fatal movement Ⅲ─違和感
真夜中の漆黒を塗り潰すような閃光が前方に弾ける。
寝ていた生物たちが目を覚さないわけがない。
案の定、バサバサと鳥の羽音がして、けれどその姿は上空に現れてこない。
いや、飛べないのだ。
上に飛ぼうとして、もがいて落ちるその姿が闇の中に垣間見えた。
「最っ悪!双頭蛇なら一人で殺せたのに!」
三回程、先の攻撃を繰り返し、大気中の毒を焼きながらアリシアは苦い顔した。
ならひとまず退却だ。
そう思ったところで背後から獣の咆哮。
見遣れば、竜の姿が夜空の中に浮かんでいた。
明らかに気が立っている。そして今はまだ、攻撃を仕掛けられても反撃できる余裕はない。
「まずいね、攻撃に気をつけt……
突如バキィ、という音と共にヘリが派手に揺れる。
四枚あるローターの一枚がもぎ取られて虚空へと消えた。
「降りるよ!このままなら粘土の皿と同じだっ!」
「へ」
「東洋では、命あってのものダネッ⭐︎っていうみたいよほら早く!3、2、0ッ!」
「おい、ちょっとま
ヘリに装備してあった毒ガス用のマスクをアリシアは思いっきりフィルの顔面へと投げつける。ついでに最後までカウントダウンもしなかった。
バランスを崩した哀れなやつは、何か言いかけたまま開いているハッチから敢なく落下。
てんめぇ、絶対許さねぇと、部下から有難い褒め言葉をシェアサイト越しにいただきつつ、アリシアも後を追うように飛び降りる。
直後、大毒竜の攻撃、つまり超高圧の毒息吹を受けた輸送ヘリは爆発四散した。
§
「なぁ、紅音。何かおかしくはないか?」
待機しつつ、隣で左手の動作確認をしている彼女に紫苑は刀を検分する手を止め尋ねた。
「おかしいって?今更な話やないの、メグさんから聞いたけど紫苑ちゃん、あの火群の恥晒しと殺りあったんやろ?アレがあんなところに居るの自体おかしな話やし」
「まぁな、にしても最近はおかしいことだらけだ」
いや、最近だけでは無いか、思えば5年前、紫暮が殺されたのだってそうだ。
どうしてなのかわからない、という意味で。
殺された動機が皆目見当もつかないから、自分は彼を殺した不知火を理解不可能な狂人と評した。
けれど、狂人にも狂人なりのセオリーがある訳で。
自分は何か見逃してはないか?
この間、貌多キ者共が潜伏していた時もそうだった。
あの時、感じた黒い影の気配、アレは紛うこと無き惨劇の予兆だった。
違和感を探せ。
大毒竜にしても双頭蛇にしても、何故そんな強力な合成獣が一夜にして警戒区域に現れたのか、そしてどうやってそんな馬鹿げた奇術を成し遂げたのか。
思考の海に没しつつ、意識だけは周囲にも向けていた彼は、そこでふと辺りの空気が硬くなるのを肌で感じた。