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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
48/63

fatal movement Ⅵー乱戦ノ狼煙ⅱ

「馬鹿ッ、後ろッ!!」


 声が聞こえた時にはもう遅かった。

全身の骨を砕かんばかりの衝撃が全身を襲う。

気付いた時には跳ね飛ばされ、地面が目前に迫っていた。

受け身を取れたのは奇跡に近いだろう。体を丸め3回転ほど前転して紫苑は荒野の上を転がった。

危うく大地に体を擦り下ろされるところだったと彼は荒い息を吐いて泥だらけの身を起こす。


「…………………ッ……た」


 多分、肋の二、三本は罅でもいったのだろう。立ち上がるのと同時に圧迫感と息苦しさが体を襲う。それを無理矢理意識の外に追いやって紫苑は水蛇を見据えた。

視界に映るのは悪夢。先程凍らせ爆ぜ飛ばした頭部が再形成されていくところだった。


「うそ……だろ?」


 嫌、これは本当だ。

現実を受け入れ彼は大きく横に飛ぶ。

途端、一瞬まで紫苑のいた地面が大きく抉れて青く固化した液体が流れ込む。

枯れた草木が宙を舞った。巻き込まれていたら即死コースだ。

さらに数メートル後ろに飛んで距離を取るが液体が体にかかる。

幸か不幸か体が溶けるようなことはないが、嫌な匂いが鼻に付いた。

上着を脱ぎ捨てたところでリオンの声。


「おいっテメっ大丈夫かッ!!」


 焦りから自分でも気がついていないのだろうが、異能波とともに奴の体は若干帯電していた。


 そして、水蛇の吐き出した液体。

今になってやっと気付いた。

全身を凍らせたのに奴は死ななかったのは何故?

合成獣とはいえ生物である。

それなら細胞から体が成り立っている筈で、細胞内に含まれる液体《水》を凍らせれば、凝固による体積の膨張により細胞は内側から氷に食い破られて死ぬ筈である。

それで死なないのなら細胞は壊れなかったことになる。


 つまり自分が凍らせたのは、凝固して体積を増す水ではない他のナニカ。

そして、迂闊にも先程全身に浴びたその液は既に大半が蒸発している。

そして何よりこの刺激臭。

マーガレットの白衣の香り、病院のベッドシーツの香り、嗅ぎ覚えならいくらでもある。


さぁ、この液体は一体なんだろう?


「阿呆っ!!」


エタノール。


 この五文字が脳裏に浮かぶと同時、紫苑は空中の水分から氷の塊を瞬時に生み出してありったけの異能チカラを込めてリオンの方へと放り投げる。


「うおわっ!!おい馬鹿ヴォルプフォステン何す n……」


 ドイツ語で罵倒してきたが、直後に奴は身をもってその意味を知った。

身をよじって水蛇の吐いた液体から遠ざかるように、紫苑の投げた氷礫を避けるや否や、チカリと液面が一瞬光り、同時に周囲の音が消える。



爆発。



 土煙が夜の野に舞い上がり、やがてそれが落ち着けば辺りは静寂に包まれた。


「おい!生きてるか!」


 衝撃に備え、伏せていたのが功を奏して紫苑は泥を被るだけで済んだがさて、爆心地のすぐ近くにいたあの阿呆はどうだろう。


「ったぁっ………!」


 ズタズタになった鋼糸の隣で身を起こしている最中だった。

爆風を体の前面に張った鋼糸で緩衝させていたのだ。

至る所に裂傷と擦過傷はあれど目立った傷はない。流石は腐っても鯛(最下位でも一等星)、しぶといのが取り柄である。


「命冥加な奴め」


 そう言いつつ手を貸してやるとよっこらせとか年老いた人みたいな事をボヤキつつリオンはゆっくり立ち上がって辺りを見た。


「異能波消えたぜ?自爆でもしたかな?」

「いや、違う」


 見渡せば、爆心地には大きな青い塊がある。さっきまで水蛇だったものだ。

そして、そこからはまだ微弱な異能波を感じる。


 つまりまだ水蛇は死んでいない。

さて、どうやって殺そうか。

二人して考えを巡らせたところで不意に周囲を鮮烈な紅と朱が横ぎった。

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