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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
51/63

Annihilation battleー紅ノ颯風ⅲ

   


『アリー、お前本当にそれで大丈夫なのか?』


 アリシアの隣を歩きながらフィルがシェアサイト越しに問う。

今彼等が居るのは大毒竜ミズガルズオルムの占拠する場所から1㎞も離れていない危険域。

わざわざシェアサイトで話すのは、両者の口が防毒マスクで覆われているためである。


『じゃあアレを殺せる異能者ヤツがアイツの他にいる?知ってたら教えて欲しいのだけれど』


 言ってから気が立ってるな、と彼女は舌打ちを溢す。

焦りはミスしか生み出さない、それは判っている筈なのに。


 これから自分が行うのは最低最悪の討伐スレイヤーだ。勝算がないわけではないが、それでも冷や汗が先程から背中を伝いっぱなしである。


『それは……』

『だったらごちゃごちゃ言わない、私はアイツを超えて見せるんだから』


 腰に佩いた細剣レイピアの柄を握りしめ、前を向いたままアリシアは防毒マスクの下でそっと息を吐いた。


その会話を交わしてからいったいどれほど経っただろうか。

  

 那由多の星の瞬く元、アリシアとフィルはあれから言葉を交わすこともなく黙々と作業をしていた。

大毒竜ミズガルズオルムと戦う為にまずしなくてはいけない事。

それはまずあの毒霧を晴らすことである。

アレがあれば接近することさえできない。

サリン系の毒の浄化はある程度の火力の異能と、異能端子さえあればそんなに難しくはない、少なくともアリシアからすれば。

サリンは実質、窒素と酸素と炭素と水素の集合体である。

故にある程度の火力の電気をぶつけてやれば、サリンを構成している原子間の結合が切れて無害化するという訳だ。


 というので、彼等は今までその下準備として、この森のあちらこちらにアリシアの異能式で電気を放出する為の異能端子を埋め込んでいたのだ。


『エリナ、終わった?』

『もちろん、何時でも来やがれだよ、そっちこそ大丈夫……?ってこれは愚問だね、じゃあ』

『そうね、レイと、リオンのところに加勢して頂戴』


 シェアサイトに浮かぶ文字列から目を離し、アリシアは空を仰ぐ。


『じゃあ、|ウェストミール第一支部ウチの底力見せつけてやりますか』


 ちゃんと、見ていてよね。


 視線を向けた先、夜空に瞬く北極星ポラリスは何も答えない。

けれど、それだけで少しだけ肩の荷が降りる気がした。


 静寂の中、アリシアは腰に佩いていた白銀の大剣を抜く。

そして、月光と星明かりを反射して蒼白くも見えるソレを深く地面に突き刺した。

不意に森に吹く毒入りの夜風が凪ぎ、瞬間真冬の静かな夜には相応しくない真っ白な閃光が夜の森を埋め尽くした。


   §



 あちこちから響く遠雷のような音を背後に、黒檀色の髪を靡かせ、少女は一人何処かを目指して走っていた。

ただ一心不乱に何かを探すかのように。


「さ、てと」


 不意に少女は立ち止まり、少し上がった息を整える。

それから森の一角、樹齢500年は超えてそうな大樹を見やるとその下に駆け寄った。


「見つけた」


 木の根本にあるのは大きな空洞。整備された道が地下にはあった。

そこにそっと紅音は足を踏み出し指先に炎を生み出して歩き出す。

あたりを包むのは一面の静寂、それが少し不気味でもあり、だからこそ彼女はこの先に求める解があるのを確信した。


 延々と続く道のり、均された道を見れば所々に黒く饐えた血痕が残っている。

この先に待ち受けているものの予測はあらかたついていた。


 一体どれほど歩いただろうか、ふと前方に見えたのは二つの分岐。

片方は血の跡が殆ど無く、もう片方には沢山痕があった。


「こっちか」


続く道のりにも幾つかの分岐があったが、紅音は全て血痕のない道を選び辿っていく。


 行く先に見えたのは堅牢な大扉。

そこまで辿り着き、扉に手を掛ければ鍵は掛けておらずスルリと開く。



「誰?侵入者?」


 こちらを見てくる人の影。


「お久しぶりねぇ、不知火しらぬい燈里とうり。一つ質問があってここまで来たんやけど」


 返答の代わりに降ってきたのは焔の矢。

それらを全て爆風で撃ち落とし紅音は人影に距離を詰める。


 室内に置かれていた薬剤瓶が衝撃で倒れ、そして床と反応し溶けてじゅわりと嫌な音を上げる。

 白煙が部屋を覆うその中を紅音は勘だけを頼りに気配を追って駆け抜ける。

疾走しつつ左手から音もなく数本矢を射出、白煙の中にソレ等が消えた先で、ぐわっと男の呻く声音がする、あたった。

続けて爆風。

紅音が加速系の異能で空気を爆発させたのだ。白煙が弾け、そこにいた人間の影が明らかになる。


「お前は、どうして、ここは毒に守られていた筈……」


白髪に金色の瞳をした男のくぐもった声がした。

知らない声に知らない顔。

話しているのは日本語だが、黒髪《不知火》ではない。

こいつは誰だ?

いや、今はその話をする時じゃない。

一っ飛びしてその体に馬乗りになり肩を外して両足を足で挟み、手足を固定する。


「別に、プラズマクラスターなんて今のご時世シャープだけの特権じゃないやろ?それより、聞きたいことあるのやけど、いい?」

「嫌だと言ったら?」


ふうん、と紅音は呟いて片手から小苦無を取り出して、その首筋に当てる。

そして一枚薄く皮を剥いだ。


「嫌?そんな選択肢あんたにあると思って?ただ、そんな悪い条件じゃないと思うのやけど。火群紅璃ほむらあかりと氷雨紫暮、その居場所を吐いてくれたら見逃してあげてもええんやで?」


 そう言った矢先パァンと乾いた音が辺りに響き、白髪の男の脳が弾けた。

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