comes across Schwartz Ⅲ─模擬戦
カクヨムでの改稿が追いつかないので、
誠に勝手ながら隔日投稿にさせていただきます
どうかご了承くださいませ!
支部に戻る途中、ふと紅音は立ち止まって紫苑を見つめた。
「そう言えばさ、ごめんね」
「……はい?」
突然の謝罪だ、何に対するどんな物なのか量りかねて紫苑は不審そうな顔をする。
第一、こいつがしおらしく人に謝ることがあるなんて、明日は雹でも、塩の柱でも降ってくるんじゃあるまいか。
「ずっと言い忘れた。五年前さ、うちアンタを勝手に外に連れ出して死なせかけたじゃない、あの後、今日まで一度も会えなかったから」
まさかそんなのを今日まで気にしていたなんて。
少し呆れて、でもそれがこいつの優しいところだったと思い出し、紫苑は微笑んだ。
「あぁ、なんだあの時の。別に今更気になんかしてねぇよ、そもそも意識失ってたから記憶残ってないし、気付いたら丸三日経っててびっくりしたけどさ」
「なら、よかった、今は体調は?」
「二週間以上連勤出来るぐらいにはもう平気、というか、平気でもなきゃ退役してる、戦えないなら此処に居たって意味なんかないんだから、それにお前も同じだろ?」
大侵攻に何も失わずに済んだ黒髪はいない。彼女の左手には神経のかわりにモーターが内蔵されているのを、右眼のシェアサイトが既に認識している。
「ああ、これね。うっかり天狼に喰われちゃって、それでこうしてるんだけどね、バレちゃったか」
「別に隠すことでもないだろ。まぁ俺も人のこと言えないけどさ」
とはいえその左手はかなり凶悪な仕掛けが仕組まれている様に見える。あまりびらびら見せびらかすわけにもいかないだろう。
幼馴染の少女を見遣り、これと後でやりあわないといけないのか、と紫苑は本日何度目かの嘆息をした。
そしてその悪夢の時間は割とすぐにやってきた。
夕食後、レイとロゼリエとでもそもそ食べていたところに例の悪魔はトテトテやって来て紫苑のそばに犬の様に屈み込む。
そして餌をねだる様に紫苑の耳元に口を寄せた。
「ねぇ紫苑、腹ごなしにでも手合わせやらせてよ」
口についた|野菜とケッパーのシチュー《ケッセルグーラッシュ》のソースを拭いながら紅音は紫苑の耳元で囁く。
嫌そうな顔をしつつ紫苑は呆れた様に言った。
「いいけど、演算装置は持ってきたのか?」
「ううん、いつも使ってるやつしか持ってきてないよ。じゃなきゃ模擬戦の意味ないじゃん?」
そう言って彼女は懐に仕込んでいる苦無をチラリと見せて笑う。
武器、部屋に置いてけよ、と紫苑はつくづく思った。
§
アリシアに許可を取り、ホールの中に二人入る、もちろん双方持っている武器は普段から合成獣狩りに使っている物だ。
「じゃあ始めるけど、お前からでいいよ」
紫苑はユーロ硬貨を少女に投げる、開始の合図はこれで行うからだ。
「おっけ」
少女は指先で器用に受け取った硬貨をくるくる回し、それを親指でぱちんと前に弾く。
急角度の放物線を描き、落ちてくる銀色を背後に置き去りに、彼女は懐の得物を手に疾走。
直後辺りに蒼い光が迸った。
次回の更新は7/31になります、
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