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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
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School Days ─spring tempest and more

「はぁぁ………よりによって、初日からこれかよ………」


 校長室で何を言われたのか知らないが、よほど疲れたのか、部屋に入ってくるなり紫苑はボフンとベッドに身投げした。

愚痴は日本語だったので、何言ってるのか細かいことは分からなんだが、とにかく不満なのはドイツ語と英語しか知らないリオンにもよくわかった。


 ちなみに紫苑の試験の結果は先のハプニングからリオンが勝手に予想していた通り満点だったが、入学前に行った基礎学力テストに語学だけ引っかかっていたらしくその補習だかなんだかで呼ばれ、さらにそれが終わった後、先の件で校長室にお呼ばれしたそうな。


「どうだったんだ?」

「流石にお咎めは無しだってよ。じゃないとブチ切れてるけど」


 こっちはわざわざ実験棟から逃げ出した合成獣が、生徒に危害与えそうだったから屠ったまでだ、これで責任者の方から賠償金要求されたら高値で払う、喧嘩で。

そして、この気鬱な理由はそっちがメインではない、補習の方が大きい。


「にしても、はぁぁ………英語か………」


 そもそも母語以外の言語なんて聞き取るのもやっとのことなのだ、これ授業になったら板書もあるけどまじで大丈夫か?英語の電子辞書は持ってきたけれど。

補修で与えられたのは大量の課題。

ドイツ語を簡単な英語に訳せだか、英語からドイツ語に訳せとかそういうのばかりだ。

単に英訳だけならどんだけマシか……もうich とか、eine とかもう見たくもない。

冠詞だけで16種類あるのだ、英語のtheとaの使い分けでヒイコラ言ってるやつにそんなの使い分けられる訳がない。

最悪だ、と嘆息を吐いている側で、同室になった奴の方はスルスル筆を動かしやがる。

ついでに小首を傾げて聞いてきやがった。


「なんだ、語学苦手なのか?たしかに英語とかも片言っぽいけどさ」

「一ヶ月の付け焼き刃でなんとかしたからなぁ、今のこれでも奇跡みたいなもんだよ全く」

「ふぅん、なら訳すの手伝ってやってもいいぜ」

「本当に?」

「但し、条件があるけど。お前も実技のコツとかあったら教えろよな。つーか教えろっていうか練習付き合え、これが条件な」

「それだけ!?いいよ」


 こっちは留年かかってんだ、命以外ならなんだって差し出すつもりだ。


 とまぁそれくらいには意気込んでいたので、了承してもらえたのはとにかくありがたかった。







 死ぬ気でやったドイツ語と英語のノートを片付けながら紫苑は当時に想いを馳せる。


 共にウィンウィンの関係ではあったが気はあったのか、半期でクラス替えならぬ同室替えシャッフルがあるのだが、希望しない、で通したのは109号室だけだったらしい。


 まぁ、喧嘩したことが無かった訳ではないが。


 今朝だって派手に殴りあったし。


とまぁ理由は単純と言えば単純である。

今日は後期の実技試験日だったのだが、不運なことにリオンの妹が危篤になったとかいう連絡が来た。

そして、家族が大変なことになってるにも関わらずリオンが試験の方を優先するとか抜かしたので思わず殴ってしまったという話だ。


「良かったな、レーラさんだっけ、お前の妹さん。死なないで済んだみたいで」

「ああ………。でも悪りィな折角、試験のために高次異能式を制御する練習、休日ふいにして付き合ってくれたのに、アイツの緊急手術立ち会ってたから、試験出られなかった」

「別にいいよ、つーか普通に試験受けようとしやがったお前を止めたのが俺だから。………というか、冷静になってみたらやっぱり俺お節介だったよな」


 他人の家族関係なんて突っ込まない方がいい問題だし。

とは思いつつ、気付いたら手の方が出てしまっていたのだから仕方ない。


「それは、まぁ今に始まった話じゃねェだろが。これで9ヶ月目だぜ、そんだけ一緒なら流石に慣れるっての。悪かったよ」

「最後のはお前の妹さんに言ってやれ、俺に言われても困る」

「………あぁ」

「それと試験は再試でどうにかなるけど、人は生き返りはしねぇしさ」


 今でも脳裏にこびりついて離れないのは響き渡る短銃の連射音と姉の最後に遺した言葉。そして不良品として研究用合成獣に喰われた名前すらない何万人もの妹と弟達の死に様。


「紫苑はまるで人の死を見て来たように言うんだな」

「まぁ……な」


 知って気分の良いもんじゃねぇよ、その言葉は紫苑の口の中だけに溶けて消えた。


   ∮


 あれから、2年が経ったのか。

溜まったノートと衣服を片付け、荷物を纏めながらふと思った。


 昨日、合成獣の群れがブリュッセルの方へ雪崩れ込んでくると言う伝達と緊急の招集が入ったのだ。


 蒼依が政府と結んだ密約の中には非常事態に於いて黒髪を人間兵器として使用するということも含めて書かれていた。

そもそも、もともと自分らは使い捨ての兵器だったのだから、今まで死ぬこともなく生きて来たのが奇跡みたいなものだ、感謝こそすれ、恨むことなんてない。



 平穏なんて壊れるものだ、そして人間兵器《自分達》は死ぬものだ。


 寮を引き払う用意をしつつ己に言い聞かせるように息を吐く。

纏め終わった荷物をもって住み慣れた寮の扉に手を掛けた。


「後は全部捨てといてくれ。……リオン、達者でな」

「あぁ、そっちこそ死ぬなよ?」

「わかってるって、じゃあ……また何時か」



 また会う日までなんて幻想は信じない。

死ぬなよなんて言われても、ひとは死ぬ時は死ぬものだ。

けれども、どうせ果たせないものだと観念しつつも、掛けられた言葉は暖かくて少しだけ足が軽くなった。


ひとまずこれで連載は終わりなのです。

3章、カクヨムで書き上がればまた落としに来るのでどうぞよろしくお願いいたします!


また、もし良ければ下の☆でこの作品を評価して頂けると嬉しいです

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