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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
60/63

Breaking Dawn─ Glory to the Plough

「前にあんなこと言っておいて、お前がそれじゃあ意味がないじゃんかよ」


 ベッドの上で熟睡なさっているロゼリエを見遣り紫苑は嘆息した。

燈鷲フレスヴェルグを倒した後、ヘリで運ばれて戻ってきてみれば、相方の姿はなく、連絡もつかない。

マーガレットに聞いてみれば、少し前に昏倒して運ばれてきた、とのことらしい。

それから早数時間、今や一六二四時。

もうそろそろ日が沈む黄昏時だ。


「まぁ、脳の過負荷による昏倒だからな。パソコンでいったら強制シャットダウンみたいなもんだよ、影響はないから安心しろ。というか、紫苑君だって他人のこと言えないだろう?」


 そう言いつつ、マーガレットは彼の脇腹を人差し指で突く。


ッ…………!」


 途端胸部を中心に走る鋭い痛みと圧迫感。

というか、ぶっちゃけ外傷だけなら少年の方が酷い。

肋骨が数本逝っちゃってたのと、全身火炙りにされてあちこちに軽度の火傷ができている。

対して後方援助の少女は加熱した銃身をむんずと掴んだときに指先にできた火傷ぐらいしかないんだから。


「あと、こんの大馬鹿物。他人ひとの心配はこの検査結果見てからしてくれ」


 彼女の渡すペラ紙は検診の結果だ。

蛍光ペンでラインが引かれているのは、月間でどれぐらいの細胞末端粒子テロメアを消費しているかの平均値。

基準値の1.5倍ぐらいは高い。


「ゔ………」


 通常、消費するテロメアは行使する異能の規模に比例して増える。

そして、今回彼は飛行機並みの大きさを誇る巨大な鳥を丸ごとフリーズドライにして粉砕したのだ。どれだけの規模だったのかなんて考えずともある程度理解できるだろう。


まぁ、ある意味当然の帰結である。



「全治はまぁ一ヶ月かからないだろうから、それまであまり無茶するんじゃないぞ」

「あー……うん」

「わーかったな?」


 にこやかな、けれど何処か凄みのある笑みを浮かべてマーガレットの淡海色アクアマリンの瞳がこちらをじっと見つめてくる。

あ、やばいこれは割と怒ってるやつだ。


「……えーと、それで、リオンとかレイとかアリシア達は?」


 目逸らししつつ、紫苑は話題を無理やり変える。

だって、無茶やったのは自分だけじゃない筈だ、というかそう信じたい。じゃないと自分が叱られるのが理不尽じゃなくなってしまう。


「あーリオンとレイと、エリナ達は無事だよ?」 


 ということはアリシアには何かあったのか。

そう思い、なんとも言えない表情のまま俯いている少年の隣のカーテンからやたら間延びした声が聞こえた。


「ちょっとーマギー、勝手に私のこと無事じゃなかったことにしないで欲しいんだけど」


 声と同時にシャーと軽い音がして、カーテンが開けられる。

その奥にいたのは花柄の寝巻きを着込んだアリシアだった。


「いや、だって無事じゃあないだろ?」


 発見当時の様を思い出してマーガレットは呆れたように嘆息した。

実際左手は手首から先が焼け爛れて消失していた訳で。

抗生剤の点滴がぐるぐるに巻かれた包帯の中へと伸びていた。

とまあ、見た目は割と凄いことになっているのに、本人はかなりあっけらかんとした口調で言いやがる。


「うーん、神経ごと焼き切れちゃったみたいで、鎮痛剤切れても全然痛くないんだよね?人体の神秘って凄い」


 言ってることからすれば全然無事じゃあないのに、心配して損した気になるのはやはり相手が彼女だからだろう。


 と、そこで隣で騒ぐ馬鹿が居たもんだから、安眠中のお姫様は目を覚ましてしまったらしい。

うう、と少しだけ声を漏らして淡い金糸のような睫毛の中から現れる匂紫ヘリオトロープ色彩いろの瞳。

何時ぞやかとは全く立場が逆だ。


「……………あれ?ここは?私、さっきまで、戦ってたけど」

「一通り全部終わったから安心しな」

 

 そう言ったマーガレットの声はおそらく彼女に聞こえていない。

隣からの声に掻き消されたからだ。


「あ、ロゼちゃんおはよう!」


 そして、忘れてはいけない。

アリシアはロゼリエにご執心である。

多分、火力の馬鹿でかい電操系の異能者であることと、将来有望株であることがその理由なのだろうが、絡まれる方としてはたまったもんじゃない。

奴は今まで熱心にスキンシップを計ったりとか今までやってきていた。


「なんでぇぇぇ!」


 ならばこれも、当然の帰結。


 部屋の中に幼女の叫びがこだまし、彼女はベッドから飛び降りるとどっかへ行ってしまった。ついでに申し訳なさげな顔をした紫苑も。


「ひどい………」

「いや、あれはアリーの日々の言動に問題があると思うぞ」

「うう………否定できない………」


 やんわりバッサリ、マーガレットは切り落とすが、わりかし長い付き合いで、アリシアはスライムなメンタルの持ち主なのは良く知っている。

アリシアはアリシアで精神に入った罅を秒で修繕するやマーガレットの方を向いて問うた。


「んで、フィルは?」

「うん別室で元気に寝てるぞ、後遺症は残らないと思うから安心しろ」

「別に心配なんてしてないんだけどね、一、二等星に関しては」


 今回の襲撃で、一番死傷者が多いのはやはり三等四等あたりの異能者だ。

彼女が見ているのは、死傷者のリストと派遣隊員のリスト。

 次々と人員補充しないと、どんどん数が減少する。


 それに、最近は色々ときな臭い。

はっきりとした組織の名前はわからないが、ウェストミール支部のテリトリーから、マインツ支部のテリトリーにかけて合成獣キマイラを操り攻撃をけしかけてくる集団の存在が確認されている。


