Annihilation battleー紅ノ颯風
「次は何処ッ!」
シェアサイト上の光点は撃ち尽くした達成感と、えもいえぬ空虚感を感じつつロゼリエはインカムに叫ぶ。
と、そこで近くから悲鳴と銃声が幾つも上がる。
皆が銃口の向ける方には飛空する大きな火の塊。落ちた炎が弾薬に引火しバチバチと束の間華火があちこちで上がる。
ぶわりという風の音に混じり火の粉がロゼリエの方にまで飛び、彼女の制服を焦がす。
これはマズい。
その認識と同時にロゼリエは引き金を引いていた。
FRF2の銃口からマズルフラッシュが瞬き、銃声が唸りをあげる。
幾条もの火線がその塊を捉え、そして《《通過した》》。
「え………?」
電操系異能者の場合、弾自体が異能端子のようなものだ。
だからわかった。
火炎に鉛玉が蒸発霧散したことが。
幸か不幸か、驚きを隠せないロゼリエの前をソレは大きく旋回し、そして勢いよく飛び去って、やがて虚空へと掻き消えていった。
残されたのは火傷を負った同じ狙撃班の連中の呻く声。
現実に引き戻されるかのように、ロゼリエはインカムの通信をここから少し離れた後方で待機中の衛生班に繋げた。
§
紅の奔流の正体は焔の風だった。
爆風が巻き上がり、青い塊を飲み込んで刹那の間に霧消。焼き払われた塊は黒焦げになってその場に崩れ落ちた。中には何も無い。
ならば、水蛇は何処に?
「シオンっ!」
焦ったようなレイの声と、地面から膨れ上がる異能波を感じ、紫苑がその場を大きく跳び退けば、先程まで彼の居た所には地面から大きな氷の柱が突き立つ。
これで確定だ、奴が居るのは地中である。
なら、先ほどの青い塊は何か。
その解も既に3人は結論付けていた。
水蛇は名の通り爬虫類の遺伝子をベースに作られた合成獣である。
つまり、脱皮が可能。爆発によって視界が塞がれていた隙に自分の分身《脱皮した皮》を置いて地中に潜ったと言うことだ。
「はッ、面倒くせェ奴」
リオンが鋼糸を貼って異能の無効化ができるのは地上部のみ。
この場合には使えない。
本当に面倒臭い。
そう舌打ちを溢した所でレイが振り返る。
「僕がこいつらは始末するから、二人とも狙撃班の援護の継続と、つい先程、その狙撃班から目撃情報のあった燈鷲がいないかどうか確認してくれ、ただでさえキツいのにアレが出たら厄介だし」
言うや否や火線がレイの握るベレッタとUSPから一本ずつ、計二本伸びて地面を穿ち、そして爆散した。
爆ぜ上がる土塊の中には僅かに異能波を発する氷が混じる。
水蛇の一部だ。
────Grrrrrrruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaan
地面から響く水蛇の絶叫がビリビリと大気を震わせる。
その時突如その場に熱風が吹き荒れた。
レイの異能ではない。異能波が違う。
思わず水蛇以外の皆が顔を見合わせた。
そして、見た。
大きな鷲な形をした夜空に舞う焰の華。
会敵のタイミングはあまりにも最悪だった。