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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
59/63

Breaking Dawn──Reach to Polaris ⅳ 黎明ノ空ヲ貫ク雷光

────俺は,此処の支部長だ、だから皆で明日を生きるためなら、なんだってする。


 嘗ての記憶がふと蘇る。甘くて苦い記憶。


 いつも言っていたのに、あの時アイツは自分を庇って死んだんだ。

彼の言っていた皆の中に、きっと彼自身は含まれていなくて、それがずっと嫌だった。あんな風に、婚約の指輪まで買っておきながら。

 そんなのは違うって証明したくて、与えられた座を受け入れた。

そのためには自分も死んではいけないのだ。


 自分も含めて明日を生きるためなら、なんだってする。

だからアイツを庇い殺した自分は決して使ってはならない、そう固く決めていた彼の形見を彼女は抜いた。

夜明け前、少し光の薄まった月光に抜いた黒い細剣レイピアの刀身が鈍い色を反射する。


 見遣る方には警戒を解いた………ように見える大毒竜ミズガルズオルムの姿。

けれどまだ油断は絶対にしてはならない、あの時もそうだったから。

そして、もう手持ちの解毒剤は無く、これで決める他はない。


 気配と姿を消し、彼女はその腹元へ匍匐しつつ近づいていく。

虎穴に入らずんば虎子を得ず、そういうことだ。砕けた白刃その破片を据え置き、破片の届かない後方へ少し離れてから、異能を起爆。

爆風が凪いだ後響くのは子を失った親の悲痛な咆哮。可哀想などと全くもって思わないわけではないが、こうでもしなくては、自らが

まず、卵は殲滅完了。

そして本命はここからだ。


 左手の薬指。今も変わらず月光に煌くダイヤの指輪を見つめ、アリシアはある式を構築していく。

構築しつつも走る足は止めない。


 龍の背に飛び乗り、振り落とそうとする動きに負けぬよう、硬質な鱗を足掛かりに一気にその頭部へと駆け上る。

先程の攻撃もあって弱っているのか思った程難しくはなかった。

跳躍と同時、細剣を抜刀、そして二閃。

途端血飛沫が返り咲いた。


竜の瞳から。


 アリシアは落下しつつも電磁気を操り、地中からぼこりと砂鉄の塊を生み出す。

地表を食い破り噴出した砂鉄製の弾が竜の躯体を打ち据える。 

 

 自身の身体と地上を電磁石と化し反発力で彼女はふわりと着地した。

そしてそのまま横に飛び退く。

先程まで彼女のいたところを打ち据えるのは竜の鋭い蹴爪。


 危うく、真っ二つに引き裂かれるところだった。

 飛び退き、〈蜃気楼ミラージュ〉で姿を消したまま、彼女は再び攻撃を仕掛けようとし、それを無茶苦茶に振り回された竜の尾が打ち据える。


 受け身を取りつつ着地したが、鱗に絡めとられた三枚の認識票ドッグタグを引っ掛けた鎖が引き千切れ、飛ぶ。

己のものが二枚と、そして一枚。

その一枚が、まるで何か雪の結晶ように己のすぐ目の前で煙を上げて溶けて朽ちて、落ちた。

 

 あたったのは恐らく大毒竜の毒液の飛沫。

もし、フレディックの認識票がなかったらば確実に自分の目が潰されていただろう。


あの、馬鹿、もう死んでしまったというのに。


 死んで、そのあとも守ってくれた。そんなのはきっと都合の良い解釈でしかない。けれど、もしもそこで見ているのなら。


「………力を貸してよ、フレディック」


 空に瞬く北極星を見遣り口の中だけでそうつぶやいて、彼女は今度こそ大きく跳躍した。

そして、空中で2、3回転しながら大毒竜の背を目掛け落ちていく。


 既に式の構築は終えている。

あとはそれを撃ち放つのみ。

左手の指輪を抜いて右手に握り込む。


彼女の足先が、大毒竜の鱗に触れる。


────────今ッッッ!



 脳内を駆け巡る数式の群れ、それらを高速で検算しつつ異能波に乗せて外界へと流す。


──〈量子分解クォンタム・デコンポーズ〉〈起動アクティベート


 着地と同時、鱗の隙間から竜の皮膚へと突き立った細剣の刃が膨大なエネルギーを其処へと伝える。

 刹那、黎明の空に白い光の柱が突き立ち、あたりが静寂に覆われた。

それはまるで世界を浄化する塩の柱のように。


 暴走寸前まで高められ、放射されたエネルギーは、数トンはあるその竜を、一分子足らず、分解し、消滅せしめた。





   §



「……………ッた……」



 強大な異能には勿論代償が伴う。

今回の場合、それは少女の左手と形見の細剣だった。

興奮と緊張の加護か、まだ痛みは感じない。

そして、自分はまだ死んでいない。


 私の、勝ちだ。


「ねぇ、ディック?」


 ちゃんと見ていてくれた?

薄明の空に未だ物言わず浮かんでいるその星に、アリシアはふと笑みを浮かべた。


 残った形見は右手の中に握り込んだ指輪だけ。

つける場所は、もうないとしても、それでも消えなくてよかったと切に思う。


 見やる空、東からは夜明けの太陽の明かりが差し込む。

気付けば先まで其処にあった北極星ポラリスは掻き消え、ただその周りをめぐる北斗七星プラーフと、最輝星シリウスが、黎明の空に未だ生き汚く瞬いていた。

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