right to buttle ⅹ
「ぅ……」
目を開ければ周りには誰もいなかった。
不自然なほど音がないから目を覚ましたのか、少女は喉に手をやって身を起こす。
脇腹からの出血は大分止まっていた。治癒速度が早いのは異能者の特権で、そして自分が“紫”であるからだ。
見回せばすぐ近くに倒れる三つの影。転がった黒い髪の馘と突き立った刀を見て一瞬肝を潰したが、光を失っている瞳の色は橙色だった、紛らわしい。
まさか先に帰っちゃったとかじゃないよね、と足元を見て少女は飛び上がった。
うつ伏せになって足元に倒れている方は、枯れ草の上に鮮血をぶちまけていたから。
脇に手を入れ抱え起こせば微かに胸が上下している、問題はその下だった。
ぐったりとしたままの少年、その下腹部はまだ鮮血でべっとりと濡れている。
電磁捜査すれば背中まで風穴というには大きすぎる穴が空いていた。
「ねぇ、紫苑!しっかりしてよっ、ねェッ‼︎」
半分ぐらい動転しながら耳元で叫んで肩を叩けば薄ら瞼が持ち上がる。
空より深いその蒼に凝るのは諦観と自責の陰。
「……なん、だ…ロゼ、リエか………」
そう言う声はやけに生気に欠けていて、全てを放り出してしまいたい、そんな感情が込められている様に思えた。
次いで目を逸らして呟く様に少年は続ける。
パタタ、と口元から零れた血液が枯れ草の上を彩った。
「……もういい………ほっといてよ………」
「なんで⁉︎弟さんいるんでしょ、アンタこんな所で死にたいの、その人一人にするつもり?」
「………もう、いない……とうに、死んだ……俺、が……死なせた」
黒髪は、人を守る為に生まれた存在で、自分にはそれが出来なかった。五年前《あの時》も、今回もまた。
もう少し早く気付いていれば、感じていた違和感を口にしていたならば、誰も死なずに済んだんじゃないか?アンジェリナだってエリナだって、死んだり怪我をしたりなんてしなかったんじゃないか。
───なんでまだ死んでないんだ?
ああ本当にそうだ。如何して自分はまだ生きてるんだ、存在意義なんてもうとっくのとうに失っているのに。
斬れない刀は捨てられる、意味を無くした道具《自分》に価値はない。
古代の聖者様はこう言ったらしい。“塩は良いものだが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって味がつけられるだろうか、畑にも肥料にも役に立たず、外に投げ捨てられるだけだ”と。
その聖者の作った宗教《十字教》に関してはいささかの信心も抱かないが、才能のない黒髪が常に切り捨てられて来た環境で育ち、それを看過してきた自分には、今更その事に異議を唱えられない自分には、この言葉を否定出来ない。
そして、自分も今まで切り捨てられてきた幾人もの異能者の成り損ないだったわけで。
「だから、もういい………」
晴れやかにそう嗤って、紫苑はそのまま意識を手放した。




