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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
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fatal movement Ⅱ──感傷

「悪いね、こんな真夜中に叩き起こして」


 会議室ブリーフィングルームの議長席でアリシアはRote Kuh(赤い牛)と書かれたエナジードリンクをがぶ飲みしながら嘆息した。


「で、早速説明に入るけど、今日の夜番だった異能者の九人のうち一人が死亡して八人の異能者が現在瀕死の重症で運ばれてきた。

 連絡が急に途絶したから衛生班の連中が迎えに行って全員回収できたけど、そいつらもその時にダウン。原因は多分、神経ガスの類いの毒を浴びたことね。分析したところ、恐らく爬虫類系の、双頭蛇アンフィスバエナとか………アレの仲間だと思う」


 暗黙の了解で、アレが何を指すのかは皆判った、その名前を口に出すことは、異能者にとって一種の禁忌タブーだったから。


 呼べば、アレを引き寄せる。


 いわば言霊信仰のようなもので馬鹿馬鹿しいと言えばそうなのだが、もしも引き寄せてしまえば、大変なことになる。

 大侵攻の時にそれはもう、嫌と言うほど経験した。

 そして、アレを倒した人はもういないのだ。そうアリシアは、自分の首に掛けたもう一つの認識表ドッグタグと銀の指輪を強く握り締め、続けた。


「だから、ここにいる面子で早急に倒してもらう。私もついていくつもり、斥候は私がやるわ」


 辺りがその言葉に途端に騒がしくなる。

アリシアは支部長だ。だから、彼女は易々と死ぬ訳にはいかない、普段の任務に参加しないのもそれが理由である。


 なのに、まさか斥候なんて申し出るとは。

とはいえ指揮権は彼女にあるので反対などできようもない。

騒つく周囲を宥めすかすようにアリシアは続ける。


「私が作戦立てとくから、偵察終わり次第早速狩るわよ。幸い、マインツ支部の火群紅音(アンタレス)が、解毒剤を分けてくれたから、今渡す。あくまでこれは保険だから、使うような事態にならないよう十分気をつけて」


 回されてきたのは簡易注射器に入った琥珀色の液体。皆は、一人ずつ三本セットで渡されたそれを大事そうに懐へと仕舞う。


 それを見遣って紫苑も同様にした。

勿論、自分もこの面子とやらの中に含まれている。


 会議、というか状況説明が終わり、急いで自室に戻る面々の中で、不意に紫苑は背後から肩を叩かれた。

振り返ればアリシアがこちらに手招きしている。やってきた紫苑に彼女は金属片を渡した。

鎖が通された金属板、そこには戸籍上の自分の名前とオリオン座、そして“1st star Rigel”という文字が彫り込まれ、右下にある一等星の位置に蒼い石が埋め込まれている。


 ようは昇格の証だ。

ちなみに、一等星と二等星では一等星の方が、給料が三分の一上増しになり、指揮権と単独行動の権限が認められる。

そのかわり死ぬリスクも倍以上に膨れ上がるが。


「一昨日、無理矢理申請通して貰ったから、無くさないでよ?」


 それだけ言うと、急いで彼女も自室に支度をしに走っていってしまった。

掌に残された認証表を見て、彼も小走りに走り出す。金属の感触が今は少し重く感じられた。


 どうやら自分は資格を得てしまったらしい。昔望んでいた、戦場で戦って殉死する権利を。


「ああ、わかった」


 それを首元に引っ掛けて、紫苑はその場を足早に後にした。


   §

   

「じゃあ、私とフィル(プロキオン)で行ってくるから、待機頼むわ、あとリオン、万一の時はあと頼むから。まぁ、そんな事にはならないと思うけど」


 普段と変わらぬ軽さでそう言ってアリシアはヘリに乗り込む。

フィルというのは紫苑が派遣された時、ロゼリエ等が蛙禽コカトリスを倒すのの指揮を取っていた異能者だ。

ちなみに副支部長、つまりアリシアの右腕でもある。


「奴じゃなければいいんだけど。」


 離れていく居城から目を離し、問題の場所を見遣ってアリシアは色違いの両の眼を細めた。


「なんだ?アイツの事でも思い出したのか?」

「まぁね、一応恋人だったわけだし」


 フレディック=イーストハーバー。

握り込んだもう一つの認識表に彫られた名前だ。

2nd star Polaris、先代の支部長。


 黒味がかった栗毛の髪に浅葱色の瞳の華奢な青年が脳裏によぎる。唯一彼女が勝てなかった人だ。

 モヤシみたいな身体付きをしているくせに、そもそも異能だって二等星止まりの実力のくせに、細剣レイピアでの攻撃は、一体身体の何処からそれだけの力を出しているのか、疑う程には苛烈だった。


 そして大侵攻で死んだ。

大毒竜ミズガルズオルムの血を浴び、あの毒を吸って、斃れた。


───これが終わったら渡したいものがあるんだ。


 遺品整理の時に見つけたのはダイヤモンドのはめられた指輪だったか。

 結局、世界はそんな幸せには出来ていないらしい、とあの時は世界を呪ったが、けれど今ではその感情さえ何処か懐かしかった。


「まさか、あのバカの二の舞を踏む訳にはいかないでしょ、私ってばまだロゼちゃんのアソコが成長するの見届けてないんだし」


 感傷を薙ぎ払うようにアリシアは笑う。


「さぁ、毒の霧はあの辺りからかな」


 自動操縦の輸送機のハッチを開けて彼女は感情のない声で言った。

ヘリのローターが起こす爆風がその銀糸のような髪を嬲るのも気にせず、彼女は外へと手を出して指を弾く。


 直後、前方で空気の焼ける爆音が夜半よわの漆黒に鳴り響いた。


やっと表紙絵に繋がるところまで描けました!!


長がった!!


そして、次回の更新は明日です!どうぞよしなにお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まさか、あのバカの二の舞を踏む訳にはいかないでしょ、私ってばまだロゼちゃんの胸アソコが成長するの見届けてないんだし」 『二の足を踏む』と『二の舞を演じる』を混ざっているのでは?
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