 確かマインツの黒髪シュヴァルツ合成獣士ビーストテイマーとか言っていたか。

今回の大毒竜ミズガルズオルムの件に関しても、最初に迎撃された時と後から攻撃した時では全然その強さが違った。

聞いた話ではその間に大毒竜のいた場所から少々離れたところで謎の大爆発があったとか。

そしてそれから灰色喰種アブホース水蛇ヒュドラ、燈鷲の動きが変わり始めたという。灰色喰種の連携は乱れて、水蛇は共食いを始め、燈鷲はその火力を強めたと。

 

 今度、その場所の探索をしておかなくてはな、とアリシアは嘆息した。

課題は山積みだ。戦いが終わっても。


「ちょっと、外の空気吸ってくるわ」


 そう断りを入れてアリシアは部屋を出ていく。

彼女の向かう先は屋上。

扉を開けてそのまま、凭れかかり景色を見遣った。

彼女は寝巻きのポケットに入れていた小箱を取り出し、片手で器用に開けると中身の指輪を取り出して、落ちゆく洛陽に透かし見る。

埋め込まれたダイヤモンドが、この日最後の一射を投げかける陽光を反射し彼女の顔にキラキラと七色の色彩を投影した。


 最後に残ったアイツの形見。その存在の証。


 気付けば、涙が溢れて顔を濡らす。こんなところでみっともないとか思っても止まらなかった。つける指は無くなってしまったけれど、そんなことはどうでもよかった。


「ありがとうね、ディック」


 この支部は貴方から受け継いだものだ、だから、私は守って見せる。いつか貴方ポラリスに辿り着く為に。

どれくらいそのままでいたのだろうか、気付けば陽は落ち、宵闇の蒼が天球を覆っていた。


「よ、こんなところにいたのか、体冷やすぞ?」


 扉が後ろに引かれるのと共に、そこから声がしてそっと毛布が肩にかけられた。


「……フィル?」

「なんだよ、アリーお前泣いてんのか」

「泣いてなんかないってば…」


 すびっ、と鼻を啜るような音が静かな屋上に聞こえる。嘘なのは明白だった。


「泣いてるじゃん」

「うるっせ、いいでしょ、別に」

「あーそうだな」


 それだけ言ってフィルは彼女と背中合わせに座る。

フィルが持つ電源を切った携帯端末の黒い画面に鏡のように映りこむのは満天の星。

それきり二人は何も話すことなく、北極星の照らす中ただただ静かに夜が更けていった。


   §



 紫苑はロゼリエを追いかけようとか思ったが走り始めてすぐに気づいた。


 肋骨バキバキ状態の十六歳児とぐっすり熟睡して起きたばかりの十二歳児、走ったらどっちが速い?

勿論後者だろう。

 当然の如く相手を見失って廊下の途中で一息ついていたところで背後に気配を感じて振り向けば、紅音が突っ立っていた。

先の戦いで左腕は失くしたのだろう。左の袖がぶらぶらと力無く揺れている。


「こんなところにいたんだ」

「紅音?」


 その様にどことなく暗い影を感じて、問い返せば、少女は幽鬼のようにふらりと紫苑の方へと歩を進める。



 立ち止まった少年の耳元で呟くように彼女は言った。


「ねぇ、紫苑ちゃん」



 その後に続けられた言葉はきっと少年の心から薄れることはなかっただろう。



────心臓なんかを失ったぐらいで、異能者うちらが死ぬと思う?




「…………え?」




 振り返った時にはすでに彼女の姿は廊下の奥へと消えていくところだった。



────to be continued

   § § §


あとがき


という訳で!!


これにて、『MOSAIC ─Reach to Polaris 』

は閉幕です。


まさか最後の方、ここまで筆が進むと思っておりませんでした。


そして、とうとう50話!


まさか三桁突入の半分までいくとは当初全く思っておりませんでした。


一章とは異なり、実はこっちの方が、一話あたりの文字数大幅に削減で、そのかわり話数がすごいことになってるのですよ。

(PC メインの執筆からスマホメインの執筆に変わった所為ですね。)


不定期とは言いつつも大体週一更新で、なのに文字数は1000〜2000をふよふよと。


そんな感じなのに、最後まで付き合って読んでくださる方がたくさんいらして、本当にありがたいです。


二回ともかなり重い話が続いたので、次回あたりは割と日常風味の多い話が書ければなぁと、想定しております。


最後に謝辞を。


ここまで読んでくださった方々に神様の祝福がありますように!


創作者は読者がいなければ成り立ちません。


この文章を通して画面の向こうの貴方と一つの世界を共有できたことを喜び、

そして、

少年少女の征く黎明の空に希望の朝日が灯ること、貴方様に彼らが見た焦土を照らす朝焼けのその美しさを味わっていただけれることを願い、ここで筆をおかせていただきます。




『final phase 』(fripSide)を聴きながら


蒼弐彩



とか言いつつ

明日も更新しますけれども!!

どうぞ宜しくお願いします!

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