right to buttle ⅴ
「まぁ、そうだよな。怒るよな」
少女の消えたほうを見て紫苑は己の体を見下ろした。
別に何かを言われるのには慣れているし、これは自分の非だ。
一つ嘆息して少年はグルコース溶液やらなんやらの入ったポーチを探る。
取り出したのは黄緑色の液体が入った簡易注射器。
三分の一ごとに標線のついたそれを見やり、その先端についたゴムキャップを外して一つ目の標線まで中身を己が首筋に打ち込む。
液体の中身は“鍵”ともいわれる糖の一種。
細胞内に即時吸収された糖に含まれる誘導物質が、DNA内で作動因子に張り付いて転写を阻害していた調節蛋白質に結合。
DNA内の作動因子が蛋白質から解放されていく。
オペロン説と言われるDNA転写機構を利用し、三重因子保持者の寿命を守るカギを一度開ける。
解放したのは加速系の異能力を発動可能にする因子と細胞周期を早める因子。
細胞単位の変異にしてはかなり速い速度でそれらは作動していく。
同時に減っていくのは細胞末端粒子。
再び目を開けたとき少年の左目は、己の名前が指す花の色、──薄紫に染まっていた。
少しの間周囲を見渡し少年は呟くように、でもよく通る声音で言う。
先程から奴の気配は背後にあった。
その名前を忘れたことはない。
ただの一度も。
そしてソレが今までにやった凶行のことも。
病室にクール便で届けられた白い皿、ソコに盛られた心臓と、血液で描かれたEAT MEの文字、そっしてソレを持つ見慣れた相棒の両の手。
一度はPTSDになって、だから忘れる訳が無い。
「なあ、そこにいるんだろう? 不知火橙汰。
蒼依姉も、紫暮の事も殺しやがった裏切り者の研究者」
この部分書くために生物の勉強しなおす羽目になった受験生(なお物理選択である)
つまり付け焼刃の知識です。
なので誤植や誤解があれば訂正を送っていただけるとありがたいです。




