第12話
目を覚ましたのは午前10時。既に昼前だった。だが、今日は土曜日! このまま2度寝に洒落込むか、と思ったが違和感を感じた。
そう、俺の部屋のベッドにライトエッジが居るのだ。
「あれ……?」
昨日は疲れていたからぐっすりと寝てしまった。そのせいか、彼女がここにいる理由が分からない。寝ぼけているのだろうか。
しかし、ベッドで寝ている彼女の少しはだけた姿を見るとまさか……手を出した、なーんて事は……ないよなぁ……? 臆病な俺の事だ。例え彼女の同意ありだとしても間違いなく手を出す事はないだろう。うん、出せるはずがない。だって腑抜けだもの。
うーん、と何度頭を捻っても彼女がこの部屋にいる理由を思い出せない。
「う~ん……あれ? ここは……」
ベッドで目覚めたライトエッジが寝ぼけまなこを擦りながら自分の置かれている状況を判断しようと、辺りを見渡す。しかし、見渡す途中で俺が視界に入ったのだろう。顔を真っ赤にして、後ずさりする。
「なっ!? 何してるんですかぁーーーーー!!!!」
部屋に響く叫び声。まるで金属音のような叫び声を部屋に木霊させ、俺は耳を塞ぐ。まぁそれほどこの状況に困惑しているのだろうが、騒がないで欲しいものだ。俺だって何が起きているのか覚えていないんだから。
しかし、彼女が先程まで寝ていた場所には2丁の拳銃。それを見ていると何か思い出せそうな気がして――。
「あぁーーー!! 思い出したぞ!」
そうだ。思い出した。というか、寝ぼけて記憶が曖昧になるなんてそんなに起きない事だから軽いパニック状態になってしまった。その声にびっくりして今度はライトエッジが耳を塞ぐ。なんだこれ。コントじゃあるまいしこんな謎のやり取りをしていないで、彼女にあの武器の真相を問いただそう。
「ちょっといいかい? ライトエッジ。聞きたい事があるんだ」
「いいですけど、とりあえず着替えたいので、部屋から出ていってくれませんか?」
「出て行ってくれって……ここは俺の部屋だぞ」
このゲームではその部屋の主がログアウト、部屋から退出のどちらかをすると中に居るプレイヤーは強制的に追い出されてしまうシステムがある。だから、昨日は先に寝てしまった彼女を追い出さないために俺もこの部屋で休眠を取ったのだ。つまり、今の彼女が言っているのは『着替えたいから外に出てくる』というのと同じような意味をしているのだ(1部の人からすればご褒美か何かなのだろう)。やはり、腕前はあってもこの辺りはまだ初心者特有の無知なのだろう。しかも、ギルド内の部屋というのはギルドマスター直々に作られるもので、まだ彼女の部屋は手配されていなかった。
結局そのシステムを説明すると、ライトエッジは顔を真っ赤にして、小声で「どうしよ……」と呟く。しかし、その数秒後に何か思いついたのだろうか、曇っていた表情がキラキラと輝き始めた。
一体何を考えて、言い出すのかと思いきや――。
「私今からここで着替えますので、後ろ向いていてください」
「はぁ!?」
理解不能。理解不能と俺の頭がパンクする。いくら、部屋がないからってここで着替えるってのは倫理的にどうなのだ……。しかし、走行考えている間にも彼女は着替える為の装備品ウィンドウを表示して今着たい私服を見繕っていた。
しかし、ギルドで『付き合ってもいない女に手を出して、夜を越した変態』などという異名を付けれたくはないので、俺はおとなしく後ろを向き、その間の時間を有意義に過ごすために本を顕現させ読書に勤しみ始めた。
――その数分後、着たい服が決まったのかウィンドウを操作する音と、今着ていた服がエフェクトのプリズムになる音が響き始めた。しかし、この構図まるでどっかのエロゲかギャルゲーみたいで、陰キャの俺としては人生で1回は体験したいと思っていた出来事を、まさかの今叶えることになっていると思うと、少しにやけが止まらない。
そのにやけを止める為に深呼吸して正面を向く。すると、そこには何故この部屋に置いてあるのか分からない鏡が置いてあるが、感の良い皆さまならお気づきだろう。そう、その鏡に後ろで着替えている彼女の姿が映ってしまったのだ。
