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第10話

このシリーズも第10話に突入しました!物語も新しい流れがやってくるかも!?

 結局彼女に謝るための絶好のチャンスを自ら逃した俺は家に帰ってからベットに寝転んで天井を眺めているだけだった。


「はぁ……」


 溜息しか出ないのはなぜだろう。出る理由も少し考えれば明確のはずなのに俺の脳は考える事をしない。

何もない天井を見続けて時間だけが無駄に経過していく。今鏡を見れば俺の眼のハイライトは消え去って虚ろな感じになっているだろう。それほど俺の身体は脱力というか、まるで魂だけ身体から脱皮している気分になっていた。


 ――気分転換に『F・E・O』にログインしてみてもその脱力感は抜ける事はなかった。何もする気力が起きない。ただただ広場のベンチで先程までと同じようにボー、としているだけで、他のプレイヤーから白い目で見られ、それを気に留めない俺自身を俺は嫌悪している。


『なにしてるんですか? こんなところで』


 と、あまり聞きなれない女性の声。誰の声かを判別する為に声の出所を見るとライトエッジがいた。彼女と会うのはいつぶりだろうか。恐らく以前初めて会った時以来彼女とは会っていなかったはずだ。そもそも彼女とフレンドを繋いでいなかったので、彼女自身のログイン状況などを知る手が無かったのも1つの原因だろう。


『久しぶりだね。えっと最初に会った時からあってなかったから……』


『ええ。およそ2週間程でしょうか』


 やはりそんなものか。しかしMAKIを交えず2人きりというのも何か気まずいものだ。

 とりあえずずっと立っている彼女をベンチの空いている場所に誘い、アイテムポケットからドリンクを譲渡する。


『ありがとうございます』


 しかし、女の子というのにこんなに素っ気ない文だと本当に中身が女なのか疑ってしまう。声だってボイスチェンジャーを使ってそれっぽい声に出来るかもしれないし、このご時世だ。ゲームにネカマが溢れていたとしても何の違和感もない。


『その感じ。私が本当に女なのか疑っているって感じですね』


『……分かるんだ』


『ええ。幾度となくそのような質問をされてきました。飽きるほど言われれば、あんまり話したことない人でも同じような事を考えていれば何となくですが、想像はつきます』


 やはり、いくらネカマが蔓延るゲームでも出会い厨は湧くものだ。そんな奴等にとって本物の女性プレイヤーというのは絶好の的なのだ。それこそ漫画やアニメのようなオークが女騎士に群がるように、出会い厨が女性プレイヤーに群がる。本当に女性プレイヤーがプレイしにくい環境だと思う(実際にそのせいでこのゲームの女性プレイヤーの数は劇的な減少傾向にある)。

 俺から見ても女性プレイヤー達に群がる気持ち悪い出会い厨達は見ているだけで虫唾が走る。


『こんなところで何をしていたんですか?』


 ベンチに座ってジュースをストローで口に流し込んでいる彼女が俺に問う。しかし、問われた本人の俺は中々答えに困っていた。『現実で困ったことがあってね』というだけではその後の内容をそれなりに詳しく教えなければならなくなるし、内容を簡潔に答えるだけでも明渕と同姓の彼女にすれば聞いていて気持ちの良いものでもないだろう。

 だから、返答に困って俯いているとそんな俺を見かねたのか、『狩りに行きましょう』と言って俺を転移門へ引っ張っていった。


***


 やってきたのは以前も彼女と来たことのある階層……ではなく、その1つ上の俺が今はよく狩場として使っているフィールドだった。

 このゲームはレベルがそれなりには上がりにくいシステムなのだが、いつの間に彼女はレベルを上げていたのだろう。……まぁ俺がログインしていない間にやっていたとしたら、このぐらい普通なのだろうが。

 しかし、彼女はまた見ない間に戦闘の腕前を上げている。今使っているスキルなんて『刈り取られた者(デスカーネーション)に贈る花束(・ディアボロ)』というハンドガンの熟練度を10以上に上げないと習得できない技。以前は使っているところを見たことがないが、恐らくレベル上げと同時に習得したのだろう。

 踊っているかのような足運びと周囲を舞う銃弾がまるでカーネーションのようで、飛び散る血のエフェクトがその物騒なカーネーションに色を持たせる。だから、『刈り取られた者(デスカーネーション)に贈る花束(・ディアボロ)』。物騒すぎる名称なのに納得できてしまうのが、また恐ろしい。


『で、ムーンさんは何を悩んでいるんですか?』


 やはりそれか……。相談に乗ってくれるのはとてもありがたいことだが、どうやってオブラートに包んで彼女に伝えようか。全てを裸のまま伝えるのは簡単なのだが、彼女が嫌な気持ちをしないように伝えるのは至難の技だ。どれを話して、どれを包み隠すか。そして相談したい核心部分を彼女に伝える方法を模索する。しかし、どれだけ考えても思いつかない。思いつくはずもない。相談したい核心の内容が包み隠さなきゃいけない内容に直結しすぎているからだ。

 どう話すべきか悩んでいると、狩りを終えた彼女が俺に話し掛ける。


『何を悩んでいるのかはよくわかりませんが、端的に伝えればいいんです。そうすれば、相談なんてできるんですよ。だから、私に話しちゃってください!』


 うーん女神。女神ではなくても聖女だ。俺の目には錯覚なのだろうか? 彼女の後ろに御威光が見えている。今すぐに彼女の目の前で跪いて拝みたい。こんな彼女なら現実でもしっかりとした人物なのだろう。

 だからこそ、どうやって伝えるのかが難しいのだ。女神だから傷付きやすいかもしれない。いくら聖女だろうか女神だろうか人間は人間で、それに女の子だ。傷付けて最悪泣かせるのはもう、まっぴらごめんだ。


『実は、1人女の子を怒らせてしまったんです。しかも、今日謝るための絶好の機会があったのに、彼女の言葉で少しイラっと来てしまって、チャンスを水の泡にしてしまって……』


 と、少しずつ俺は彼女に自分の相談したい事を言葉を選んで、口にする。彼女はそれをうんうん、と頷き俺の話を隣で聞いていた。



***


 ――結局どのくらい彼女に話していたのだろうか。話し終えれば俺の口はカラカラに乾いており、水分を欲していた。アイテムポケットからドリンクを出そうと覗くが何もない。そう言えば、と思い出すと先程のベンチで彼女にドリンクを手渡していたアレが最後の1つだという事を思い出した。

 しかし、何か飲まないとやってられなかったので、彼女に『ドリンクを街で買ってくるけど、一緒に行く?』と聞こうとしたが、いつの間にか彼女はスヤスヤと寝てしまっていた(相談に乗ると言っていたのに、寝てしまうというのは何だか複雑な気分だ)。


 だが、寝ている彼女を1人にするわけにもいかないので、1言『ごめん』とだけ言って彼女を抱きかかえると元来た道を引き返し、転移門を目指す。

最後までお読み頂きありがとうございます!前書きでも書きました通り、今回でシリーズが10話を迎えました。ある意味節目というかなんというか(笑)。ライトエッジちゃんに相談を持ち掛けた十暗ですが、相談をしていた女の子がまさかの寝ている状態!これはナニが起きてもおかしくありませんねぇ!?(安心してください。そんなことは起こりません)

では、今回はこの辺で! また次のお話でお会いしましょう!

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