表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
27/63

right to battle ⅲ


 歩き始めてしばらくして、ふとロゼリエは背中にピリリとした殺気を感じた。

道中何度もあった違和感。


「……ねぇ、紫苑」


 先を行く少年は振り返らない。代わりにシェア・サイトを介してメッセージが返ってきた。


『ああ、尾行(つけ)られてる。まだ送り狼だから、このまま行くよ、慌てたら相手の思う通りに動くことになるし』


 送り狼とは、見つけた獲物を襲わず、後を追って襲うタイミングを見はからっている状態のこと。

故に常に油断してないさまで、追って来ている合成獣キマイラを撒けば襲われることはない。

そのまま先ほどの場所に戻るような素振りで少しずつ斜めに蛇行し大きな円を描くように歩いていく、足跡だけでもどんな合成獣か見ておいたほうが良いと思って。


 そこではたとおかしさに気付いた。

辺りには鳥の鳴き声もなく二人の歩く音以外には風に揺れる葉擦れの音しかない。

考えてみれば先のアンジェリナの暴走で多くの生物は逃げ出したはずである。


「………ああ、そうか」


 呟くように唇からこぼれた静かな声に感情は無く、氷の刃のように冷たい鋭さだけがあった。

前を歩く少年の顔は見えないが、ロゼリエは背筋が凍るのを感じた。


「全部奴の仕業せいか」


 静かで無機質な声音に込められていたのは、濃密な、まるで練炭泥(コールタール)のような殺気。

暴発寸前の臨界状態まで増幅された異能波が周囲の気温を一気に下げる。


「紫苑。何が」

「………あぁ、悪い。こっちの話だ、お前は関係ない」


 異能波と殺気は元から存在していなかったかのように霧散し振り向いた少年は嫋やかな笑みを浮かべる。

ただし笑みの形にゆがめられた双眸は見た者全てを凍り付かせるような絶対零度の深海の蒼を湛えていた。

 しばし考えるようなそぶりを見せて続けて少年は口を開いた。


「ロゼリエ、お前は先戻っててよ。ちょっと面倒な相手とやりあうから」


 予想外だった。

一番最初にあった時から、アドリブとは思えないほどきれいな連携をさせてくれたから。戦力として期待していると思っていた。

 面倒な相手だから一緒に戦うんじゃないのか。

その為の班で、その為の集団構成だ。


「……なんで?」

「……奴の狙いは俺だし、俺は無関係な人間を巻き込みたくない。何より見られたくないし、だれにも邪魔されたくない」

「っ……そんなのって……」


 少し面倒臭そうな顔で紫苑は続ける。


「アレを殺せるなら相討ちしたって俺は一向に構わない。けれど馬鹿げた話に年端もない女の子を巻き込んで死なせたなんて、俺は責任取れないし、それにお前には戦う理由も、それに、権利もない」


 それは戦えもしない無能に言う言葉だ、戦うために存在する異能者(モザイク)に向けるべき言葉ではない。

それは、自分達モザイクにとっては最大限の侮辱で屈辱だ。


 戦う理由が無い?それに戦う権利さえも無いと?

それに年端もないって何?自分はまだ今年の春に12歳にになったばっかりだ、けれどそのように足手まといみたいに言われる理由は何処にもない。

 

……誰が弱いって?


 頭の中で何かの線がふつりと切れるのを少女は感じた。

嘗て幼年学校での訓練で教わった、はしたない罵声が口をついて出る、それ程には激怒していた。


「じゃあ、勝手に戦って勝手に死ねよ、死んだ後で獣姦でも輪姦でもされてればいい!……ま、そんなに体ん中無機物に犯されても平気な不能なら、感じすぎて死ぬこともないでしょう!!」


 周囲にいる筈の敵の事なんて完全に忘れていた、こういう所がまだ幼いとか言われる理由なのかもしれないけど知らない。

すべてを吐き出すように叫んでて少女は元来た道を走り出す。

後ろで呼ぶ声が聞こえたが、どうでもいい。


今は近くにいたくなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