School Days ─spring tempest
春、といえば出会いと別れの季節である。
「レーラ、悪いな」
首から下げたロケットペンダントの中に入れた妹と自分のツーショットを見遣り、それから彼は目の前の建物に目を上げた。
ここは全寮制の幼年軍学校だ。
卒業すれば、異能者として外周区の合成獣を狩る資格を取れる。
そして、リスクの大きさを贖うかのように高い給料をくれるその仕事にさえつければ、治療費を完済して、彼女を外に連れ出してやれる。
けれど、と彼は嘆息した。
そのためには、今日からここで自分は過ごさなくてはならないのか、病弱な妹を病院に置き去りにして。
何かを得たければ、何かを捨てなければならない、そんなのは常識だけれども。
期待と不安がないまぜとなった鬱屈とした気持ちを抱きつつ、少年は寮の前に貼られた名簿を見、人だかりができていないのをいいことに指で縦になぞって己の名前を探した。
────リオン=グランツェ 109号室 学籍番号………
あった。
とそこで、指を止め横になぞって情報を確認したところで後ろから声。
「俺と同室なんだ。よろしく」
振り向けば自分よりやや背丈の低い少年がこちらを見ていた。あまり見かけることのない、消炭の髪に青い瞳が印象的な少年だ。
「お前も109号室?」
「あぁ、そうだよ。名前言ってなかったね、紫苑って言うんだ、よろしくね」
「こちらこそ。……ここらでは聞かない名前だな、どこ出身?」
「日本、俗に言う黒髪って奴」
とりあえず、荷物部屋に置きに行こう?と彼は手に持った鍵を見せる。
彼は先に部屋をチェックして、寮の隣にある生活指導棟へその鍵を取りに行き戻ってきたところだったのだろう、奇跡に近い偶然だった。
入った部屋は金庫と二段ベッドと二人分の机、そして冷蔵庫とキッチンが所狭しと並んでいた。
トイレと風呂も部屋の中に付いており、洗濯場は共用と言った内装だ。
とまぁそんなことで紫苑は下の方を使い、リオンは上を使うことにした。
それんなこんなで荷物の整理を終えれば校長だか教頭だかの長話で、そしたら昼食である。
既に上級生は食べたのか、まだ授業中なのか、新入生の奴等しかいないが、全寮制ということもあり、ちらほらとアイスブレイクが済んだ奴らの談話が聞こえてくる。
勿論、二人もそういう奴等の仲間だ。
話すのは専らガイダンス云々で言われたことについて。
「はぁ、明日からもう授業かよ……でもって今日はこの後、異能の種別分け試験」
「だな、ちなみにリオン、お前は何の異能者なんだい?」
「あー一応電操系、あまり強くはねェんだけどさ、まぁせいぜいスタンガンぐらいの威力だから、お前は?」
「ふうん、俺は減速系と電操系、とはいえ電操系は身体強化と通信機の操作ができる程度だから、お前より威力弱いけどね」
肉団子のキャベツ巻きを口に運びつつ紫苑は呟いた。
「へぇぇ、じゃあ、お互い伸ばしてけるように頑張んねェとだな」
「まーね」
これからよろしく、そう言いかけたところで、不意に食堂の入り口でなにかが爆発するような音がし、食事をしていた新入生の一同は皆凍りついた。




