The Plough ⅳ
「さ、て、ここが今日からの君の部屋ね。使える部屋が割と少なくて二人部屋になってるのは勘弁して頂戴。…レイ、入るわよ」
扉に掛けられている電子鍵を素早くタップして外し、扉を少女は押し開く。
ゴッ、と鈍い音がした。
「〰〰〰ッ痛ぁ!!」
顔面に扉の直撃を受けて尻餅をつく人影が一つ、金色を帯びた白髪の少年だった。その紅玉髄の様な紅い瞳がこちらを見やる。
「ごめんごめん、わざわざ出迎えてくれなくてもよかったのに。」
まったく悪びれない様子で少女は言って紫苑を振り返った。
「彼が君の同室の相手ね。ついでに演練とか合成獣と戦う時の二人組の相手でもあるからよろしくやっといて」
「……えっあっ……うん」
「じゃあ一段落したら、能力測定したいから来て、場所はレイに教えて貰えば良いから、じゃあね」
言うだけ言って彼女はバタンと戸を閉めて何処かへ行ってしまう。
後にはスーツケース片手に困惑する黒髪の少年と、未だ額を押さえ悶絶中の白金髪の少年が残された。
「ええと、その悪りいな、痛むか?」
「ああ……まぁアリシアのアレは割と何時もの事だし。それにアンタが謝る理由無いだろ。心配される程僕もヤワじゃないし」
押さえていた手を地に着いて、のろのろと少年は立ち上がる。
「僕はレイ=カーネリアン=アルゲトリデン、割と部屋汚くて悪いんだけど中入りなよ。」
♰
荷物の整理その他諸々の雑事を終えて、レイに先導されながらその場所へ行くと先にアリシアがその前で待っていた。
「やぁ、早かったね。じゃ早速始めようか。能力測定」
レイを下がらせ、彼女はだだっ広いホールのようになっている広間の大扉を閉めてカギを内側から閉ざす。これじゃあ、何もなくただ広いだけの空間だ、一体何を測ると言うのだろう。
首を傾ぐ紫苑にアリシアは何かを投げる。
「能力測定なんて言ってるけど、要は手合わせね。それ使って」
受け取ったそれは、ボールペン程の大きさの蒼い液体が入った何らかの装置。
「……未使用の演算装器、これ貰ってもいいのか?」
「当たり前、使っていいって言ったでしょう。一度入れたデータは細かい長さとか重さとかは兎も角、剣を鋼糸にしたり、双剣にしたりなんて無茶苦茶は無理だし、日本刀のデータなんて黒髪の他に使う奴なんてそうそう居ないわ。演練用だし勿論刃は入ってないわよ、さっき聞いたけど、蛙禽を両断できる様な新入りなんかと普通の武器で戦ったら流石に私でも怪我の一つや二つはするだろうし。……っていう訳で、始めましょう?」