right to buttle ⅵ
「ご名答、御褒美がわりに死んでもらおうかなぁ」
粘ついた声の所為か、紫苑の背筋に悪寒が走る。
無警告で異能を全開にし、抜刀と同時に刀を振り上げ、斬る。
生物を切るような手ごたえはない。
ただ手のひらサイズのドローンが両断されて地に落ちた。
遠隔制御用の異能端子である。
となれば本体はどこに。
考えると同時に、地面を蹴って後ろへ回避。
そのまま足をドローンのほうへ向けて伏せた。
何処からか飛来した幾条もの炎の槍が先ほどまで彼の居た所に突き刺さって爆裂。
GPSで誘導された火矢だった。追撃はない。
どう見てもこれは本命ではない敵を、片手間に攻撃するための武器だ。
「まさか」
なら、奴の本来の目的は自分ではなかったと?
攻撃のタイミングから考えておそらく本命は先ほど別れたあの少女だ。
けれど。どうして。
それに、なんで火群の分家がこんなところにいるんだ。
向こうにいるんじゃないのか。
何のためにこっちまで来た。
いや今は、そんなことを考えてる場合じゃない。
マズい。マズいマズいマズい。
奴の所業を考えれば、十二歳の少女がろくでもない事になるのは大体想像がつく。犯されるだけならまだかわいいものだ。それだけでも本人にとってはひとたまりも無いけれど、命を失うよりかはマシだろう。
何時ぞやか、奴から一方的に送られてきた音声ファイルを思い出す。
“氷雨君、君が戦わなければ君のおにいさんがどうなるかなんて判ってるよねぇ?”
そう脅されて。単独行動の経験もまだ無かった後衛の狙撃手は夜中、大量の合成獣が屯す中に一人放り込まれて二度と帰ってこなかった。
後日さらに送られて来たお届け物は病み上がりの少年の精神を蝕むには充分だった。クール便に詰められて贈られてきたその肉塊のDNAは少年のソレと一致して、だから救いようなど何処にもない。
あの時その場にマーガレットがいなければ自分は発狂して自殺していた。
見過ごすわけにはいかなくて、だから危険を承知でインカムをつければリオンは大変お怒りだ。当たり前である。
隊長だか班長役の少女は死体袋の中だし、副長は怪我により意識不明。
レイとリオンならリオンの方が経験もあるだろう、と言うので指揮権はそっちに移行している。
「テメェ何処で油売ってんだよッ!!フラフラどっか行きやがって、テメェは遠足で迷子になる幼稚園児かっ!!あァ?ロゼもどっか行っちまったし、まさか茂みの中で変なことしてるんじゃねぇだろうな!アリシアに殺されるぞッ!!」
「や ら ね ェ よ ッ !怪我人連れて先戻ってろ、こっちは今現在御取り込み中だ」
「おいッ!!馬鹿っ、じゃあお前らどうすんだよッ!」
「お前ら送って貰ったらまたこっちに引き返すように言っといてくれ、時間がないから切るぞ」
相手がなんか、もごもごいうのも無視してそれを切って少年は走り出した。