲う。恐らく、相手のプレイヤーが加速系スキル『アクセラレーション』を発動し、間合いを詰めた結果と考えるのが妥当だろうしかし、この高速の突進をライトエッジはどうやって止めたんだ? という疑問が純粋に湧く。しかし、そんな疑問は彼女の姿を見て吹き飛んだ。
彼女はとてつもない速度で飛んできた剣を2丁の拳銃で挟み込むような形で受け止めていた。いや、どんな神業だよ……。
「――ッ!」
相手も今の一撃を受け止められたことで、彼女の危険性を感じ取ったようだ。大きく後ろに跳躍すると間合いの外から刀を鞘に納めた。……間合いの外から一体何をしようというのだ。
「『一刀延金』!!」
刹那。鞘に納めた刀を間合いの外から抜いたと思えば、刀の刀身が明るく輝き始め虚空に1振り。すると、地面は抉れ、空気は割れ、斬撃がライトエッジの身体を刻む。
「え!?」
流石のライトエッジでも今の攻撃には驚愕を隠せないようだ。恐らく、今のは剣系統のスキル『一刀延金』。MPを消費し、剣のリーチを1瞬だけ拡張するという強力なスキルだが、一撃に使う魔力がとても多いうえに、リーチが伸びた剣の扱いが難しすぎて空ぶる事が多いので、使う人がいないスキルだ。俺自身使っている人を見るのは久々に見た。実に興味深い戦闘だ。
「クッソぉ……」
ライトエッジは意味不明な攻撃を受けたことで、かなり頭にきている様子だった。
拳銃の標準を相手に合わせ、引き金を引く。弾薬に火が付き、弾丸が殺意を持って撃たれる。縦横無尽、存分に発砲を繰り返すが、相手に当たっている気配はない。
「『一刀延金』」
「そう簡単に何度も喰らってたまりますかぁ!!」
一線。光の一筋が全てを切り裂き、斬撃が彼女を追う。
しかし、ライトエッジも何度も同じような攻撃を喰らうようなプレイヤーではない。ゆらり、と彼女の姿がゆらめいたと思えば元居た場所より離れたところに彼女の姿が現れた。
今のは『陽炎の歩法』。己の歩みに緩急をつけ、存在を陽炎のような存在とすることで攻撃をかわしたり、間合いを詰める歩法。度の武器種でも使えるスキルだが、一定のリズムというものが無く、システム的なスキルではなく他プレイヤーが作り出した歩法スキルにおいてかなり習得難易度の高いスキルのはずなのだが、なぜ使えるんだ。
「――ッ!」
相手のプレイヤーも『陽炎の歩法』を知っていたのか、『一刀延金』を解除し、刀を元の形状に戻すと、自分の周囲の防御に徹し始めた。しかし、それは相手が銃持ちのプレイヤーだとかなりの悪手のはずだが、何か策があるのだろうか。
不自然な動きを警戒したのか、ライトエッジも不用意に距離を詰めるような動きはしない。だが、相手には拳銃がある。近中どちらも対応できるのが、あの武装の有利な点だ。だからこそ、相手は今のこの状態を優位に見て攻めてくるはずなのだが。
――突如地面を這うように轟音が鳴り、相手の姿が土煙にまかれる。
「何のつもりだか知りませんが、そうやって上手いようにさせません!!」
そして、跳躍。上空から土煙に向けて無造作に発砲。
放たれた銃弾は雨のように降りしきり、土煙に穴をあける。『バレットレイン』。ある目標物に向けて銃弾を撃ちまくり、その名の通り銃弾の雨を作りだすスキルだ。避けるのは不可能に近く、上級者となれば一点に銃弾を集め、絶大な威力を作り出す事が出来るそうだ。
そんな銃撃を喰らったのだ。流石に、相手も無傷では済まないだろう。
「『一刀延金』」
銃弾を撃ち込んだはずの土煙の中から、斬撃が無防備なライトエッジを襲う。
しかし、恐ろしいことにあの相手のプレイヤーは何らかの方法で自分に降りかかる銃弾を全て防ぎきっていた――。
最後までお読み頂きありがとうございます!
どうやって相手のプレイヤーはあの銃撃を防ぎ切ったんでしょう!?その真相は次回判明します
では、短いですが次のお話でお会いしましょう!