しかも、それを見てしまって直ぐにでも視線を逸らせばよかったのだが、何分見慣れない女性の身体ゆえに俺は少し見入ってしまったのだ。
さらに、運が悪いことに彼女が俺がこちらを見ていないか確認するためにこちらを見た瞬間、鏡に映る俺と自分の姿を見てしまったのだ! これは経験ない俺ですらわかる。例えるなら、そう……『終末』だ――。
***
――ぱちん。と景気が良い音が部屋に響いた。
これは殴られても俺は何も言い返せない。俺が全て悪いのだから。本当に何故この部屋に鏡が? と思ったが、俺以外でこの部屋の編集権限を持っているのが知る限り1人だけいた。MAKIだ。
もし、彼がこのためだけにこの部屋に鏡を置いたのだとしたら絶対に殺さなければならない。いや、その為じゃないとしても1回殴る。よし決めた。
かくして、下着姿を見られてしまったライトエッジはというと……。実のところ恥ずかしがっている素振りをせず、俺の顔をはたいたことで少しは気がまぎれたらしい。それでも、彼女の顔はまだほんのりと赤くなっており、やはり隠してはいるものの恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう(当たり前だろうが)。
「全く! 普通見ないと思うんですが、何で見てしまうんですかねぇ!」
「……悪いと思っているが、1つだけ言い訳をさせてくれ」
「何ですか?」
少し不機嫌そうにライトエッジは俺に聞く。言い訳を聞いてくれる辺りやはり根はやさしい少女なのだろう。
「不可抗力だ」
――ぱちん。また高い音が響く。先程はたかれた頬の逆側をはたかれ、まるで瘤取り爺さんみたいに俺の頬は腫れあがった。
「人の下着を見て! 言い訳があるからというから聞いてみたら、『不可抗力』ゥ!? 貴方は純潔の女の身体をどこまで辱めれば気が済むのですか! 」
純潔だったのか。……いや、それはどうでもいいのだ。別に辱めているつもりなんてないのだし、これだけは彼女に弁解したほうが良いのでは? と思ったが、寸前のところで思いとどまる。
『これ、また言い訳みたいになってしまうから今度はビンタじゃなくてグーパンで来るぞ……!』
ビンタはまだ耐えられたが、グーパンは辛い。だって痛いもの。
結局彼女には俺が土下座して謝ることで、何とか許してもらえた。とりあえず一件落着なのか? まぁグーパンを貰わなかっただけいいというものか。
「そう言えば――」
ふと、本題を思い出した。ライトエッジの武器について問いただそうと思っていたのだ。どれだけ忘れっぽいのだ俺は。
『人間種特攻』が付与されている銃について、もし本当に彼女がプレイヤーを殺して回っているのだとしたらそれは到底許されるべき行為でもないし、MAKIを含めて話し合いか、最悪の場合力技で口を割ることになるだろう。それほどこのゲームではPKという行為自体嫌悪感を抱かれる行為なのだ。
「君の銃。勝手にステータスを見たら『人間種特攻』が付いてたんだけど、そこんとこしっかり話してもらえる? 俺が問題ないと判断したらMAKIさんにも言わないから」
「えっ? 何です? それ。しかも人の武器に勝手に触るとかどんな感性してるんですか?」
……白を切っているだけなのか、本当に知らないだけか。とりあえず前者かどうか判断するためにも……カマをかけてみるか。
「分かってんだぜ。 ギルドに部屋がないからって夜はPKを繰り返して暇を潰しているという事ぐらい。俺の情報網をなめんなよ」
「……? どういう事です?」
いくら俺のカマのかけ方が下手だと言ってもここまですり抜けてくるものなのだろうか。
俺はとりあえず後者の可能性に賭けて、彼女がこの武器を手に入れた経緯を聞くことにした。
最後までお読み頂きありがとうございます!二人で一つ屋根の下一夜を越してしまいましたね!まぁヘタレのMOON君は何もしてくれなかったんですが!
さて、次のお話は伸ばしに伸ばしたライトエッジちゃんの武器の入手経路を書いています。次の更新をお楽しみに!